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数理ファイナンス入門: 無裁定とプットコールパリティ

Last updated at Posted at 2024-10-31

Abstract

無裁定(リスクなしで儲ける手段は存在しない)を公理として認めると、
「一物一価の法則」と「単一金利定理」(市場の銀行預金の金利はただ一つに定まる)を導けることをしめす.
また、同一の行使価格のコールオプション・プットオプションについて、単一金利定理と無裁定原理を適用し、「プットコールパリティの等式」を導出する.

裁定

$Val_{t}(X)$を時刻$t$における$X$の価値(つまり、金融商品$X$を買うときに払うお金)とする.
いま、期首を$0$,満期を$T$として、$t \in \{ 0,T \}$とする.

裁定とは、金融商品$X$が存在して「$Val_{0}(X) \leq 0$ かつ$Val_{T}(X) > 0$」を満たすことをいう.

(砕けた言い方をすれば、確率1で儲けることができること、をいう)

無裁定原理

次を公理とする
[無裁定原理]
任意の金融商品$X$について裁定は生じない $\dots (1)$
($\Leftrightarrow$ 任意の金融商品$X$について「$Val_{0}(X) > 0$ または$Val_{T}(X) \leq 0$」 $\dots (1)'$)

一物一価の法則

(1)より次が言える(証明は省略):
[一物一価の法則]
任意の金融商品$X,Y$について「$Val_{T}(X) = Val_{T}(Y) \Rightarrow Val_{0}(X) = Val_{0}(Y) $」 $\dots (2)$

ペイオフが同じ金融商品同士は、現在価格も等しいことを言っている.

単一金利定理

市場の銀行を全て集めた集合を$G$とし、$i \in G$の貸し出し金利を$R_i$とする.
[単一金利定理]
$R_i = R_j (\forall i,j \in G)$

(証明)
$R_i \neq R_j$と仮定して背理法により示す.
「銀行$i$が発行する額面10万円の銀行預金」を$X_i$,
「銀行$j$が発行する額面10万円の銀行預金」を$X_j$
とする.
$X_i,X_j$の現在価格は
$(Val_{0}(X_i),Val_{0}(X_j)) = (\frac{1}{1+R_i} Val_{T}(X_i),\frac{1}{1+R_j} Val_{T}(X_j))$
である.
ここで$Val_{T}(X_i) = Val_{T}(X_j)$と仮定すると、すぐ上の式と背理法の仮定より$Val_{0}(X_i) \neq Val_{0}(X_j)$となり、一物一価の法則(2)に矛盾.
したがって、$R_i = R_j$ □

つまり、市場の貸し出し金利はただ一つの値$R \in [0,1]$に定まる.

プットコールパリティ

いま、市場に原証券として「マイクロソフトの株」「金利」があるとし、さらにマイクロソフトの株についてのコールオプションとプットオプション、合計4個の金融商品のやりとりについて考える.

[マイクロソフトの株]
マイクロソフトの株の価値を$S_t$とする.$t=0,T$のみ考えているので、現在価値が$S_0$、期末価値が$S_T$である.
[金利]
単一金利定理より、市場の貸し出し金利はただ一つであり、それを$R$とする.
[コールオプションとプットオプション]
マイクロソフトの株から派生したコールオプションとプットオプションを考え、それぞれ$Call$,$Put$とする.
簡単のため,行使価格を同一とし、$K$と置く.
コールオプションの現在価値(契約時の売値)を単に$C$と書く. つまり、$Val_{0}(Call) = C$とする. 満期の価値は$Val_{T}(Call) = \max(S_T - K,0)$である.
同様にプットオプションの現在価値を単に$Val_0(Put)=P$と書く.満期の価値は$Val_T(Put)=\max(K - S_T,0)$.

いまから、上述の一物一価の法則を用いて、$K,R,C,P,S_0$の間に成り立つ等式を導出することを考える.具体的には、金融商品として後述の2つのポートフォリオ$A,B$を考え、これらに一物一価の法則の命題「$Val_{T}(A) = Val_{T}(B) \Rightarrow Val_{0}(A) = Val_{0}(B) $」を適用する.

ポートフォリオA : コールオプションを買って、銀行からお金を借りる

ポートフォリオAは以下の2つの金融商品の組み合わせである:

  • A1: $C$円を払って上記のコールオプションを買う.
  • A2: 銀行で「年利$R$,額面$\frac{K}{1+R}$円の銀行預金(債券)」を購入する

A2は、1年後の価値が$K$に等しくなるように銀行にお金を預ける=現在価値$\frac{K}{1+R}$円を銀行に預ける、ということを考える.
すなわち「年利$R$,額面$\frac{K}{1+R}$円の銀行預金」を購入する.(同額の債権を購入すると考えても良い)

ポートフォリオB:プットオプションを買って、マイクロソフトの株を買う

  • B1: $P$円を払って上記のプットオプションを買う
  • B2: 単純にマイクロソフトの株を$S_0$円分買う

価値の推移

各ポートフォリオの価値の推移は以下のとおりである

A t=0 t=T
価値 $C+\frac{K}{1+R}$ $\to$ $\max(S_T - K,0) + K$
B t=0 t=T
価値 $P + S_0$ $\to$ $\max(K - S_T,0) + S_T$

満期価値の一致による現在価値の一致

ここで、
$ \max(S_T - K,0) + K = \max(K - S_T,0) + S_T = \begin{cases} S_T & (S_T \geq K) \\ K & (K \geq S_T) \end{cases} $
であり、ポートフォリオA,Bの満期価値が一致する。よって一物一価の法則により現在価格も一致するから、(価値推移表から)
$C+\frac{K}{1+R} = P + S_0$

が成り立つ. これが、プットコールパリティである.

まとめ

  • 無裁定原理を公理として置く
  • 無裁定原理から一物一価の法則が従う
  • 一物一価の法則から単一金利定理(市場に金利は単一)が従う
  • 単一金利定理のもと、市場の単一の金利を$R$とする
  • 株とそのコールオプション・プットオプションの現在価値、行使価格を$S_0,C,P,K$とする
  • 上記の金利、株、そのコール・プットオプションを組み合わせて2種類のポートフォリオA,Bを上手に構成して、一物一価の法則を適用する
  • プットコールパリティ$C+\frac{K}{1+R} = P + S_0$が従う
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