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デジタル・トランスフォーメーションとIT技術者の未来像

Last updated at Posted at 2019-08-26

デジタル・トランスフォーメーションとIT業界の大変革

デジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)は、ビジネス系のITニュースでは頻繁に目にするワードです。

ビジネス系のキーワードなので、テクニカル思考のIT技術者には縁遠いものと思われがちです。しかし、IT技術者の働き方を激変させるインパクトをもつキーワードですので、キーワードが何を意味しているのか知って損はありません。

経産省は2025年が大変革の年とアナウンスしています。DXで、IT技術者の働き方や求められるスキルはどう変わるのでしょうか?

DXとは何か

DXとは、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念でです。2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱したとされています。

近年のインターネットの進歩、スマホの普及を見るとごく当然の概念と思われが、経産省では、DXの浸透が「2025年の崖」と謳い日本企業にビジネスモデルの変革を求めています。

経産省が警鐘している2025年の崖

では、2025年にいったい何が起こるのでしょうか?
経産省のメッセージを簡潔に言うと以下となります。

現在稼働しているシステムの多くはブラックボックス化している。これらを放置すると2025年以降、年額12兆円の経済損失が生ずる

2025年とピンポイントで時期が指定されている論拠は以下のとおりです。

  • 21年以上稼働しているシステムが全体の6割に
  • IT技術者不足が43万人に拡大
  • 先端IT人材の不足、レガシー技術者の不足
  • SAP ERPのサポート終了

DXとIT業界

経産省では、2025年以降発生する可能性がある年間12兆円の損失を防ぐべく、企業に以下の実現を要請しています。

  • 既存システムの維持・保守業務への投資から、最先端のデジタル技術を活用した新規分野に投資先を変更
  • 新規技術の活用により開発の効率化やリリース作業の短縮化
  • ユーザー企業でのIT技術者の育成
  • デジタル技術を活用した新規市場の開拓、社会基盤のデジタル化
  • より効率的・効果的なPoC(概念実証)の実践

上記の要請では、重厚長大なシステム投資をやめ、小回りが効くシステム投資を求めていることがわかります。また、デジタル分野での新しいビジネスの創造も併せて要請しています。

これら要請から、システムの内製を推進、新しいビジネスの創造、システム開発期間の圧縮、で、より付加価値の高いビジネスへの移行を目論んでいることがわかります。

ここで注目すべきは、現在、多くのIT企業が受託開発ビジネスの中心としているウォーターフォール型の開発から、新技術を軸にしたアジャイルスタイル開発へのシフトを国が推奨しているということです。

近い未来では、新しい技術に対応できない技術者は重用されないということが理解できます。

ユーザー企業が抱えるシステムの問題

多くの企業では現在稼働しているシステムが足かせとなり、新しいビジネス領域へのチャレンジに困難が発生しています。発生している困難は以下の4つです。

1)システムのレガシー化、それに伴うブラックボックス化

長年使用しているしてシステムは、稼働環境面、システム開発面で制約が多発していきます。また、幾度のシステム改修で仕組みがブラックボックス化し、改修の難易度が上がります。

2)肥大化する保守費

企業のIT関連費用の80%は現行システムの保守費に割り当てられています。保守費用の肥大化が企業の新規ビジネス領域への投資を制限します。

3)人材難

転職や定年などで、既存システムに精通した人材が減少しています。人材の不足が既存システムのブラックボックス化を更に拡大させます。

4)ベンダー企業との関係

システム開発の多くのフェーズをベンダー企業に丸投げしていたため、現行システムを理解している社員がいない。このため、システム改修や新規システム投資においてもベンダーにベースを握られてしまい、思ったようにシステム開発が進められない。

IT企業が抱える問題

一方、IT企業も複雑な問題を抱えています。発生している問題は以下の4つです。

1)既存システムのリスク

過去に開発した旧システムの全容を知る社員の高齢化や退職で、ユーザー企業がリクエストする高度な改修が困難になっています。また、従来製品の製造中止やサポート終了で現行機能の維持も困難になっています。

2)グローバルクラウドの成長

垂直統合的にITシステム構築に必要なほとんどの機能を提供するメガクラウドによって、個別開発すべき部分を圧縮し、IT関連投資効率を高めることが標準になっていきます。この変革によりIT企業は従来のビジネススタイル(ウォーターフォール型)を維持できなくなります。

3)人員の逼迫・スキルシフトの必要性

技術者の不足感が強まっており、急な人員増やスキルシフトへの対応は困難になっています。

4)ビジネスモデル転換の必要性

国内システム開発受託事業は、大型開発の一巡、企業統合等による情報資産の共有、クラウド化 の進展などから、今後、規模は縮小していきます。規模の縮小により、必然的にIT企業のビジネスモデルも転換が求められます。

IT企業に求められる変革

ユーザー企業のビジネスの進め方の変革により、IT企業のビジネスもは大きく変わる必要に迫られます。

従来のウォーターフォール型のシステム開発は廃れ、ユーザー企業の求める要件をより早く、より安く、より正確に作っていく必要があります。ユーザー企業のニーズの変化により、IT企業は、顧客と新たな関係に立った仕事の進め方に取り組むことが必要です。

また、既存システムのメンテナンスに興味のない若い人材をはじめ、新たなデジタル技術を好む人材が増えていくことで、既存システムの改修をする人材を確保・維持することが困難となっており、早晩、競争力を失っていく危機に直面していくことが予想されます。

DX領域で求められる新しいスキルセットITSS+

IT企業に求められる変革を考慮し、IPAはこれからのDX分野を担う新しいIT技術者像をITSS+として公開しました。ITSS+を公開した背景として、ITを取り巻く社会が以下のように変革したからと説明しています。

以下の表はITSS+を定義した背景となる企業のIT投資にかかる変化点です。

伝統的なIT投資 新たなIT投資
目的 守りのIT投資(コスト削減、ビジネスを支援) 攻めのIT投資投資(売上・付加価値向上、ビジネスを実行)
傾向 安定性重視 スピード重視
対象領域 バックエンド SoR(Systems of Record) フロントエンド SoE(Systems of Engagement)
IT投資の形態 プロジェクト プロダクト・サービス(価値提供)
オーナー 情報システム部門 事業部門
開発手法 ウォーターフォール アジャイル、DevOpsなど
プラットフォームへの要求 信頼性・堅牢性 拡張性・柔軟性
開発形態 ITベンダーへの外注が主体 ユーザー企業での内製、パートナーリングによる開発
人材の役割 分業・専門分野化 フルスタック・マルチロール
開発運用体制 技術者とIS部門 技術者とIS部門+事業部門
対象業務 予測可能 探索型
データ 構造 構造+非構造+外部
強み 統率力・実行力 機動力・柔軟型

旧来型のシステムエンジニアにとっては、従来の概念が覆される衝撃的な内容といえます。その中でも特に衝撃的なのが、人材の役割を「分業・専門分野化」から「フルスタック・マルチロール」と定義していることです。

「より深く」人材が重用されていた時代から、これからは「より広く」人材が求められるようになります。ただ「より広く」だけではIT技術者としては優秀とは言えず、「より広く」の中に存在するひとつひとつのジャンルに「より深く」をどれだけ数多く持っているかが、これから必要とされる優秀な人材の指標となっていく考えられます。

DXで求められる技術者は、スーバーエンジニアと呼ばれるほどの知識領域が求められていくのです。来る2025年に向け、IT技術者を取り巻く環境は大きく変わることが予想されます。

参考資料

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