はじめに
昨今、生成AIの急速な発展により、ソフトウェア開発の現場は大きな転換期を迎えています。本記事では、書籍「生成AIがもたらす開発プロセス革命」の概要を紹介しながら、これからのIT業界が直面する変革について考察します。
概要1:開発プロセスにおける生成AIの実践的活用
各開発フェーズでの活用方法
これまではコード生成時にアシスタントとして生成AIを使用することがメインでしたが、今後は開発のすべてのフェーズで生成AIが必要不可欠なものになります。
”上流から下流まですべての工程を自動化できる未来がやってくる”という見方もあります。
設計段階
- アーキテクチャの検討や設計レビューの壁打ち相手として活用
- 設計上の懸念点や考慮すべき点の洗い出し
- 設計代替案の提案と比較検討
プログラミング段階
- コードの自動生成による開発速度の向上
- 既存コードのリファクタリング提案
- ベストプラクティスに基づいたコード改善
テスト段階
- テストケースの自動生成
- テストコードの作成支援
- バグ修正時の回帰テストコード生成
概要2:生成AI(GitHub Copilot)導入による業務改善例
主要企業の具体的な成果
例えば、GitHub Copilotをいち早く業務に導入している企業では現時点で以下のような効果が現れています。
LINEヤフーの事例
Yahoo!アプリのAndroidチームでは、GitHub Copilotの導入により、エンジニア1人あたり1日1〜2時間のコーディング時間削減を達成しています。7000人規模のエンジニア組織での導入は、その効果の大きさを如実に示しています。
サイバーエージェントの驚異的な効率化
2024年8月のGitHub Copilot導入後、わずか30日間で300万行のコードを修正。これは約69万行の手修正を削減したことになり、人的リソースの大幅な節約を実現しています。
マネーフォワードのプロセス改善
Pull Request作成時間の12%短縮に加え、提案コードの採用率が約30%増加という具体的な成果を上げています。これにより、開発サイクルの加速化とコード品質の向上を同時に実現しています。
ZOZOのコスト効果
2週間という短期間の試験導入で、エンジニア1人あたり月約19ドルという投資で明確な生産性向上を実証。投資対効果の高さを示す好例となっています。
GitHub Copilot以外の様々な生成AI導入の効果に関しても書籍で多くの事例が紹介されています。
概要3:システム開発内製化の潮流
内製化による影響
従来システム開発を外注していた企業が、生成AIを活用して開発の内製化に移行し始めているという内容が記載されています。これにより、SIerに代表される受注企業には以下のような影響が予想されます。
受託開発案件の減少
生成AIの導入により、企業はコーディングや設計の一部を自動化し、エンジニアのリソースを大幅に削減できるようになります。これにより、従来SIerに発注していた開発規模の縮小や機能改修の案件が減少する可能性があります。
SIerの役割の変化
内製化が進む中で、SIerは従来の「開発請負業者」としての役割を変えていく必要が生じます。
例えば、以下のような新しいサービスが考えられます。
- 企業のAI活用を支援するAIコンサルティング
- 内製化された開発プロセスを最適化するサービス
- 企業が内製するためのトレーニング支援
高度な技術力を持つSIerは優位に
生成AIを活用すれば、単純なコーディング業務の価値は相対的に低下します。
逆に、生成AIでは対応しきれない
- 複雑なアーキテクチャ設計
- システム全体の最適化
- 高度なセキュリティ対策
- 高いトラフィックに対応するパフォーマンスの実現
といった領域に関するより 高度な技術力を持ったSIerは競争力を向上させていく と考えられます。
概要4:エンジニアに求められる新しい能力
書籍内で紹介されている各企業の重役からは、これからのエンジニアに求められる能力が大きく変わることについて繰り返し述べられています。
今後、重要視される個人の能力として、
- 生成AIを効果的に活用するスキル
- 生成AIを用いた問題解決能力
- ビジネス課題を技術で解決する能力
- コミュニケーションスキル
などが紹介されています。
危機感と展望:一エンジニアの視点から
私自身、現在の所属企業では生成AIの活用が進んでいない状況を目の当たりにし、本書を読んで大きな危機感を覚えました。上記の事例が示すように、生成AI活用企業と非活用企業の間で生まれる生産性の差は、想像以上に大きくなることが予想されます。
特に注目すべきは、これはもはや 「導入すべきか否か」という選択の段階ではなく、「いかに効果的に活用するか」というフェーズ に移行していることです。個人レベルでも、生成AIを使いこなせるエンジニアとそうでないエンジニアの間で、劇的なパフォーマンスの差が生まれることは必至でしょう。
まとめ
本書が示す具体的な成功事例は、生成AIがもはや実験的な技術ではなく、実務で確実な価値を生み出す段階に達していることを証明しています。 個人や組織が、この技術変革の波に乗り遅れないためには、積極的な学習と適応が求められます。
特に以下の点に注目して行動を起こすことを推奨します:
- 個人レベルでの生成AIツールの積極的な活用
- 組織レベルでの生成AI導入の検討と推進
- 継続的な学習による生成AI活用スキルの向上
- ビジネス課題に対する生成AIを活用した解決策の提案
参考文献
- 「生成AIがもたらす開発プロセス革命」(日経BP社、日経クロステック、2024年12月5日)