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なぜサービスが使われないのか――ジョブ理論を組織に導入する

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要約

プロダクトの成功には市場でのポジショニングと合致した機能設計が欠かせません。その重要性を社内に説明するため『ジョブ理論』読書会を開催し、一定の成果があったので紹介します。また読者が同じ読書会を開催するためのガイドも提供します。

はじめに

この記事では自社のプロダクトデザインに新しい視点を導入するため開催した『ジョブ理論』読書会の背景、準備、進行、結果を紹介します。また同じ読書会を開催したいファシリテーター向けのヒントを、段落の最後に「ファシリテーションガイド」として付記します。

ジョブ理論そのものについては詳しく記しませんが、ここでは顧客によるプロダクトの利用を説明する視点やフレームワークだと考えてもらえれば十分だと思います。

背景

現在私が勤めている会社では、コンシュマー向けスマホアプリをビジネス向けへリメイクして展開しようとしています。それらのアプリについて私は以前からUX上の問題を感じていたのですが、上手く言語化できませんでした。しかし『ジョブ理論』を読んで深く共感し、社内に紹介すればアプリを使いやすく改修したり、マーケティングに役立てたりできるのではないかと考えました。そこで上司(CEO)に相談して読書会の機会をもらいました。社員13名のベンチャーの話です。

準備

まず読書会の内容は次のように決めました。

  1. 1,2章の要約
    1章と2章をそれぞれ誰かに要約してもらう。その後に補足を募集し、あればしてもらう。1,2章だけにしたのは以下の理由からです。

    • ジョブの定義やジョブ理論の全体像が説明されており、議論の基盤になる
    • 範囲が広いと参加しにくくなるだろうし、読書会の時間も長くなる
  2. 応用の検討
    我々が抱えている課題を思いつくまま挙げてもらう。それぞれの課題に対し、ジョブ理論を応用した解決方法がないか考える。可能なら今後のアクションアイテムにする。

タイムボックスは1時間とし、社員の共有カレンダーを見て参加してもらいやすい日程を決めました。そしてほぼ全社員が参加するミーティングと社内チャットで参加者を募りました。

また、当日の会場の大型モニタに映し出すために、読書会の進行を書いたスライドを1枚作りました。プロダクト名をプレースホルダーにしたものを下に示します。

読書会.png

開催

当日集まったのは以下の6名でした:

  • マーケティング関係者 4名(うち1名はCEO)
  • デザイナ 1名
  • 企画/進行役 1名(私)

なお、私が参加して欲しかった人は全員してくれました。

1,2章の要約

最初に読書会の趣旨を説明し、1章を要約してくれる人を募りましたが、誰も立候補しませんでした(CEOは最初にこの本を読んだ人で当然要約できるはずだが、わざと黙っていたと思われる)。私が茶化す調子で「みんなちゃんと読んで来ました?」と聞いたら、3人が読んでいなかったことが判明。仕方がないので、読んだ人に「ミルクシェイクの部分を話してもらえますか?」と頼んでやってもらいました。

1章を通して印象に残ったところや補足したいところを聞きましたがいい反応がなかったので、私が章のまとめを拾い読みして2章へ移りました。

2章に入ってもみんな黙ってるので、まず私がジョブを構成する概念である「進歩」と「状況」について説明しました。その後、少しずつ覚えてることを挙げてくれる人がいたので、その中から単語を拾って全員で認識合わせをしました。

話が途切れたところで私から「ニーズとジョブの違いについても書かれていましたね」と話題を振ったところ、他の参加者が「お客さんが話すことはニーズが多い。それを追っていても(ジョブを理解しない限り)成功するとは限らない」と話してくれて、そこからニーズとジョブの違いについて議論が起きました。その場では次のような共通の認識ができました。

  • ニーズは顧客も我々も意識しやすい
  • ジョブがあったとしても、ニーズは漠然としてることも多い(ミルクシェイクがジョブを片付けるとき、ニーズは何なのか?すぐにわからない。しかし売れる。)
  • ニーズは比較的普遍的。ジョブは状況によって始めて顕在化する

ファシリテーションガイド

  • 要約の立候補が出ない場合は、範囲を小さくしてお願いするとやってもらいやすくなります。章はいくつかの見出しで区切られているので、たとえば「◯◯という見出しの部分だけお願いします」のように頼めます。
  • 要約してくれた人や補足してくれた人には全員で拍手をしましょう。たとえば「要約ありがとうございます、みんなで拍手しましょう」などと言って手を叩けば済みます。その後の発言をしやすくするためです。
  • 自分が伝えたい点が最後まで話題に上らなかったら、自分から振ってもよいと思います。ただし議論を誘導しないよう、他の参加者に思い出してもらうだけに留めましょう。
  • 次の章に移る、または次のアクティビティへ進む前に、もやもやしてることがないか参加者に聞きましょう。そういう点を無くし、現場で使えるレベルで納得するのが目的です。

応用の検討

議論の準備として我々の課題を挙げてくださいと頼みましたが、ここでも誰も発言してくれず色々な意味で焦りました(CEOはニヤニヤしていた気がする)。

「何でもいいですよ」などと促しているうち、1人が「ジョブ理論の視点で、ですよね?」と聞くので「いいえ、そういう縛りは無しで話してもらって構いません」と答えたら、その人が失敗した営業の話をしてくれました。その中に我々の前提と違う顧客のワークフローが出てきたので、「その顧客に何か別の提案をするとしたら、何から始めたらいいと思いますか?」と質問して、全員に考えてもらいました。そこから始まった議論では次のような意見が出ました。

  • 顧客によってジョブが違う
    • それでも共通するジョブがあるはず。そのために業種を絞ってマーケティングしている
  • アプリを使う人と導入を決める人のニーズ?ジョブ?が違う(この時点ではニーズとジョブの違いに確信を持っていなかった様子)
    • アプリを使う人のジョブを片付けることが、導入を決める人のニーズを満たすかもしれない

顧客のジョブがよくわからないという参加者には、3章以降にジョブの見つけ方が書かれてることを案内しました。意図したことではありませんが、結果的に3章以降を読むモチベーションになったのではないかと思います。

最終的にCEOがたまりかねたように立ち上がり、現在アプローチしている潜在顧客名を3つ、ホワイトボードに書きました。そしてそれぞれの顧客が持つジョブを社内で定義し、提案へ繋げることになりました。

ファシリテーションガイド

  • 参加者の発言が少ないときは、例を示しましょう。それも、できるだけつまらない、誰でも思いつくようなことを言いましょう。参加者が発言しやすくなるはずです。
  • 本の要約のステップで登場した語彙をどんどん使いましょう。また、参加者の経験を新しい語彙を使って表現してもらいましょう。たとえば「その人が求めてた"進歩"は何だと思いますか?」と聞くなど。
  • 必ず読書会後のアクションアイテムを決めましょう。読書会の価値が上がります。
  • 最後に読書会の成果を確認しましょう。たとえば新しい語彙など。参加者の記憶により強く残るように。

結果とまとめ

『ジョブ理論』読書会を経て以下の2つの成果を得ました。

  • ニーズとは異なるジョブという概念の認識を合わせ、新しい語彙として会話の中で使えるようになった
  • 自社アプリがターゲットとするジョブを定義し、顧客に提案することが決まった

参考文献

2017, ジョブ理論, クレイトン・M・クリステンセンほか

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