人材流出が止まらない理由を若手目線で考えてみる
背景
新卒でSIerに入社して早くも4年が経とうとしています。
入社以来同じ部門に所属していましたが、この4年間で約10人の退職者を見送ってきました。この経験をもとに、若手の目線から「なぜ人材流出が止まらないのか」について考えてみようと思います。
今回この内容を書こうと考えたきっかけは、自分が「社内公募で異動しようか」と思ったことにあります。公募による異動を検討する中で、少し立ち止まってこの経験を言語化し、整理したいと考えました。
自己紹介
まず初めに、軽く自己紹介をしておこうと思います。
- 非情報系出身 (エクセルがちょっと使えるレベル、プログラミング未経験)
- 新卒で都内のSIerに入社し、Java研修がよくわからなかったためインフラエンジニアの道へ
- 現在はAWSを中心に各部門のインフラ構築支援や、生成AIを利用したサービス開発に従事
一般的な4年目の若手インフラエンジニアといった感じです。
人材流出の理由
ここでは、退職された方からお聞きした主な退職理由を記載します。本音では他にも理由があるかと思いますが、いくつか共通する要素があるようです。
- 給与:転職先と比較して低い、労力に見合っていない
- ワークライフバランス:役職者が土日も仕事をしているのを見て、続けることに不安を感じた
- 成長機会:実務で使わない資格を半強制的に目標に含められることが負担
- 評価:査定基準が形式的で、努力が正当に反映されない
- 仕事内容:同じ作業の繰り返しで、新しい技術に触れる機会が少ない
これらの理由を統合すると、以下の2点に集約されるのではないかと考えました。
- 成長や自己実現への期待に応えられる環境が整備できていないこと
- 努力が正当に評価される環境が整備できていないこと
1. 成長や自己実現への期待に応えられる環境が整備できていないこと
この点については、自分の同期も「クラウドの資格を取っても、クラウドの案件にアサインされないからほぼ無意味じゃん」と言っていたのを思い出しました。せっかくスキルを身につけても、手を上げても、実際にそのスキルを活かせる機会が与えられなければ意味がないのです。こうした若手が「サイレント退職ルート」に乗ってしまうのが、お決まりのパターンなのだと思います。
2. 努力が正当に評価される環境を整備できていないこと
こちらについても、先日あるイベントのコメントで「表彰されても会社がそのことを評価してくれない」という声があり、現実を目の当たりにしました。幸い、自分は多少評価されていると感じるのでまだ良いほうですが、表彰されても評価に反映されない会社が多いのかもしれません。正直、1の項目以上に、こちらのほうが人材流出につながるスピードが速いように感じます。
人材流出を止めるには
意外と基本的なことかもしれませんが、以下の点が重要だと思います。
- 被評価者に向き合い、評価すべきところをきちんと評価する(形式的な査定に留めない)
- 成長を実感できる機会を提供する
- 所属意識を軽視しない
一つずつ見ていきましょう。
1. 被評価者に向き合い、評価すべきところをきちんと評価する(形式的な査定に留めない)
多くの会社では年2回の査定評価のタイミングがありますが、評価者によっては一度に10名程度を評価することもあり、大変なイベントだと思います。私自身も被評価者として様々な評価者と話してきましたが、評価者によって評価基準や対応に大きな差があると感じることが多々ありました。
【良かった評価者】
- 今期の結果に対して納得できる理由と共に評価を示してくれる
- 今期の成果をもとに、「次にどのスキルを伸ばすべきか」「どの課題に取り組むべきか」を具体的に伝えてくれるため、次期へのモチベーションが向上する
- 現状の自分の位置づけやスキルを整理してくれ、進むべき方向や選択肢を提示してくれるため、将来のキャリアについて前向きなイメージを持てる
- 評価書の書き方(どう書けば適切に評価されやすいか)を指導してくれる
【微妙だった評価者】
- 形式的で事務的な評価で、フィードバックがない
- 評価がほぼ固定されており、事前に決まっているように感じられ、努力が反映されていない印象を受ける
- 次期の目標設定について全く会話がなく、成長の方向性が不透明になる
こうした事務的な対応が続くと、被評価者にとって「自分は評価されている」という実感が薄れ、モチベーションの低下につながる可能性があります。査定の際にどれだけ真摯に向き合ってくれるかは、被評価者にとって非常に重要で、モチベーションやキャリア形成に大きく影響します。きちんと向き合って評価する姿勢が必要だと感じます。
2. 成長を実感できる機会を提供する
この部分が非常に重要な要素だと考えています。成長機会が少ないと感じる社員は将来に疑問を持ち、離職の意志を強めることが多いため、具体的な成長機会の提供が重要です。
案件の中で成長してもらうことが主な育成とされていますが、本当に育成と呼べるのでしょうか?案件に丸投げしているようにしか思えませんし、そんな都合の良い案件が常にあるわけでもありません。
そのため、案件とは別に改善タスクを用意し、新しい技術領域について調査・検証・導入する機会を作るのが良いと思います。
実際に私が3年間お世話になった支援先では、案件とは別で新技術(生成AI、データ加工など)で既存の問題を解決できないかという取り組みを行っていました。この取り組みは個人の裁量が大きく、新技術に触れる機会があるため、知的好奇心が刺激され、成長も実感できる良い試みだったと今でも思います。
すべての会社でこのようにする必要はありませんが、私はこの活動のおかげで多くのことを学び、成長することができました。
3. 所属意識を軽視しない
私の場合は少し特殊かもしれませんが、入社以来ずっと別部門の支援を担当しています。
その結果、所属意識がほとんどない状態になりました。幸い、支援先の方から「その部門に居続ける意味ある?うちで一緒に仕事しない?」と声をかけられることもあり、改めて自分が今の部門に所属する意義に疑問を持つきっかけとなりました。
常駐して働いている方も、似たような経験をされたかもしれません。企業や部署に対する帰属意識を高めるためには、レクリエーションではなく、日々の業務を通じて「ここで働く意義」を感じられる仕組みが必要だと思います。この課題については、今後のキャリアの中で解決策を見つけていきたいと考えています。
おわりに
ここまで、人材流出を防ぐために重要だと感じるポイントを挙げてきました。これらは私自身が感じた課題や、実際の現場で見てきた実例に基づいたものです。
人材流出を防ぐためには、単に制度や待遇を整えるだけでなく、社員一人ひとりが成長を実感し、自分の努力が正当に評価されていると感じられる環境を作ることが重要だと考えています。
この記事が、読んでくださった方々が現場での取り組みを見直すきっかけとなり、人材流出の歯止めにつながることを願っています。