LLM(大規模言語モデル)の推論APIでは、レイテンシー(応答時間) が重要な指標となります。特に、リアルタイム応答が求められるアプリケーション(チャットボット、音声アシスタント、検索エンジンなど)では、レイテンシーを最適化することが不可欠です。
本記事では、p95レイテンシーとは何か?遅いと判断される基準、改善方法 について詳しく解説します。
1. p95レイテンシーとは?
レイテンシーの基本概念
レイテンシーとは、リクエストが送信されてからレスポンスが返るまでの時間(遅延)を指します。一般的な指標として、平均レイテンシー(Average Latency) だけでなく、パーセンタイルレイテンシー(Percentile Latency) が使用されます。
p95 Latency とは?
- p95レイテンシー(95th Percentile Latency) とは、全リクエストのうち 95% がこの時間以内に処理される ことを意味します。
- 例えば、p95 レイテンシーが 300ms なら、「95%のリクエストは300ms以内に処理されているが、5%のリクエストはそれ以上かかっている」という意味です。
- p50(中央値)よりも、システムの最悪ケースに近いレイテンシーを把握するのに適している。
指標 | 意味 |
---|---|
p50 | 50% のリクエストがこの時間以内に処理される(中央値) |
p75 | 75% のリクエストがこの時間以内に処理される |
p95 | 95% のリクエストがこの時間以内に処理される |
p99 | 99% のリクエストがこの時間以内に処理される(ほぼ最悪ケース) |
2. どの程度のレイテンシーなら「遅い」のか?
ユースケース別の理想的なレイテンシー基準
ユースケース | 理想的なp95レイテンシー | 許容範囲 |
---|---|---|
チャットボット(会話型AI) | < 500ms | 1秒以内 |
検索エンジン | < 200ms | 500ms以内 |
ストリーミング(字幕生成など) | < 300ms | 700ms以内 |
バックエンドバッチ処理 | 数秒〜10秒 | 15秒以内 |
高精度なLLM推論(要約・翻訳) | 1〜2秒 | 5秒以内 |
1秒を超えると体感的に「遅い」と感じられ、5秒を超えるとユーザーが離脱する可能性が高まる。
レイテンシーが高くなる主な要因
✅ モデルサイズが大きい(例:GPT-4 > GPT-3.5)
✅ トークン生成速度が遅い(1秒間に生成できるトークン数が少ない)
✅ 入出力のデータ転送が遅い(ネットワーク遅延)
✅ 推論時のバッチ処理が適切でない
✅ GPUのリソースが不足している
✅ 非効率な並列化(Multi-GPU, Multi-Nodeが活用されていない)
3. 推論APIのレイテンシー改善策
(1) モデルの軽量化
- 量子化(Quantization)を適用(例:FP32 → INT8)
- モデルの蒸留(Distillation)
- LoRA(Low-Rank Adaptation)でパラメータ数を削減
(2) バッチ処理の最適化
- 複数リクエストをまとめて処理(Batch Inference)
- 適切なバッチサイズを設定(例:バッチサイズが小さすぎるとGPUがアイドル、大きすぎるとオーバーヘッド)
(3) GPUの最適化
- 高性能なGPUを利用する(例:A100, H100)
- GPUのメモリ使用量を最適化(Efficient Memory Allocation)
- TensorRT・ONNX Runtime などの推論最適化ツールを導入
(4) 分散推論(Multi-GPU / Multi-Node)
- DeepSpeed / Tensor Parallelism を活用
- Inference Server(vLLM, Triton, Ray Serve)を導入しスケールアウト
(5) キャッシュの活用
- 過去の推論結果をキャッシュ(Redis / Memcached)
- トークンキャッシング(KVキャッシュ)で一部の計算を省略
(6) Kubernetes + HPA の活用
- トラフィックに応じた動的スケールアウト(HPA)
- VPA を併用し、各 Pod のメモリ・CPU 割り当てを最適化
4. まとめ
p95 Latency の重要ポイント
- p95レイテンシーとは「95%のリクエストがこの時間以内に処理される」指標
- 平均レイテンシーよりも、最悪ケースのパフォーマンスを知るために重要
推論APIのレイテンシー最適化のポイント
✅ モデルを軽量化(量子化・LoRA)
✅ バッチ処理の最適化(適切なバッチサイズを選定)
✅ GPUの高性能化 & メモリ最適化
✅ 分散推論(Multi-GPU / Multi-Node)
✅ キャッシュ(Redis / KVキャッシュ)を活用
✅ KubernetesのHPA/VPAでリソース管理を自動化
LLMの推論APIを最適化することで、ユーザーの体感速度を向上し、UXを大幅に改善 できます。適切な手法を活用して、最適なパフォーマンスを実現しましょう!