背景
世の中には大規模なコンピュータから米粒のようなコンピュータまで様々なものがある。サイズもそうだが機能的にも大規模なものから極小規模なものまである。小さいほうは、それがコンピュータだと意識されることは少ないかもしれない。
これまで私は、主に32bitのマイコンを触ってきた。ESP32系列、NordicのBlueToothが載ったもの、RP2040などなど。それらのSDKも触っては見た。
さて、小さな小さなプロジェクトを作るとき、こんな大規模なコンピュータでなくても要は足りる。ドアが空いていたら1分後にブザーを鳴らすとか、キッチンタイマーを作ってみるとかそういうものだ。
そこで、ちょっと調べてみて面白そうなATtiny202っていうマイコン(マイクロコントローラですかねえ)を触ってみることにした。
Arduinoで開発
マイコンの開発といえばとにかく手っ取り早いのはArduinoだろう。良いことならたくさんある
- RP2040用に作ったプログラムが、ほとんど修正せずにコンパイル通って実行できた
- Arduino用のドキュメントは豊富だし、ほとんどハードウェアの知識がなくてもプログラムできちゃう
- 割り込みとかだって、何も知らなくたってプログラム書けちゃった
ちょっぴり環境構築したら、冷蔵庫のドアが1分間開いていたらアラームを鳴らすくらいのことはあっさりできちゃった。ところが!
プログラムがでかいのです!
ちょっと機能を入れようかと思ったら、ROMが2048バイトという環境はなかなかにつらい。そういえば、Arduino Unoは32kバイトあるんだったな。こんな小さなマイコンでArduinoを使っていくのはかなりつらいのだろう。わかってたことだが、予想以上にROMは逼迫する。
かといって、AVRのアセンブラを学ぶのはつらい。せめてC言語で開発できないものか?
自前で環境構築
ということで、もう少しローレベルな環境を自分で構築してみることにした。アセンブラを使うよりはたぶん楽なはずだから。ということで、この記録を残しておきたいと思う。試行錯誤してるので、「おいおい、それじゃ動かないんじゃない?」とかいうこと書いてたら、ぜひ教えていただけるとありがたい。まさかこの記事を参考にしてくれる人がいたら、動かなかった情報とかいただけるとうれしい。
環境など
- OS: macOS 13.4 Ventura
- XCode: 14.3.1
- HomeBrew
方針
いろいろと参考にさせていただいたサイトもあるが、とりあえず、現状手に入る最新版を使いながら、うまくいかなかったら少しずつ戻ってみることにしてみている。ということで、
- binutils: 2.40
- gcc: 13.1.0
をインストールしていくことにする。
2回は同じことをしたくないので、とにかくやってみたことをシェルスクリプトの形にしておきたいと思う。スクリプトを書くことが目的ではないので、こっちは適当。
binutilsのインストール
- インストールする場所は、 /usr/local/opt/avr
- ソースコードは、 binutils-2.40.tar.gz
こんな手順になった。一応ビルドできて、インストールもできた。
#!/usr/bin/env sh
# variables
jobs=8
PREFIX=/usr/local/opt/avr
build_dir=binutil-build
source_file=binutils-2.40.tar.gz
source_url='http://ftp.gnu.org/gnu/binutils/'
# making build directory
mkdir -p ./$build_dir
cd ./$build_dir
# get source archive
wget $source_url$source_file
tar xzf $source_file
cd ./`basename $source_file .tar.gz`
mkdir -p build && cd build
../configure --prefix=$PREFIX --build=`../config.guess` --target=avr --disable-nls
make -j $jobs
make install
gccのインストール
いろいろと眺めていると、gcc-4系統を使っていたり、Arduinoではgcc-7系統を使っていたり、gcc-12をインストールした人など、なかなかに様々。ならば、最新のgcc-13.1を使ってみよう。
いろいろと試した結果、下記のような手順になった。
#!/usr/bin/env bash
# variables
jobs=8
PREFIX=/usr/local/opt/avr
gcc_version=gcc-13.1.0
PATH=$PATH:$PREFIX/bin
build_dir=gcc-build
source_file=$gcc_version.tar.gz
source_url="http://ftp.gnu.org/gnu/gcc/$gcc_version/"
# making build directory
mkdir -p ./$build_dir
cd ./$build_dir
# get source archive
wget $source_url$source_file
tar xzf $source_file
cd $gcc_version
./contrib/download_prerequisites
mkdir -p build && cd build
../configure --prefix=$PREFIX --target=avr --enable-languages=c,c++ --disable-nls --disable-libssp --with-dwarf2
make -j $jobs
make install
--disable-sharedとか指定したほうがいいのかなあ。動くからいいのか?
avr-libcのインストール
こちらは案外大変。まず、このプロジェクトはあまり更新されていない。最新は2.1.0ということになっているが、そもそもATtiny202をサポートしていない。調べてみると、
avr-libc3
というのがある。これなら新しいマイコンをサポートしているようだ。で、インストールしてみた。概ね良さそう。ところが、sleep.hをインクルードしたらコンパイルが通らない。
またまた調べてみたら、
Install io headers
というプルリクエストがあった。これで当たりかな?このPRはまだマージされていないようだ。
ということで、このブランチをそっくりもらってくることにした。stevenjさんのリポジトリをクローンして、rwirthさんのPRをマージしてみたが、rwirthさんのリポジトリとの差はなさそうだ。それもそうか。
#!/usr/bin/env bash
# variables
jobs=8
PREFIX=/usr/local/opt/avr
export PATH=$PREFIX/bin:$PATH
avr_libc_version=avr-libc3
export PATH=$PATH:$PREFIX/bin
build_dir=avr-libc-build
source_url="https://github.com/rwirth/avr-libc3"
branch="install_io_headers"
# making build directory
mkdir -p ./$build_dir
cd ./$build_dir
# get source archive
git clone -b $branch $source_url
cd $avr_libc_version
./bootstrap
./configure --prefix=$PREFIX --build=`./config.guess` --host=avr
make -j $jobs
make install
cmakeと仲良くしたい!
実はここからが難所だ。私はcmakeと仲良くしたいと思っている。compile_commands.jsonを吐き出してほしいのだ!こいつがないと、clangdさんが良い仕事をしてくれない。テキストファイルを書くという手もないわけではないが、どうせ作るならcmakeのクロスコンパイル用の設定ファイルも作りたい。
同じことを考えている人はたくさんいた。参考にさせていただいたのは、
cmake-avr
だ。このtoolchainファイルをそっくり使わせてもらおう。
サンプルのCmakeLists.txtを読むと、なかなかに量が多い。全部を書かなくてもいいだろうし、そもそもコマンドラインオプションは忘れてしまうのが常だ。ということで、定型的な設定は基本的にファイル内に書いてしまおう。toolchainファイルとかそういうのは、めったに書き換えるものでもないだろう。サンプルのCmakeLists.txtから、書き換えないだろう設定を切り出して別ファイルにする。
# CMake script for AVR micro computer build
set(CMAKE_TOOLCHAIN_FILE $ENV{AVR_FIND_ROOT_PATH}/cmake/generic-gcc-avr.cmake)
set(CMAKE_EXPORT_COMPILE_COMMANDS ON)
# Default values
##################################################################################
# tools to be used for programming the AVR
##################################################################################
set(AVR_UPLOADTOOL avrdude)
set(AVR_PROGRAMMER serialupdi)
set(AVR_UPLOADTOOL_PORT usb)
# AVR and fuses needs to be set
set(AVR_MCU attiny202)
set(AVR_H_FUSE 0xd9)
set(AVR_L_FUSE 0xc3)
### END TOOLCHAIN SETUP AREA #############################################
##################################################################################
# set build type, if not already set at cmake command line
##################################################################################
if(NOT CMAKE_BUILD_TYPE)
set(CMAKE_BUILD_TYPE Release)
endif(NOT CMAKE_BUILD_TYPE)
##################################################################################
# needs to be defined for AVR toolchain
##################################################################################
set(MCU_SPEED "20000000UL")
##################################################################################
# some cmake cross-compile necessities
##################################################################################
if(DEFINED ENV{AVR_FIND_ROOT_PATH})
set(CMAKE_FIND_ROOT_PATH $ENV{AVR_FIND_ROOT_PATH})
else(DEFINED ENV{AVR_FIND_ROOT_PATH})
if(EXISTS "/opt/local/avr")
set(CMAKE_FIND_ROOT_PATH "/opt/local/avr")
elseif(EXISTS "/usr/avr")
set(CMAKE_FIND_ROOT_PATH "/usr/avr")
elseif(EXISTS "/usr/lib/avr")
set(CMAKE_FIND_ROOT_PATH "/usr/lib/avr")
elseif(EXISTS "/usr/local/CrossPack-AVR")
set(CMAKE_FIND_ROOT_PATH "/usr/local/CrossPack-AVR")
else(EXISTS "/opt/local/avr")
message(FATAL_ERROR "Please set AVR_FIND_ROOT_PATH in your environment.")
endif(EXISTS "/opt/local/avr")
endif(DEFINED ENV{AVR_FIND_ROOT_PATH})
set(CMAKE_FIND_ROOT_PATH_MODE_PROGRAM NEVER)
set(CMAKE_FIND_ROOT_PATH_MODE_LIBRARY ONLY)
set(CMAKE_FIND_ROOT_PATH_MODE_INCLUDE ONLY)
# not added automatically, since CMAKE_SYSTEM_NAME is "generic"
set(CMAKE_SYSTEM_INCLUDE_PATH "${CMAKE_FIND_ROOT_PATH}/include")
set(CMAKE_SYSTEM_LIBRARY_PATH "${CMAKE_FIND_ROOT_PATH}/lib")
##################################################################################
# status messages for generating
##################################################################################
message(STATUS "Set CMAKE_FIND_ROOT_PATH to ${CMAKE_FIND_ROOT_PATH}")
message(STATUS "Set CMAKE_SYSTEM_INCLUDE_PATH to ${CMAKE_SYSTEM_INCLUDE_PATH}")
message(STATUS "Set CMAKE_SYSTEM_LIBRARY_PATH to ${CMAKE_SYSTEM_LIBRARY_PATH}")
##################################################################################
# set compiler options for build types
##################################################################################
if(CMAKE_BUILD_TYPE MATCHES Release)
set(CMAKE_C_FLAGS_RELEASE "-Os")
set(CMAKE_CXX_FLAGS_RELEASE "-Os")
endif(CMAKE_BUILD_TYPE MATCHES Release)
if(CMAKE_BUILD_TYPE MATCHES RelWithDebInfo)
set(CMAKE_C_FLAGS_RELWITHDEBINFO "-Os -save-temps -g -gdwarf-3 -gstrict-dwarf")
set(CMAKE_CXX_FLAGS_RELWITHDEBINFO "-Os -save-temps -g -gdwarf-3 -gstrict-dwarf")
endif(CMAKE_BUILD_TYPE MATCHES RelWithDebInfo)
if(CMAKE_BUILD_TYPE MATCHES Debug)
set(CMAKE_C_FLAGS_DEBUG "-O0 -save-temps -g -gdwarf-3 -gstrict-dwarf")
set(CMAKE_CXX_FLAGS_DEBUG "-O0 -save-temps -g -gdwarf-3 -gstrict-dwarf")
endif(CMAKE_BUILD_TYPE MATCHES Debug)
##################################################################################
# compiler options for all build types
##################################################################################
add_definitions("-DF_CPU=${MCU_SPEED}")
add_definitions("-fpack-struct")
add_definitions("-fshort-enums")
add_definitions("-Wall")
add_definitions("-Werror")
# http://gcc.gnu.org/onlinedocs/gcc-4.8.2/gcc/Alternate-Keywords.html#Alternate-Keywords
# [...]-pedantic and other options cause warnings for many GNU C extensions. You can prevent such warnings within
# one expression by writing __extension__ before the expression. __extension__ has no effect aside from this.[...]
add_definitions("-pedantic")
add_definitions("-pedantic-errors")
add_definitions("-funsigned-char")
add_definitions("-funsigned-bitfields")
add_definitions("-ffunction-sections")
add_definitions("-c")
add_definitions("-std=gnu99")
こいつと、toolchainファイルをインストールする。
#!/usr/bin/env bash
# variables
PREFIX=/usr/local/opt/avr/cmake
src_dir=./cmake
files="$src_dir/avr-sdk.cmake cmake-avr/generic-gcc-avr.cmake"
# get avr-cmake
git clone 'https://github.com/mkleemann/cmake-avr'
# install
mkdir -p $PREFIX
for f in $files
do cp -v $f $PREFIX/
done
これでたぶん終わり!
最低限のプロジェクト
これでおそらく開発できるところまでたどり着いたんじゃないかなあ。下記のようなCmakeLists.txtを作ってみた。
cmake_minimum_required(VERSION 3.12)
include($ENV{AVR_FIND_ROOT_PATH}/cmake/avr-sdk.cmake)
set(AVR_UPLOADTOOL_PORT /dev/cu.usbserial-1430)
set(AVR_MCU attiny202)
set(AVR_H_FUSE 0xd9)
set(AVR_L_FUSE 0xc3)
project(avrtest)
add_avr_executable(
avrtest
src/main.c
)
環境変数AVR_FIND_ROOT_PATHに、コンパイラたちが入っているディレクトリを設定しておけばビルドできるはず。
書き込み
各種色々あるんだろうけど、冒頭で書いたようにATtiny202が使いたいのだ。こいつはUPDIっていう新しい書き込み方式になってる。avrdudeで対応していることがわかったので、こちらそんなに苦労せずに書き込めた。フューズの設定とか実はよくわかってない。上記の設定はそのまま使うと問題に鳴るかも。
プロジェクトのCMakeLists.txtにUSBポートの設定とプログラマの設定をしてあげれば書き込めた。
書き込みに使った道具
私は秋月の
CH340-Eのモジュールを使った。FTDIのもののほうが良いのかは不明。とにかくこれで書けてる。
最後に
これでよいのかはとっても不安である。コンパイルは通るが、これでちゃんとした実行可能なファイルができるのかなあ。一応LED点滅はできた!
ぜひいろいろと突っ込んでいただけるとありがたいのです!素直に純正のコンパイラたちを使ったほうが良いのでしょうか…!