導入
はっきり言おう。僕は英語が苦手だ。
そもそも僕は日本人だ。できるならば日本語だけを読んでいたいし、日本語だけを書いていたいと思っている。
でも僕は同時にIT技術者だ。ITの世界では英語情報が正義であり、奴は公式ドキュメントに、技術記事に、質問サイトに、OSSのリポジトリに、そこかしこに潜んでいる。つらい。
まあ読むのはまだいい。書くのはもっと嫌いだ。でもUIを作るとき、マニュアルを書くとき、サポート対応をするとき、奴はことあるごとに僕に書くことを要求してくる。とてもつらい。
そんな自称英語苦手エンジニアな僕だが、実は職場では英語チョットデキルエンジニアみたいな扱いを受けている。そのおかげで余計英語を書く機会が増えてつらい思いもしている。
これはひとえに英語と悪戦苦闘するうちに身についた考え方やノウハウのおかげだと思うので、全国に10億人ぐらいいるであろう英語全然ワカランエンジニアにとって多少なりとも役に立てばと思い、今回記事としてまとめてみることにした。
書くよりも先に身に着けるべき習慣
「書くときに考えること」と言いつつ書くこと自体の話ではないのだが、自分が英語を極端に得意だという自信がないのであれば必ず踏むべきステップがある。それは検証だ。
そもそも僕らはなぜ英語を単に「知らない」ではなく「苦手」と感じるのだろう。それは英語が単なる知識ではなくコミュニケーションの道具であり、そこには相手が存在するからだ。
正しいコミュニケーションは人間関係を円滑にもするし、間違ったコミュニケーションは人間関係を壊すこともある。僕たちは間違った英語によるコミュニケーションで、関係を壊すことに恐怖しているのだ。
Fear is the path to the dark side. Fear leads to anger. Anger leads to hate. Hate leads to suffering.
「恐れはダークサイドに通じる。恐れは怒りに、怒りは憎しみに、憎しみは苦痛へ。」
マスター・ヨーダ (スターウォーズ エピソード1 ファントム・メナス より)
つまり、この「間違いに対する恐怖」を取り除くことが英語と付き合うための第一歩となる。そのための手段が検証なのだ。
どう検証するか
ではどうすれば検証ができるのか?
それは簡単だ。自分よりも英語に強い存在に任せればいい。
[最強] 強い人に頼む
そもそも周りに英語メッチャデキル人がいるのであれば、その人に添削してもらうのが一番良い。特に細かいニュアンスの問題になると、後述の方法だけではどうしても検証しきれない点が出てくるので、ネイティブやそれに類するレベルの人が周りにいるなら、酒を奢ってでも友達料を払ってでも仲良くしておこう。
まあ、そんな人が常に近くにいるケースの方が少ないと思うし、実際のところネイティブレベルでの検証をしなくても大概は伝わる英語になるのでこの手段に頼れなくても悲観する必要はない。
[準最強] Google翻訳を使う
人材に恵まれていてもいなくても使える手段。それは Google翻訳 だ。この愛すべきツールは年々優秀さを増しており、特に英語から日本語の翻訳に関しては非常に高い信頼性がおける道具になっている。
もちろん自動翻訳である以上完璧ではないが、 明らかに間違っている英語 は違和感のある翻訳結果を産むことが多く、自分の書いた英語の正しさに一定の保証を与えるには十分なツールと言える。
「英語を書いたらGoogle翻訳」
これは自作英文を世に送り出す上でのルーチンとして是非お勧めしておきたい。
持つべき心構え
検証の話とは別に、書く前に1つだけ意識した方が良いことがある。
それは 100点満点を目指さない ことだ。
そもそも今我々に求められているのは俗に言う Global English であり、 American English や Queen's English が求められているわけではない。このとき大事なのは「正しいこと」ではなく「伝わること」だ。
例えばこんな話を聞いたことがあると思う
海外旅行に来た僕は、タクシーを利用しようとホテルの従業員にこう言った
"Call me taxi."
そして従業員はこう返した。
"Hello, Mr. taxi."
要するに「タクシーを呼んでください」は Call me a taxi.
で、 Call me taxi
は「私をタクシーと呼んでください」という意味になるという笑い話だが、実際のところはこの程度の間違いをしても9割以上の人はタクシーを呼んでくれるだろう。
人間はコンピューターほどの厳密さがない代わりに物事を推定する能力を持っているので、仮に何かが間違っていても、そのときの状況から「察する」できる。なので特別に揚げ足取りが大好きな人でなければ、素直にタクシーを呼んでくれる人が実際にはほとんどだろう。
なので、100点満点ではなくとも90点、80点の英語を書くことができれば、大概の場合は十分に事足りるのだ。
もちろんこれは状況次第であるし、厳密さが求められるシーンもあるので注意は要る
なお余談だが、上記のケース自体は Google翻訳で検証 するだけで防ぐことができる。
書く上で考えること
ここからはいよいよ英文を書くときの話に移る。
考えることは多岐にわたるが、どれだけ英語慣れしているかで考えられることが変わってくると思うので、大まかにレベル分けをしてみることにする。
Level 0
そもそも英語を書けないなら書かなければいいのだ
そもそも英語を書かなくてよい可能性を考える
扱っている製品は海外をターゲットとしているのか?
英語圏のユーザーに受け入れられる造りをしているのか?
そういったことをあたらめて考えてみると、そもそも英語が不要と言う結論が導かれることがある。これが一番平和だし、コストがかからないし、心を病まなくて済む。
まあそんなことが通らないからこの記事を書いてるのが現実であって、ただの心理的悪あがきとも言える。
自動翻訳に任せる
英語と真面目に付き合う気が全くないのであれば 文明の利器 に頼りきるのも良い。個人的には 英語 -> 日本語 と比べると 日本語 -> 英語 の翻訳は精度が落ちる印象を持っているが、それでもある程度伝わる英語は出てきやすい。
もちろん、自分で英語を頑張って書きたい!という場合でも自動翻訳の結果をもとにブラッシュアップしていくのは十分に良い手段と言える。どちらにせよ、 自動翻訳の結果も逆翻訳によりきちんと検証してみる ことは大切なので忘れないようにしたい。
Level 1
主語と述語を先に書く
あきらめたら、そこで試合終了だよ
有名なスポーツ漫画の台詞である。仮にこれを英語で書くのであれば何から考えるだろうか。「あきらめる」を辞書で弾くことから始めるだろうか。
英語と日本語ではそもそも語順が違う。日本語は枝葉の説明が先に来るのに対し、英語ではとにかく主語と述語が先に来る。欧米は日本と違って過程よりも結論を先に述べる文化なので、この最初に来る主語と述語はとにかく大事だ。
では先の台詞の主語と述語はなんだろう?
それは「試合終了」、つまり「試合が終了する」ということだ。
Game ends.
これで書き出しは決まった。残りは「あきらめたら」の部分だ。
「あきらめる」は日本でも良く言うように give up
だ。
文章のニュアンスとしては「あきらめた『とき』試合は終了する」と考えることができるので、
Game ends when give up.
実のところこの英文は70点ぐらいの出来といえるが、これは十分に伝わる文章になっている。検証してみよう。
とにかく主語と述語さえはっきりさせてしまえば、残りはある程度雑でもなんとかなるものだ。
Level 2
訳しやすい日本語をつくる
先の翻訳を行うとき、さりげなく下記のように述べた。
文章のニュアンスとしては「あきらめた『とき』試合は終了する」と考えることができるので、
つまり「あきらめたら」をそのまま扱わずに、ほぼ同じニュアンスの別の表現に置き換えたわけだ。この考え方はとても使える。
例えば先の台詞なら、
もし君があきらめたら、試合は終わります
と書き換えることもできる。すると素直に
If you give up, then game ends.
と訳すことができる人は多いだろう。
また、
君が諦めた時が試合終了の時だ
と書き換えてみれば、
The time when you give up is the time when game ends.
と訳すこともできるかもしれない。
もっと極端に考えるなら、安◯先生が言いたいのは要するに
諦めるな!
ということなのだから
Never give up !
と訳したって大事なことは伝わるはずだ。
難しいことを頑張って訳すよりも、訳しやすい日本語を考える方が遥かに簡単なのである。
Level 3
英文法を味方につける
「英文法」と聞いて萎縮してしまう人はいるかもしれない。でも特に理系の人にとって、文法は大きな武器になり得るのだ。
例えば先の
Game ends when give up.
と言う英文において、 when
が「接続詞」だということを知っていればその後ろは従属節であり、そちらにも主語と述語が必要となることがわかる。その結果、
Game ends when you give up.
というより正しい英文に辿り着くことができる。
このように文法を用いると英文を論理立てて組み立てることができるため、自分の書いた英文に説得力が生まれ、自信に繋がっていく。
まあ我々は受験生をやるわけではないのだから、便利なものをいくつか知っておくだけでいい。
例えば 5文型 がそうだ。
5文型について知る
便利なので少し詳しく触れておく。
SVOとかSVOCみたいなやつ、と言えば思い出す人が多いと思うが、英語の文の形を5種類に分類したものが5文型だ。
すなわち主語(S)、動詞(V)、目的語(O)、補語(C)の組み合わせで
- SV
- SVC
- SVO
- SVOO
- SVOC
という5通りの形に分類できる、という考え方だ。
これを理解できると一番良いのだが、難しければとりあえず1つずつ例文を覚えておくのがお勧めだ。あとは例文から単語をあれこれ置き換えてみれば、破綻しない英文を作りやすい。
Level 4
単語のニュアンスを意識する
個人的に思うこととして、英文を書くだけなら単語をたくさん覚える必要はない。いまどき日英辞書・英日辞書はオンライン上でいくらでも見つかるわけで、わからなければ調べればいい。
ただ、1つの単語を見つけて満足するのは少し危険だ。日本語の単語と英単語はかならずしも1対1対応するわけではなく、そこにはパッと見ではわかりにくいニュアンスの差があるものだ。
まあ全てに気を配らなくても大概は伝わるのだが、 動詞 に関しては文章全体のニュアンスに関わるので注意深く扱う方が良い。例えば今使った「扱う」という言葉に訳せる英単語は
- handle
- deal
- treat
- sell
など多岐に渡り、それぞれニュアンスは全く異なる。
出来るだけ正しいニュアンスの単語を選ぶコツとしては
- とにかく選択肢を洗い出す
- 類語辞典 ( 例 ) を使う
- 元の言葉の類語を日英辞書で調べる
- 英日辞書で1つずつ調べ、例文を参考に明らかにニュアンスの異なるものを除外する
- 「◯◯ vs ××」 でググる
といった流れを踏むのが良い。
Level 5
位置関係をイメージする
一気に抽象的な話になってしまうが、英文を書くときに時間的・空間的な位置関係をイメージできると、より良い文章を書く助けになることがしばしばある。
例えば先ほどの
Game ends when you give up.
という英文だが、「ゲームが終わる」ことと「あきらめる」ことには因果関係、すなわち時間的な前後関係がある。
先に行われるのはもちろん「あきらめる」ことであるからこれはゲームが終わるよりも1段階過去の出来事だと表現した方がイメージしやすい。すなわち、
Game ends when you gave up.
と過去形にするとよりそれらしい英文になる。
同様の結論は文法によるアプローチでも辿り着くことはできるのだが、頭の中にイメージを描くことでより感覚的に、自然に英文を紡ぎ出すことが出来るようになる、かもしれない。
さいごに
妙に偉ぶった文章を書いてしまったのでここからは少し力を抜いて・・・
今年は英文を書く機会が妙に多かったので、個人的に意識しているノウハウを軽くまとめてみようと書き始めてみた記事ですが、思いのほか考えていることが多くて、書いていたらどんどん長くなってしまいました。書こうと思えばまだまだ書けることはあります。
記事を形にしてみて、改めて一番大事だな、と思うのは最初の方で書いた
「間違いに対する恐怖」を取り除くこと
で、これは検証の話をするために言ったことではあるけれども、その後に書いたノウハウも結局は「自分の書いた英文が間違ってるのでは」という感情を否定するための材料になっています。
この記事にはあくまで僕の方法論を書いてみましたが、「ただがむしゃらに英語を書くのではなく、自分なりのセオリーを用意して自信をつけていく」ことが一番大切なのだと思いました。
長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。
もしこの記事を読んで「私はこんなことを考えてるよ」みたいなノウハウがあれば、是非教えてください。