これは、 G* Advent Calendarの15日目の記事です。
昨日は @int128 さんの Gradle Slashプラグインをリリースしました #gadvent でした。
明日は @tyama さんです。
#はじめに
Gradle 便利ですよね。便利すぎて Ant や Maven には戻れないです。
なにが良いって、設定ファイルである build.gradle
の記述量が、 Ant の build.xml
や Maven の pom.xml
と比べると非常に少なくて済むのが良いです。
build.gradle
は、設定ファイルと言いつつも、その実体は Groovy で書かれたスクリプトファイルです。
Gradle は、 Groovy の持つメタプログラミング機能や省略記法などを利用して、設定を簡潔に記述できるようになっています。
これはメリットなのですが、一方で Groovy のことを知らないと、「なんでこんな記述で設定できるんだろう?」とか「同じ設定なのに記法がいろいろある?!」などの混乱を招くデメリットにもなります。
例えば、以下のような build.gradle
があったとします。
apply plugin: 'application'
apply plugin: 'eclipse'
mainClassName = 'sample.Main'
repositories {
mavenCentral()
}
dependencies {
compile 'org.apache.commons:commons-lang3:3.3.2'
testCompile('junit:junit:4.11') {
transitive = false
}
}
startScripts.applicationName = 'sample'
eclipse {
project {
name = 'SampleProject'
}
}
簡単な Java プロジェクトの build.gradle
です。
これだけでも、「イコール代入」、「スペース区切り」、「コロン区切り」、「ドット区切り」、「波括弧で階層化」、「メソッド呼び出しのあとの波括弧ブロック」などなど、様々な記法を見ることができます。
はじめの頃なら、なんとなく意味が分かればそれで十分です。しかし、ある程度使いこなしてくるとオプションのカスタマイズが必要になります。そのとき、これらの記法がどういう意味を持つのかを理解できていないと、簡単な設定の変更にも苦労することになります。
Groovy は省略記法やシンタックスシュガーが多くある言語です。このため、同じ実装を様々な方法で記述することができます。
つまり、 build.gradle
を自由にカスタマイズできるようになるためには、Groovy の省略記法を理解しておく必要があるということです。
この記事では、これら build.gradle
の記述がどういう仕組みになっているのかについてまとめたいと思います。
#イコール代入
まずは、もっとも単純な記法です。
mainClassName = 'sample.Main'
Java など多くの言語で使われているものと同じで、 =
は代入演算子です。
つまり、上記は mainClassName
というプロパティに 'sample.Main'
という文字列を設定しています。
これは、特に疑問もなく読むことができると思います。
#スペース区切り
compile 'org.apache.commons:commons-lang3:3.3.2'
プロジェクトが依存するライブラリとして、 Apache の Commons Lang を定義している部分です。
compile
と 'org.apache.commons:commons-lang3:3.3.2'
の間には =
がなく、スペースしかありません。
この設定は、実は以下のように記述した場合と同じになります。
compile('org.apache.commons:commons-lang3:3.3.2')
compile
はプロパティの代入ではなく、メソッドの呼び出しを行っています。なので間に =
を挟むことはありません。
なぜこのようにできるのかというと、 Groovy には**「メソッドの呼び出しは丸括弧を省略することができる」**というルールがあるためです。
ただし、引数が1つも存在しない場合は省略できません。
上述の build.gradle
でいうと、 mavenCentral()
がちょうど引数無しのメソッドなので、丸括弧を省略することなく記述しています。
#コロン区切り
apply plugin: 'application'
今度は、コロン :
です。
apply
はメソッドの呼び出しで、丸括弧が省略されています。
括弧を省略せずに書くと以下のようになります。
apply(plugin: 'application')
Java しかやったことのない人には馴染みがないかもしれませんが、これはいわゆる名前付き引数というものです。
名前付き引数では、名前と値を1セットにして引数を渡します。名前付き引数には、引数を宣言的に指定できる・引数の順番を覚える必要がない、などのメリットがあります。
Groovy の名前付き引数はシンタックスシュガーで実現されています。
上記の設定を Java しかしらない人でも分かるように置き換えると、以下のようになります。
Map map = new HashMap()
map.put('plugin', 'application')
apply(map)
Groovy では、メソッド引数が Map
を受け取る場合、 key : value
のようにコロン区切りで Map
のエントリーを渡すことができます。
複数のエントリーを渡したい場合は、以下のようにカンマ区切りで記述します。
myMethod hoge: 'Hoge', fuga: 'Fuga', piyo: 'Piyo'
apply plugin: 'application'
という設定は、メソッドの丸括弧の省略と名前付き引数の記法が組み合わさることで実現されています。
#ドット区切り
startScripts.applicationName = 'sample'
これ自体は、そんなに難しい記法ではないと思います。
startScripts
というオブジェクトが持つ applicationName
というプロパティに対して、 'sample'
という文字列を設定しています。
#波括弧で階層化
eclipse {
project {
name = 'SampleProject'
}
}
上記設定は、「eclipse
プロパティの project
プロパティがもつ name
プロパティに 'SampleProject'
という値を設定する」という意味になります。
波括弧で囲まれた部分はクロージャといいます。
クロージャは、任意のコードを記述できるブロック要素で、コード上の任意の場所で生成したり変数に代入したり実行したりすることができます。
def closure = { println 'Hello Closure!!' } // クロージャを定義して変数に代入
closure() // クロージャを実行
> gradle
Hello Closure!!
最初の階層化された記法は、省略記法をやめてクロージャを変数に入れるようにすると、以下のようになります。
def projectClosure = { name = 'SampleProject' }
def eclipseClosure = { project(projectClosure) }
eclipse(eclipseClosure)
eclipse
と project
はプロパティを参照していたのではなく、実はメソッドを呼び出していたのです。
そして、波括弧の正体はクロージャで、 eclipse()
と project()
の引数として渡されていたのでした。
##クロージャ内で参照しているプロパティやメソッドはどこからやってきた?
省略記法をやめた実装をよくよく見てみると、 name
や project()
はどこにも宣言されていないのに突然現れています。
試しにそれぞれのクロージャを単独で動かすと、次のようにエラーが発生します。
def eclipseClosure = { project(projectClosure) }
eclipseClosure() // eclipseClosure を単独で実行
> gradle
FAILURE: Build failed with an exception.
(中略)
> Could not find method project() for arguments [build_4f9ulb02pvaod4a1l53oeu1k1l$_run_closure2@54d9f8e] on root project 'sample'.
Could not find method project()
つまり、 project()
というメソッドは存在しない、というエラーです。
確かに project()
というメソッドは定義されていませんが、このクロージャを eclipse()
メソッドに渡して実行すると、エラーは起こらなくなります。
ここが Groovy の力が遺憾なく発揮されている部分の1つです。
この動作の実現には、 delegate という仕組みが利用されています。
ここを理解すると、 build.gradle
がよりいっそう読みやすく、書きやすくなります。
##クロージャが暗黙的に持つ delegate 変数
クロージャの中では、暗黙的に使用できる変数がいくつかあります。
その中の1つに、 delegate
という変数があります。
クロージャ内では、この delegate
変数に設定されているオブジェクトのプロパティやメソッドが暗黙的に参照できるようになります。
// クロージャを宣言
def closure = {
println message
method()
}
// クロージャの delegate に Hoge クラスのインスタンスを設定
closure.delegate = new Hoge()
// クロージャを実行
closure()
def class Hoge {
def message = 'hoge'
def method() {
println 'Hoge.method()'
}
}
上記の実装を build.grdle
の任意の場所に記述して Gradle を実行すると、以下のように出力されます。
hoge
Hoge.method()
クロージャの delegate
プロパティに Hoge
クラスのインスタンスを設定することで、クロージャ内では定義されていなかった message
プロパティや method()
メソッドにアクセスできるようになっています。
ここで、 eclipse
の設定に戻って、クロージャ内の delegate
変数を出力してみます。
eclipse {
println 'eclipse.delegate.class = ' + delegate.class
project {
println 'project.delegate.class = ' + delegate.class
name = 'SampleProject'
}
}
> gradle
eclipse.delegate.class = class org.gradle.plugins.ide.eclipse.model.EclipseModel_Decorated
project.delegate.class = class org.gradle.plugins.ide.eclipse.model.EclipseProject_Decorated
それぞれのクロージャ内で、 delegate
オブジェクトにインスタンスが設定されているのがわかります。
Gradle では、この delegate
の仕組みによって、波括弧(クロージャ)を使った簡潔な設定が可能になっています。
この仕組を理解していると、その波括弧内(クロージャ内)で参照できるプロパティやメソッドは何なのかを意識することができ、 DSL のドキュメントも読みやすくなるのではないかと思います。
##スクリプトブロックの DSL ドキュメントを参照する
クロージャを引数に受け取るメソッドはスクリプトブロックと呼び、 DSL ドキュメント上も Script Block
という名前で説明されています。
例えば eclipse()
メソッドの説明は これ です。
Delegates to
のところに書かれているリンクが、クロージャの delegate
に設定されるインスタンスのクラスです。
つまり、そのスクリプトブロック内で参照できるプロパティやメソッドは、 Delegates to
に記載されているリンクを開けば確認できるということです。
##スクリプトブロックとドット区切りを使用した記法を相互に書き換える
前述のドット区切りを使用した startScripts
の設定は、スクリプトブロックを使用した記法に書き換えることができます。
startScripts {
applicationName = 'sample'
}
また、スクリプトブロックを使用していた eclipse
の設定は、ドットを使用した記法に切り替えられます。
eclipse.project.name = 'SampleProject'
// 他にもこんなことも可能
eclipse {
project.name = 'SampleProject'
}
一方はプロパティの参照なのに対して、もう一方はメソッドの呼び出しで、それぞれは本質的には別物です。
にもかかわらず、それぞれの記法は相互に変換ができています。
この相互変換ができる理由は単純で、それぞれの API が提供されているからです。
基本的に Gradle のプラグインは、プロパティとスクリプトブロックの両方を提供しているので、ドット区切りとスクリプトブロックは相互に変換できるようになっています。
このおかげで、設定項目が少ない場合はドット区切りを使い、多くなる場合はスクリプトブロックを使ってまとめて設定するという使い分けができるようになっています。
#メソッド呼び出しのあとの波括弧ブロック
testCompile('junit:junit:4.11') {
transitive = false
}
testCompile()
というメソッドが呼ばれた後に、波括弧のブロックが現れています。
この波括弧も、クロージャです。
この設定は、以下のように書いたものと同じになります。
testCompile('junit:junit:4.11', { transitive = false })
つまり、クロージャは testCompile()
メソッド引数の1つです。
Groovy には、メソッド引数の最後がクロージャの場合、クロージャの記述をメソッド呼び出しの丸括弧の外に記述できるというルールがあります。
#未定義のプロパティやメソッドはどこからやってきた?
ここまで、 apply()
や dependencies()
、 mainClassName
といったプロパティやメソッドは、宣言されていないにも関わらず普通に使うことができていました。
これらの暗黙的に使用できるプロパティやメソッドは、 Project というクラスに定義されています。
build.gradle
では、クロージャにおける delegate
と同じように、 Project
が持つプロパティやメソッドを暗黙的に使用することができるようになっています。
apply plugin: 'application'
mainClassName = 'sample.Main'
println mainClassName
println this.project.mainClassName
> gradle
sample.Main
sample.Main
Project
のインスタンスは this.project
に格納されており、暗黙的に参照したプロパティやメソッドは、この this.project
のプロパティおよびメソッドとして実行されるようになっています。
##便利メソッドの探し場所としての Project クラス
Project
は暗黙的に参照できるので、 build.gradle
で使用できる便利メソッドなどは、だいたいこのクラスに定義されています。
例えば、 files()
や copy()
といったよく見かけるメソッドは、この Project
クラスに定義されています。
なので、「何か便利メソッドないかなぁ」と思ったときは Project
クラスの DSL ドキュメントを見てみると、掘り出し物を見つけたりできるかもしれません。
##プラグインが追加するプロパティ・メソッド
Java しか知らないと不思議な感じがするかもしれませんが、 Groovy ではプロパティやメソッドを実行時にクラスに追加することができます。
apply plugin: '****'
でプラグインを読み込むと、プラグインは前述の this.project
インスタンスに、プロパティやメソッドを動的に追加します。
eclipse
などのプロパティは、プラグインが追加することで暗黙的に使用できるようになっています。
プラグインを追加するとどんなプロパティやメソッドが追加されるかは、各プラグインの説明ページが、 Project の DSL ドキュメントに記載されています。
#タスク定義
最後はタスクの定義です。
task myTask << {
println 'my task'
}
これを、省略記法やシンタックスシュガーなしで記述すると、次のようになります。
task(myTask).leftShift({ println 'myTask' })
task()
は Project
クラスに定義されたタスクを登録するためのメソッドです。
そして、 <<
は Task インターフェースの leftShift()
というメソッドのシンタックスシュガーで、引数で指定したクロージャをタスクの最後に実行するように登録します。
なぜ <<
という演算子で leftShift()
メソッドが実行されるのかというと、Groovy には、既定の名前で定義されたメソッドの呼び出しを簡単な演算子に置き換えられる仕組みがあるためです。これを演算子オーバーロードと言います。
leftShift()
という名前で定義されたメソッドは、 <<
演算子で実行できるようになっているのです。
また、タスクの定義には doLast()
というメソッドもあります。このメソッドも、引数で渡したクロージャをタスクの最後に実行するよう登録します。なので、どちらのメソッドでもタスクが定義できるようになっています。
#【おまけ】タスク名に未定義の変数?が使用されている点について
前述の設定では、 myTask
は未定義の状態で使用されています。
なので、そのままなら「そのようなプロパティは存在しません」という意味のエラーが発生するはずですが、実際はそうなりません。
なぜこのようなことができるのか、残念ながら仕組みは私もよく分かっていません。
Groovy では、未定義のプロパティが参照された場合に任意の処理を挟んで、好きな値を返すように実装することができます。
this.metaClass.propertyMissing = { name ->
System.out.println('name = ' + name)
return 'property missing'
}
println 'this.unknownProperty = ' + this.unknownProperty
name = unknownProperty
this.unknownProperty = property missing
しかし、この方法だと task()
メソッドの呼び出しのとき以外に未定義のプロパティを参照しても propertyMissing()
が実行されてしまい、エラーが発生しなくなります。
Gradle のソースコードを落として Eclipse のデバッガを使って確かめてみましたが、 task()
メソッドが呼ばれたときに引数には "myTask"
という文字列が渡されていました。
ところが、どのタイミングで myTask
が "myTask"
という文字列に変換されているのかは分かりませんでした。。。
以上です。
Gradle をはじめた当初、私はここに書いているようなことを知りませんでした。
そのため、なぜこれらの記述で設定ができるのかがわからず、 build.gradle
に対してなんだか取っ付きにくいイメージがありました。
しかし、ここで書いていることがわかってくると、実はそれほど複雑ではないことがわかり、取っ付きにくいイメージはだんだんと薄れていきました。
Gradle をさわり始めたばかりで、同じようなイメージを抱いている方の一助となれば幸いです。
さらに次のステップに進む場合は以下。
#参考