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物理フリックを30個量産販売している話

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個人で物理フリックキーボードのキットを30個ほど作って販売したので、その経験を共有できればと思って書きます。
今回の開発は最初の段階で、量産して販売するとこまでを目標にしていました。
誰か、量産して売りたい!と思っている人の助けになれば幸いです。

販売中の物理フリックのキット↓


ざっくりと仕組みの説明

基板が上下に2枚あり、上の基板はただのタクトスイッチが20個載った基板。この上の基板自体を上下左右に動かし、下の基板にあるアナログスティックでフリック方向を検知しています。
image4155.png

Googleのエイプリルフールネタとの違い

物理フリックのアイディア自体は、すでにGoogleが2016年のエイプリルフールネタとして発表しています。
Googleの物理フリックではアナログスティック20個でフリックしていますが、今回私が作った物理フリックは、ボタンの押下とフリック方向の検知を分けたことで小型化と小コスト化を図ってます。

あと余談ですが、実はGoogleが物理フリックを発表する前から物理フリックを作成するアイディア自体はすでに持っていました。当時、電子工作の知識がほとんどなく実現できませんでしたが…。
コアラのマーチの絵柄を消すマシンを作ったり、たべっ子動物を悪に染めたりしているてらおか現象さんも同じアイディアを持っていたと話しており、他にもアイディアを持っていた人はたくさんいたのかなと思っています。技術力を持って早く作ったもん勝ちなのかなぁと。

試作について

試作の最初の段階では、量産のしやすさのことはあまり考えず、設計図を描いたり後先考えずとりあえず手を動かして作りました。動作することを確認できればいいレベルのものです。配線、基板の断面を見るとだいぶ汚いです…
基本的に最初の段階から、ボタンの押下とフリック検知を別にするように考えていたので、構造的には販売しているものとほとんど同じです。
キャプチャ.PNG

試作の回路

ユニバーサル基板上での動作確認が終わったら、回路をCAD上に起こしていきました。オープンソースであるPCB CADのKicadを使用しています。CADの使い方はKiCadで雑に基板を作る チュートリアルがとても分かりやすいです。
この段階で、小型でキーボードエミュレーションが可能なPro-microを使用することにしました。ピン数を節約するために、タクトスイッチは5×4のキーマトリクスで構成しています。フリック入力の際、同時入力をすることはないため、キーマトリクスにダイオードは使用しない仕様です。
細かいところでは、基板同士をつなぐコネクタの端子を上下反対に配線するミスをしそうな気がしたため、端子の役割を上下対象にし使用しないピンもマイコンまで配線しています。ミスをしてもプログラムの書き換えで対応ができるようにするためのマージンです。

image4.png

基板はSeeedStudioに発注しました。英語の壁さえ乗り切れれば、基板10枚で5ドル、送料込みで約2500円でプリント基板が手に入ります。発注する基板の種類を増やすほど送料分が安くなり、3種類×10枚の基板で4000円くらいです。
だいたい注文から2週間で到着します。

試作の機構部品

3DCadであるFusion360を使い設計を行いました。が、後々量産性の問題と、ライセンスの問題が出てきたため使用していません。
スタートアップ企業で年間売上高が 100,000 米ドル未満、趣味の工作で非営利目的のみ無料で使えるライセンスか、非営利の学生ライセンスで、起業周りの知識が全く持っていないため避けました。
とても使いやすいので趣味の範囲で使用しています。学生は3年間無料で使えます。ありがたい!

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量産について

基板の発注

基板の発注は試作と同じく、SeeedStudioにおこなっています。ただ、料金体系に不思議なところがあり、基板の発注枚数が10枚では5ドルですが、20枚に増やすと一気に40ドルに増えます。送料を含めても20枚の方が高いという一般的な感覚とは逆な料金になっています。
ある程度日数を置いて数種類×10枚ずつ注文していますが、これでいいのかどうか。。。

機構部品

量産に当たり一番試行錯誤した部分です。開発期間の大半がここにかかっていました。
何種類かの方法を試しながら作成方法を決めました。

3Dプリンタ

作成方法としてまず最初に思いつく3Dプリンタですが、これは量産には向きません。
試作品を1つ出すにはとても便利ですが、今回の物理フリックの部品を出力しようとすると、1つ分で5,6時間かかってしまいます。また、安い3Dプリンタにはプリントしていく台を温める機能がなく、今回の部品のような平らな板を出力するとプラスチックが冷えるときに反ってしまいます。

別の部品ですが反っている様子↓
P_20170616_171202_vHDR_On.jpg

レジンキャスト

混ぜると固まる2種類の液体を型に流し込んでプラスチック部品を作る方法です。
個人でフィギュアを作ってワンフェスで売る人なんかがよく利用しています。液は5分ほどで固まるため、型の作成さえできてしまえば、量産性に優れています。
背の高い両サイドのパーツは3Dプリンタで出力、板3枚はCNCでケミカルウッドを削り出し、そこにシリコンを流し込むことで型を作成しました。
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型にレジンを流し込んで作成したパーツ↓
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最初はいい感じに作れそうでしたが、いくつか作ってみると、型の劣化が早く、あまりきれいに作ることができませんでした。レジンの扱いはある程度経験が必要な気がします。(あと部屋が臭い)

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アクリル板

最終的に機構部品はアクリル板をレーザーカッターで切断して作成することにしました。
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板を切り出し、板同士がかみ合うように突起を接着してあります。1キットにつき突起が4つ×30セット=120個の突起を接着し、正直、生産性が高かったかと聞かれると良くなかったです。
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また、レーザーで切った際に断面が荒くなって引っかかってしまい、スライドがうまくできなかったため、シリコンスプレーを使い滑りを良くしています。

サイドパーツは熱でアクリルを曲げて作成しています。
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正直、だいぶつらかったです。
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スイッチの印字

タクトスイッチカバーの印字はUVプリンターを使いました。UVプリンターは紫外線を当ててインクを固めるプリンターでプラスチックや金属の表面にも印刷をすることができます。
生産効率を上げるため、スイッチカバーの位置を固定するための冶具を作成しています。
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また透明なインクの重ね塗りによってでっぱりを作り、手触りを変えることができます。真ん中の「な」のキーだけ手触りを変え、キーボードを見なくてもどこのキーを触っているかわかるようにしています。

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部品の購入

量産するにあたり部品をたくさん、なるべく安く手に入れることが課題でした(もちろんちゃんと動作することが前提)。
電子部品の購入は、日本では秋月電子が有名ですが、使いたいタクトスイッチやコネクタが売っていなかったためebayで海外から輸入しました。これも英語の壁さえ乗り切れれば、使用する部品の自由度は格段に上がります。
物理フリックの部品で一番入手が困難だったのは、基板同士を繋いでいるコネクタでした。ちょうどいい長さ、端子数のものがなかったため、ケーブルと黒いコネクタ部分を別で購入し自分で作成しました。このコネクタの目途が立ったため量産化にこぎつけたところです。
P_20171118_193929.jpg

検査

部品をすべて海外から輸入している都合。保証がないため、全数チェックをおこないました。
自分で作成したコネクタがしっかり導通しているか、pro-microが動作しているかが最重要点でした。
お金をかけて安定供給の部品を使用するか、時間をかけてチェックをおこなうかは判断に迷うところです。自分は、大学生で時間はいくらでもあるので全数チェックをおこなう方をとりました。

販売

販売はすべてスイッチサイエンスさんに委託しました。個人開発者の商品も扱って下さり、手数料10%+発送手数料300円という、ほとんど慈善事業に近い手数料で商品を扱ってもらえます。

販売価格の設定

今回販売した物理フリックのキットの販売価格は税込み8980円としています。ここから消費税、委託料金を抜いた分が売り上げとなります。
企業による大量生産と違い、個人による生産なので料金が割高に感じるのは仕方がないところだと思います。売り手としては、値段をもっと下げないといけない気がしてきますが、在庫を抱えるリスクを考えるともう少し高い値段に設定したほうが良かったのではないかとも思います。
あるイベントで隣になった方が「買う人は1万払っても買うし買わない人は1000円でも買わない」という話をしてくれました。安ければ買ってくれる人は増えますが、現状量産するにしても数が限られている段階では、高い値段でも買って応援してくださる方に感謝して、次につなげていくのが一番ではないかと思っています。

  
また、スイッチサイエンスさんからの売上報告をみると、消費税分が引かれていないため、自分で納税しなければなりません(たぶん)
税金の勉強もしなければ…

販売サイズ

販売サイズはなるべく10×10×3cm以内に収まるサイズでお願いしますとのことでした。サイズがぎりぎりだったため、チャック付きポリ袋では部品が動いて、発送の際に手間になってしまうことが懸念されました。そのため、梱包には簡単な紙箱を自作しました。

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普段お菓子の箱なんかでよく見ていますが、箱が開かないように口の部分に切れ目が入れてあったりと、今まで全然意識してきませんでしたが、意外と勉強になることが多かったです。
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宣伝

宣伝は基本的にTwitter上でしか行っていません。題材的にバズりやすかったのか販売開始時には5000RT頂けました。
今回初めて電子工作活動用にTwitterアカウントを作成しましたが、フォロワー0の状態の最初のツイートで1000RTほどされたので、コンテンツ次第のところもありますが、Twitterは宣伝にはかなり使えると思います。

工作機器をどこで借りるか

今回の開発の過程で、3Dプリンタやレーザーカッターなど結構な工作機器を使っています。もちろん買う資金力はないので、すべて借りて開発を行っています。
借りられる場所は、意外と知っている人しか知らない気がします(去年まで知らなかった)。

TechShop Tokyo
今回の開発でUVプリンタを借りたところです。3Dプリンタやレーザーカッター等の工作機器はほとんどそろっています。1日or1か月利用料金+入会料(初回のみ)+機器の講習料(1回のみ)で利用できます。富士通が作った施設です。
個人的にだいぶお世話になっており、イチオシです。
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FabLab
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ファブラボは、デジタルからアナログまでの多様な工作機械を備えた、実験的な市民工房のネットワークです。個人による自由なものづくりの可能性を拡げ、「自分たちの使うものを、使う人自身がつくる文化」を醸成することを目指しています。

工作機器を借りられる施設です。たぶん日本で一番多い施設です。FabLabの理念に共感した人が運営を行っており、ものづくりのコミュニティとなっています。
3Dプリンタやレーザーカッター等の工作機器はほとんどそろっています。料金体系は施設ごとにことなります。だいたいの施設はWeb上に情報があります。

FabLab長野の学生スタッフをしているので、近場で利用したい人がいましたら連絡ください。

最後に

物理フリックの量産販売を通して、1つだけ作る電子工作と数を作る量産では、考える必要があることが全然違うんだなと実感しました。
自分も量産してみたい!って人の励みになれば幸いです。

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