エンジニアの仕事を始めてから、半分ぐらいは海外生活をしています。初めから海外でエンジニアを目指していたわけではありませんが、今までの経験をご紹介したいと思います。
将来、海外で仕事をしていみたい、もしくは海外で仕事をするとどんなことが経験できるかなどご興味のある方の参考になればと思っています。
#英語
まずは英語の勉強を始めました。当然海外でエンジニアと言っても必ず英語圏で仕事をするとは限らないので、すべてのケースに当てはまるわけではありませんが、ITの業界では英語を知っていて損することはないと言ってもいいと思います。結果的に、英語圏以外で仕事をすることになっても、IT関連の情報は英語ベースのものが圧倒的の多く、海外のものだと英語がオリジナルでほかの言語に翻訳されているものもほとんどかと思います。翻訳された技術文章はやはり少し質が劣るものもあり、オリジナルの英語の記事を見た方が分かりやすかったり正確だったりすることもあります。
自分の場合は、勤めていた会社で英語研修があったり、外国人社員が多くいたりしたので必然的に英語で仕事せざるを得ない状態でした。学生の時に数週間で語学留学をしたのですが、これだけでも相当効果はあったと思います。数週間ですが完全に日本語なしの生活だったので、自然と英語を使って聞き取ろうとするようになりました。その甲斐もあってか会社で英語を使うこと自体に抵抗はなかったのですが、それでも英会話と仕事上で使う英語とではまずまずの開きがあるので、とにかく続けて勉強をしていました。
と言っても、あまりストレスがかかると継続できないので、自分の場合は海外のスポーツの二か国語放送をよく英語で見ていました。以前 "
海外と日本のエンジニアの様々な比較"でもコメントで書きましたが、これは聞き取りの勉強にはすごく役に立ちました。スポーツを見ているので、言っていることが分からなくても多少ルールを知っていれば何が起こっているかわるのでストレスにならないですし、実況などでは結構同じ言葉を繰り返し使うのでそのうち聞き取れるようになってきます。
また、同記事でも書いた通り会社が何か国かに展開している場合、やはり英語を会社の公用語のように使っているところが多いと思います。自分も今ドイツにいますが、仕事上ではほとんどが英語を使っていますし、ドイツ人の同僚などもドイツ人同士でも最初から英語でメールを書いていたりします。同僚によるとそのうち転送とかが必要になった場合、英語に訳するのが面倒だからということのようです。
#海外就職・転職とビザ
海外で就職、転職もしくは海外に転勤する場合などどうしてもビザが必要になります。当然国ごとに法律が違うので、取りやすさやプロセスがどれだけ複雑かなど国によって異なります。またビザを取るにしても、新たに就職もしくは転職で行く場合と、すでに務めている会社から海外の支店などに転勤する場合とでは、取りやすさなどが違ってきたりします。
自分の場合はアメリカとドイツで取得しましたが、どちらの国も体裁的にはビザの発行は国内で見つからない人材を海外から補うといった感じで発行していました。基本的には”自国民もしくは居住者を優先で人材募集したけど見つかりませんでした。ですので海外から呼び寄せるのでビザを発行してください”といった感じです。
ビザの種類、就く職業などでも難易度は変わるようです。例えばアメリカの場合だと、向こうの会社に就職すると一般的にはH1Bビザになるかと思います。これには上限数があったりとか、昨年ですと米国内の雇用を確保するため総発行数を抑えられたりしました。それに対して勤めている会社で転勤する場合はL1ビザになります。これは比較的取りやすいと言われていました。
どちらにしても期限があり、それが終わると延長できるものもあれば、いったん国外に出ないといけない場合もあります。延長も、限られた数と年数だったりするので、永住権を取らない限りは何年かすれば出国する必要があります。
また、転勤で発行されるビザの場合は社内での転勤が元で発行されるのであって、職場や職種がビザで限定される場合があります。他のタイプのビザに変えない限りはアメリカ・ドイツ国内で転職や他の職種への社内異動自体も完全に自由にできるわけではありません。取得しやすい分、そのような制限がかかるかもしれないのは知っておいた方が良いでしょう。
ドイツの場合は自分が来た当時はITエンジニアが不足しているということで、ビザが取りやすい状況でした。最初は一般的な就労ビザだったのですが、しばらくするとEUブルーカードと言うもに切り替えました。これだと期限なしの就労ビザ(正確に言うと永住権とは違うようです)が取りやすくなるみたいです。
海外で仕事をするには、その国のビザは必需品です。どの国で仕事をするにしても、ビザを取得する方法、取りやすさ、永住権的なビザへどうやったら切り替えらるかなどは、事前にしっかりと調べておいた方がいいです。
#スキルアップ
英語やビザはいわば最低限必要なことで、英語ができるからという理由だけでは海外で就職や転職はできません。これは国内で転職する場合とかも同じと思いますが、募集している会社が出している条件に見合ったスキルをつける必要があります。
IT業界は新しい技術などが次々と出てくるところで、常に勉強をして変化についていく必要があります。一度取得して使いこなせるようになっても、5年後にはまったく役に立たなくなっていることも多くあります。
自分の場合は、最初は簡単なWebサーバーの立ち上げから始まり、次にデータベース、アプリケーションサーバ、仮想化などと変化していきました。しばらくするとロードバランサーやGlobal Traffic Managementなど高可用性やディザスタリカバリなど知識も必要となってきました。クラウドに移行すると仮想ではありますが、ほぼデータセンターを運用しているようなものでネットワーク、セキュリティーからKubernetesまで多くのことを知っている必要があります。
このような変化は常に起こるので、それを楽しめるぐらいの感じでいけないとストレスになるかもしれません。英語で仕事をするようになると、新しい技術の情報もすぐに手に入るようになります。最新の情報を得て新しいことに挑戦しスキルアップを目指すためにも、英語でストレスなく情報を読めるように勉強することは、たとえ海外で働くことがなくても今後役に立つと思います。
#郷に入れば郷に従え
グローバル化となって多くの国の人と仕事をするようになってもやはりそれぞれのお国柄はあって、外国人としてその国に住んでいる以上良し悪しは別としてその国の風習や習慣などは尊重する必要があります。
日本で正しいと考えられていることでも、他の国ではまったく受け入れられないことも多くあります。
###改善とif ain't broke don't fix it
改善、改良をして今よりもより良い品質を追求するのは、日本では当たり前のように行われていることと思います。細かいところに目が行き、品質向上を目指すのは日本の強みでもあると思います。
自分が、アメリカで働きだした頃に本当によく聞いた言葉は"if ain't broke don't fix it"です。直接の意味は、”壊れていないものを直そうとするな”と言うことです。その通りの意味で使われていたわけではありませんが、”すでに稼働しているシステムで十分要件を満たしているのに、それに時間と費用をかけて改良するのは効率が良くない”といった感じで使われていました。考え方としては非常に合理的で100%の完成度でなくても、費用対効果を考えて折り合いをつけるといったところでしょうか。実際にITの業界で100%の完成度と言うのは、非現実的で特に最後の20%あたりは費用と時間が相当かかる場合もあります。最初から80%を目指して進めるのはよくありませんが、目標が100%であっても現実的なところでいったん打ち切るといった決定をすることも重要です。
###残業と休暇
"海外と日本のエンジニアの様々な比較"でも書きましたが、アメリカでもドイツでも基本的に残業はしません。ですので余程の急な案件(システムがダウンしたとか)でない限り、今日お願いして今日中にといった依頼はしない方が良いです。残業してまで今日お願いされたことのアウトプットをする人なんてほとんどいませんし、逆に自分が頼まれた場合もそれを期待されているわけでもありません。自分もこちらの人と仕事をし始めた当初は、社内での仕事の納期が随分ゆるい感じがしました。しかしそれに慣れてくると、こちらの人が残業をしない理由の一つが、このように相手の時間を尊重して無理な納期で依頼しないことかとも思いました。
また、休暇も特にドイツの人はしっかりと取ります。数週間いなくなることも普通で、休暇前に大事な仕事を依頼するのはありえません。お願いしたところで、休暇後に検討すると言われてしまうだけです。ですので休暇の時期、例えば7-8月などは全体的なスピードが少し落ちることを踏まえて計画を立てないといけません。7-8月などは、おそらく3〜5割ほど稼働率が下がるぐらいで考えておいた方が良いでしょう。その代わりではありませんが、自分が休暇を取る時もおなじように取りやすくなります。
###ジョブ型雇用と責任の所在
アメリカ、ドイツともにいわゆるジョブ型雇用が一般的で、仕事内容などはJob Descriptionと言ったもので明記されている場合があったりして、はっきりと自分の仕事が示されています。そのためか、責任の所在もはっきりしていて、”自分の仕事の責任範疇はここまで”、とはっきりと自覚して仕事をしている人が多いです。ですので、その責任範囲の外のことを聞くとはっきりと”それは自分の責任でもないし仕事でもない”と言われることも多くあります。たとえ同じ部署の他の人が担当していても、担当外の人が代わりに仕事をするといったことはありません。
”〜部にお願いしとけば誰かが答えてくれる”と言ったことはなく、新しい依頼でも誰がオーナーシップをもって進めるかはっきりと決められます。ですので担当外の人に聞いても、”誰々に聞いてくれ”と言われてしまします。
これは依頼するときは担当者を見つけたりするのに苦労することもありますが、逆に依頼される場合、自分も他の雑務に時間を割くことなく自分の仕事の時間を計算できるので、集中して仕事するにはとても効率がいいと思っています。
#年金
これは仕事とは関係ないのですが、海外で働く場合はすごく重要なことで避けては通ることはできません。日本はいくつかの国と社会保障協定を結んでいます。詳しくは、こちらに書かれています。
https://www.nenkin.go.jp/service/shaho-kyotei/index.html
これは、年金の二重加入の防止や、支払期間の通算を行えるようにしたものです。日本は、今は加入期間10年で年金支給されるようになりましたが、以前は25年でした。この場合、日本で20年働き外国数か国でで各5年働くと、どの国の年金支給の最低期間を満たさずに支給されないといったことがあり得ました。それを避けるために、協定を結んでいる国同士の支払い期間は通算されることで回避できるようになりました。
将来外国で働く場合、社会保障協定がない国だとしたら日本の年金を払い続けるのか、それとも自分で蓄えるのかなど検討する必要があります。住民票を抜いて海外転出すると非居住者になるので、年金の納付義務がなくなります。ただ、納付が減る分だけ将来の支給も減るでしょう。その場合、住んでいた国の年金制度で減った分をカバーできるかなども考える必要があるかもしれません。
このように海外で仕事をするにしても社会保障協定がある国とそうでない国に行く場合では、将来いろいろと差が出てきたりする可能性があるのでそのあたりは十分に調べてから納得の上で決められた方が良いと思います。
#引っ越し
###荷物
国をまたいでの引っ越しは、普通に数か月から半年ほどかかります。大体の場合、住む場所が決まっていない状態で荷物の発送をするので、外国に行く時も日本に戻る時も、入国してから一定期間は仮住まいとなりその間に住所を探すということになります。荷物の内容にもよりますが、重要でないものは船便で、すぐに必要なものは航空便で送ります。航空便は当然費用が掛かるので予算に合わせて何を送るか決めなければなりません。
住居探しに時間がかかると、発送した船便のほうが到着してしまいそれを倉庫などでいったん保管してもらわないといけなくなります。これも追加の費用になるので、なるべくそう言った費用が掛からないようにするには事前にいろいろと調べておく必要があります。
###入国審査
入国に関しては帰国する場合は、ビザなどのややこしいことがなくなるので普通に日本に帰ってきて海外からの転入をすれば終了です。ただ、外国に行く場合は最初の入国はビザなど必要書類を不備なくそろえる必要があり、これはかなり慎重に進めなければいけません。
観光で入国するときと違い、滞在する場合はパスポート検査の検査官もかなり入念にチェックされるので、最初からつまずかないためにも問題なく入国したいものです。
###電化製品
日本から海外に行くと電化製品などほとんどが買い替えになります。電圧や周波数が異なりますしコンセントの形状も違います。アメリカと日本は110Vと100Vで、コンセントも似ていたりするので物によったらそのまま使える場合もありますが、ヨーロッパは全く違うのでそのままでは使えません。使用電力が小さい場合は、変圧器を使って対応することも可能ですし、日本出国前に海外用に生産されたものを購入するのもいいかと思います。
自分の場合は、扇風機、音楽機器などや冷蔵庫は変圧器を使っています。日本の扇風機は高級品でなくても音が最小限に抑えられていてちゃんと風がでますが、こちらの物は最新の物でもドライヤー並みの音量で回るのでとてもうるさくて使えるもんではありません。また、冷蔵庫は意外と使用電力が小さく変圧器でも少し容量の多いものを使えば十分に対応できます。また、炊飯器などは日本で外国向きに製造したものを買ってきた方が現地で探すよりきっと良いものが見つかると思います。
何回か海外を移動してそのたびに、電化製品をすべて買いそろえるとかなりの出費になります。海外引越はそれ以外にも雑多な費用が多くかかるので、どこに費用をかけるか十分検討が必要でしょう。
#最後に
海外でエンジニアとして働いてきて、それまでに経験してきたことをご紹介してきました。仕事以外にも年金、ビザ、引っ越しなど少し違った経験が出来たと思っています。これから海外で仕事をしたいと思っている方の参考に少しでもなれば幸いです。