はじめに
はじめまして。ご覧いただきありがとうございます。
モチベーションクラウドシリーズ Advent Calendar 2019の17日目を担当する今野です。
私は今年の5月、エンジニアのマネジャーとしてリンクアンドモチベーションに入社しました。現在はモチベーションクラウドという製品で、日々奮闘しながらエンジニアチームをまとめる役割を担っています。
そんななかで、特に注力してきたのがプロダクトの品質向上でした。
当時は目玉となる新機能や細かな追加機能を次々にリリースしていたタイミングでしたが、より良い品質もまた大切にされるタイミングでもありました。
本稿では、どのようにして品質を向上する道筋を立てたのかをご紹介したいと思います。
読んでみてほしい人
- 品質に課題があるのはわかっているけど、どこから始めたら良いのか迷っている方
- 開発チームはがむしゃらに頑張っているけど、品質が上がらないと感じている方
そもそも品質って?
世の中では、数多のソフトウェア品質のメトリクスや方法論が語り尽くされていますよね。(可読性やら複雑度やら…)ただ、どうやって品質を計測するかを考える前に、品質というものを適切に認識するところからはじめてみるのがオススメです。かの有名な狩野モデル1によると、顧客との関係性において品質は次の3つの品質に分解できると唱えられています。
品質 | 顧客価値 |
---|---|
魅力的品質 | あると大きな満足をもたらす(なくても顧客満足度には影響しない) |
一元的品質 | あればあるほど満足をもたらす |
当たり前品質 | ないと大きな不満をもたらす(あっても顧客満足度には影響しない) |
- 「プロダクトの価値は常に顧客満足度から考える必要がある」
- 「3つの品質のいずれが欠落してもプロダクトの価値は逓減してしまう」
- 「これらのバランスを取ることがプロダクト開発の要である」
そこで、あらためて品質とはなにか考えてみると、次のように換言できると思います。
品質とは顧客価値そのものであり、魅力的な価値、一元的な価値、当たり前の価値の3つの総合力である。
品質向上の3ステップ
さて、品質を捉えなおしたところで、プロダクトの品質はどのように向上できるでしょうか。
今回、モチベーションクラウドの開発において私が意識してきたのは次の3ステップです。
- ビジネス戦略から強化する品質を選ぶ
- 強みと弱みの品質を知る
- 強化する品質を開発優先度に反映する
下記では、これらのステップ1から3までを順に追っていきたいと思います。
1. ビジネス戦略から強化する品質を選ぶ
プロダクト品質について語っているのに突然のビジネス戦略!(笑)
でも実はこれが一番大事だったりします。というのも、品質は資源さえ投下すればある意味無限に向上できてしまうのでキリがないのですね。ですから、私はまずビジネスの置かれた状況に応じて、どんな品質を追求するのかを明らかにすることがスタートラインだと考えています。
戦略と言ってもさっぱりという場合には、シンプルにアンゾフによる事業拡大のマトリクス2あたりを考えてみましょう。これは事業の拡大を、商品によってコントロールするのか、市場によってコントロールするのか、それとも両方なのかを図示したものです。例えば次のような感じ。
この概念に品質を組み合わせると、一例ですが次のように強化対象を選定できそうです。
- 従来商品×新規市場(市場開拓) → 当たり前品質 の強化
- 新規商品×従来市場(製品開発) → 一元的品質 の強化
- 新規商品×新規市場(多角化) → 魅力的品質 の強化
上記のフレームで弊社のモチベーションクラウドの事業を捉えてみると、既存のお客様にご安心いただきながら、多くのお客様に導入いただけるよう、まずは当たり前品質の強化が急務になるだろう、などと考える材料が得られるわけです。
2. 強みと弱みの品質を知る
次に、自社プロダクトにおける品質の傾向を分析してみます。
価値創出活動を担う企業では、多かれ少なかれどの品質に強いのか色が出てくるように思います。事業と組織の性質にもよると思いますが、例えば次のようなイメージだと想像しやすいのではないかと思います。
- 幅広く取引が行われている超大手企業 → 当たり前品質 に強い
- 信頼関係の強い固定顧客の多い中堅企業 → 一元的品質 に強い
- ビジネス開発に長けたベンチャー企業 → 魅力的品質 に強い
弊社の場合では、従来より組織のコンサルテーションの事業を手がけていることもあって、やはりお客様の声には敏感に反応していきたいと言う声が多いように思います。どうすればご満足いただけるか、逆にどうしないと不満足になってしまうかの感覚を企業として大切にしている感覚です。
このため、プロダクト開発においても一元的品質については感度が高い印象を持っています。一方で、プロダクト開発組織としてはまだ若い状況でもあるため、当たり前品質は意識的に取り組む必要があると考えられます。
3. 強化する品質を開発優先度に反映する
さて、目指すべき品質と強みや弱みが明らかになったら、あとは開発の優先度に落とし込むだけです。
ここでのポイントは、個別の開発案件を洗い出してから優先度を設定する前に、判断基準そのものを明文化してしまうことです。強化するべき品質に関わる内容ほど高レベルの優先度として表にしてしまいましょう。
表) 開発優先度の判断基準の例(当たり前品質の強化版)
レベル | 内容 | 強化品質 |
---|---|---|
Lv.1 | 全顧客に影響するシステムの停止を防ぐ対応 | 当たり前品質 |
Lv.2 | 一部顧客向けの機能不具合の対応 | 当たり前品質 |
Lv.3 | 新たな機能開発 | 一元的品質 |
... | 使いやすいUX | 魅力的品質 |
ここで設定したレベルを全ての開発案件の優先度判断に用いることで、おちついて確実に事業に貢献していくことができます。
開発優先度でよく困るのは、ビジネスサイドとの認識合わせや合意形成だったりしますがもう大丈夫!上記でビジネスの環境を織り込んでいるので、合意も容易で納得感の高い意思決定ができるはずです。
私たちの事例
この半年間モチベーションクラウドでは、既存のお客様の安心や新たなお客様への導入という事業状況、続々とリリースされる新機能の開発に伴って、当たり前品質の強化に努めてきました。
特に当たり前品質は積み重ねによって徐々に向上することもあり、すぐに効果を実感しにくい場面もあります。それでも、上記のような開発の判断基準を設けることで、やみくもにすべての問題に取り組むのではなく、一つ一つ解消して着実に品質向上を継続することができました。
その効果もあってか、ここ半年では数十件にのぼる影響度の大きい改善開発を、次々に実現することができるようになりました。基準を設けるという本施策が多少は功を奏してくれたのではとコッソリ喜んでいます。
まとめ
品質向上のためにまずできることとして、ビジネスの観点を織り込んだ強化品質の策定、開発優先度の判断可視化についてまとめてみました。入社半年ながら貢献できる場面があったことにホッとしていますが、それぞれの人材が持っているナレッジを生かして協業し、顧客価値に還元できる文化があったからこそ実現できたのではと思っています。
モチベーションクラウドは、あらゆる企業さまの組織改善に貢献することを目指して、これからもさらに高い品質を追求していきますので、ぜひとも今後の動きにもご期待ください!