この記事は、2020年4月20日に行った北海道博物館協会学芸職員部会のオンラインミニ研修会「「これだけできれば大丈夫〜 30 分でスタートする QGIS入門」」のフォローアップ記事、続編です。利用するデータは公文書開示請求で入手した「北の遺跡案内」の全データです(学芸職員部会員には配布済み)。
カーネル密度推定図を作成する
- 「入力レイヤ」→「site_point_JGD2000_UTMzone54[EPSG:3100]」
- 「半径」→「50000」
- 「Out put raster size」
処理にはやや時間がかかります。私の環境では1分ほどでした。「半径」を大きくするほど計算時間を要します。
カラーパレット(ViridisのMagma使用)を変更して、等高線もつけてみました。
これは、小杉康先生の「超越的地域」ってやつに見えてきますね。
擦文文化の遺跡立地の特徴を分析する
さて、「北の遺跡案内」全データ(ただしポイントデータのみ)を使用して遺跡密度を算出しました。次は特定の時代の遺跡、ここでは擦文文化の遺跡立地の特徴を抽出する方法を紹介します。
「site_point_JGD2000_UTMzone54」右クリック→「エクスポート」→「選択地物の保存...」
全遺跡のカーネル密度推定と同じ手順で擦文文化遺跡のカーネル密度推定を行います(手順省略)。
擦文文化の相対的遺跡密度を算出する
擦文文化の遺跡分布は全遺跡の分布とはやや異なっていることがわかります。遺跡全体の分布と擦文文化の遺跡分布の違いを可視化していきます。
- 「式」にラスタ計算式を入力します。
- 「出力レイヤ」クリック
"kernel_dens_satumon_contour@1"/"kernel_dens_contour@1"
全遺跡密度に対する擦文文化の遺跡密度地図が作成されました。この図にタイトルをつけるとすると「擦文指標図」とでもなるでしょうか?
このままでは海の上にも遺跡密度が描かれてしまうので、北海道のポリゴンで密度地図を切り抜きます(手順省略)。
擦文文化の遺跡密度を標準化する
上記の図は、全遺跡のデータに対する擦文文化遺跡の相対的な密度を示していました。これでも良いのですが、できれば標準化して、たとえば、相対的に密度が低いところは負の値を、逆に密度が高いところは正の値をとるようにしたいと思います。
- 「ラスタ計算機」を開きます。
- 以下の数式を入力します。
- 計算結果を格納するラスタファイルを指定します。
"Satumon_index_clip@1"*(6756/559)-1
上記の計算は全遺跡データの密度と擦文文化遺跡の密度が等しいところはゼロ、擦文文化遺跡の密度が相対的に高いところはプラス、低いところがマイナスの値をとるように調整したものです。全遺跡と擦文文化遺跡の比率の逆数を乗じて1を減じています。
この図の特徴は、発掘調査頻度によるバイアスの影響を除外した遺跡密度の濃淡となっていることです。この図からうかがえることは、擦文文化は石狩低地帯以東に分布の中心を持つ文化であることや、沿岸部を中心に分布する文化であることなどでしょうか。
かつて佐原真さんは分布論における「空白のこわさ」を指摘しました。その指摘は原理的な指摘であるがゆえに、現在においても有効です。一方、佐原さんが「空白のこわさ」を指摘した1985年と現在とでは発見された遺跡数において圧倒的な物量差があります。今回の分析で使用したデータは約6,700件です。こうした情報量を背景に調査バイアスを除した分布図を算出することで「空白」の意味するところを検討の俎上に乗せることができるようになると考えています。