はじめに
FileMakerは、ローコード/ノーコードでデータベースアプリケーションを開発できるプラットフォームです。GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)を主体とした開発環境で、リレーショナルデータベース機能を持ち、業務に必要な様々なカスタムアプリケーションを比較的容易に作成できます。Windows、macOS、iOS、Webブラウザなど、多様なプラットフォームに対応している点も特徴です。
この記事では、FileMakerの主な利点と欠点を分かりやすく解説し、導入を検討している初心者が、自身のニーズに合っているかどうかを判断するための材料を提供します。
対象読者: プログラミング初心者、業務効率化のためにツールを探している方、FileMakerについてこれから学ぼうとしている方。
FileMakerの利点(メリット)
開発の容易さとスピード
- 見たまま編集できる開発環境: ドラッグ&ドロップなどの直感的な操作で、レイアウト作成、フィールド定義、リレーションシップの設定などが可能。プログラミングの知識が少なくても、比較的短期間でアプリケーションを開発できます。画面に表示されるのと同じ見た目でレイアウトを編集できるため、完成形をイメージしながら作業を進められます。
- 豊富なテンプレート: 顧客管理、在庫管理、タスク管理など、様々な用途に合わせたテンプレートが用意されており、すぐに利用を開始したり、カスタマイズのベースにしたりできます。
- 素早い試作品作成: 実際の画面を見ながら開発を進められるため、要件定義がまだ固まっていない段階でも、簡単な試作品(プロトタイプ)を素早く作り、実際に触って確認しながらアプリケーションの形を作り上げていくことができます。
柔軟性とカスタマイズ性
- 業務に合わせたカスタマイズ: 業種や業務プロセスに合わせて、画面デザイン、機能、処理ロジックなどを柔軟にカスタマイズできます。パッケージソフトでは対応できない独自のニーズにも対応可能です。
- 外部連携の容易さ: ODBC/JDBCによる外部データベースとの連携、REST APIによるWebサービスとの連携など、他のシステムやデータソースとの連携が比較的容易に行えます。
- スクリプトによる自動化: スクリプト機能を利用することで、定型業務の自動化、複雑な処理の実装など、高度なカスタマイズが可能です。
クロスプラットフォーム対応
- 多様な環境で動作: Windows、macOSのデスクトップ環境だけでなく、iPadやiPhoneなどのiOSデバイス、そしてWebブラウザを通じて、同じアプリケーションを利用できます。
- FileMaker Goの活用: iOS専用のFileMaker Goアプリを利用することで、モバイル環境からFileMakerアプリケーションにアクセスし、データの入力や参照、簡単な操作が可能です。
豊富な機能
- レイアウトモード: 画面に表示されるのと同じ見た目でデータの表示・入力画面を直感的にデザインできます。
- データ入力と管理: 様々なデータ型に対応したフィールド定義、入力値の制限や自動入力設定など、効率的なデータ管理機能が備わっています。
- リレーションシップ: 複数のテーブル間の関連付けを視覚的に設定し、複雑なデータ構造を扱えます。
- スクリプトワークスペース: グラフィカルなインターフェースで、処理の自動化や業務ロジックを記述するスクリプトを作成・管理できます。
- セキュリティ: ユーザーアカウント管理、アクセス権限設定、データ暗号化など、アプリケーションとデータを保護するためのセキュリティ機能が充実しています。
- レポートとグラフ: 蓄積されたデータを集計・分析し、様々な形式のレポートやグラフを作成できます。
FileMakerの欠点(デメリット)
開発規模と複雑性
- 大規模エンタープライズシステム: 極めて大規模で複雑な基幹システムや、高度なパフォーマンスが求められるシステム開発においては、Javaや.NETなどの他の開発言語やフレームワークの方がより適している場合があります。
- 細やかな制御の限界: OSレベルの低レイヤーな制御や、高度な並行処理、リアルタイム処理など、FileMakerのアーキテクチャ上、実現が難しい、または複雑になる場合があります。
コスト
- ライセンス費用: 買い切りライセンスまたはユーザー数に応じたサブスクリプションライセンスが必要となり、特に利用人数が多い場合や高度な機能を利用する場合は、コストが高くなる可能性があります。
- サーバー費用: 複数人で共有利用する場合やWebDirectを利用する場合は、FileMaker ServerまたはFileMaker Cloudの導入・運用費用が発生します。
- 詳細は Claris FileMaker の価格 をご確認ください。
Web開発の柔軟性
- WebDirectの制約: Webブラウザ上でFileMakerアプリケーションを利用できるWebDirect機能がありますが、ReactやVue.jsなどのモダンなWebフレームワークと比較すると、UI/UXの自由度やアニメーション、パフォーマンスなどで制約を受ける場合があります。高度なWebアプリケーション開発には不向きな場合があります。
バージョンアップによる影響
- 互換性の問題: 大きなバージョンアップが行われた場合、古いバージョンで作成されたアプリケーションとの互換性に問題が生じる可能性があり、改修作業が必要になることがあります。
- 学習コスト: 新機能の追加や仕様変更に伴い、開発者は常に新しい情報を学習し続ける必要があります。
特定の技術スタックへの依存
- 独自の技術: FileMakerは独自の開発環境と技術スタックを使用しているため、Web開発や他のプログラミング言語の知識が直接的に活かせない場合があります。
- 専門知識を持つ人材の確保: FileMakerに特化した知識やスキルを持つ開発者を確保する必要がある場合があります。一般的なWebエンジニアのスキルセットとは異なるため、採用や育成にコストと時間がかかることがあります。
FileMakerが向いているケース / 向いていないケース
向いているケース
- 比較的小規模〜中規模の業務システム開発
- 短期間での素早い試作品作成開発
- 特定の業務に特化したカスタムアプリケーション開発
- クロスプラットフォームでの利用を検討している場合
- 見たまま編集できる開発を好む、またはプログラミング経験が少ない開発者
向いていないケース
- 大規模で複雑なエンタープライズシステム開発
- 高度なWebアプリケーション開発や、モダンなWeb技術を積極的に活用したい場合
- 非常に厳しいコスト制約がある場合
- 細かい制御やパフォーマンスが極めて重要なシステム
まとめ
FileMakerは、見たまま編集できる開発環境による容易さとスピード、柔軟性、クロスプラットフォーム対応など多くの利点を持つ一方で、開発規模やコスト、Web開発の柔軟性などいくつかの欠点も存在します。
自身のプロジェクトの要件、開発チームのスキル、予算などを総合的に考慮し、FileMakerが最適な選択肢であるかどうかを判断することが重要です。
初心者でも比較的容易に始められるため、まずは試してみるのも良いかもしれません。