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衛星データだけでは因果関係まではわからない。定性的なアプローチと組み合わせてみる

Last updated at Posted at 2023-11-25

最近道路事業の評価を行う機会が多いです。
今年から来年にかけてネパールの「シンズリ道路の震災復旧」事業の評価を行う予定です。

北はチベットと接するヒマラヤ山脈、南はインドへとつながるネパール。
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(出所:Government of Nepal Embassy of Nepal Tokyo, Japan)

ネパールの南部地域(インド国境沿いに広がるタライ平原)は、同国の重要な農業地帯ですが、2,000m超級のマハバラッド山脈に囲まれた地域であり、道路はコンクリートではなく、土。首都カトマンズへの主要ルートは大きく迂回しており、雨季には地滑りでたびたび道路が閉鎖されるなど、経済活動が阻害されてきました。

そこでタライ平原の肥沃な農業生産地帯にあるバルバディスと、首都カトマンズ近郊のドリケルをつなぐ(下図のピンクの線)、全長約160kmの「シンズリ道路」が建設されました。
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(出所:JICA「ネパールの悲願「シンズリ道路」が土木学会賞を受賞——高低差1,300メートルを克服し、ネパールの経済発展に寄与」

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(道路整備前)
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(道路整備後)
(出所:安藤ハザマ「ネパール・シンズリ道路建設プロジェクト」

この道路は1995年に建設が開始し、2015年3月に完工しました。しかし、完工直後の2015年4月25にマグニチュード7.8 のネパール地震が発生し、道路の沈下、亀裂、斜面の一部崩壊等、同道路の約20 箇所が想定外の被害を受けました。

この被害を受け、本事業により、地震で被害を受けた同道路の5か所の地すべり対策工事を実施しました。

この一連の事業により想定される効果を下図のとおり整理してみました。
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想定される効果が発現していると確認できたとして、「事業のおかげ」と断定することはできるのでしょうか?

いえ、実はそれだけでは、断定できません。

例えば、経済・社会発展は、政府方針の転換、新規事業の実施、新しいテクノロジーの開発等、事業以外にも様々な要因によって実現します。そのため、経済・社会発展が実現したことを確認できたからといって、事業が引き起こしたと断定できません。

では、どうやって確認すればいいのでしょうか。

バックステップで効果が発現しているかを確認する、という方法があります。

具体的には、受益者へのインタビュー等によって、「収入が増加しているか」→「それはなぜか」→「販売額の増加」のため→「それはなぜか」→「シンズリ道路によって市場にアクセスしやすくなった、輸送費が削減した等」。想定する経路に沿って、効果が発現しているかをバックステップで確認します。

行きつく先に「シンズリ道路の建設・復旧」が出てこなければ、本事業の実施ではなく、他の要因によるものと判断でき、逆に「シンズリ道路の建設・復旧」が出てこれば、本事業の実施のおかげだと言えます。

最初から「シンズリ道路によって収入に変化が起きましたか」と聞くこともできそうですが、これだとバイアスが生じてしまいます。普通、その事業にについて聞かれると、意識してしまいますよね。さらに、日本人あるいは事業関係者から聞かれると、良い印象を与えたい(いいことを言うと、さらに支援があるかもしれない)と考えるのが普通だと思います。

そのため、バイアスが生じないよう、回答者には可能な限り事業について意識させないことが重要です。

また、本事業の評価では、「沿道地域で経済発展が起きたか」に関して、衛星データを活用する予定です。
ですが、衛星データだけでは、事業と経済発展の「因果関係」まではわかりません。
衛星データだけで「因果関係」を検証する方法もあるのですが、それは今回の事業では難しいため、定性的なアプローチも用いることで、因果関係の検証に迫っていきたいと思っています。

本事業での衛星データと定性的なアプローチとを組み合わせた分析結果については、また進捗を共有させていただければと思います。

衛星データ活用方法についても、別の投稿にて共有させていただきます。

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