アカデミー8期生、大学院6期生の林洋介です。
本日は今の自分の興味について書きます。
ニューヨーク大学ITPコースの教員であるRune Madsenによる「ON META-DESIGN AND ALGORITHMIC DESIGN SYSTEMS」という記事があるのですが、自分が研究してきた領域や問題意識と重なる部分が多く、ここ数年動向を追っています。
メタ-デザイン1とは何でしょうか?
記事から引用すると、
伝統的なデザイナーはそのものを直接デザインします。ロゴ、ウェブサイト、ポスターなど、デザイナーが手を動かすことで、最終成果物ができあがります。メタ-デザイナーはこの作業を蒸留し、デザインシステムに落とし込む人を指します。
とのことです。
こういった動き自体は新しくないと断りつつ、メタ-デザインが今日のデザインにおいて面白い理由として、
- デザイン製品がますますダイナミックになり、静的なプロトタイプをベースにしてデザインを保つことが難しくなってきたこと
- プログラミングを自然に使いこなすデザイナーが沢山でてきたこと
- アルゴリズミックなデザインツールの環境が整ってきたこと
- デザインの歴史の中で、システムが重要な位置を占めていること
を挙げています。
よく「デザイナーはプログラミングを身につけるべきか?」あるいは「プログラマーはデザインを勉強するべきか?」という議論がなされます。ほとんどの場合は業務上のコミュニケーションがいかに円滑になるかを争点にしていますが、彼が重要視しているのはそういうことではありません。コードを書くデザイナー(あるいはデザインするプログラマー)によって、会社の文化までも変えてしまえると主張しています。
2015年に書かれた記事ということもあり、内容はロゴの自動生成だったり、Googleのマテリアルデザインを始めとするデザインシステムを例に挙げていますが、2017年現在は少し状況が変化していて、感覚的には1.と4.の影響が強くなっているように思います。彼自身もデザインシステムに対する批判をしていたり、グラフィックデザインの歴史を踏襲しつつ、コードでデザインシステムを作る本を執筆しています(p5.jsを使用)。
この流れで個人的に衝撃だったのはNetflixが番組のアートワークをパーソナライズしていたことです。つまり、同じ作品でも人によって全く違うアートワークを見ている可能性があるのです。たびたび「海外映画の日本版ポスターがださい」という話題が盛り上がり、「元のデザインを尊重するべきだ」とか「ターゲットに合わせたデザインを作るべきだ」という意見を目にします。ここで止まらずに「じゃあそれぞれの好みに近づくようにめちゃくちゃパターンを作ってユーザーごとに最適化しよう」と考えたのがNetflixです。
FlipboardのレイアウトエンジンやThe Grid、Adobe Senseiなど、アルゴリズムや機械学習でデザインを自動化する動きは既に数多くあります。これらは「デザイナーが良しとするデザイン」をいかに補助するかというアプローチで、ベストなデザインは最終的にデザイナー及び提供者側が決めます。しかしNetflixの場合はそれと逆方向で、ベストなデザインはユーザーの行動によって決定されます2。ユーザーが過去に鑑賞した作品の反応をもとに、表示される俳優も変化します。コメディをよく観ていればコメディの俳優が、好きな女優がいればその女優が入ったアートワークになります(実際はもっと複雑だそうです)。現状は美学的にもテーマ的にもバリエーションが出るように、デザイナーが手作業でパターンを作っているみたいですが、いずれここも自動化されるでしょう。
デザイナーの力を拡張するにせよ、ユーザーの判断に任せるにせよ、今後はこのようなデザインの仕組み作りに関わる仕事をしていきたいです。UIデザインと呼ぶには細かく、UXデザインと呼ぶにも気づきにくい。その一方で影響範囲は大きい。まだデザインと呼ばれていない、次のレベルのデザイン。それがメタ-デザインを通して見えてくるのではないか、と思っています。