1. 目的
この記事ではGoogle Earth Engineを使った夜間光の収集・分析方法を紹介します。対象はアフリカ(ギニア)での道路整備事業です。
2. 事業概要
ギニア共和国(ギニア)は、西アフリカ西端に位置する国です。
ギニアでは十分に道路整備が行われず、交通渋滞が発生していました。加えて、その橋梁は老朽化が進み、大型車両の通行を考慮しない設計になっていることから、落橋する危険性がありました。
このような状況に対処するため、日本の援助実施機関である国際協力機構(JICA)は、ギニアの主要幹線道路である国道1号線に位置する橋梁(カアカ橋(コヤ県))の架け替えを行いました。
事業により橋梁が改修し、安全な運行が可能になることにより、さらに円滑な交通・貿易が進み、ギニアの地域経済活性化、経済社会発展に貢献することが期待されました。
出所:事業事前評価表
3. 事業の効果検証
JICAでは、事業完了数年後に実施される事後評価によって、期待された直接的・短期的効果の達成度を確認します。さらに期待される間接的・長期的なインパクトの達成度も確認します。これらの効果の発現状況によって、事業の有効性・インパクトを検証します。
有効性については、事業計画時に設定される具体的な指標(数値目標と目標年を含む)を設定し、目標年における実績値を確認し、その目標値に対する達成度合いを確認します。他方、インパクトについては「長期的目標」という特徴から、定量的な指標を設定することが困難なことが多く、ある地域の「社会・経済発展」や「市民の生活の向上」等、定性的な効果が設定されることが少なくありません。
しかし、日本のような先進国であれば地域レベルでの統計データも入手可能ですが、途上国ではそうしたデータが未整備なことが多いです。そのため、今回は広範囲・長期的に確認できる衛星データ(夜間光)を使って、事業の社会・経済発展への貢献を検証することを試みました。
3.1 夜間光データの取得
夜間光
今回は事業の経済発展への貢献を検証するための補完として、夜間光を活用することにしました。ある国の経済発展を測定するための指標として、「国内総生産(GDP)」が活用されることが多いですが、途上国ではデータが整備されていないことが少なくありません。さらに、今回のようにある「橋梁」や「その周辺村落」での「地域内総生産(RGDP)」等の経済状況を測定した指標はそもそも算出されていないことが多いです。
このような場合には、代替指標として「夜間光」を活用することができます。これまでの先行研究(Henderson et al. 2012, Dugoua et al. 2018)で、夜間光は地方の電力化やGDPとの高い相関関係が確認されています。
Google Earth Engineを使った夜間光の収集
関心のある領域を設定します。カアカ橋(赤)、その東約4kmに位置するクリア市(緑)、さらに東20kmに位置するタビリ村(黄)について、その位置(緯度、経度)をGoogle map上で確認します。
var features = [
ee.Feature(ee.Geometry.Point(-13.3609, 9.7491), {name: 'bridge'}),
ee.Feature(ee.Geometry.Point(-13.346087, 9.775978), {name: 'Kouria'}),
ee.Feature(ee.Geometry.Point(-13.2193, 9.833), {name: 'tabili'})
];
地図上でカアカ橋周辺(赤いポイント)を中心に表示させます。
Map.setCenter(-13.3609, 9.7491,16);
作成したリストからFeatureCollectionを作成します。
var fc= ee.FeatureCollection(features);
print(fc);
夜間光データをインポートします。今回は、事業実施前後(2013年~2020年)までをカバーするVIIRS Nighttime Day/Night Band Composites Version 1を使用します。
var collection =ee.ImageCollection("NOAA/VIIRS/DNB/MONTHLY_V1/VCMCFG")
.select('avg_rad')
.filterDate('2012-12-31', '2021-01-01');
VIIRSは月次平均データとして公開されています。printによってデータの種類と撮像日付が右のConsoleに表示されるので、目的の2013年1月1日~2020年12月31日までの画像がインポートできているかを確認します。同期間の全ての画像(95枚)をインポートできていました。
print('collection', collection);
3地点での夜間光の変化をグラフにしてみます。夜間光データは約450m四方のピクセルに格納しています。ここでは、3地点に含まれるピクセルの合計値を算出しました。
var chart =
ui.Chart.image
.seriesByRegion({
imageCollection: collection,
regions: fc,
reducer: ee.Reducer.sum(),
scale: 500,
// seriesProperty: ['kouria', 'tabili', 'bridge'],
xProperty: 'system:time_start'
})
.setSeriesNames(['kouria','tabili', 'bridge'])
.setOptions({
title: 'Monthly Sum Of Lights for Area of interested (Apr 2012 to Dec 2020)',
hAxis: {title: 'Date', format: 'YYYY-MM', titleTextStyle: {italic: false, bold: true}},
vAxis: {
title: 'Sum of Nighttime light',
titleTextStyle: {italic: false, bold: true}
},
series: {
0: {lineWidth: 3, color: 'red'},
1: {lineWidth: 3, color: 'green', lineDashStyle: [2, 2, 20, 2, 20, 2]},
2: {lineWidth: 3, color: 'blue', lineDashStyle: [4, 4]}
},
});
print(chart);
図は事業実施前後(2013年~2020年)における3地点の夜間光合計値の変化を示しています。
上記のデータをエクセルファイル(csv)の形式でダウンロードすることもできます。
ここでは、selectorsを使って必要な情報(場所、合計値、年、月)のみを取得しています。
Export.table.toDrive({
collection: ntl,
description: 'SOL_by_AOI2',
folder: 'Guinea',
selectors:(['name','sum','year','month']),
fileFormat: 'CSV'
});
上記の一連のコードはこちらから参照できます。
3.2 夜間光データの可視化
下図は上記で収集した夜間光の経年変化を示しています。カアカ橋の開通年(2017年)を加えるなど、より見やすいように加工しました。(水色の点線:近似直線)
クリア市とタビリ村における2013年~2020年の夜間光を分析した結果、両市で夜間光が増加傾向にあることが確認されました。カアカ橋は2017年6月に開通しているため、それ以降に夜間光が増加していれば、事業が地域の経済発展に貢献していると考えられます。
開通前の状況(2013年~2016年)、開通後の状況(2018年~2020年)を比較すると、クリア市では開通前後で約3.6倍に増加し、タビリ村では約2.5倍に増加していることが確認されました。
以上より、クリア市とタビリ村において 夜間光が増加傾向にあり、カアカ橋の開通前後での夜間光の平均値も大幅に増加しているため、事業が地域の経済発展に貢献していると考えられます。
4. まとめ
留意点として、夜間光は夜間における屋外での明るさを観測するものです。そのため、電灯や、高速道路、オフィスビル、工場等での活動状況は見れますが、その国の基幹産業が農業である場合、その活動状況を正確に測定することが難しいといった指摘もあります。
また一国・一地域の経済活性化には人口増加、輸出入などの貿易活性化等、事業以外に関係する要素が多くあります。そのため、夜間光だけでなく、事業がどのように地域の経済活性化に寄与しているのか、様々な関係者から情報収集を行い、多角的に分析することが重要となります。
ですが、夜間光を始め衛星データを使うことで、客観的な情報を入手できること、わかりやすい形でその効果を可視化できることは、これからの効率的・効果的な事後評価実施の一助となりうると思います。
ぜひご関心の地域で集計し、考察してみてはいかがでしょうか?
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