#例題
B氏 「
A社
のソフトA'
は最高ですぞぉ。これがないと決まらないんだよなぁ(ハァハァ)
でも自前でやりたい処理もあるんだよなぁ。
A'
の保存ファイルであるバイナリ出力ファイルA.bin
を自前で弄りたいなぁ。
」
~数週間後〜
B氏 「
バイナリエディタでA.bin
を開いて、、、ふむふむホゲホゲ。
あ、A.bin
が読めたぞ。じゃ、このリーダーソフトをB'
と名付けよう。
」
~数週間後〜
C, D, E氏 「俺も欲しい」
B氏 「じゃ、B'
を公開するお」
問い: B氏は、著作権法等に違反するのか?
リバースエンジニアリングとは?
ユーザー側:webの解説記事では?
webの解説記事を読むと、例えば、
ソフトウェアやハードウェア製品の構造や仕組みを分析し、明らかにすることで製造方法や動作などの技術情報を明らかにするのがリバースエンジニアリングです。とくにソフトウェアの分野では、ソースコードを解析してプログラムがどのようになっているのかといったことを解析することを指します。
サイバーセキュリティ.com
とか、
リバースエンジニアリングとは、ソフトウェア/ハードウェア製品の構造を分析し、製造方法や構成部品、動作やソースコードなどの技術情報を調査し明らかにすることだ。
(略)
ソフトウェアを対象にした場合は、実行ファイル(オブジェクトコード)を逆アセンブル・逆コンパイルすることでソースコードまでさかのぼって解析することができ、仕様書では明らかにされていないような、詳細な技術情報を得ることが可能だ。
[@IT] (https://www.atmarkit.co.jp/ait/articles/0401/01/news051.html)
とか、
リバースエンジニアリングとは、出荷された製品を入手して分解や解析などを行い、その動作原理や製造方法、設計や構造、仕様の詳細、構成要素などを明らかにすること。
[IT用語辞典] (http://e-words.jp/w/%E3%83%AA%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%8B%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B0.html)
とかと出てきます。
ユーザー側:公式情報
法律の条文内では定義されていないようですが、関連省庁の報告書では、
「リバース・エンジニアリング」の語は,既存の製品を調査・解析してその構造や製造方法などの技術を探知するとともに,その結果を利用して新しい製品を開発することまで指して用いられることもある。調査・解析の過程では,プログラムやデータの一部を印刷して調査する行為や,逆アセンブル・逆コンパイル(調査対象のオブジェクト・プログラムをソース・プログラムに近い状況に変換し,調査する行為)などが行われる。
[文化審議会著作権分科会報告書] (http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/h2904_shingi_hokokusho.pdf)
とか、古い報告書でも、
一般に工業製品について「リバース・エンジニアリング」という用語があり、プログラムについてもこの用語が用いられることがある。しかし、リバース・エンジニアリングという用語の定義は必ずしも確立されておらず、既存の製品を調査・解析してその構造や製造方法などの技術を探知するとともに、その結果を利用して新しい製品を開発することまで指して用いられることもある
コンピュータ・プログラムに係る著作権問題に関する調査研究協力者会議報告書─既存プログラムの調査・解析等について─平成6年5月 文化庁 (著作権情報センター)
などとなっています。
要は商品などをつぶさに調べ上げる行為をいうようです。
ソフトウエアでは逆アセンブルなどだろうし、形のある製品ならば、3D計測器で測る、回路図を書き起こす、さらには素材の化学組成を調べるなどの行為が当てはまるようで(そういう判例がでた裁判がある)、その結果をもとに商品を出すことをさすこともあるようです。
権利者側
では、商品を出す側の権利は?
リバースエンジニアリングを行うこと自体は合法だが、抽出したコンピュータプログラムを丸ごと複製して自社製品に組み込むといった行為は著作権違反、企業秘密(営業秘密)として保護された製法や構造などを割り出して無許諾で模倣した場合は不正競争防止法違反などに問われることがある。
[IT用語辞典] (http://e-words.jp/w/%E3%83%AA%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%8B%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B0.html)
とか、
リバース・エンジニアリングの過程で行われるプログラムの著作物の複製・翻案については,現行の権利制限規定に基づき権利者の許諾なく行うことができる範囲もある26が,上記のような目的で行うリバース・エンジニアリングが全て権利制限規定の対象となるか否かは明らかではないとされている。また,過去にプログラムの解析の過程で行われた複製・翻案について権利濫用等により権利行使が認められなかった判例27があるものの,現実のビジネスの場面では権利濫用等の判断基準で他社のプログラムの解析を行うことは困難さを伴うとされている。
[文化審議会著作権分科会報告書] (http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/h2904_shingi_hokokusho.pdf)
となっています。
つまり、製品を解読する、ということが著作権に収まるか?ということが問われるが、解読するだけは問題ないが、特許などで保護されている場合は注意が必要、という感じではないでしょうか。
さらに、2019年1月1日に施工された改正著作権法ではまさにこの件が論点となっています。
法改正
この記事を書くきっかけにもなった、というか、自分の関わる案件にタイムリーな法改正があったことを知ったのだが、平成31年1月1日施行の改正著作権法について。
絵画や音楽など思想や心情に訴えかけない著作物(=製品やプログラム)について、著作物を3つの層に分類して、柔軟に(でも、明確に)対応することになったらしい。
制度整備の基本的な考え方~明確性と柔軟性の適切なバランスを備えた複数の権利制限規定の組合せによる「多層的」な対応~
[第1層]著作物の本来的利用には該当せず,権利者の利益を通常害さないと評価できる行為類型
著作物の表現の享受を目的としない,情報通信設備のバックエンドなどで行われる利用がこれに該当する。この類型は,対象となる行為の範囲が明確であり,かつ,類型的に権利者の利益を通常害しないものと評価でき,公益に関する政策判断や政治的判断を要する事項に関するものではない。このため,行為類型を適切な範囲で抽象的に類型化を行い,柔軟性の高い規定を整備することが望ましい。
[第2層]著作物の本来的利用には該当せず,権利者に及び得る不利益が軽微な行為類型
インターネット検索サービスの提供に伴い必要な限度で著作物の一部分を表示する場合など,著作物の本来的利用には該当せず,権利者に及び得る不利益が軽微なものがこれに該当する。この類型は,当該サービスの社会的意義と権利者に及び得る不利益の度合いに関し一定の比較衡量を行う必要はあるものの,公益的必要性や権利者の利益との調整に関する大きな政策判断や政治的判断を要する事項に関するものではない。このため,権利制限を正当化する社会的意義等の種類や性質に応じ,著作物の利用の目的等によってある程度大くくりに範囲を画定した上で,相当程度柔軟性のある規定を整備することに馴染むものと考える。
[第3層]公益的政策実現のために著作物の利用の促進が期待される行為類型
著作物の本来的利用を伴う場合も含むが,文化の発展等の公益的政策目的の実現のため権利者の利益との調整が求められる行為類型であり,現行権利制限規定では,引用,教育,障害者,報道等の様々な場面に係る権利制限規定がこれに該当する。この類型は,基本的には公益的必要性や権利者の利益との調整に関する政策判断や政治的判断を要する事項に関するものである。このため,一義的には立法府において,権利制限を正当化する社会的意義等の種類や性質に応じて,権利制限の範囲を画定した上で,適切な明確性と柔軟性の度合いを検討することが望ましい。
改正著作権法での「リバース・エンジニアリング」
条文には明に書いてはいないのですが、改正著作権法の"たたき台"のように使われた報告書の一つでは、
なお,「リバース・エンジニアリング」については,既に平成21年報告において,一定の条件の下で権利制限の対象とするべき旨が提言されているところである。表現と機能の複合的性格を持つプログラムの著作物については,対価回収の機会が保障されるべき利用は,プログラムの実行などによるプログラムの機能の享受に向けられた利用行為であると考えられる。平成23年報告においても,技術検証などプログラムの機能の享受のために行われていないものはC類型に該当し得るとの考えが示されており,このような理解を前提としているものと考えられる。これらを踏まえれば,リバース・エンジニアリングについては,プログラムの機能の享受に向けられた行為ではないことから,権利者の対価回収の機会を損なわないものとして,権利者の利益を通常害さないと評価できる行為類型(第1層)に当たると整理できるものと考えられる。
となっています。
なお、C類型とは
平成23年報告は「著作物の表現を享受しない利用」(C類型)に関し,「現行著作権法は,著作物を「見る」,「聞く」等といった表現の知覚を通じてこれを享受する行為それ自体に権利を及ぼすのではなく,こうした表現を享受する行為の前段階の行為である複製行為や公衆送信等といった著作物の提供・提示行為に着目して権利を及ぼしている。」とした上で,「著作権法は,基本的には表現の享受行為と複製等の行為とが密接不可分の関係にあるとの前提に立って権利の及ぶ範囲を想定していたものと考えられる」としているところ,C類型については,表現の享受に先立って利用行為をコントロールできる権利として著作権を定めることで,権利者の対価回収の機会を確保しようとするものであるという前述の考え方と同様の考え方に基づくものと考えられる。
のことのようです。
やはり、リバースエンジニアリングの行為自体は、著作権の侵害には当たらない、というように解釈できます。
結論
もちろん法律の専門家でもないので断定はできませんが、冒頭の例題では著作権的には問題ない(B氏は問題ない)、ということのようです。
一方で、リバースエンジニアリングを元に自社製品を発売するなどの場合は、特許法などで個別に保護されている場合があるので、注意が必要です。
とりあえず(例題ではB氏が)制作者側(A社)にどこまでやっていいかを問い合わせる、がトラブルを回避する最初のステップですね。
最後に話は逸れますが、今回の記事を書いて、報告書を読むのは大事だな、と感じました。
現状の著作権法ではこれこれという案件が引っかかって困っていますよ、ということが、結構具体的に書かれていて、法律一つ作るのも大変だな、と感じることができました。国会議員と官僚が適当(適切に)作っているんだろうな、くらいには思っていたのですが、私にはブラックボックスだったので、具体的なプロセスを垣間見た気分でした(透明性があってよろしい!と思いました)。さらに、その報告書に案件を反映する"有識者"や"ワーキンググループ"が、法律づくりの際の鍵となることも実感しました。ここの人たちがきちんとお仕事できるかが大切なんだろうな。なんだかスケールの大きな話になりましたが、これでおしまいです。