1. はじめに
近年、大規模言語モデル(LLM)の発展に伴い、計算コストやメモリ消費が課題となっています。その中で 動的スパース化(Dynamic Sparsification) は、計算負荷を削減しながら精度を維持する技術として注目されています。
本記事では、動的スパース化の概念、Sparse Attention の最適化方法、そして DeepSpeed
の Sparse Attention
を活用した効率的な計算手法について解説します。
2. 動的スパース化(Dynamic Sparsification)とは?
2.1 スパース化とは?
スパース化(Sparsification) とは、不要な計算を省略することで、モデルの計算コストを削減する技術です。通常の Transformer モデルでは、全トークン間の Attention を計算する必要があり、計算量は O(n^2)
に増大します。
スパース化では、
- 不要なトークンの計算を省略
-
重要なトークンのみを選択的に計算
することで、計算コストをO(n log n)
やO(n)
に削減することが可能です。
2.2 動的スパース化とは?
動的スパース化(Dynamic Sparsification) は、モデルの学習時や推論時に、
-
データに応じて動的に重要なトークンを選択し、Attention の計算を行う
という手法です。
静的なスパース化ではあらかじめ固定されたパターン(例: ローカルウィンドウ、ストライドパターン)を用いますが、動的スパース化では データの特徴に応じてスパース化のパターンが変化 します。
例えば、文章の冒頭や重要なキーワードは計算を維持し、関連性の低いトークンは計算を省略 するといった適応的な手法が可能です。
3. Sparse Attention の活用
3.1 Transformer の計算コスト問題
通常の Transformer
は 全トークン間の相互作用(Dense Attention) を計算するため、計算コストが O(n^2)
になります。
これを改善するために Sparse Attention が導入されました。代表的なものとして、
- Longformer (Sliding Window Attention) : ローカルウィンドウを使って近傍のトークンのみと相互作用。
- BigBird (Random + Global Attention) : 一部のトークンのみをグローバルに計算し、ランダムサンプリングを適用。
- Reformer (Locality-Sensitive Hashing) : 類似トークンをグループ化し、計算量を削減。
- Sparse Transformer (Strided + Fixed Pattern) : 事前に決められたパターンで計算をスキップ。
3.2 DeepSpeed の Sparse Attention
DeepSpeed は、Microsoft によって開発された大規模分散学習ライブラリであり、Sparse Attention を最適化する機能を備えています。
DeepSpeed の Sparse Attention
の特徴:
- 選択的なトークンのみを計算(Dense Attention ではなく、一部のトークンを選択)
- GPU メモリ使用量を削減(計算コストを削減)
- 計算負荷を O(n) に近づける Sparse パターン
特に、
DeepSpeed-Sparse Attention
-
DeepSpeed-Zero Offloading
と組み合わせることで、大規模な LLM を効率的に動作 させることができます。
4. Sparse Attention の実装例
4.1 PyTorch + DeepSpeed を活用した実装
以下は、DeepSpeed の Sparse Attention を活用した PyTorch の実装例です。
import torch
import deepspeed
from transformers import LongformerConfig, LongformerModel
# Longformer のコンフィグ(Sparse Attention 設定)
config = LongformerConfig(
attention_window=512, # スライディングウィンドウサイズ
hidden_size=768,
num_attention_heads=12
)
# モデルの初期化
model = LongformerModel(config)
# DeepSpeed の有効化
device = torch.device("cuda" if torch.cuda.is_available() else "cpu")
model = model.to(device)
model, optimizer, _, _ = deepspeed.initialize(
model=model,
model_parameters=model.parameters()
)
# 入力データ(ダミー)
input_ids = torch.randint(0, 30522, (1, 1024)).to(device)
attention_mask = torch.ones_like(input_ids).to(device)
# モデル推論
outputs = model(input_ids, attention_mask=attention_mask)
print(outputs.last_hidden_state.shape)
このコードでは、Longformer の Sparse Attention を DeepSpeed を用いて最適化 し、大規模な入力を効率的に処理できるようにしています。
5. まとめ
動的スパース化(Dynamic Sparsification)のポイント
✅ 重要なトークンのみを選択的に計算 し、計算コストを削減する
✅ Sparse Attention を活用し、O(n^2) から O(n) へ最適化
✅ DeepSpeed を活用することで、GPU メモリ消費を大幅に削減
✅ Longformer、BigBird などの手法と組み合わせると効果的
今後の展望
動的スパース化は、大規模な LLM の計算最適化に不可欠な技術 です。特に、
Sparse Transformer
DeepSpeed-Zero Offloading
-
FlashAttention
と組み合わせることで、さらに効率的な LLM の推論・学習が可能になります。
今後は Web3 や分散学習とも組み合わせ、AI のスケーラビリティを最大化する技術として発展していくでしょう。
DeepSpeed の Sparse Attention を活用しながら、効率的な AI モデル開発を進めていきましょう!