この文章はHivemind(サイドチェーン上でPredition marketを作るプロジェクト)の創始者Paul Sztorcによるブログ記事の翻訳です。元の記事はこちら
PoW原理主義者、ビットコイン原理主義者の主張の良いまとめとなっているので、紹介のために訳しました。
誤字・誤訳のご指摘大歓迎です。
以下翻訳
Proof-of-Workに対する「代替案」とか言われているものは全て無駄な「仕事(work)」だ。
イントロ: 浪費された資源
以前私はProof of Workとマイニングに関する記事を書いた。
前半は衆目を集めたが、(どうやら)全世界を納得させるものではなかったようだ。
例えばCCRG(数百万ドルを集めたEthereumの「研究」機関)はその学術領域のほぼ全てをProof of Stake(PoS)の理論化に努めている。
そこで、この根本的欠陥のあるアイディアにこれ以上人々の「仕事」が「浪費」されないように(さらに一部のジャーナリストや有名無実な「投資家」がBitcoinのザ・インターネット・マネーとしての価値から目をそらすことのないように)、今回は以前の記事の前半部分を敷衍しようと思う。
アジェンダ
- 中核となる理論的コンセプトの再提唱(限界費用 = 限界収益)
- **経済学における「レント」**の概念を導入することによるあらゆる人間の活動への一般化
- peer-to-peerマネーにおいて0以上のレントが不可能であることの説明
- 特定の例(Tendermint, Delegated Proof-of-Stake)に注目する。ただし新規通貨の発行に関してはビットコインと同じスケジュールに従うものと仮定する。
- 以上の議論をあらゆる通貨発行スケジュールに関して一般化する。
(再掲) お金を競売にかけるということ
落札! 価格は100USDで、PeercoinのTシャツを着たマイナーに
以前に私が論じたのは
A. 50単位の新規ビットコインをブロックごとに与える
は
B. 50ビットコインを競売にかける
と等しいということだった。なぜかというと、生産過程において限界費用(Marginal Cost, MC)は限界収益(Marginal Revenue, MR)と常に等しくなり、これは経済学的に常に正しいからだ。
結局のところハッシュ値の生産にはコストがかかり、そのコストが50BTCを取得する可能性と釣りあう点まで生産量は増加する。
そして、これはハッシュ値の生産に限らず全ての行動について当てはまる。つまりその行動が50BTCを取得する確率を上昇させるならば、その行動の社会における総労働量が50ビットコインと釣り合う点まで行動が行われ続ける。
この原則を単純なProof of Stakeに適用すると、「Stake grinding攻撃」(「自分にコインが与えられている履歴を見つけるまでブロックチェーンの履歴を大量に作る攻撃」)と呼ばれる現象が引き起こされることが示唆される。というのも、この攻撃による利益は雪だるま式に増えていくためだ。PoWでも複利効果は存在するがPoSほどではない。
この複利的に増加する仕事量を考慮に入れないと(実際にはビットコインには「difficulty」が存在するので)、
「総労働量」= 「ブロック作成報酬の期待値の総額」
という等式は見えてこない。
いわば、PoWでは明日発行するニューヨークタイムズ(NYT)の記事を1000種類の中から合意しなくてはならなかったのに対し、PoSではこれまでに発行された~60000記事のスタックの中から正しい履歴を合意しなくてはならないといえる。
破棄されたブロックチェーンの履歴(NYTのスタック)は表舞台にでてこないので見ることができないが、その作成には「仕事」がかかっていた。作成者は時間とともにますます必要量が増える「仕事」をプッシュしていく。提案された全てのPoWの代替案は「曖昧化された(obscured)Proof of work」と言い直すことができる。
以下で見ていくように、PoWアルゴリズムの曖昧化のレベル(「複雑さのレベル」といっても良い)を変化させることは「社会の総仕事量」と「ブロックチェーンへの影響力」との間にかかる「橋」を変化させることはない。
究極的にはいずれの場合でも個々のマイナー(に相当するもの)は常に
- 利益の期待値を計算し
- コストをかけて
- 他と差をつけるため「仕事」をする
という点では同じだからだ。
このシステムの中で変更可能なパラメータは「利益の期待値」だけで、「コストの期待値は」変更できない。
それでは見ていこう
「レント(Rent)」によって生産費用(MC)は常に売上利益(MR)と等しくなるような圧力が働く
この「限界費用」 = 「限界収益」というコンセプトは実際には未来の全ブロックチェーン技術を含む全世界の全てのトランザクションに適用される
コストを測定する
まともな思考力のある人間だったら、すぐにこう反論するだろう。現実世界ではMC=MRは絶対に成り立たないと。(例えば: 「家の近くのコンビニではビールの代金が高い」とか、「私は小規模なビジネスを運営しているが、全ての商品には最低でも3%代金を上乗せする。そうしなければ自分と家族を養っていけないからだ。もちろんどれだけの利益があるか事前には絶対にわからないがね」)
MC = MR
が常に正しい理由は、経済学者がコストを測定する方法にある。そしてそれこそが正しい方法だ。具体的には「レント」という概念を作為的に導入する。その場合、先の等式を正確に書くと MC_rent + MC_nonrent = MR
となる。
何かズルをしているように(経済学の素養のない者は)思われるかもしれない。そこでまずは、P2Pマネーについて論じる前に一般的なレントの概念とそれが常に0になる理由(と、中央銀行やチェックポインタによって管理されるシステムの場合は対照的に人々から0でないレントを支払わせることができる理由)を説明しようと思う。
レントとはなにか、なぜ出てくるのか
経済学の教科書による説明
ある売り手が(売ることのみが可能な)何かについての特許を持っている状態を想像してほしい。売り手はそれが買い手に対してもたらす効用を推定し、「推定された効用 - $epsilon$」という値段で売る。このように売り手がもっとも貪欲に設定した場合の値段が生産費用を上回る場合、差分は「レント」と呼ばれる。この額(MR-MC)は、この仮想的な取引においてもしもその特許を誰かに「貸す(Rent)」ことになった場合、その際の価格を決定する。
売り手にとっては、自分自身に特許を貸す必要は存在しないが、誰にも貸さないという選択をとった場合、機会費用の損失をこうむる。
したがってここでのMCは、特許を貸す際のオペレーションコストを含めると、MRに完全に一致する。
狐につままれたような気分になるかもしれないが、これはコストを測定する際の唯一の論理的な方法だ。
例えば10,000,000ドルを研究に費やした結果新しい薬の製造法を発見したとして、それが0.10ドルで製造・200.00ドルで販売できるものだったとしよう。その薬の製造「コスト」は本当に0.10ドルであるといえるだろうか?あなたと、特許のロイヤリティーを支払うものと、研究の追試をするものとで、その「コスト」を別々の指標で考える必要がなぜあるのだろうか?
風邪薬
このコンセプトを極端な例で説明しよう
もし私が風邪をひいてせきが止まらないとしたら、その時の一錠の風邪薬の限界「収益」(効用)はとてつもなく高いものになるだろう。一晩眠るためだけに50ドルでも支払うかもしれない。しかしラッキーなことに1週間分の風邪薬の代金はせいぜい5ドルに過ぎない。
このケースでは一見MR>MC
が成り立っているように見える。
実際には、考慮に入れるべきたくさんのレントが存在し、今回のケースでは売り手ではなく私(買い手)がそれを保持している。自分の健康状態に関する知識はプライベートな(私だけが知っている)ものだからだ。
また、私には近所の店や競合する製品についての知識もあるかもしれない(その知識を私が持っているかどうかもまたプライベートなものだ。)もし仮にすべての店が、1. 私の喫緊の必要性を理解する方法を持ち、2. 別の人間が私の依頼で薬を購入することを阻止することができ、3. 他の店が私と交渉するのを防ぐことができたならetc、店は私に対して価格差別を行い、したがって全レントを自分のものにしようとするだろう。
このような店側の努力に対して私が取れる対抗策(健康なうちに薬を買いだめしておく、誰か別の人物に買ってもらう、競合店舗で購入する)は私だけに与えられたオプションであり、もしも店側が「72時間の間なら、私は風邪薬に200ドルを支払いうる」という情報を知っていたなら店側は200ドルを私に請求するだろう。しかし現実にはこの情報は私しか知らないので、自分に対して情報を貸す場合、貸金(rent)は0であると考えることができる。
ここではMR > MCが成り立っているように見えるが、実際に起きているのは、私が1単位の「薬」を購入し、1単位の「自身の病気度」という専門知識と組み合わせ、「せきを止める」という新しい効用を生み出した。という事態だ。この効用を生み出せるのは私が病気である時に限られ(私が健康な時には薬は私の役に立たない)、私が病気になるまで待って、それから私の服用を妨害する。ということは誰にもできない。私は薬が私の病気を治すということを知っている。したがってMC = 薬 + 病気に関するレント = MR
が成り立つ。
レントはプライベートなものである。
MC = MR
ははその時に意思決定に関与しているエージェントのみに当てはまる。従って外部性(externalities)を考慮に入れていない。(これが外部性が問題になる理由を完全に説明している)
レントは時間とともに自己消滅する
例え現時点において誰かから何かを「レント」しなくてはならないとしても、借り手は時間とともに代替案を探すだろう(「店を探す」ことのコストが現時点においては高いとすると、「もっともよい契約はどこで手に入るか?」という知識を持たない場合は誰かから「レント」しなくてはならない)
実際のところ起業家はこの真逆(このレントを精査し、人々の需要を満たす方策をより安価な方法を提供する)を実行する。
経済圏は起業家としての能力と資本という希少な資源を、このようにして社会に分配している。
では本論に移ろう
「レント」は「排他性」を含意しており、これはP2Pと矛盾する
もしすべてのピアが平等ならば、どうして一部だけに特別な役割を担わせる(あるいは負担させる)ことができるだろうか?
レントは売り手が競合相手が持つことのできない何かを持っている場合にのみ発生する。だからこそ競合相手は売り手から「借りる(Rent)」必要がある。
この問題は現時点で存在するプロトコルのオペレーションに限定されるものではない。プロトコルのセットアップを含むすべての領域に当てはまるものだ。完全にP2Pのプロトコルはセットアップもオペレーションも、ともにP2Pで行わなくてはならない。
しかし、大量のレントを継続して与えるようなプロトコルは次のような疑問を想起させる。
我々からレントを得る特権者とは誰なのか?なぜそれらの人々でなくてはならないのか?なぜそもそも誰かから「借り」なくてはならないのか?
coinmarketcapに存在するもののなかで唯一レントを引き出すことができるのがRippleだ。そして全く同様の理由でRippleは唯一P2P ではないともいえる。(Rippleには特権的で、真似をすることができない「ピア」と、金融的な関係性が存在するためだ。)
ここまでの議論があなたにとって難しいものではなかったと信じたい。着目すべき点がはっきりしたので、元のトピックに戻ろう。
あらゆるものはProof of Workである
もしもレントと「25BTC/10 minute」の発行スケジュールがなかったら、すべてが25BTCを10分ごとに浪費する
単純化のために、このセクションでは全てのP2Pシステムは新規コインを同じスケジュールで発行するものとする(すなわち、10分ごとに50単位で、各4年ごとに半減していくものとする)
どのスケジュールを適用するかが本論の趣旨に関係ないということは次のセクションで示す
仕事量と関係のない(work-independent)プロトコルは可能か?
何らかの暗号通貨システムが周期的にコインを発行するとして、最初の段階で、コインを発行するために何かを「浪費する」インセンティブを設定しなかった場合、そのシステムはあらゆる人間活動と完全に独立した方法でコインを発行しなくてはならない
つまりコインは完全に労働量と無関係な方法(effort-blinded)で発行されなくてはならない。言い換えると、コイン量(すなわち報酬)と人類が影響を与えることのできるすべてとの相関係数が0にならなくてはならない。
これは達成不可能だ。どのソフトウェアを用いるかという決定それ自体からして人間が影響を与えることができるものだし、ユーザー以外の人物にはプロトコルは「見えない」(訳注: 全人類がプロトコルを知らない限り、常に外部性が存在するという意味)からだ。
したがって仕事量と無関係なコインの分配は不可能だ。ここから人々の言う「浪費」が必須なものであることがわかる。
時間と所有権についてかく乱する(ことは意味がない)
次のようなデザインを考えてほしい
- 50BTCの報酬を得る人物を事前にランダムに決定する
- その決定を凍結し、一定時間が経過したのち...
- 実際にその人物が50BTCを取得する
この場合、MRが出てくる時点までに、コイン取得の可能性を上げるためにできる「仕事」は存在しないはずだ。そうだよね?
違う。
タイミング
3が実行される段階においては、「仕事」をするにはおそすぎるという点はたしかに正しいが、将来のMRに向けて仕事をするには完璧なタイミングである。
MRとMCが別々の時間において発生するという事実は個々での議論とは関係がない。実際のところビットコインにおいてもそうなっている。
(ビットコインのPoWの報酬は100ブロックの間支払い不可能であることをご存知だっただろうか?ブロックが孤児になった場合はそれらのコインは完全に消え去るからと言うのがその理由だ。また、マイナーは二重支払いをもっとも行いやすい主体であるため、彼らが確実に保持しているコインについては慎重に監視するべきだという点もある。)
ランダムネス
3の段階においては(過去のチェーンから)ランダムに結果を「grind」して自分に有利な結果を作り出すにもおそすぎる、というのもまた正しい。が、にgrindingを開始して将来の自分にMRを与えるブロックを探すにはちょうどよいタイミングでもある。実際のところこれがビットコインの仕組みでもある。
(ビットコインは次のブロック作成者を決定するためにとてつもなく強力なランダムネスを用いていることはご存知だっただろうか?(訳注: ブロック作成時間は平均を10分とする指数分布に従う)このランダムネスがあまりに強力なので、誰が次のブロックを作るかということも、また正確にいつブロックが作られるかということも誰にも予測できない)
「仕事」を意味のあるものにする(と、機能しない)
「PoWを別のことに転用できないだろうか例えば暖房とか...」
一つ、仕事を別のことに転用するのは常に優れたアイディアだ。
二つ、人間には暖房が必要だ。
三つ、そのような調整を行うことはビットコインがその目標を達成する(あるいはBittorrentのような、単一パーティの恣意的操作に対する耐性を獲得する)のを促進する。
しかし、ここでMCとMRとがどうなるかを見てみよう。これまでは$x$個のハッシュごとに、「100ドル分のBTC」を手に入れる事が期待できたが、ここでは$x$個のハッシュごとに、「100ドル分のBTC + 5ドル分の暖房」が手に入るようになった。
もしこれまでの採掘費用が(最新最高のハードウェアを用いて)100ドルだったとすると、費用は105ドルへと更新され(すぐにビットコインのdifficultyも上昇す)る。非効率的なマイナー(排熱を暖房として転用しないマイナー)は商売上がったりになって脱落せざるを得なくなり、結局マイニング費用は100ドル(95ドル分のBTC + 5ドル分の暖房)相当になる。
したがって「マイニング暖房」はハードウェアの効率性上昇の一形態に過ぎず、difficultyと(消費したエネルギー/ブロック)の上昇につながるに過ぎないことがわかる。
「Proof of Workはdouble-sha-256のハッシュでなくても機能する。なにか社会にとって有用な目的にしても良いはずだ。例えば素数を探すとか...」
この主張は完全に筋が通っているように見える。マイナーは巨大な素数を見つけることに対する代金をもらうわけではないので、彼らのMRを上昇させることはなく、したがってMCを上昇させることもないはずだ。代わりに余剰利益を得るのは我々、すなわち社会の側であり、「我々」のコストは上昇しない。これは上で示唆した外部性の論理だ。
私からの反論は二つある。
まず第一に、上記の主張が馬鹿げているのは、ビットコインはすでに社会にとって有用な事をしているためだ。(そうでなければマイニングによる利益など存在しない。)
マイニングは、よく知られた愛すべきネットワークを構築するのに貢献している。マイナーは私がビットコインネットワークを使用する際の限界効用(プライバシーおよび少ないコスト)を私と分け合ったりはしない。よりここでの議論に関係のある言い方をすると、ビットコインネットワークを使うという選択肢を得ることで社会が得る利益も分け合うわけではない。
ビットコインを目の当たりにして、それが現在していることの全てに加えて大きな素数を探すことも同時にすべきだ。などと主張する者と話してみると、「いったい自分は誰と会話をしているんだ?」という気分になること必至だ1。
二つ目、これは利益が外部に属する(マイナーのものではなくパブリックなものである)限りにおいて機能する。したがってマイナーにとってそのようなシステムに切り替える、あるいは採用するといったインセンティブは存在しない。これは、このスキームが(純粋なPoWに比べて)資源浪費的ではなく、したがってより実用的でないことのまさにその理由だ。
2つの代表例: TENDERMINTとDelegated Proof-of-Stake
さて、ではほぼ理解不可能になる程にProof-of-Workを曖昧化している例を二つ検討しよう。
例1: Tendermint/Casper
「付け加えると、あるbonded validatorの収益率は他のbonded validatorのパフォーマンスとavailabilityに依存します。」
イントロ
Tendermintの仕様では、任意の個人が自身のe-cashをロックすることで、「承認者(validator)」の一員になることができる。
彼らが好ましくない行いをした場合、「担保に入れた(bonded)」資本を失うように定められており、そのような行いをしない主体が十分数存在する場合は「マイニング無しで」ネットワークのコンセンサスを維持することができるとされている。
私の見る限りにおいて、これはビットコインのproof-of-workと同等なものだ。
本論で無視する内容
まず、これは経済学のブログなので(すでに知られている)技術的な問題(新規性、署名検証のスケーラビリティ、いなくなった・DDoS攻撃を受けた承認者の扱い)、オペレーヨン上の問題(コインの価格が低いときにどのようにして系をブートストラップするか、価格が下がった時にどのように安定化させるか、ビットコイン以上の限界収益をどのようにして達成するか)、暗号システム上の問題(長いレンジのチェーンをNothing at Stakeで簡単に形成できるので、メインのチェーンと見分けがつかない偽チェーンが大量にできてしまい、どのチェーンが本物か指摘しようとする者を系から締め出してしまう。)は全て無視することにする。きちんと機能し、スケールするものになったと仮定した上で、友人に意見を求めるものがマフィアの拷問にあったりしない2ものとしよう。
承認者とマイナーの比較
ここでの問題は承認者がMRとして(新規コイン+トランザクション手数料)を得るという点だ。そしてこのMRがMCをもたらす。
ビットコインでは、10分ごとに~25.01USD相当のBTCがマイナーによって「浪費される」のに対し、Tendermintでは、10分毎に~25.01USD相当のBTCが承認者によって浪費される
非生産的な投資は「浪費的」である
純粋なPoW | 曖昧化されたPoW |
---|---|
誰かが... 現時点での条件下(交換比、トランザクション量、coinbaseでのインフレ率)で1500から2500ドル相当のビットコインを採掘できる可能性に気づき、この投資の潜在的リターンを別の投資の潜在的リターンと比較検討する。1800ドル相当の運転資本を借り、1000ドル相当のマイニングハードウェアを買い、完全に減価償却するまで走らせる。この過程で500ドル相当の電力と200ドル相当の労働時間と、63ドルの資本を失う | 誰かが... 現時点での条件下(交換比、トランザクション量、coinbaseでのインフレ率)で1500から2500ドル相当のビットコインを稼ぐことができる可能性に気づき、の投資の潜在的リターンを別の投資の潜在的リターンと比較検討する。投資のリスクフリーレートが3.5%で、承認のための担保が4%であることを確認する。47400ドルの運転資本を借り、これを承認のための担保として用いる。この過程で1659ドルの資本を失う。 |
2000ドルの収入を得る。1763ドルを費用として支払ったので「リスクと引き換えに」2000-1763 = 237 ドルの利潤を得る |
1896ドル(47400ドルの4%)の収入を得る。1659ドルを費用として支払ったのでリスクと引き換えに2000-237 ドルの利潤を得る |
純粋なPoWの場合、マイナーはネットワークをセキュアにする。社会の側で生産されるものはといえば豪奢な車や靴、マンションその他といったもので、マイナーは年収として社会の希少な資源の一部を取得する。その一部はマイナーの上流(マイニング機器や電力の製造会社)や下流(マイナー行きつけのレストランのオーナーやウェイター、贔屓のアーティスト、慈善活動家、家族に友達)へと流れる。
曖昧化されたPoWの場合、非対称的に利益を得るのは承認用に担保に入れる資本を保持する者である。彼らはより良い車を購入したり、妻がより良い靴を手に入れたりすることができる。
「流動性は重要である」という主張はそこまで信じがたいものだろうか?
経済学における「流動性(liquidity)」は誰にとっても馴染み深いものではないだろうと確信している。しかしお金は素早く、余計な注意を払わずに手に入れる必要のあるものである、という点は常識的に理解できるものであったとも思う。自宅に非常用の現金の束を保持することは一般的ではないなどといえるだろうか?
悲しいことに、現代においては終わらないゼロ金利政策が新世代の潜在的預金者(「間接的資本家」)の可能性を台無しにしてしまったので、あなたは知らないかもしれないが、ご両親に聞いてみると良い。その昔にはCD(譲渡性預金)と呼ばれるものが存在し、自身の預金を一定期間(半年、1年、2年)封鎖することができ、それと引き換えに(銀行が貸付を行いやすくなるため)より高い金利を得ることが可能であったということがわかるだろう。これは実際のところ、余分な流動性を「売る」ことができたという意味で、すなわち流動性という希少な資源を経済圏の中により効率的に分配したということを意味する。
そして流動性は重要なものだ。リーマンブラザラーズやZerg Rushの被害者に聞いてみると良い。全てが上手く行けば彼らの用いた精巧で長期的なプランは常に勝利しただろう。しかし常に全てが上手くいくわけではない。
流動性を完全に犠牲にする(CDですら罰則を払えば引き出せるが、TMの担保保持者3)は一年間YESを言い続けたところで引き出すことはできない)ことで、経済圏は「何も」「「手に入れない」」流動性は「「「「「浪費された」」」」」ことになる。
希望的観測
ここまでの私の主張で、次のような疑問が生じたかもしれない。「何らかの仕方で、全て「相殺する」のではないか?」、「マネーサプライがどこかにロックされることで社会にダメージが与えられるのではないか?」
否。相殺されることはないし、ダメージが与えられることもない。マイナーが採掘したBTCを売ることができるのはBTCのネットワークが便利なものである限りにおいてである。マイナーは利益を得て、集積回路の生産者は売上を伸ばし、非効率な送金システムはアップデートされたり刷新されたりする。
反論1,3,4
Vitalikのブログ記事において、彼は次のように認め、
「長期のデポジットはユーザーに資本をロックするインセンティブを与え、非効率性を招くのではないかという指摘があります。これはProof of Workと全く同じ問題点です。」
そして以下のような**4つの「反論」**をあげているが、その内の二つは完全に無関係なものだ。
- 限界収益は収益の合計値ではない(どうやらVitalikは限界収益を作業(work)単位ごとにではなくブロックごとに計算しているようだ。)
- セキュリティデポジットは安全である。(これは「マイニングハードウェアは効率的である」というのと同じくらいここでの議論に関係がない)
- 承認者が罰則を受ける際、(承認者の)(オペレーション)「フロー」だけでなく、全(資本の)「ストック」に対しても罰則を与えることができる。これはビットコインのマイニングが専用の機器(ASIC)とブランド化されたマイニングプールによって行われている現在においては誤りだ。というのも彼らの経済的価値はネットワークの攻撃によって確実に下るからだ。
反論2
2つ目の反論、「資本を一定期間取り出せないようにすることは、物価のデフレを引き起こし、これは社会にとって望ましい」だが、これは希望的観測だ。「トランザクションに使用できるマネーサプライが減る」と言うのは正しくない。この言い分は破棄されたセキュリティデポジットに対してのみ当てはまる。承認者が自分の資産を凍結する唯一の理由は、後の購入資金にするためだ。マネーサプライを減らしたいならば、マネーを永遠に破棄しなくてはならない; これは破棄する者に犠牲を強いることにほかならず、破棄した者以外の全ての生活水準を向上させる。
対して承認者は、現在の生活水準のみを犠牲にして将来の生活水準を向上させる。
金融経済学(Monetary economics)は経済学の分派の中でもとりわけわかりづらい学問領域なので、もう3つほど異なる説明の仕方をしよう。
反論2(Ⅰ) レーンを選べ!
まず、「物価水準(the price level)」というものはマネーサプライ(と、一定のデリバティブマーケットが存在する場合は予測できなかった変化)だけに反応する。これはつまり、もし資本を担保に入れることがマネーサプライを変化させるとしても(実際はさせないが)常に一定額の資金が経済圏全体から締め出されている限りその効力は存在しない。マネーサプライが変化しても、社会にとって望ましいデフレは(Vitalikの言い方に従えば、「社会にとって望ましくない」)インフレによって相殺されるためだ。どの一定期間をとっても、「トランザクト(送金)」されない資金が存在し、もしこのような資金が社会にとって望ましい物価のデフレを引き起こすならば、(bonded validatorだけでない)全ての資産保持者が同じことしていることになるはずだ。
将来のフローの期待値(担保に入れた資金を含む)を考慮に入れようが、あるいは完全に無視して(max(currency_supply)
を使用して何も含めない)も同様だ。
反論2(Ⅱ) 反実仮想による証明
2つ目、資産の凍結をした場合の物価の変動が、資産を破棄した場合のそれと同様であると仮定しよう。その場合、99.9%のマネーサプライが担保に入れられたとしたら、物価は1/1000になる。(担保に入れるのではなく、不可逆に破棄したら間違いなくそうなる。)
その場合通貨の(「流動性」)を保持しているもの(0.1%の所有者)は異常なまでの購買力を享受することになり、さらには「金持ちだが流動性を持たない承認者」と結託して、新たな「プロジェクト」に「投資」して大量の商品を購入することも可能だ。
これらの「プロジェクト」は他のあらゆるファイナンシャルでないプロジェクト(新しいビジネスを始める。工場を稼働する。通勤のためのカーローン。)よりも「利益がある」ので、収益率の差(「流動性」の「値段」)の結果として、まともなプロジェクトは締め出され、不健全な投資・少ないキャピタルストックをもたらし、社会は暗澹たるものとなる。
反論2(Ⅲ) Q. 浪費されているものとは?A. 流動性
三つめ、承認者が例えばレクサスを買うのに必要なだけのBTCを稼ぐとする。また、社会が生産できるレクサスの数は一定であるとする。その場合、別の誰かが取得できなくなる。したがって、コンセンサスアルゴリズムがより「安価」であるといいたいならばそのコンセンサスアルゴリズム(仮にCaspermintとしておこう)は社会の生産力(レクサスの数)を増加させなくてはならない。
こう反論したくなるかもしれない。マイニングの過程がなければ、消費される電力の量とシリコンの量は減るため、その分の資源が総生産力の増加につながるのではないか?
答えはYesだ。ただし、これらの「浪費されなかった」資源はその他の「浪費された」資源によって相殺される。PoWの場合はエネルギー・ハードウェアを直接、Caspermintの場合はより広く浅く流動性を浪費する。
ここで少し寄り道をして、利子率と賃借(ローン)の市場についての話をしよう。自分が旅の狩人になったと想像してもらいたい。数日間に渡って低たんぱくでサラダっぽい植物性の糧秣ばかり食べていたところに美味しそうなウサギが通りかかったとしよう。すると需要曲線が上向きにシフトし、残り僅かなエネルギー源が筋肉へと送られ、脳はうさぎを捕まえる方法を模索するため酸素とグルコースを消費し始める。それまでは貴重なグルコース(「流動性」)を消費する意味など全くなかったのが、ウサギを見たことで脳細胞が互いに次のようにささやき始める。「(今)このウサギを捕まえることができれば俺達はエネルギー源をゲットして、ひょっとしたら将来は新しいスキルの習得などに避けるリソースも増えるかもしれない。こいつは適応度の上昇をもたらすぞ。」
狩猟採集社会に適応した生物の心理では夢を見ることはできない。なんてことはないはずだ。そうだよね?
まあとにかく、PoWの元では、流動的な資源(シリコン、金属、コンクリート、電気、時間、労力[これらはそれぞれ有用なことに使えるが単体では使いづらい])は流動性のない用途(マイニング用のハードウェアとインフラ、及びその構築と運用のための知識・人脈[これらは特定の目的には非常に有効だが汎用性がない])へと注ぎ込まれる。
投資家がやっていることを要約してしまうと、その投資のタイムスケールにおいて「これらの要素の組み合わせ方において、私以上に効率的なやり方は存在しない」ということに賭けていることにほかならない。
そしてTendermint-PoW4の場合、担保に入れた資産はロックされて他の用途に使用することはできなくなる。PoWの場合と同様に「これ以上効率的なやり方は存在しない」ということに賭けているわけだ。浪費は(実際には起きなかったが、起きる可能性のあったことを考慮に入れるため)一見不可能になるが、実際には存在する。
上記のハンターの例を推し進めると、PoWにおいては狩猟採集者は重りを付けているようなもので、Tendermint-PoWの場合はグルコースの循環に時間がかかるようなものである(したがってウサギを捕まえるのが難しい)といえる。いずれにせよ捕まえることのできるウサギの量は減る。実際、経済の仕組みは全参加者を二者と一切の違いがないところに連れていくようにできている(あるプロジェクトがあまりに高収益だとしたら、そこに資金が流れ込んで利益率は上がっていくし、消費に関する「プロジェクト」の場合も手に入る効用が多ければ同様だ)。
最後に、もう一つだけ残った二種のPoWの違いに触れておこう。PoWは経済の成長という面では良いかもしれないが、二酸化炭素の排出量という点では確かにSoftAltoid5の方が優れている。
この面について真の優劣を付けるのは難しい。なぜならば少ない資本は
- 暗い未来
- 少ない技術的・科学的イノベーション
- 二酸化炭素削減・隔離の技術の貧困化
- 代替燃料の探索の減少
につながるからだ。
主流経済学にのっとった言い方
経済学の教科書を開いてみよう、こちらが貸借可能な資産の供給曲線だ。
賃借可能な資産が「non-productive」な投資に「浪費」されると、供給曲線が左にシフトする。
ここで(ブロックの)承認にあたって「浪費された」分(C及びD)を図示する。
変化前 | 変化後 | 総額 | |
---|---|---|---|
消費者余剰 | A,B,C | A | -B, -C |
生産者余剰 | D | B | -D, +B |
総余剰 | A,B,C,D | A,B | -C, -D |
したがってセクションC,Dの富は失われた。
Q.E.D
例2: Delegated Proof-of-Stake(DPoS)
DPoSは一種の金権政治の形態であり、自身の資金を用いて(民主主義のように「消費して」、ではなく、資本主義のように「リスクにかけて」でもない。)100人の議員を選出する。彼らが順にブロックへの署名を行い、P2P(に似ている)ネットワークをセキュアにする役割を担う。
今までと同様、これに伴う別の問題は全て無視する(例えば金権政治は全ての意思決定に「アホな金持ち」が関与することになり、退廃が不可避である[専門家による統治を原則とする資本主義と対照的]とか、DPoSは富の[したがってプロトコルコントロールの]強力な集権化を招くとか、投票者が自分が投票しようとしていることに十分注意を払わないため、67以上の議員が共謀して二重支払いを成功させる可能性があるとかそういった問題だ。)
代わりに、(以前と同様、通貨発行のスケジュールがビットコインと同じであると仮定した上で)DPoSが結果的にPoWと同様であるということを示すに留める。
理論上の仮定
DPoSは理論上、以下の仮定を置いている。
- 攻撃者でない者はみな100人の議員のいずれが適切な候補者であるかを認識することができる。
- この認識は人間の「仕事」によって妨げられるものであってはならない。
- そして攻撃者がマネーサプライの50%以上を所持することはないので
「結論」 ... ネットワークは常に安全に保たれる。
2が明らかに破綻の原因であり、それにより1も機能しない。
ここまで読んで「理解」できたならこのセクションをとばして次(「coinbaseの腐敗」パラドックス」)に行くことをおすすめする。
しかし、ここでの議論は私の個人的興味と合致している部分でもあるので、「投票」というものが機能する条件について、数節を割いて説明しようと思う。
金と政治
票は買収されている。直接的ではなく(これは有権者の大切な自己欺瞞に意義を投げかけ、時には集団的暴動の焦点ともなりうる)、減税、福祉、軍事行動、補助金、グラント(研究費)、ライセンスなどを通して間接的に行われている。
これは市民を利する行為であると叫ばれている(実際には「一部の」市民というべきだ)が、より目立たないサブテクストとして「候補者Xへの投票はあなたの純利益を増大させますよ」というのが含まれており、
その上では広告費と専門家によるキャンペーン活動が行われている。
選挙活動はゼロサムゲームなので、これらの候補者の活動はお互いにキャンセルしあい、社会における「浪費された仕事」の総量は増える。
そもそも票の買収はいけないことなのだろうか?答えがわかる人がいるのだろうか?(長期的な協力関係の維持にあたってヒトという種が抱えている問題を考慮に入れると尚更疑問だ。)今日の一票の結果がどうなるかなんてどうでもいいのでは?
私は票の買収が「善い」とか「悪い」とか言いたいわけではない。単にそれが行われているというのが「真実」であると言いたいだけだ。
投票者の数が増加していくほど、票の買収は簡単になっていく。「投票者の数が増えるほど、一票の重みはなくなっていく」というのは一見穏当な主張に思えるが、この命題は実際には相当なパラドックスだ。
投票者の数が増加していくにしたがって、個々の投票者の行動が結果に影響を及ぼすことはなくなっていく。そしてまるで風船が膨らみすぎた結果、表面のプラスチックが一挙に崩壊するような帰結を迎える。
投票者が3名しか居ない場合、一票が拮抗した状況を変えることは大いに有り得る。しかし投票者が10,000,001人居た場合、 そもそも拮抗した状況が起こる可能性が低すぎる(したがって一票が結果に影響を及ぼさない)。少数の「不十分な情報しか持たないクリティカルマス」を取り込むことで、投票のプロセスは完全に転覆させられる。さらにそれが「投票しても無駄だ」という自己充足的な絶望を招く。
投票に当たって情報を収集するコストが低ければ、この自己充足的な期待が発生する確率は低くなるが、残念なことに投票行為というものはそれ自体高くつく行為だ。投票にはエネルギーが必要で、大抵の人はそれを払いたがらない。この一見些細な事実によって、内緒で公共資源を賄賂として使用することはいかなる政治家にとっても大きなアドバンテージとなる。
富の不平等さは足りていない
DPoSの投票権が一人一票ではなく、資本の量に比例するという点はどうだろう?十分な改善には繋がりそうもない。富は一様分布しない(実際には対数正規分布か指数分布に従う)ので、プロジェクトが「ワールドワイド・レジャー」を目指す過程で、かなりの割合の人口が各所得階層に属することになり、したがって、情報収集をした上での投票が大半の人々にとって時間の無駄になるという点に違いはない。
この投票者の無気力化(Voter apathy)現象は、現代のコーポレート・ガバナンスというより楽観的なシナリオにおいてすら致命的だ。その場合、投票に興味のないグループは株式に応じて与えられた投票権を売り払ってしまうことができる(これはDPoSでは不可能だ)。取締役会選出にあたって株主の持つ投票の重みはここでは重要ではない。ほとんどの株主は投票に必要な注意、あるいは明らかに腐敗的な現象 -- 例えば役員報酬、ポイズン・ピル、帝国建設(empire building)6、ゴールデンパラシュート -- について学んだり何かをしたりするのに十分な注意を払ったりしない。
DPoSは、他の全ての投票システムと同様、資本主義的ではない。資本主義とは「1ドルにつき一票」というシステムではない。「1ドルをリスクに晒すことに付き一票」と言ったほうが適切だ。資本主義では利益の可能性と損失のリスクが不可避のセットになっている。投票の場合、「善い投票」による利益は公共に属し平等にシェアされる(個人的な利益を得る可能性はない)。そして投票はタダだ(個人資産を失うリスクはない)。
元の議論に戻る: 認知資源の希少さと広告について
投票する相手を選ぶことが「仕事」を必要とするならば、仮に賄賂が存在しなかったとしても、投票者には(これまで述べてきたような)「仕事」による影響が存在するはずだ。
2012年合衆国連邦選挙では、SuperPACsによって5億ドルを遥かに越える資金が集められ、消費された。人は何の見返りもなしにそんなお金を支払ったりしない。
政治的な広告の有効性についての研究(特に「攻撃的広告(attack ads)」)は数多く存在する。こちらサイトと「People also read」のサイドバーを見てみるとよい。
正の相関が存在するということが重用なのであって、相関係数の大きさは関係がないという点に留意してほしい。単一のハッシュ値だけではビットコインのブロックに有効な署名をできる確率は低いのと同様に、特定の広告キャンペーンだけでは選挙に勝つ確率は低い。しかし重用なのは、広告に費やした総額とそれによって(当選を果たした選挙団体から)得られる見返りの期待値の方なのだ。
レントを破棄させても効力は消滅しない。
消費とそれがもたらす結果との間に障壁を作る試みは常に失敗する。そのような「仕事障壁(work-barrier)」に少しでも穴があればそれは完全な失敗につながる(PoWのハッシュ値一つだけではブロックに有効な署名をすることができる確率は低いということを思い出してほしい)。
例えばアメリカの場合、MC=MRの性質をよく理解していない国民によって、政治的広告にかかる費用を一定金額以内に収めるようにする運動が存在する。当然ながら広告は常に有効なので(MR)、MCは常に上方へと押し戻される。このような場合、MCはSuperPACの広告という形態を取り、これはMCでMRを購入するが、その際にサポート対象となる立候補者と合法的に協力できないことは単に「不便」な枝葉であるにすぎない
候補者はこのような広告に心の中では感謝しているかもしれないし、本当に嫌がっているかもしれない。真実は誰にもわからない。わかるのはGingrich(上のリンクの映像の人物)が落選したという事実だけだ。
もし腐敗に対抗することが「政治的消費の禁止」と同じくらい簡単であったなら、社会がここまで問題だらけの歴史を持つことはなかっただろう。腐敗を防ぐ唯一の方法は政府の役割を小さく保つことだと建国の父たちは気づいていた。MRを減らすことは、(賄賂、ロビー活動、プロパカンダなどによって)MCをも下げる結果につながると。
もしこれが可能だったら本当に良かったのだが。次のセクションでは不可能であることを示す。
投票が機能することがありうるのか?
投票が(よく)機能するのは、正しい情報を入手した上で投票することのコストがゼロで、かつ集計が正しく行われている(yes/noの二択の投票の場合は平均値、連続値から選ぶ投票の場合は中央値が取られている)場合に限る。
もし、投票行為自体が簡単(例えばスマホから投票できるとか)で、かつ投票者の頭から無料で出てくるもの(好み、価値観、優先順位)ならば、投票結果は「より少数の人々の気分を害する政策はどれか」についての有益なシグナルとなる。
このシグナルはパワフルで、非暴力的で、社会を協力的なものにするものとなり得るが、ここでのケース(ブロックチェーンのコンセンサスのバリデーション)はそうではない(投票者を騙す専門家が内部するようになる)ので、完全情報下での投票は常に高く付くものとなる。
今後の方針(?)
もう一度言おう、もし終わりのないゼロサム・ゲームを生むことのない方法でお金をばらまきたいならば、方法は未来永劫一つしかない。そのバラマキは人間の努力と完全に無関係な方法で行われ無くてはならない。
これを実現しようとすると、永続的かつ変更不可能なスーパー・ファシズムのようなシステムが必要だ。そして18歳の誕生日を迎えた人物にX単位のコインを発行し、その時点で人生をリセットして、18歳以前に出会った人々との一切の接触を禁じる。といった施策が必要だ。子供の認知をしたくないプレイボーイには喜ばしいことかもしれないし、またインフレ課税に伴う貨幣価値の低下が避けられない(完全に有効な固定額税である)ということも意味しているとはいえ、貨幣発行のメカニズムと政府そのものは変更されたり腐敗したりということがない。ということが前提にある点を忘れてはならない。
では、e-cashの考察にあたって最後の考慮点に移ろう。通貨発行のスケジュールに関してだ。
「coinbaseの腐敗」パラドックス("Less is more.")
各ブロックで発行されるコインの量を減らすことは、実際にはブロックごとに発行されるコインの経済的価値を上昇させる。
全てのコインをプレマインしておくことは、ブロックチェーン間で活動する動機を与える。
貨幣に関して議論する場合、「他人が何を保持しているか」が自分に影響する。私が何故か、「あなたにスタインウェイのグランドピアノをあげます。ただしあなたが受け取ると別の1000人にもスタインウェイのピアノを配ります。」という魔法の取引を持ちかけられたら、もちろん受け取るだろう。これがピアノではなく、マンション、テレビ、健康、あるいは魔法の力だったとしても、受け取る対象に私が含まれていなければ困惑したり残念に思ったりはするだろうが、また私が受け取れるチャンスを探し、そのアイテムが嫌なものでなければ喜んで受け取るだろう。
貨幣の場合は事情が違う。誰かに貨幣が新たに与えられるということは、私の購買力が低下するということを意味するからだ。あたかも私のもつ貨幣が「腐って」しまったかのような効果を引き起こす。
貨幣においては、全ての貨幣を一定倍したところで実際には何の変化も起きないということに留意してほしい。(実際に例えばUSドルの場合、「ドル」に「セント」という新しい名称を与えて、100倍すれば同じ状態になることがわかる。)全ての貨幣を一定の割合で変更することは、いかなる場合でも「ドル」という名称を何か別の新しい名称に変更するだけの効果しかない。
このような一様な変化が無意味であるのと全く同じ理由で、一様でない変化には意味がある。汗水たらして働いて、100ドルの日給を得たとしても、誰かが労働なしに100ドルを印刷したとしたら、また明日同じように働くモチベーションは下がるだろう。
気にすべきなのは自分が保持している量が「マネーサプライの内の何%であるか」である。自分はその割合を上げたい、他の全ての人々はこれを下げたい。そういうことだ。
「10分毎に50BTCではなく、5BTCにしたらどうだろう?10倍安上がりになるのでは!?」
否。そうはならない。全ての量を10/1にすることはいかなる効果ももたらさない。(1ドルが10セントになるだけだ)
とはいえ変更が可能な点もある。いつこのようなマネーサプライがもたらされるかがそうだ。明日100ドルを受け取るよりも、今100ドル受け取る方が嬉しいのと同様に、現時点のドルのステークホルダーにとっては、明日100ドルが印刷される方が一年後に100ドルが印刷されるよりも辛いことだ。
しかしこれはパラドックスでもある。今日発行される通貨の「全体に占める割合(%)」 が減ることはブロック作成のMRを減少させているように見えるからだ。だが、コインの発行を将来に引き伸ばすことは貨幣の「腐敗」をゆっくりにし、したがってこの貨幣の価値は上昇し、MRも上昇する
「NXT/BITSHARES/RIPPLE のように、あらかじめ全ての通貨を発行しておき、ブロックごとの発行量はゼロにしてしまえば良い ... MRは存在しなくなる。だよね?」
否。馬鹿げたアイディアだ。MC=MRの呪縛からは逃れられない。
そのような決断が貨幣のネットワーク効果に及ぼす致命的な影響については以前議論した(この記事の原型となった以前の記事の後半部分だ)また、おそらくは自然界における類似事例も存在しない(馬鹿げたほどの危険性のため)。第三に、ごく少数の人々の手にコインを集中させ、これが貨幣の初期段階における極度の不安定性の原因となる(時価総額が上昇するにつれて、これらのアーリーアダプターはウルトラリッチとなり、売却する誘引が生じる ... それも一度に)。NXTに成功してほしいと願うならば、アーリーアダプターにはアイデンティティの保持を慎重に行わなってもらわなくてはならないことは間違いない。
しかし、これらの問題を脇におけば、少なくともMR=MC=0を達成したことは間違いないのでは?「浪費された」仕事は存在しないのでは?
否。通貨を100%プレマインにすることそれ自体がtime=0の点における巨大なMRをもたらし、その他一切のMRと同様に獲得競争の対象となる。この場合MC=MR問題は単一の小さなブロックに圧縮され、複数のブロックチェーンにまたがったものとなる。
人間は一度に一つのことにしか集中できないので、上であげたStake grindingの例と同様に、ここでの仕事(コミュニティに対して別のチェーンの使用を促すようなマーケティングも含む)は過小評価される。
自問してほしい、RippleとStellarは2つの独立なブロックチェーンなのだろうか?私に言わせればこのデュアルチェーン現象は実際には利益を生み出す単一のブロックに対するnothing-at-stake攻撃だ。(RippleとStellarのいずれにもハードフォークできる真のチェーンが存在すると考えるとわかる)Counterparty、NXT、Bitshares、NEMその他は本当に「新しい」「機能を」ビットコインに「加える」ものなのだろうか?思うにこれらのアルトコインは超ビットコイン主義(HyperBitcoinization)の盟主の座からビットコインを引きずり下ろし、代わりの王を据えようという必死で、身の程知らずの長期的試みに過ぎないのではないか?
「重用なのはブロックチェーンであってビットコインではない」という主張は今からビットコインに参入しても「おそすぎる」という主張と同じくらい枚挙にいとまがない。こういった思想は新規ユーザーが自前の(新しい)システムを構築する誘引となる。BitsharesはNXTが100%プレマインである点を無視し、EthereumはBitsharesを無視し、NEMはこれら全てを無視している。次に来るものはNEMをも無視するだろう。100%プレマイン通貨は何か新しい物を作りたいという願いを(通貨作成者の利益を消去し、既存のシステムと共存可能であるという形で)叶える。
この願いがクリエイティブなイノベーターを主流からはじき出し、勝者総取りのネットワークエフェクトと戦わざるをえない状況に持ち込む。 (…you might as well grab a net and head to Southern Australia if you want a Black Swan this badly).7
このように最大のチェーンと競争する行為はそれ自体がProof of workであり、愚民化政策とマーケティングベースのセキュリティに基づいた、効率の悪いstake grinding攻撃に過ぎない
素早くインフレしていく貨幣は個々に「腐って」(価値を失って)行くのに対し、ゆっくりとインフレしていく貨幣は全体として「腐って」いく。成熟する前に(訳注: その貨幣の経済圏と外側との境界に)「壁を作って」しまう(したがって、競合相手と競争するという「仕事」をしなくてはならない)からだ。
腐敗を調整する
ブロックチェーンのセキュリティは、ビットコインのPoWにとってのメインの機能ではない。そのもっとも重要な機能は、ネットワークへの潜在的参加者が初めてプロジェクトに気づいた段階でもまだ安くコインを入手できる(これはマイナーによる「ダンピング」であるとして一部には問題視されているが)ように、コインの新規発行を遅らせる事ができるという点にある。
誰もが「もっと早くビットコインの存在に気づきたかった」と思っているが、最初に気づいたものによる総取り(earliest-take-all)は、ネットワークが成長できないということを意味する。
この問題(「ネットワークに参加したい人物を存在させられるか?」、「その仮想通貨のマーケティングや開発がペイするようにプロトコル自体に組み込めるか?」)はビザンチン将軍問題解決方法のくだらない技術的詳細よりも遥かに、遥かに重用なものだ。
壊れたシステムに価値はない。それは正しい。しかしシステムを価値あるものにすることは、システムを機能するようにすることよりもずっとずっと難しいことなのだ。
結論
「Proof-of-Work」は貨幣が創造されているが故に存在する。したがって、「新しい形の貨幣を創造する」ことをProof-of-Work抜きに行うのは不可能だ。
サトシの優れていた洞察は、P2Pの時計をカルテルの存在に対して安定化させるよう、不可避である仕事を累積的なプロセスとして注ぎ込むようにプロトコルをデザインした点にある。
謝辞
この記事で論じたコンセプトの多くは、はるか昔から多くの先行研究者が主張してきたものだ。Andrew PoelstraやGreg Maxwellに言及せずにPoSに関する文章を書くことはできない。このような一般化された反論を書くことができたのは、彼らがその基礎を築いてきてくれたおかげだ。
翻訳ここまで。
この記事に対するVitalikの反論はブログ中のコメント欄とEthereum blog: A Proof of Stake Design PhilosophyとProof of Stake FAQにまとめられています。そのうちまとめるかもしれません。
自分はこの記事を読んでようやくVitalikがPoSについて論じる際に誰に向かって話しているのかが分かりました。