言葉の定義の確認
モーターのカタログや技術資料等では、基本スペックを表すものとして下記の関連用語が使われます。
トルク
前項でも説明したとおり、モーターの回転によって発生する力です。「起動トルク」「定格トルク」「トルク特性」といった形で表記されていることもあります。トルク特性とは、回転数や電流、周波数などに応じてトルクがどのように変化するかを示したグラフのことです。
定格回転速度
定格出力で運転した場合にモーターが回転する速度です。回転速度は1分間あたりの回転数で表すため、単位は min-1(rpm)を用います。
定格周波数
モーターが使用する交流電源における周波数のことです。周波数とは、1秒間で交流電流の変化する回数(波の周期のセット数)です。東日本では50Hz、西日本では60Hzの周波数で電気が供給されています。
定格電圧
モーターを含めた電気機器類に設定される、安全に使用するための最大電圧のことです。メーカーは定格電圧の使用範囲において、機器の正常な動作と安全性を保証しています。
定格出力
モーターを定格電圧と定格周波数で駆動させ、設計された性能を連続的に発揮しながら安全な運転状態も維持できる出力のことです。定格出力時のトルク・回転速度を、それぞれ定格トルク・定格回転速度といいます。
定格電流
定格出力で運転した場合にモーターへ流れる電流の大きさを表します。単位は A(アンペア)または mA(ミリアンペア)です。
モーター効率
モーター駆動時におけるエネルギー効率のことです。以下の式で表されます。モーター効率 = 機械出力 / 入力電力 × 100
またはモーター効率 = 機械出力 / (機械出力 + 損失) × 100
ただし
機械出力(W) = 回転速度(rad/s) × 回転力(Nm)
入力電力(W) = 電圧(V) × 電流(A)
モーターを作る
選定する
選定方法
- 駆動機構を決定する
モーターの駆動機構には単純な回転体のほか、ボールねじ、ベルトといった種類があります。高精度の位置決め運転や大負荷の搬送に適したボールねじ駆動、高速の位置決め運転や軽負荷の搬送に適したベルトといったようにそれぞれに特徴がありますので、搬送物の寸法や質量、各部品の寸法と質量、可動部品のしゅう動部(滑らせて動かす部分)の摩擦係数などを基に決定します。
2.モーターへの要求仕様を確認する
続いて、装置の運転速度や実際の運転時間、位置決めの距離と時間、停止精度、使用環境や電源電圧といった求められる条件から、モーターへの要求仕様を確認しておきます。
3.負荷計算を行う
モーター出力軸における「負荷トルク」「負荷慣性モーメント」を計算しておきます。さまざまな機構における負荷トルクや負荷慣性モーメントの計算式は、各モーターメーカーの公式サイトや技術資料などで確認できます。
4.モーター機種を選択する
以上で導き出した要求仕様に対して、最適なモーターを選択しましょう。
本記事で解説した事項をもとに、モーターメーカーの公式サイト上にある選定表、条件別計算式などを参考にしつつ、ぜひ最適なモーターをお選びください。
各種小型モーターの性能比較をレーダーチャートに示します。
出典:https://www.tsugawa.co.jp/motor/
出典:https://techweb.rohm.co.jp/product/motor/motor-driver/motor-driver-basic/796/
モーターを駆動する
モータードライバ
各分野においてどのようなモータードライブシステムが利用されているか、その概要を示します。
各分野におけるモータードライブシステムの概要
使用されるモータードライブシステムは、分野やアプリケーションによって異なります。実際にどんなモーターやドライブ方法が利用されているのかをイメージできるよう、民生品分野と産業/自動車分野での例を動向も含めて表にしました。


また、各種モーターの性能比較と駆動制御技術例の一覧です。◎は特に優れていると考えられる点で、×は劣っている点です。これらは、代表的な例であり、駆動の素子数などはモーターによって変わりますし、駆動制御技術にもいろいろな方法がありますので、モーターとモータードライブの概要を理解するための参考として捉えてください。

近年のモータードライバーに求められる4つのポイントについて記します。
モータードライバーに求められる4つのポイント
①高信頼性
異常な電圧や電流からモータードライバーICを保護する機能や、電源電圧低下による誤動作を防止する機能など、モータードライバーは十分な保護機能を備えている必要があります。また、モーターの起動時や強制停止、拘束時などにモーター電流を制御する電流制限機能、さらに外部のホストプロセッサなどに障害状態を出力する機能を搭載し、安全性を確保することが求められています。
②低消費電力、高効率
モーターの消費電力を低減するためには、低消費電力なパワーデバイスとドライブ技術が必要です。例えば、自動進角調整機能などを用いて、低速回転から高速回転までの広範囲な回転数領域において高い効率を得ることが可能です。
③静音、低振動
モーター動作時の騒音や振動に対しては、駆動波形の最適化が重要です。ブラシレスDCモータードライバーの最適通電幅技術(120度、150度、正弦波)、ファンモータードライバーのソフトスタート技術、ステッピングモータードライバーの電流減衰方式(Decay技術)など、各分野の用途に応じた各種モーターの磁気回路に最適な通電駆動技術に対する必要があります。
④制御、利便性
FLL(速度制御)やPLL(位相制御)によるモーターのデジタル回転制御技術や、アクチュエータに要求される高精度位置決め制御技術などの高効率駆動制御アルゴリズムは、高性能なモーターアプリケーションの開発に欠かせません。ハードロジック化した制御アルゴリズムをドライバーICに搭載するなど、設計者が手軽に高効率駆動制御アルゴリズムを利用できることが求められています。また、ドライバーIC間での互換性は利便性を高めます。開発の途中で仕様変更が生じた際に、モーター駆動制御基板のパターンを変更することなく置き換えられるなど、利便性の向上は重要です。
モータードライバICの絶対最大定格
モータードライバーICの絶対最大定格を理解し、それを超えないような設計にすることは非常に重要です。ここでは、モーターの仕様とモータードライバーICの絶対最大定格の関係に関して、1つはモーターの視点からモーターの仕様とモータードライバーICの絶対最大定格対応について、もう1つはモータードライバーICの各絶対最大定格の意味と注意点を説明します。
絶対最大定格とは
最初に絶対最大定格とは如何なるものかの確認をしておきます。この理解が不十分だと重大な事故につながる可能性がありますので、設計者でも使用者であっても正確な理解と厳密な適用が必要です。ここでは、モータードライバー前提ですが、絶対最大定格の定義はモータードライバーに限らず、他の半導体デバイスに範囲を広げても同じです。
半導体デバイスの絶対最大定格に関しては基本的に、「JIS C 7032 トランジスタ通則」の用語の定義を基にしています。その定義は「瞬時たりとも超過してはならない限界値で、どの2つの項目も同時に達してはならない限界値」とされています。解釈としては、「絶対最大定格にあるどの項目の値も、どんなに短い時間でも絶対に超えてはいけない」というものです。
実際的な考えたかや適用に関しては、Tech Web Motor TECH INFOのこちらのコラムで詳しく説明していますので参照して下さい。
モーターの仕様とモータードライバーICの絶対最大定格の関係
モーターアプリケーションにおいてモータードライバーICを選定する際には、基本的にモーターの仕様や使用条件を基にそれらを満足するドライバーICを選ぶことになります。例えば、モーターの使用電圧が24V±10%であればドライバーICはこの上限をカバーする電源電圧定格を持っている必要があります。以下に、モーター仕様とドライバーICの絶対最大定格関する主な関係を表にまとめました。条件によって他にも細かい留意事項がありますので、個々には検討が必要です。
※モーターの例:24V複写機用ブラシレスモーター
モータードライバーICの絶対最大定格と注意点
モータードライバーICの絶対最大定格と注意点を表にまとめました。一般的な注意点としては、絶対最大定格を超えた場合、ドライバーICの特性劣化、寿命低下、破壊につながります。また、ドライバーICの信頼性は、使用環境条件、例えば電圧、電流、温度、湿度などが絶対最大定格以内であっても条件が厳しいほど低下します。したがって、信頼性の高い設計には、定格に対してディレーティングを考慮する必要があります。
- ASO:Area of Safety Operation:安全動作領域。SOA(Safety Operation Area)と呼ぶこともある。絶対最大定格ではないが、関連する定格に基づく。
右のグラフが示す曲線の内側(値の低い側)がASOで、ドライバーICであれば出力段トランジスタの安全な動作領域を示しています。定格電流で制限される領域④と定格電圧で制限される領域①の内側で、許容損失で制限される領域③と、さらにバイポーラ素子では2次降伏により電圧と電流が定格内でも破壊する領域②の制限を受けます。またMOSFETにおいても発熱点の集中によりバイポーラ素子の2次降伏と同じような領域②を持つ場合があります。
特にインダクタンス負荷で使用する場合、電圧と電流間に位相差が生じるため、過渡的に電圧、電流の両方が加わることがあり、その際にASO範囲内であるかの確認が必要になります。過渡現象の波形を観察し、電圧と電流が同時に印加されている時間がどのくらいあるか測定し、各ドライバーICの出力段トランジスタのASOデータと比較して確認します。
こちらのコラムが詳しく言及してる
モーターを制御する
(別途記事作成中)
モーターの運用・メンテナンス