はじめに
AWSサービスを利用するアプリケーションをテストする場合、実際のAWSリソースを使用してテストするのはコストがかかり、また実行環境によっては制約が発生します。motoライブラリは、このような問題を解決するために、AWSサービスのモック化を提供するPythonパッケージです。
本ドキュメントでは、motoを使ってDynamoDBをモック化し、実際のAWSリソースを使わずにテストを実行する方法について解説します。
motoとは
motoは、AWSのサービスをモック化するためのPythonライブラリです。実際のAWSリソースに接続せずに、ローカル環境でAWSサービスの挙動をシミュレートします。これにより：
- コストがかからない
- ネットワーク接続が不要
- テスト環境の準備が簡単
- テスト実行が高速
などのメリットがあります。
必要なライブラリ
pip install moto boto3 pytest
テストコードの基本構造
motoを使用したテストコードの基本的な構造は以下の通りです：
import unittest
import boto3
from moto import mock_aws
class TestDynamoDB(unittest.TestCase):
@mock_aws
def test_something(self):
# モック化されたAWSリソースにアクセス
dynamodb = boto3.resource('dynamodb', region_name='us-west-2')
# テストコード
# ...
@mock_awsデコレータが重要です。このデコレータでラップされたメソッド内では、boto3を使用してAWSリソースにアクセスすると、実際のAWSではなくmotoのモックインスタンスにアクセスします。
DynamoDBリポジトリのテスト実装例
以下は、DynamoDBリポジトリクラスをテストするためのサンプルコードです：
import unittest
import boto3
import uuid
from moto import mock_aws
from database.dynamodb_repository import DynamoDBRepository
from datetime import datetime, UTC
import logging
# ロギングの設定
logging.basicConfig(level=logging.INFO)
logger = logging.getLogger(__name__)
class TestDynamoDBWithMoto(unittest.TestCase):
"""motoライブラリを使用したDynamoDBリポジトリのテスト"""
def _setup_dynamodb(self):
"""各テストで共通のDynamoDBセットアップを行うヘルパーメソッド"""
# DynamoDBリソースの初期化（motoによってモック化される）
dynamodb = boto3.resource(
'dynamodb',
region_name='us-west-2'
)
# テスト用テーブルの作成
table_name = "TestChatMessages"
table = dynamodb.create_table(
TableName=table_name,
KeySchema=[
{'AttributeName': 'conversation_id', 'KeyType': 'HASH'}, # パーティションキー
{'AttributeName': 'timestamp', 'KeyType': 'RANGE'} # ソートキー
],
AttributeDefinitions=[
{'AttributeName': 'conversation_id', 'AttributeType': 'S'},
{'AttributeName': 'timestamp', 'AttributeType': 'S'}
],
ProvisionedThroughput={
'ReadCapacityUnits': 5,
'WriteCapacityUnits': 5
}
)
# テーブルが作成されるまで待機
table.meta.client.get_waiter('table_exists').wait(TableName=table_name)
logger.info(f"Created test table: {table_name}")
# リポジトリの作成
repository = DynamoDBRepository(
table_name=table_name,
region_name='us-west-2',
endpoint_url=None
)
return dynamodb, table, repository
@mock_aws
def test_save_message(self):
"""メッセージ保存のテスト"""
# DynamoDBとテーブルをセットアップ
_, table, repository = self._setup_dynamodb()
# テストデータ
conversation_id = str(uuid.uuid4())
role = "user"
content = "これはmotoを使ったテストメッセージです"
# メッセージを保存
result = repository.save_message(conversation_id, role, content)
# 結果の検証
self.assertEqual(result["conversation_id"], conversation_id)
self.assertEqual(result["role"], role)
self.assertEqual(result["content"], content)
# 保存されたデータを直接取得して検証
response = table.get_item(
Key={
'conversation_id': conversation_id,
'timestamp': result['timestamp']
}
)
item = response.get('Item')
self.assertIsNotNone(item)
self.assertEqual(item['content'], content)
テスト実行のポイント
1. 各テストごとのセットアップ
motoを使用する場合、各テストメソッドごとにモックDBの状態がリセットされるため、各テストメソッド内でテーブルの作成と初期化を行うことが重要です。この例では、_setup_dynamodbヘルパーメソッドを使用して各テストメソッドで共通のセットアップを行っています。
2. mock_awsデコレータの使用
各テストメソッドには@mock_awsデコレータを付与します。このデコレータにより、そのメソッド内でのboto3の呼び出しが全てモック化されます。
3. テーブル作成の待機
テーブル作成後にtable.meta.client.get_waiter('table_exists').wait(TableName=table_name)を使用してテーブルが完全に作成されるのを待機します。これにより、テーブルが利用可能になる前にクエリが実行されるのを防ぎます。
よくある問題とその解決法
ResourceNotFoundException エラー
テーブルが見つからないというエラーが発生した場合：
- テーブル名が正しいか確認する
- テーブル作成後に待機処理を入れる
- 各テストメソッド内でテーブルを再作成する
テストデータが見つからないエラー
前のテストのデータが見つからない場合：
- motoはテストメソッドごとに状態がリセットされることを理解する
- 各テストで必要なデータをセットアップする
テストカバレッジの向上
motoを使用することで、実際のAWSサービスがなくても以下のようなテストができるようになります：
- 例外処理：接続エラーやタイムアウトなどのシミュレーション
- エッジケース：大量データの処理や特殊文字を含むデータの処理
- アプリケーションロジック：実際のデータアクセスパターンのテスト
まとめ
motoライブラリを使用することで、実際のAWSリソースを使わずにDynamoDBを含むAWSサービスのテストが可能になります。これにより、テストの実行時間の短縮やコスト削減、CI/CD環境での安定したテスト実行が実現できます。
本ドキュメントで紹介した手法を活用して、AWSサービスを利用するアプリケーションの品質向上に役立ててください。