Physics Lab. Advent Calendar 2023 2日目 ぶりです。john T.です。
はじめに
皆さんはビームを撃ったことありますか?ビームを撃つ妄想したり、練習をしたりした方も多いと思います(?) なんと、素粒子・原子核実験ではビームを撃てます。ビームと言っても「粒子や波の集団が細い流れとなって並進し、互いに衝突しないもの」を指します。
東京大学理学部物理学科3年後期の学生実験では「原子核散乱」を選択することができ, 26 MeVの$\alpha$粒子、ビームを標的に照射し散乱する実験を行います。筆者は金標的を用いたRutherford散乱を行いました。
今回は素粒子・原子核実験の話で記事を書きたいと思います.
本編
加速器の概要
荷電粒子に電場をかけて加速する装置が加速器です。
形状
形状は2種類に大別され
- 線形加速器 (リニアック)
- 円形加速器 (サイクロトロン・シンクロトロン)
と呼ばれます。線形加速器は直線上に加速するため非常に長い距離を要します。現在、設計開発中の加速器ILCは全長約20 kmに及びます。 一方、円形加速器は加速する際の軌道を曲げることで前者より小さな空間で加速が実現できます。粒子に数 MeV程度の加速を数メートル以内で行えるため、工業・医療用に使われます。
高エネルギーの加速の場合、その規模を大きくする必要が生まれます。特に、円形加速器の場合、電子からエネルギーを放射(シンクロトロン放射)を出すため、半径を大きくなります。この放射によるエネルギー損失が加速した粒子のエネルギーの4乗に比例し1コストがかかりすぎるため、線形加速器が必要となります。2
ビームの様子
ビームを表す物理量として、
- 重心系における総エネルギー $\sqrt{s}$(と書かれることが通例3)
- 強度 (ルミノシティ) $\equiv$ (単位時間あたりの事象(event)数)/(散乱断面積) $[\mathrm{cm}^{-2}\mathrm{s}^{-1}]$
の2つが挙げられます。後者は衝突の起こりやすさを表しています。加速する粒子は非常に小さいため、粒子の集団が広がった、つまりビームが「太くぼやけた」場合、粒子同士の衝突が起こらずすり抜けてしまいます。ビームを細く集中させ「明るく」することで、衝突回数を増やす必要があります。円形加速器の場合は、衝突が起こらずすり抜けた粒子も、もう一周回ってきて衝突することも考えられるため、この「明るさ」は線形加速器で特に重要です。
もし、ビームを撃つ妄想をするならば、極太ではなく極細ビームを打ってください。もしくは、ビームを当てたい標的を通る周回軌道のビームを打ってくださいね。event数が減りますよ。
具体的な値を見ないことにはイメージがつかないので、いくつか例をあげます。
ATLAS実験(Higgs粒子の発見)の場合、$\sqrt{s}=$7 or 8 TeVの陽子・陽子衝突をルミノシティが最大$6.8\times 10^{33}$ cm$\mathrm{{}^{-2}}$s$\mathrm{{}^{-1}}$で起こしました4。 思ったより桁が大きい気がしましたか?実際には散乱断面積の値が$\sim 10^{-33}$ cm$\mathrm{{}^{-2}}$程度なので、1秒間に10回程度の衝突が起こっていました。現状の物理の理論(場の量子論など)はこの散乱断面積を計算してくれる理論であり、実験の方は、検出できたevent数から散乱断面積を求め、両者が繋がるのです。
ビーム中の粒子
では何の粒子を加速しているのでしょう?日本にある加速器施設で何をどのくらいのエネルギーで加速しているかの一覧が日本加速器学会に載っています。基本的に、電子ビーム、水素(の同位体)ビーム、続いて陽子(p)ビームなどです。
ビーム加速器の目的
ズバリ、「加速したからこそ見える」ものがあるからです。
筆者が学生実験で行ったRutherford散乱実験を例に挙げましょう。固定した金標的の原子核(正電荷)に加速した$\alpha$粒子(正電荷) を照射します。すると、両者の間の斥力によるCoulomb散乱が主に見えます。原点に金標的を置いて、4次のRunge-Kutta法によるシミュレーション結果を次に示します。
電磁相互作用のみを考えたときの古典的に考えた軌道はこのようになります。散乱角が$\theta$のときの標的との最近接距離は(ここで、散乱粒子のエネルギーを$E$, 散乱粒子、標的粒子の電荷を$Z_ae, Z_Ae$とします。) (計算割愛)
\displaylines{
r_{\text{min}}=\frac{Z_aZ_Ae^2}{2E}\left(1+\frac{1}{\sin(\theta/2)}\right)
}
散乱角が40度付近のとき、散乱粒子は標的原子核と最も接近します。実際の実験結果を載せることは控えますが、この角度付近からRutherford散乱の微分散乱断面積(散乱粒子の見つけやすさに相当)が (計算割愛)
\displaylines{
\frac{d\sigma}{d\Omega}=\left(\frac{Z_aZ_Ae^2}{4E}\right)^2\sin^{-4}\frac{\theta}{2}
}
から、ずれ始めます。これはエネルギー$E=26$MeVと大きな値で設定したことで、$r_{\text{min}}$が小さく、標的原子核に近づけた(近づきすぎ)た効果が現れたことを意味します。 近距離で初めて作用する強い相互作用が見えます。
強い相互作用という言葉を突如使いましたが、自然界にある4つの力(相互作用)、電磁相互作用、重力相互作用、強い相互作用、弱い相互作用の中の一つです。特に後者2つは原子核くらいのスケール5($10^{-14}$ m 程度)以下でないと見られません。高エネルギーに加速した粒子を入射し、標的との相互作用を行った後の散乱粒子を測定することで、原子核の構造や原子核を構成する素粒子の振る舞いを特定することができます。加速器は、素粒子・原子核研究のための顕微鏡となり、加速したエネルギーがその分解能となるのです。実は、初期宇宙に起こったと考えられているビッグバンの状況を高エネルギーな加速器内部で再現・検証にも使える有用性もあります。大きなエネルギーから生じる未発見の粒子を期待しています。
ここまでの話で、「ビームすげぇ!打ちたい!」となって頂けたら幸いです。
今日の記事はこの辺で。…とはなりません。観測して初めてビームの恩恵を享受できます6。このままではビームを撃ちたがりの、放射線をばら撒く危険人物か、無垢な小学生です。(注意:誤解の無いように断っておくと、実験廃棄物は放射能汚染されており、厳重な管理がなされています(筆者の加速器実験施設への訪問体験談)。7)
検出器パート
さて、本題です。そもそも検出器で何を見たいのでしょうか。ビームの中の粒子衝突の残骸(原子核やクォーク、ニュートリノ、電子)など色々なものが考えられますね。ただ、最終的な出力は電気信号であることは絶対です。裸眼で見えない非常に小さい粒子を一秒あたり10回程度のeventが起きている現象を正確に数え上げられる人間はいない……はずです。
散乱された後の速い(=高エネルギーの)粒子を受け止める検出器の出番です。電子や陽子、ミューオン(ざっくり電子の仲間)といった、荷電粒子を検出器で待ち受けます。荷電粒子が検出器内でエネルギーを失います。そのときに失ったエネルギーを
- 原子や分子を励起させ、脱励起するときの光放出を光電子として電気信号へ
- 原子のイオン化を行うことで、$X\to X^{+}+e^-$として電気信号へ
- 熱エネルギーに変化させ温度変化を計測(実験環境は低温条件下)
のような計画で検出器は作られています。ここで、界隈ではかなり有名(?)な1930年にBetheの式を紹介します。
\displaylines{
-\langle \frac{dE}{dx} \rangle=\frac{4\pi}{mc^2}\cdot\frac{\rho z^2}{\beta^2}\left( \frac{e^2}{4\pi \varepsilon_0} \right)^2\left[ \log\left( \frac{2mc^2\beta^2}{I(1-\beta^2)} \right)-\beta^2\right]
}
ただし、$\rho$は物質中の電子密度、$\beta$は粒子の速度を$v$、光速を$c$として$\beta \equiv v/c$、$m$は粒子の質量、$I$は平均励起ポテンシャルと呼ばれる、ターゲット物質の原子が荷電粒子から受ける励起の平均的なエネルギーです。これらの量で、媒質内を$dx$だけ進んだときのエネルギーの減少量$dE$が表されています。
この漸近形の導出には、電磁気学、量子力学(時間摂動、ディラック方程式)、フーリエ変換、コーシーの主値積分が必要で、ページの最後にまとめてみました。
グラフはParticle data Group, The Review of Particle Physics (2022), 35. Particle Detectors at Acceleratorsから引用しました。横軸が運動量、縦軸が単位長あたりのエネルギー損失です。
散乱された荷電粒子が検出器の中で上の式で失ったエネルギー分が物質中の原子をイオン化させ、電気信号になります。この機構を半導体やガス検出器に組み込んで実際には使用されています。
例えば、磁場をかけた状況下でこれらの検出器を敷き詰めると、信号の出た場所から荷電粒子が通った軌跡が分かり、その軌跡の磁場による曲げり具合から粒子の運動量が分かります。単位長さあたりのエネルギー損失にBetheの式を使用して、粒子の種類も分かるのです!
実際の検出には検出器内部のイオン化により生じる電子が少なく統計にばらついたり、逆にピーク的に強い電子が生じたりすることでピークがランダウ分布に従っています8。また、ニュートリノといった、相互作用がしづらい素粒子や、電荷を帯びていない中性子などの検出器もあります8。さらに、現在の研究が興味のある事象を見つけたいと思うと、1秒間に何百何千と生じる信号から特定の事象だけを判定・選択して、記録するトリガー(引き金)システムが重要になります。衝突で発生する全事象の4万分の1程度(ATLAS実験の場合)しか記録されていません。そうでなければ、データ数が膨大になることは目に見えて分かります9。毎回の信号からどんな事象が起こったか推定する解析もまた膨大となり、機械学習を使えないかなどの試みも行われています8。…さすがに一人でやりきれない膨大なタスクがあって、そのどれもに工夫があります。
あとがき
ビームの基本的な話と、荷電粒子の検出の話を主にしました。具体的にどんな事象を探そうとしてるのか?という話にはあえて触れませんでした。(導入するものがあまりにも多い気がしたため。) 「こういうのが見つかったぞ!!」というニュースは嬉しい話ではありますが、「どうやって見つけるのか」に目を向けてみると色々と物理がうま〜く使われてます。たまに目を向けてみてください。
ビームを撃つ妄想をするなら、高エネルギーで極細に。そして、何の粒子を含むビームか検出する機構も考えてから、撃って欲しいなと思います。もし撃てたら、そのビームが新たな現象を見つけるかもしれません。
Betheの式の漸近形の導出
以下の議論は, Peter Sigmund, (2006),「Particle Penetration and Radiation Effects」, Springer を参考にした.
電磁気学
Maxwell equation.
\displaylines{
\nabla \cdot \vec{E}=4\pi\rho ,\nabla \cdot \vec{B}=0 ,\nabla \times \vec{E}=-\frac{1}{c}\frac{\partial\vec{B}}{\partial t} , \nabla \times \vec{B}=\frac{1}{c}\frac{\partial\vec{E}}{\partial t}+\frac{4\pi}{c}\vec{J}
}
Fourier 変換. 波数ベクトル$\vec{k}$と並行成分を$l$の添字, 直交成分を$t$の添字を振る.
\displaylines{
\frac{\omega}{c}\vec{k}\Phi(\vec{k},\omega)=\frac{4\pi}{c}\vec{J}_l(\vec{k},\omega) ,\left(k^2-\frac{\omega^2}{c^2} \right)\vec{A}(\vec{k},\omega)=\frac{4\pi}{c}\vec{J}_t(\vec{k},\omega)
}
線形応答を仮定し, 外部寄与$e$, 誘導寄与$i$の添字を振る.$\rho=\rho_{e}+\rho_{i} , \vec{J}=\vec{J}_e+\vec{J}_i$
複素誘電率$\sigma$を以下で定義.
\displaylines{
\vec{J}_l(\vec{k},\omega)=\sigma_l(k,\omega)\vec{E}_l=-i\vec{k}\sigma_l(k,\omega)\Phi(\vec{k},\omega)
}
\displaylines{
\vec{J}_t(\vec{k},\omega)=\sigma_t(\vec{k},\omega)\vec{E}_l=i\frac{\omega}{c}\sigma_t(k,\omega)\vec{A}(\vec{k},\omega)
}
$\sigma$の定義をFourier変換に代入.
\displaylines{
k^2\left(1+\frac{4\pi i\sigma_l(k,\omega)}{\omega}\right)\Phi(\vec{k},\omega)=4\pi \rho_e(\vec{k},\omega)
}
dielectric function(誘電関数)$\epsilon_{l}(k,\omega)=1+\frac{4\pi i\sigma_l(k,\omega)}{\omega}$を定義. 添字を$l$から$t$に入れ替えた$\epsilon_{t}(k,\omega)=1+\frac{4\pi i\sigma_t(k,\omega)}{\omega}$を定義し, ポテンシャルが
\displaylines{
k^2\epsilon_{l}(k,\omega)\Phi(\vec{k},\omega)=4\pi \rho_e(\vec{k},\omega)
}, \left(k^2-\frac{\omega^2}{c^2}\epsilon_{t}(k,\omega)\right)=\frac{4\pi}{c}\vec{J}_e(\vec{k},\omega)
と表せる. また, $k^2\Phi(\vec{k},\omega)=4\pi \rho(\vec{k},\omega)$との対応から,
\displaylines{
\rho_i (\vec{k},\omega)=-\frac{k^2}{4\pi}[\epsilon_l(\vec{k},\omega)-1]\Phi(\vec{k},\omega)
}
と誘電関数$\epsilon_l$が誘導電荷密度$\rho_i$を生じさせる指揮が導かれる. (後で使用)
電場が
\displaylines{\vec{E}(\vec{r},t)=\int d^3\vec{k}\int d\omega e^{i(\vec{k}\cdot\vec{r}-\omega t)}\left( -i\vec{k}\cdot\Phi(\vec{k},\omega)+i\frac{\omega}{c}\vec{A}(\vec{k},\omega) \right)
}
$\rho_e$と$\vec{J}_e$のFourier成分を
\displaylines{
\rho_e(\vec{k},\omega) =\frac{e}{(2\pi)^3}\delta(\omega-\vec{k}\cdot\vec{v}), \vec{J}_e(\vec{k},\omega) =\frac{e}{(2\pi)^3}\vec{v}\delta(\omega-\vec{k}\cdot\vec{v})
}
として$-dE/dx=-\frac{e}{v}\vec{v}\cdot\vec{E}(\vec{v},t)$に代入. $\omega=kv\cos\theta$の極座標で
\displaylines{-\frac{dE}{dx}=\frac{ie^2}{\pi v^2}\int_0^\infty\frac{dk}{k}\int_{-kv}^{kv}d\omega \omega\left( \frac{1}{\epsilon_l(k,\omega)}-\frac{v^2}{c^2}\frac{k^2-\omega^2/v^2}{k^2-\epsilon_t(k,\omega) \omega^2 /c^2}\right)
}
この第二項はベクトルポテンシャルから導出され, 相対論的な領域に至るまでこの効果は見られないため以降では省略する.
量子論の導入
$\epsilon_l(k,\omega)$を量子力学を用いて表現する.
原子核が$\vec{R}$に存在し, 電子1つの状態を$|j\rangle$, 波動関数では$\psi_j(\vec{r}-\vec{R})$とする. このとき,
\displaylines{
\langle j|V(\vec{r},t)|0\rangle = -e\int d^3\vec{k}\int d\omega \Phi(\vec{k},\omega)e^{i\vec{k}\cdot\vec{R}}\left(\int d^3\vec{r}\psi^*_j(\vec{r})e^{i\vec{k}\cdot\vec{r}}\psi_0(\vec{r})\right)e^{-i \omega t}
}
$\Psi(\vec{r},t)=\sum_j c_j(t)e^{-i\epsilon_j t/\hbar} |j \rangle $の状態の時間に関する1次の摂動の係数が
\displaylines{
c_j^{(1)}(t)
=\frac{1}{i\hbar}\int_{-\infty}^tdt' e^{i\omega_{j0}t'}\langle j|V(\vec{r},t)|0\rangle \\
=\frac{e}{\hbar}\int d^3\vec{k}\int d\omega \Phi(\vec{k},\omega)e^{i\vec{k}\cdot\vec{R}}\left(\int d^3\vec{r}\psi^*_j(\vec{r})e^{i\vec{k}\cdot\vec{r}}\psi_0(\vec{r})\right)\frac{e^{i(\omega_{j0}-\omega)t}}{\omega_{j0}-\omega -i\varGamma}\\
=\frac{e}{\hbar}\int d^3\vec{k}\int d\omega \Phi(\vec{k},\omega)e^{i\vec{k}\cdot\vec{R}}F_{j0}(\vec{k})\frac{e^{i(\omega_{j0}-\omega)t}}{\omega_{j0}-\omega -i\varGamma}
\because F_{j0}(\vec{k})\equiv \int d^3\vec{r}\psi^*_j(\vec{r})e^{i\vec{k}\cdot\vec{r}}\psi_0(\vec{r})
}
で与えられる. ただし, 因果律のため無限小の正定数$\varGamma$を導入した($i\epsilon$処方).
誘導電荷密度$\rho_i$を$|\Psi|^2$として表現できる. $\Phi$の1次項まで残せば,
\displaylines{
\rho_i (\vec{r},t) =-e\left(\psi^{(0)*}(\vec{r},t)\psi^{(1)}(\vec{r},t) +\psi^{(0)}(\vec{r},t)\psi^{(1)*}(\vec{r},t) \right)\\
=-\frac{e^2}{\hbar}\sum_{j}\left[\psi_0^*(\vec{r}-\vec{R})\psi_j(\vec{r}-\vec{R})
\int d^3\vec{k}\int d\omega \Phi(\vec{k},\omega)e^{i\vec{k}\cdot\vec{R}}F_{j0}(\vec{k})\frac{e^{-i\omega t}}{\omega_{j0}-\omega -i\varGamma}+ (\text{複素共役})\right]
}
N電子の場合を考えるため, 1電子を持つ原子が体積あたりN個の割合で空間にランダムに分布しているとする. 分極電荷が$\rho_{sum,i} (\vec{r},t) =N\int d^3\vec{R}\rho_i (\vec{r},t)$と計算し,
\displaylines{
\rho_{sum,i} (\vec{r},t)
=-\frac{Ne^2}{\hbar}\Phi(\vec{k},\omega)\left[
\sum_{j}\frac{F_{0j}(-\vec{k})F_{j0}(\vec{k})}{\omega_{j0}-\omega -i\varGamma}+\sum_{j}\frac{F_{0j}(\vec{k})F_{j0}(-\vec{k})}{\omega_{j0}+\omega +i\varGamma}
\right]
}
となる. $\int d^3\vec{R}\psi_0^*(\vec{r}-\vec{R}) \psi_j(\vec{r}-\vec{R})e^{i\vec{k}\cdot\vec{R}}=e^{i\vec{k}\cdot\vec{R}}F_{0j}(-\vec{k})$を利用した. 等方的な媒質の場合, $F_{0j}(-\vec{k})F_{j0}(\vec{k})=F_{0j}(\vec{k})F_{j0}(-\vec{k})=|F_{j0}(\vec{k})|^2$が成り立つ. $\rho_i$と$\Phi$の比例関係は既に導出しており、(後で使用 の式)
\displaylines{
\epsilon_l (k,\omega) =1+\frac{4\pi Ne^2}{\hbar k^2}\sum_{j}|F_{j0}(\vec{k})|^2\cdot\left(\frac{1}{\omega_{j0}-\omega -i\varGamma}+\frac{1}{\omega_{j0}+\omega +i\varGamma} \right)\\
=1+\frac{\omega_P^2}{\omega_k^2-(\omega+i\varGamma)^2}
\omega_k\equiv \frac{\hbar k^2}{2m}, \omega_P\equiv\sqrt{\frac{4\pi Ne^2}{m}}
}
$\varGamma$を$0$に飛ばす極限が$\frac{1}{x-a+i\varGamma}\to \mathcal{P}\frac{1}{x-a}-i\pi \delta(x-a)$とコーシーの主値積分で表せる.
$-dE/dx$には$\text{Re}(i/\epsilon_l(k,\omega))$が必要であり, この関係式を相対論的に書き直すと,
\displaylines{
\text{Re}\left(\frac{i}{\epsilon_l(k,\omega)}\right)= -\frac{\omega_P^2}{\omega_k^2+\omega_P^2-(\omega+i\varGamma)^2} =-\frac{\pi\omega_P^2}{2\alpha_k}\left[\delta(\omega-\alpha_k)-\delta(\omega+\alpha_k) \right]
}
となる($\alpha_k^2=\omega_k^2+\omega_P^2$). (この導出にはDirac方程式を用いるのですが、少々面倒なので割愛することをご了承ください.)
電磁気学で導出した式に代入して積分を実行し,
\displaylines{
-\frac{dE}{dx}=\frac{e_1^2\omega_P^2}{v^2}\int_{\alpha_k<kv}\frac{dk}{k}=\frac{e_1^2\omega_P^2}{v^2}\int_{\omega_k^2+\omega_P^2<2mv^2\omega_k/\hbar}\frac{d\omega_k}{\omega_k}=\frac{4\pi Ne_1^2e^2}{mv^2}\cosh^{-1}\left( \frac{mv^2}{\hbar \omega_P} \right)
}
十分$\frac{mv^2}{\hbar \omega_P}$が大きいとき, $\cosh^{-1}$の漸近展開(Abramowitz and Stegun, 1964)を用いて,
\displaylines{
-\frac{dE}{dx}=\frac{4\pi Ne_1^2e^2}{mv^2}\left[\ln\left( \frac{2mv^2}{\hbar \omega_P} \right)-\left( \frac{\hbar \omega_P}{2mv^2} \right)^2-\frac{3}{2}\left( \frac{\hbar \omega_P}{2mv^2} \right)^4+\cdots \right]
}
これがBetheの漸近公式と呼ばれる. $\hbar\omega_P$が平均励起エネルギーを表す.
-
https://aaa-sentan.org/ILC/about_collider/enkei-senkei.html ↩ ↩2
-
とはいえ、CERNの大型電子・陽電子衝突型加速器(LEP)で最高到達衝突エネルギーが210 GeVまで加速できました。1 LHCで計画中のエネルギーは10 TeV程なので、円形加速では厳しいでしょう。 ↩
-
$s$が(特殊)相対論におけるスカラー(不変量)であるため。 ↩
-
G. Aad, et al.`Observation of a new particle in the search for the Standard Model Higgs boson with the ATLAS detector at the LHC' , Physics Letters B, Volume 716, Issue 1, (2012), Pages 1-29, ISSN 0370-2693, https://doi.org/10.1016/j.physletb.2012.08.020. ↩
-
原子の大きさが$10^{-10}$ m 程度よりさらに小さな領域です。 ↩
-
もちろん、粒子を加速して制御する機構は非常に面白い物理を含んでいます。例えば、線形加速器は電位差を利用して、電場$E$をかけ$qE$の力で加速するのですが、その電場を定常なDC直流電場にするか時間変化するRF電場を利用するかの選択があります。この選択は、加速する粒子に依存します。軽い粒子、例えば電子ならば3 MeV程度のエネルギーを与えるのみで、光速の99%程度まで加速できます。設計上全域で電子が光の速度程度であることを仮定できます。しかし、約1836倍の静止質量(エネルギー)を持つ陽子の加速を考えると加速器の大部分が速度変化する粒子の加速を考える必要があるのです。また、直流電圧による加速はビーム内の速度にばらつきが出てしまいます。交流電圧をかけることで、ビーム速度と交流電圧の位相速度が一致するときのみ加速がなされ、(一致しなければ、電場が逆向きにかかっている領域に粒子がかかってしまい、減速が起こってしまう)ビームのエネルギーを制御することが可能になります。 ビームを減速させずにその位置や明るさ、エネルギーを制御するにはかなり大変な仕事ではあるでしょう。参考: http://accwww2.kek.jp/oho/oho17/OHO17_txt/05_Yamamoto_Naoto.pdf ↩
-
あまり、おふざけを語るには適さないのかもしれません… ↩
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最近「アマテラス粒子」と呼ばれる超高エネルギーの宇宙線が見つかったそうですが、実験上はバックグラウンドとして判断できないといけないわけです。 ↩