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2023-10-23 - Ver1.0 : 各項目について自分の理解と参考にした記事を整理
Wikipediaの表現を借りて言うと、
『電力用半導体素子を用いた電力変換と制御に関する技術で、電力変換と制御を中心とした応用システム全般の技術』
です。
要するに、『入力には制約があるから、どうやったらそこからうまいこと要求を満たすような電力を取り出せるかな』を考えるのがパワエレ分野でやっていることです。
例えば、家庭用コンセントは交流。電池は直流。家電やモーターは交流。変換しないと使えないですね。
近年、サステナブルな社会に向けた動きが加速するなかで、電化・デジタル化、省電力化の需要が拡大しており、パワエレが活用されている分野もさらなる成長が予想されます。
主な応用分野には、以下のような応用例があります。
電力系統 : 直流送電、無効電力調整、太陽電池、風力発電、燃料電池
風力や太陽光などの再生可能エネルギーを利用するために発電所の建設が進んでいます。発電された電力は、パワエレを使用して調整・変換されており、例えば、太陽電池パネルから出力された直流電力を交流電力に変換するインバータなどがあり、優れた変換効率や長寿命といった性能が求められています。
電動機駆動 : 鉄道、ファン、ポンプ、リニアモーターカー、電気自動車
電車にも古くからパワエレが使われています。車両を高速走行させるには、高電圧で供給される交流電源を利用して、モータを駆動する制御システムが必要なことから、システムに大容量のパワー半導体として、主にIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が使用され、電車の加速や減速の効率的な制御を行っています。
また、近年、電気自動車やハイブリッド自動車の需要拡大から、これらの車両に使われているパワー半導体のニーズも高まっています。電気自動車には、モータ駆動やバッテリ充放電制御などの電力制御用にパワー半導体が必要で、例えば、電気自動車の蓄電池はDC出力ですが、駆動モータはACなので、電池の出力をDCからACに変換しなければなりません。そこで、インバータやチョッパ回路などが用いられます。
この後、パワエレで用いる回路の説明をする上で、今持っている回路素子の知識や考え方を確認しましょう。
ダイオード
逆止弁として機能します。小さな回路の場合、細かいI-V特性を持っていましたが、パワエレの場合、高電圧で扱うため、特性は"理想的なダイオード"として考えます。つまり、『降伏しない』かつ『順方向では短絡(電位差が生じない)』『逆方向は絶縁(開放)』を想定します。
図1: ダイオードの静特性1
トランジスタ
信号増幅の機能を用いるシーンはないです。全て『スイッチ』として機能します。
ベース、ゲートに電圧を加えるか否か、それだけです。
サイリスタ
機能を一言で言うと、『ダイオード+スイッチ』です。
具体的には以下の機能を持ちます。
- 順方向に短絡するが、通すにはゲートに信号が必要
- 信号を入れるとそれ以降逆方向電圧になるまで通し続ける
- 逆方向は絶縁(開放)
コイル
インダクタは、以下の基本特性を持っています。
- 電流が流れると磁界が発生し、逆に磁界が変化すると電流が流れる。
- 電気エネルギーを磁気エネルギーに変化させ蓄える。
- 直流は通すが交流は通しにくく、周波数が高いほど通しにくくなる。
1と2は関連する特性です。インダクタに電流を流すと磁界が発生し、この磁束は電流を止めてもそのまま残ります。これは、インダクタが磁化するためです。つまり、インダクタは電気エネルギーを磁気エネルギーとして蓄えることができます。
3の特性は、直流を印加した場合は単に導線として電流が流れますが、交流の場合は周波数が高いほど電流が流れにくくなります。これは、インダクタのインピーダンスに起因するものです。
この式から、周波数fが高くなるとインピーダンスが大きくなり、電流が流れにくくなることがわかります。また、インダクタンスLが大きくなっても同様に電流が流れにくくなります。
パワエレで用いられるインダクタ特有の特性についての説明は以下のサイトを参照してください。
以下では、パワエレ(電力の『変換』と『制御』)で用いる素子とその原理について触れていこうと思います。
電力の変換には、入力と出力の関係から以下のように方式が分かれます。
直流入力-直流出力 : DC-DCコンバータ(直流チョッパ) ←デコデコと呼ばれます
交流入力-直流出力 : AC-DCコンバータ(整流回路)
直流入力-交流出力 : インバータ
交流入力-交流出力 : 周波数変換(サイクロコンバータ)、交流電力調整(AVR)
以下でそれぞれについて解説していきたいと思います。
ある直流電圧を別の直流電圧に変換する回路や、交流を直流に変換する回路をコンバータ(Converter)と呼びます。前者を「DC/DCコンバータ」や「DC-DCコンバータ」、後者を「AC/DCコンバータ」や「AC-DCコンバータ」と表記することもあります。
本節で紹介するDC/DCコンバータは、マイコンやメモリ素子などが必要とする低電圧を供給する目的で、電子機器や家電製品をはじめ多くの機器に搭載されています。ちなみにDC/DCをカタカナ読みした「デコデコ」という呼び方が、エンジニアの間では愛称として使われています。
大きく二つの種類に分類することができます
- リニアレギュレータ
- スイッチングレギュレータ ←DC-DCコンバータと言えば基本的にこちらを指します。
以下でそれぞれについて説明しています。
1: リニアレギュレータ
リニア・レギュレータは、抵抗分圧の原理で、入力電圧を負荷との間で分圧して出力電圧を得る電源回路です(図2)。ただし、通常の抵抗素子で構成すると分圧比が固定されてしまい、入力電圧の変動や負荷が変動したときに出力電圧も変化してしまうため、トランジスタやMOSFETを可変抵抗器として用い、出力電圧をモニターしながら出力電圧が一定になるように制御を行います。
リニア・レギュレータは、負荷電流が分圧抵抗(トランジスタまたはMOSFET)にそのまま流れるため、抵抗の両端電圧×負荷電流で求められる電力が損失となり、熱となって逃げていきます。そのため、後述するスイッチング・レギュレータに比べて、エネルギーの変換効率が低いというデメリットがあります。
一方で、リニア・レギュレータは、出力リップル(さざなみのような微小な変動)が少なく、かつ、電磁ノイズなどの放射が少ないといった特徴を持つため、きわめて微弱な信号を扱うアンプ段など、ノイズを嫌う回路の電源として使用されます。また、スイッチング・レギュレータと比較して基本的に低コストで実装できます。
上記の図では可変抵抗と負荷抵抗によって分圧回路が構成され、分圧された電圧が負荷に供給され、分圧抵抗に電流が流れるため損失(熱)が発生します。
2: スイッチングレギュレータ
スイッチング・レギュレータは、入力電圧をスイッチ素子(パワーデバイス)でオン・オフさせてパルス波を作り、最後に出力段で平滑化して出力電圧を得る電源回路です(図3)。オンとオフの比率を変えて出力電圧を制御するのが基本的な原理です。
- スイッチ素子で入力電圧をスイッチングしてパルス波形を作り、後段で平滑化して、出力電圧を得ています。
- オンとオフの時間の比で出力電圧を制御できるのがポイントです。
- スイッチング動作に伴って電磁ノイズ(EMIノイズ)が発生するのがデメリットになります。
電力制御方式
なお、電力制御方式には、以下のような方式があります。
- パルス列のオン時間とオフ時間の比率を変化させて平均電力を制御する方式
- パルス幅変調 : 一定周期のパルス列において、パルス幅を変化させる方式
- パルス周波数変調 : パルス幅を一定とし、パルスの繰り返し周波数を変化させる方式
- 点弧位相制御
- 交流電源の場合に、電源位相に対してスイッチング素子の点弧位相を変化させる方式
スイッチングレギュレータはきわめて自由度が高く、さまざまな回路構成が考案、実用化されています。入力電圧と出力電圧の関係だけに着目すると、次のように基本的な3種類に分類されます。
- 降圧チョッパ
- 昇圧チョッパ
- 昇降圧チョッパ
もう少し詳しく見たい方はこちらの記事を参照されることをおすすめいたします。
降圧チョッパ
入力電圧よりも出力電圧が低い電源回路で、スイッチング・レギュレータとしてもっとも一般的です。バック型(buck)とも呼ばれます。
以下のサイトで詳しくまとめてくださっています。
以下で、先ほどのメインの3つについて解説していきます。
昇圧チョッパ
入力側にインダクタを置いて、スイッチ素子がオンのときにエネルギーをインダクタに蓄えておき、スイッチ素子がオフのときにインダクタからエネルギーを放出させることで、入力電圧よりも高い出力電圧を得る電源回路です。高電圧を必要とする液晶パネルやLEDの駆動用として使われています。
昇降圧チョッパ
降圧動作と昇圧動作のいずれにも対応した電源回路で、主に入力電圧が大きく変動するような用途に用いられます。基本的な昇降圧回路では、出力の極性が逆になって負電圧が出力されます。なお、極性が反転する仕組みは少し複雑なので、いずれ回をあらためて説明します。極性の課題を解決して正電圧が得られるようにした回路も考案されています(SEPIC回路:Single Ended Primary Inductor Converter)。
リニア・レギュレータとスイッチング・レギュレータの比較
スイッチング・レギュレータはリニア・レギュレータに比べてエネルギーの変換効率が高く、最新のコントローラICを使った場合、動作条件によっては98%前後に達する場合もあります。
一方で、入力を一旦パルス状の波形に変換するため、電磁ノイズ(EMIノイズ)やグランド・ノイズなどが発生してしまうという原理的な課題があります。また、回路設計が複雑というデメリットもあります。
表1. リニア・レギュレータとスイッチング・レギュレータの比較
直流を単相交流または三相交流に変換する回路をインバータ(Inverter)と呼びます。また、ある周波数の交流を、別の周波数の交流に変換する回路もインバータに含めることもあります(厳密には、ある周波数の交流を直流にいったん変換し、その直流を別の周波数の交流に変換するため、コンバータ+インバータで構成されていると言えます)。
インバータがもっとも使われているのがモーター制御の分野です。オン・オフのような単純な制御に比べて、モーターを駆動する交流の周波数を変えて回転をきめ細かく制御することで省エネなどのメリットが得られるからです。
インバータはハイブリッド車や電気自動車にも搭載されていて、大容量バッテリが出力する直流を、メインモーターの駆動に必要な三相交流に変換する役割を担っています。
パワーエレクトロニクスに用いられる半導体デバイスには以下のようなものがあります。
- ダイオード
- パワートランジスタ
- サイリスタ
- ゲートターンオフサイリスタ
- パワーMOSFET
- 絶縁ゲートバイポーラトランジスタ
- パワーモジュール
学習用資料