ストラング線形代数イントロダクションp.301下から6行目
「固有値$\lambda$によって、$A$を掛けたときにその特別なベクトル$x$が伸びる・縮む・反転する・そのまま、ということが分かる」とあります。この意味をバネを使って理解します。間違い等がありましたら、ご指摘していただけると幸いです。
固有値問題
固有値問題の解法は以下の手順に従います。
1) 固有方程式の立て方と解法
行列 \mathbf{A} = \begin{bmatrix} 2 & 1 \\ 1 & 2 \end{bmatrix}
の固有値を求めるためには、固有方程式
\text{det}(\mathbf{A} - \lambda \mathbf{I}) = 0
を解きます。
固有方程式は次のようになります:
\text{det}\left(\begin{bmatrix} 2 & 1 \\ 1 & 2 \end{bmatrix} - \lambda \begin{bmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{bmatrix}\right) = \text{det}\left(\begin{bmatrix} 2 - \lambda & 1 \\ 1 & 2 - \lambda \end{bmatrix}\right) = (2-\lambda)(2-\lambda)-1=0
これを解くと、固有値 $ \lambda = 1, 3 $ が得られます。
2) 固有ベクトルの求め方
それぞれの固有値に対する固有ベクトルを求めるためには、方程式
(\mathbf{A} - \lambda \mathbf{I})\mathbf{v} = 0
を解きます。
- $ \lambda = 1 $ の場合の固有ベクトル:
方程式を解くと、固有ベクトルは\begin{bmatrix} 1 & 1 \\ 1 & 1 \end{bmatrix} \begin{bmatrix} x_1 \\ x_2 \end{bmatrix} = 0
になります。この際のランクは1なのでランクの数は行の数より小さく、列の数よりも小さいので、退化となり解の数は無限になります。つまり$x_2$は任意の値を取ることが可能です。このような場合、固有ベクトルは\mathbf{v} = \begin{bmatrix} -x_2 \\ x_2 \end{bmatrix}= x_2\begin{bmatrix} -1 \\ 1 \end{bmatrix}
と書きます。\mathbf{v} = \begin{bmatrix} -1 \\ 1 \end{bmatrix}
- $ \lambda = 3 $ の場合の固有ベクトル:
方程式を解くと、固有ベクトルは\begin{bmatrix} -1 & 1 \\ 1 & -1 \end{bmatrix} \begin{bmatrix} x_1 \\ x_2 \end{bmatrix} = 0
になります。この場合も退化となり解は無限になります。このような場合、固有ベクトルは\mathbf{v} = \begin{bmatrix} x_2 \\ x_2 \end{bmatrix} = x_2\begin{bmatrix} 1 \\ 1 \end{bmatrix}
と書きます。\mathbf{v} = \begin{bmatrix} 1 \\ 1 \end{bmatrix}
固有値の意味
ここで「固有値$\lambda$によって、$A$を掛けたときにその特別なベクトル$x$が伸びる・縮む・反転する・そのまま、ということが分かる」の意味を考えます。固有値により解くべき連立方程式の形を判別し、その解を得ます。つまり、固有値により固有ベクトルの方向を決めていることになりますが、実際に固有ベクトルの「伸びる・縮む・反転する・そのまま」という状態は$x_2$によって決まっているといえないでしょうか?
単一のばねに接続された単一の質量からなる単振動
物理学における質量とばねの系での固有値の最も簡単な例は、単一のばねに接続された単一の質量からなる単振動(単純な調和振動子)です。このシステムの振動の特性を調べる際に固有値がどのように現れるかを見てみましょう。
システムの設定
質量 $ m $ とばね定数 $ k $ を持つ単純な調和振動子(単振動系)の場合、固有値問題を行列の形式で表現することは通常行われません。というのも、この問題は通常、二階の微分方程式を用いて表現されるためです。しかし、振動の方程式を特定の形式に変換して、行列の形で表すことは可能です。ここでは、そのアプローチを採用してみましょう。
方程式の設定
単振動の方程式は次のようになります:
$$ m\ddot{x} + kx = 0 $$
この方程式は、質量がばねによって引き起こされる力によって振動する様子を表しています。
方程式を行列の形式に変換
この二階の微分方程式を一階の系に変換するために、次のように変数を導入します:
\mathbf{v} = \begin{bmatrix} x \\ \dot{x} \end{bmatrix}
ここで、$ x $ は変位、$ \dot{x} $ は速度です。微分方程式をこの新しい変数で表現すると、次のようになります:
\begin{bmatrix} \dot{x} \\ \ddot{x} \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 0 & 1 \\ -\frac{k}{m} & 0 \end{bmatrix} \begin{bmatrix} x \\ \dot{x} \end{bmatrix}
行列 A とベクトル v
上記の方程式から、行列 $ \mathbf{A} $ とベクトル $ \mathbf{v} $ は次のように定義されます:
\mathbf{A} = \begin{bmatrix} 0 & 1 \\ -\frac{k}{m} & 0 \end{bmatrix}, \quad \mathbf{v} = \begin{bmatrix} x \\ \dot{x} \end{bmatrix}
この形式では、行列 $ \mathbf{A} $ が状態ベクトル $ \mathbf{v} $ に作用してシステムの時間発展を記述します。固有値と固有ベクトルは、この行列 $ \mathbf{A} $ の特性を分析するために用いられます。固有値は、このシステムの振動特性(固有振動数)に関連しています。
固有値問題 $ \mathbf{A}\mathbf{v} = \lambda \mathbf{v} $ を解く過程は次のようになります。
固有値の計算
まず、行列 $ \mathbf{A} $ の固有値を求めるために、固有方程式 $ \text{det}(\mathbf{A} - \lambda \mathbf{I}) = 0 $ を解きます。ここで、$ \mathbf{I} $ は単位行列です。この方程式を解くと、次の固有値が得られます:
$$ \lambda = -\sqrt{-\frac{k}{m}}, \sqrt{-\frac{k}{m}} $$
固有ベクトルの計算
それぞれの固有値に対する固有ベクトルを求めるために、方程式 $ (\mathbf{A} - \lambda \mathbf{I})\mathbf{v} = 0 $ を解きます。この方程式を解くと、以下の固有ベクトルが得られます:
- $ \lambda = -\sqrt{-\frac{k}{m}} $ の場合:
\mathbf{v} = \begin{bmatrix} -\frac{x_2}{\sqrt{-\frac{k}{m}}} \\ x_2 \end{bmatrix}
- $ \lambda = \sqrt{-\frac{k}{m}} $ の場合:
\mathbf{v} = \begin{bmatrix} \frac{x_2}{\sqrt{-\frac{k}{m}}} \\ x_2 \end{bmatrix}
ここで、$ x_2 $ は任意のスカラーです。固有ベクトルは一般に比例定数を含むため、任意の非ゼロスカラー $ x_2 $ に対して固有ベクトルを表現できます。
結論1
この結果から、行列 $ \mathbf{A} $ が持つ固有値と対応する固有ベクトルが求められました。これらの固有値は、質量とばねで構成される系の振動の特性(固有振動数)を表し、固有ベクトルはその振動のモード(形状)を示しています。
固有ベクトルの伸縮と長さの任意性
- 固有値 $ \lambda $ は、行列 $ \mathbf{X} $ が固有ベクトルに与える伸縮の度合いを示します。正の固有値はベクトルを伸ばし、負の固有値はベクトルを反転させつつ伸ばします。
- 固有ベクトル $ \mathbf{\beta} $ は、一般に任意のスカラーを乗じて得られます。これは、固有ベクトルの方向が重要であり、その具体的な長さは問題によって異なる場合があるためです。
- 例えば、$ x_2 $ は固有ベクトルの成分の一つであり、これは任意のスカラーです。この任意のスカラーによって、固有ベクトルの具体的な長さが決まります。
結論2
質量とばねの単振動系において、固有ベクトル $ \mathbf{v} $ の成分 $ x_2 $ をばねの端点の速度と見なす場合、この速度は実際には任意ではなく、端点の位置や系の物理的条件によって決まります。固有値問題の文脈では、$ x_2 $ は数学的には任意の定数として扱われますが、物理的な現象をモデル化する際には、その値はシステムの初期条件や物理法則によって制約されます。
固有ベクトルと初期条件
単振動系において固有ベクトルの成分 $ x_2 $ を初期条件で表現するには、初期位置 $ x_0 $ と初期速度 $ v_0 $ を用います。単振動系の状態ベクトルは一般に位置と速度で構成されます。
単振動系の固有ベクトル $ \mathbf{v} $ は次のように表されます:
\mathbf{v} = \begin{bmatrix} x \\ \dot{x} \end{bmatrix}
ここで、$ x $ は質量の位置、$ \dot{x} $ は質量の速度を表します。初期状態での固有ベクトルは次のようになります:
\mathbf{v}(t=0) = \begin{bmatrix} x_0 \\ v_0 \end{bmatrix}
x_2 の表現
固有ベクトルの第二成分 $ x_2 $ は、単振動系の初期速度 $ v_0 $ に対応します。したがって、$ x_2 $ は初期速度 $ v_0 $ と等しくなります。
結論3
固有ベクトルの成分 $ x_2 $ は初期速度 $ v_0 $ で表され、これはシステムの初期状態に依存します。単振動系においては、質量の初期位置 $ x_0 $ と初期速度 $ v_0 $ がシステムの運動状態を完全に決定します。この例では、$ x_2 = v_0 $ となります。
結論
固有値問題は、行列が特定のベクトルに与える影響を理解するための重要なツールです。固有値は、ベクトルがどのようにスケールされるかを示し、固有ベクトルは行列の特定の「方向」を示します。物理的な系においては、固有ベクトルの具体的な長さは初期条件に依存し、システムの運動状態を表すために用いられます。この理解は、数学的な枠組みと物理的な現象の両方において重要です。
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