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銀行への生成AI導入における課題について元銀行員が考えてみる

Last updated at Posted at 2024-09-23

銀行への生成AI導入の現状と課題

銀行にAIを導入する話、よく耳にしますよね。最近では「生成AIで事務効率化」なんて言葉もちらほら。銀行にとっては、業務効率化やミスの削減が重要課題です。しかし、元銀行員の視点から見ると、AI導入にはまだまだ高い壁があります。今回は、特に「銀行内の事務における事務相談チャットボット」の導入に焦点を当てて、その課題と可能性について語りたいと思います。

経歴紹介

まず簡単に私の経歴から。私は地方銀行で総合職として10年間勤務していました。現在はナレッジコミュニケーションにてエンジニアとして仕事をさせてもらっています。
銀行員時代、支店では、国内為替、二線、外国為替、法人融資や個人ローン、そして法人渉外を担当。本部では事務効率化や事務相談対応、外国為替集中事務や企画に携わりました。個人渉外と窓口対応以外は大体経験しています。銀行業務の多方面からお話しできるかと思います。

銀行における事務相談チャットボット

生成AIを使った銀行業務の効率化でよく出るのが、「事務マニュアルを読ませて事務相談チャットボットを作る」というアイデア。現場で使う事務マニュアルは非常に膨大かつ複雑です。「マニュアル通りの事務」のはずなのに難易度高すぎで、新人の時は事務をしている時間と同じくらいやり方を調べることに時間を割くことがあります。では、マニュアルをAIに覚えさせ、ユーザーの困ったことに答えてくれるとなれば、業務効率が格段に上がるはず…ですよね?

でも、実際のところはどうでしょうか?銀行特有の背景から見ると、AI導入にはまだ多くの課題が残っています。


銀行特有の課題

銀行業務に生成AIを導入する際には、以下の特有の課題があります。

1. ミスが絶対に許されない

銀行はお客様の大切なお金を預かっています。たとえば、振込のミスや預金口座の誤処理は、直接的な損害や大きなトラブルにつながります。修正には多大なコストと時間がかかり、顧客の信頼も失われる危険があります。

また、銀行の評価システムは「減点方式」とよく言われます。通常の業務がスムーズに行われるのは当然のことですが、ミスやトラブルが発生した場合、査定や評価に影響が出ることがあります(なので責任のなすりつけ合いはよく起こります)。こうした環境下では、AIが間違った回答を提示するリスクを避けるため、導入には非常に慎重な対応が求められます。

2. 責任の所在を明確にする必要がある

銀行の業務では、誰がどの手続きに関わったのかが明確に記録されます。これは、ミスやトラブルが発生した際に責任を特定するために重要です。AIが業務に関与する場合でも、その出した回答や判断に対して、誰がどのように従ったかを追跡できる仕組みが必要です。

AIが回答した内容に従って処理を行った場合でも、その結果が間違っていれば、最終的に人間が責任を問われます。こうした責任の明確化と記録管理は、AI導入において特に慎重に扱うべき課題です。

3. マニュアルの複雑さと断片的な対応

銀行の事務マニュアルは非常に詳細で、しばしば一部を読むだけでは対応できないことが多いです。複数のページを横断して確認しなければならず、全体を理解して初めて正しい対応ができる場合があります。

たとえば、「この手続きを進めれば大丈夫」と思っていたところ、別のページに重要な追加手続きが記載されていて、それを見落としていたということがよくあります。さらに、法律対応が絡む場合、新たに書類作成が必要になることもあり、こうした手続きをAIにすべて対応させるのは非常に難しい状況です。

4. 例外処理が多すぎる

銀行業務では「原則」と「例外」が多く存在します。例えば、「原則として本人が来店する必要があるが、やむを得ない場合は委任状で家族が代行できる」といった手続きがあります。しかし、「やむを得ない理由」や「家族の範囲」などの具体的な条件は無数に存在します。

  • やむをえない理由 : 今入院していて意識がない状態であったり蒸発して連絡がつかなかったり、刑務所に入っていたり など
  • 家族の範囲 : 本人の子供の配偶者であったり甥・姪の場合は?、近しい親族がいなくて遠い親戚しかいない場合は?など

このような例外処理をすべてAIに理解させることは非常に難しく、現場の判断力が依然として求められます。

5. システムのレガシー化

銀行では、 古いシステム(レガシーシステム) が今でも広く使われています。このシステムは新しい技術との統合が難しいことが多く、AIの導入にも支障をきたす場合があります。特に、複雑な業務や多数のシステムが絡む環境では、AIの統合には大きなコストがかかります。


それでもAIには可能性がある

とはいえ、生成AIには大きな可能性も秘めていると感じていますし、自分が銀行員だった時代にあれば良かったなと思っています。ある程度指標になったり、どこを見ればいいか、自分の知識の補完とするのであれば十分いまでも役に立つと思います。
あとは、定型的な質問や簡単な事務手続きに関しては、AIが適切に対応できれば業務の大幅な効率化が期待できます。AIは、日常的な手続きや定型化された業務を迅速かつ正確に処理する能力があるため、その分人間が行うべき業務に集中できる環境を作り出すことができます。

また、技術の進歩によって、将来的には複雑な例外処理にも対応できる可能性があります。現時点では慎重な導入が求められますが、AIの活用範囲を徐々に広げていくことが銀行業務の効率化につながるかもしれません。


結論

銀行業務における生成AIの導入は、現段階ではまだ多くの課題を抱えていると感じていますが、非常に興味深い分野だとおもます。今後、技術の進化により、複雑な業務にも対応できるようになることが期待されています!銀行業務の特性を理解した上で、慎重にAIを導入し、業務効率化を図ることが必要です。

金融業界におけるAI活用事例について詳しく知りたい方は、こちらのサイトも参考にしてください。

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