これは、ビッグデータ関連のソリューションの導入を検討している企業の立場に立って書いたものです。なんでQiitaに、と思わなくもないですがMarkdownで長々かける場所がほかにないのでこちらに掲載しました。
ただ、これからビッグデータ関連の何かを売り出そうとしている人にとっては事例など参考になると思います。
ビッグデータが生む課題
ビッグデータとは、率直に言えば大量のデータである。これを抱える企業や機関が抱えている課題は、主に以下のようなものである。
- 容量の問題
大量のデータは、その保管場所(ディスク領域)の確保を難しくしている。これを解決したい。 - 速度の問題
大量のデータは、処理速度を遅延させる。これを高速化したい。 - 精度の問題
大量のデータは、求める情報の検索を難しくする。
例えば、この世に英単語が10個しかなかったら辞書のインデックスは不要である。大量のデータから求めるデータを抽出するには必然的に意味付け(インデックスの付与)が必要となる。
また、企業はせっかくためているデータを有効的に活用したいとも考えている。
よって、上記3点の課題とデータを有効的に活用できないかという課題、これらが企業がビッグデータに対して持つ課題となる。
課題へのアプローチ
ビッグデータが生む課題に対する解決策は、本質的には「捨ててしまう」か「なんとかする」の2つしかない。
これら2つの分岐点は、抱えている大量のデータは有効的に活用できるのか?の一点となる。使えないデータは捨ててしまえば特段のサーバー増設、機能追加なしに容量と速度の問題を一挙に解決する(例えばデータは3年分しか持たないなど)。
よって、ビッグデータに対するアプローチとしては、まずデータの有効性を判断することが第一歩となる。
ビッグデータの有効活用について
大量のデータを捨てるのではなく、有効的に活用している事例は多々ある。
ここでは、主に事例を中心としながら説明を行いたい。自社にとってピンと来るものがあれば、それは捨ててしまうには惜しいデータではないかということになる。ただ、ここでもどこまでの範囲のデータを活用するのかはしっかりと見極める必要がある。
ボトルネックの発見
品質管理におけるデータの活用は、データ活用の先駆けともいえる。QC7つ道具などはその手法の筆頭である。
- 村田製作所、生産工程の3000項目を比較 不良率を改善し先端製品で先んじる(日経BigData 2014年4月号 No.2)
- LG電子、トップダウンでデータ分析を推進 PDP部品の不良率を9割削減(日経BigData 2014年5月号 No.3)
このほかサプライチェーン領域(生産/在庫/物流管理)による活用も昔ながらに行われている。
- 東京ガス、タンカー配置や順回路を最適化 自由化を見据え、ビッグデータ活用も本格化へ(日経BigData 2014年5月号 No.3)
これらはいずれも、企業活動内におけるボトルネックの発見にデータを活用している事例となる。
自社内で歩留まりや返品、また納期遅延などの問題が顕在化しているのであれば、その解決のためにデータを活用できるだろう。
また、これを一歩進め「ボトルネックの発生を予知する」ことも今後は行われてくるだろう。つまり、機器が故障してから対応するのではなく、故障する前に対応してしまうことで機会損失を防ぐというようなことだ。 機器故障が致命的となる大規模なプラントを持つような産業(化学・鉄鋼、また電力会社など)では、この活用シーンが多いと思われる。
予測による付加価値の創出
アフターサービスが存在するような産業では、自社製品に関する情報を収集し活用することで付加価値の創出を行う取り組みも行われている。
- ダイキン工業 遠隔保守サービスデータを活用 空調機故障の予兆をつかむ(ビッグデータ総覧 SPECIAL)
- IT洗濯機で稼動データを集計・分析 ハイアール子会社がランドリー経営を支援(日経BigData 2014年5月号 No.3)
- 東芝がノートPCのHDD故障を"予知" 200万台の稼動データから壊れる固体を特定(日経BigData 2014年5月号 No.3)
これらは、従来の「顧客から問い合わせを受けてから」という受動的であった取り組みを一歩進め、先読みしてサービスを提供することで差別化・顧客満足度の向上を図るというものだ。
製品自体の性能やデザインでの差別化が測りにくく、サービスで勝負せざるを得ない場合は、このデータの活用方法は非常に有効になると思われる。
マーケティング
顧客をセグメントに分けそれに応じた商品を提案するという従来の手法は現在も有効である。
- タワーレコード キャンペーンで顧客を常に刺激 3割の優良層を維持・開拓(ビッグデータ総覧 SPECIAL)
- セブンのPB缶コーヒーいきなり大ヒット セブンカフェとの住み分けをデータで実証(日経BigData 2014年5月号 No.3)
これに加え、リアルタイムなデータも組み合わせたマーケティングが最近では行われている。
- 米Netflix社 時間帯やコンテンツ、端末を分析 家族ごとに最適なレコメンドを提示(ビッグデータ総覧 SPECIAL)
- 日本航空、サイト訪問者の行動を分析 海外ツアー商品の購買率を10倍に向上(日経BigData 2014年4月号 No.2)
- 日本交通、タクシー需要をリアルタイムに予測 実証実験を通じて乗車率の3割向上を目指す(日経BigData 2014年5月号 No.3)
Webマーケティングでは顧客がサイトを見ているその瞬間、またそうでなくても顧客の位置情報などを利用することで「買うか否か悩んでいる今その瞬間」にマーケティングを実施することが最近では可能になってきている。
- 米ディズニー社 リストバンドで圏内の顧客の動きや購買を把握(ビッグデータ総覧 SPECIAL)
自社で販売サイトを持つ場合、あるいは小売のように店舗を持つ場合は、上記のようなデータ活用を行うことで現在行っているマーケティングを一歩進めることができるかもしれない。
新たなビジネスの創出
自社内に蓄積されたデータそのものに価値を見出し、ビジネスとするということも行われている。
- クックパッド レシピ検索データ販売で1億円へ(日経BigData 2014年3月号 No.1)
- 日本調剤 処方箋分析で5年後に10億円(日経BigData 2014年3月号 No.1)
また、もしデータを保持しているだけでなくその分析も行っているのであれば、その情報をサービスとして配信することもできるだろう。
- 米FlightCaster社 本家たる航空会社より6時間早く航空便の遅延を「予報」 (ビッグデータ総覧 SPECIAL)
この点は顧客の匿名性が問題になることもあるが、自社のデータがノウハウとして販売するに値する価値を持っている場合、「ビッグデータ」そのものが商材となる可能性もあるのだ。
ビッグデータ活用の推進について
上記の中で、自社に適合するような事例がなければディスクを圧迫し業務処理を遅延させる大量データとは縁を切ったほうがよい。
ただ、もしそうでなければ捨てる前に上記の可能性を検討してもよいかもしれない。
ただ、データの解析には専門知識が必要であり、また大量データを扱う際も普通にやっていては処理が終わらないので特殊な技術を利用する必要がある。
これらはシステム、もしくは専門家の力を借りることになるが、重要なのは「ビッグデータを使って何をしたいのか」という目的をはっきりと持つことである。
なんとなくはやりだからやってみよう、では高いデータベースとコンサルタントに高額の支払いをして社内の営業なら誰でも知ってるような結論を得るだけのことになりかねない。
上記で詳細に事例を挙げ、活用できないならば捨てたほうがよいと指摘したのはそのためである。
自社の業態、顧客を見極め何をしたいのか明確にしたうえでそれに沿う協力者を選ぶことが最善のビッグデータの活用方法の第一歩となるだろう。
補足:ベンダ側のスタンスについて
サービスを提供するベンダ(SIerなど)にとってのビッグデータに関するビジネスは、以下2種類が考えられる。
- 企業のビッグデータ活用を支援する
- 自社でビッグデータの活用をする
1点目は、アナリストなどとしてデータ分析を直接的に支援する形態と、高速化/分散技術の提供により間接的にサポートを行う形態が考えられる。
直接的な支援は知識のほか企業内の人と同程度に業務に精通し、なおかつ機微なデータを扱わせてもらえるだけの信頼関係があることが前提なので、このはハードルは高い(逆に参入障壁が高いため共同研究/開発という形になると強い)。
間接的な支援はHadoop等の分散技術、カラム型/インメモリDBによる高速化、BIツールの導入による見える化の促進など多岐にわたるが、これらは「なぜ高速化するのか」「何を見せるのか」という目的がはっきりしなければ導入のメリットは薄く、ブームによる購買意欲の牽引ももはや限定的と思われる。
いずれにせよ「なぜ御社にそれが必要か」を答える必要があり、そうした意味ではやはり深い業務知識が求められる。
2点目は自社でデータを活用する方法であり、これは上記にあげたメリットを自ら享受するような形となる。
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ボトルネックの発見
プロジェクト管理ツールより課題やバグの情報を収集し、ボトルネックとなっている機能や仕様を特定する。また、工程管理(フェーズ)の情報から気をつけるべき点、顕在化しそうなリスクを通知するなど。これにより品質を向上させ、開発コストを下げる効果が期待できる。 -
予測による付加価値の創出
サーバー等のログから、不具合などを予測し事前に対応する。アプリケーションの利用ログからお勧めのプラグインを提案するなど、ハード/アプリケーション両面での活用が考えられる。 -
マーケティング
基本的にベンダはWebサイトでワンクリック購入できるような商品はあまり扱っていないので、この面での活用効果は薄いと思われる。ただ、自らBtoCのビジネスを手がけているなら可能性はある。 -
新しいビジネス
ベンダ側が売れるようなめぼしいデータを持っていることはまれだが、サービスを立ち上げることでデータを収集したり、解析技術を付加価値にするケースが考えられる(グノシーなどは後者の好例かもしれない)。
データ自体は自らが保持していない以上オープンデータを活用する手もあるが、逆に誰でも手に入るため差別化を図れる技術がないとこれをビジネスにするのは難しいと思われる。
そうした意味では、価値あるデータをあまり持たないベンダ側としては新しいビジネスとはコアとなる技術要素とセットであるといえるかもしれない。そのため大学と連携するといった取り組みも考えていく必要があるだろう。
参考資料
日経BigData(No 0/1/2/3) 日経BP社
ビッグデータ総覧SPECIAL 日経BP社