現代の動的マクロ分析においてグローバルスタンダードモデルになっているDSGE(Dynamic Stochastic General Equilibrium:動学確率一般均衡モデル)ですが、数学的な理解がないと理解さえするのが難しいと思います。
そこで、DSGEをこれから学習する人に向けて、せめて"何をやっているのか"だけでもしていただきたいと思い、執筆していただきました。
DSGEモデルは、RBCモデルの派生で、名目的な硬直性とか、情報非対称性に起因するエージェントコストとか、経済変数のショックを全部組み込んでいるスーパーモデル。
DSGEモデルが開発された動機は「ルーカス批判の克服」である。
昔(1970年代あたり)は、経済主体の行動を誘導型の方程式(消費性向などの諸々のパラメータを外生的に与えることで経済主体の将来の消費などの行動を決めてしまうような方程式)を用いてマクロ経済モデルを構築していた。
その際に、モデルのパラメータは最小二乗法などの手法を用いて過去のデータに基づいて推定されるが、「政策や環境の変更が将来期待を通じて経済主体の行動に影響を与えるメカニズムを考慮できない(将来期待が変わることで誘導型の方程式のパラメータも変わりうる)」という欠点があったため、政策効果分析のツールとして適切でないとルーカスにボロカスに言われた。
そこで、改良版のRBCモデル、すなわちDSGEモデルでは、家計や企業の効用や利潤最大化行動や、時間を通じて一定とされるディープパラメータ(消費代替弾力性などのデータには直接現れない変数)に基づいた、いわゆるミクロ的な基礎付けをしてモデルを構築した。そのことによって、経済理論との整合性が高く保てて、政策や経済ショックの波及こうかを明示的に示すことができるようになった。
(調べたところ、モデルが提唱された1980年代当初は、その学術的な関心の高さからDSGEモデルの改良が進められたけど、すぐには政策当局には導入されなくって、1990年代に入って、価格硬直性をモデルに組込む手法が開発されたことを皮切りに、各国の中央銀行を主導に政策分析のツールとしてDSGEモデルが用いられるようになったらしい。)
ここで疑問に感じるのは、「ほな、どうやって、ディープパラメータとか普通のパラメータを経済や環境の変化に応じて逐次的に取得してんねん」ってこと。
その直接的な答えになるのが「ベイズ推定」と「最大化問題」。
ベイズ推定は簡単に言うと「情報によって確率を更新すること」。例えば、「明日は雨が降るという予想確率が$30%$だったところに『スズメが低く飛んでいる(湿度が高いとエサである虫が低いところを飛ぶため)』という情報を得たとすると、明日の雨がふる予想確率が$50%$に上がる」という話。経済学に当てて言うと、「時点$t+1$で、『誤差(パラメータ)は平均$μ$で分散は$σ$の範囲の正規分布に従うだろー』って思ってたけど、時点tの各種経済変数の情報を手に入れたことで、『やっぱ平均$μ’$で分散は$σ’$の正規分布に従うっぽい』ってなる」という話。
数学的にいうと、パラメータの事前分布$P(θ)$が、データ$y$という情報を踏まえることで、事後分布$P(θ|y)$になる、こと。
最大化問題については、事後分布$P(θ|y)$を最大化するような、$θ$を求める手続きを行うことで乗り切る。
ここで、事後分布$P(θ|y)$の形はわからないことが多い。そこで登場数するのが、MCMC法。MCMC法では、関数の形がわからないから、手当たり次第にパラメータをぶち込んで、その中で最も事後分布$P(θ|y)$を最大化するパラメータを最適解$θ*$とするという手続きを行う。
(もちろん、MCMC法は手法の一つなので、他にもさまざまな手法があります。)
したがって、どうやってディープパラメータとか普通のパラメータを経済や環境の変化に応じて得ることができるのかというと、「各時点での経済の情報を踏まえて、ベイズ推定によって、事後分布$P(θ|y)$を求める(どんなパラメータをどのくらいの確率で取りそうなのかの目星をつける)。続いて、事後分布の形がわからないので、MCMC法という”力業”で最適解$θ*$を得る。これを結果(経済主体がとるであろう行動)として出力する。」というアルゴリズムをぶん回すだけでパラメータできるという理屈。