プログラマが広報活動をはじめた
会社の技術書典5プロジェクトの責任者になり、プログラマでありながらも対外的に情報発信をする機会が増えた。
会社には以前から公式Twitterアカウントとして同僚プログラマが中の人を担当している一方で、自分は技術書典の活動に絞った内容で専用アカウントを運用している。
2018年7月から活動を開始し実働1ヶ月という短さではあるが、現時点で動けるだけ動いてみた。
その活動を見た社長からは技術書典に限らず本格的な広報の役割へと発展する可能性を示唆されたので、まだ未確定ではあるもののその時になって慌てないように「広報とは何か」、「受託開発会社における広報とは何か」について考えをまとめておこうと思った。
※弊社は受託開発会社である。
まだ体系的にまとめられるほど知識が整っていないので、まずはオムニバス形式で考える。10月8日の技術書典当日までは継続的に活動していくので、今後も試行錯誤の記録を残しておきたい。
自分の中では広報とはこういうことをすべきだといった仮説はある程度は持っていたので、それを検証する目的で『お金をかけずにモノを売る広報視点』(竹中功著)を手にとった。竹中功氏は吉本興業の「伝説の広報マン」と呼ばれており、ダウンタウンの発掘・育成、NSCの開校、吉本新喜劇の人気復活、東京進出など現在のポジションを築く過程で大変な貢献があった人物だそうだ。
※ちなみにこの本を選んだのは、私の愛読雑誌『MONOQLO』における著名ブロガーやまもといちろう氏による書評コラムで紹介されていたことがきっかけである。
広報の仕事は「お金をかけずにメディアに取り上げてもらうこと」
商品を世の中に広めていく手段には、「広告」と「広報」の2つがあり、広告はお金をかけて媒体を買うことで、言いようによっては、お金さえあれば誰にでもできることです。それに対して広報は、お金をかけずに媒体に掲載してもらうのですから、アイデアや新しい視点がないとできません。
p.117
これに特に異論はない。広報を担当している知人もメディアへの取り上げられ方の程度によってインセンティブが与えられている。
メディアに取り上げてもらうためには何をすればいいか
お金をかけずに記事をかいてもらうには、まず記者と仲良くなることからや。そのために、相手の仕事の内容を理解しよう
p.118
メディアで掲載してもらうためには窓口が必要である。大きなメディアであれば記者が、新興メディアであればキュレーターがそういった役割を果たすのであろう。記者は常にネタを探しており、企業は常にネタを提供したいと思っている。広報は両者を結びつけるべく積極的に外に出る必要がある。
また、現代はTwitterやFacebook、Instagramなどメディアの代替物を自前で持てる時代でもある。自社の営みが届けたい人に届けられるような誠実なコンテンツ発信を継続的にしていく必要がある。
やれそうな行動としては下記がある。
- 記事を書いて欲しいメディアをピックアップする
- 記事を書いている人の名前と連絡先をGetする。
- 記事を書いている人の他の記事を読む
- 記事を書いている人が掲載したいと思うようなネタを仕込む
- 記事を書いている人に仕込んだネタをアピールしにいく(テレアポ上等)
- 普段から自社メディア(主にTwitterとHP)で継続的に情報発信をする
粒度が揃っておらず、また情報を届けたい相手も違うがそこはおいおい整理していく。特に最後の自社メディアによる情報発信は技術界隈特有の「ウケの傾向」があるようで、もう少し深く考える必要がありそう。
ほぼ土台0から始める広報活動なので最初の成果が出るまでには苦労するかもしれない。
社「外」広報と社「内」広報
たくさんの人に好きになってもらうには、まず自分のことを好きにならなければいけません。企業も同じで、働いている人間が自分の会社を好きにならないと、ファンもつくれないし、商品も売れていきません。社員が自社を好きになるためのツールとして、「社内広報」が存在していると、私は今も信じています。
p.142
私の観測範囲ではあるが、広報・人事という役職はジョブホッピング(やや侮蔑的にこの表現を用いている)しやすい役職だと思う。自社と他社をかなり意識的に比較することが日常業務であり、また、社外の人間と接触する機会も多いため、現在の待遇より良いチャンス・ポジションを見つけたり勧誘されたりしやすいという背景が恐らくあるだろう。
そういった誘惑を受け止めた上で、それでも自社のことをアピールしていきたいと心から思うためには会社に対する信頼が必要である。もちろん賃金、人事制度、役割、やりがい、人間関係、働きやすさ、情報発信の透明性など全部が全部思ったとおりにはならなくとも、社員それぞれに会社を好きになりたいと思える機会は作れると思う。かくいう私自身も**「会社の魅力はなんだろう」「働きやすい会社とは何だろう」「会社に改善して欲しいことはなんだろう」**と自問する日々である。
吉本興業の場合は『マンスリーよしもと』という雑誌を通じて行われていた社内広報だが、弊社の場合は何ができるだろうか。15名前後の社員数でワンフロアの執務室という就労状況でどんなメッセージを打てばいいのだろうか。そもそもそんなことをする必要はないのか。社内広報については現時点で明確な打ち手が思い浮かばないが、一般的な効用として組織の一体感、団結感、企業理念の共有などを進められるらしい。
広報マンとは営業マンである
たとえば、メディアが取材に来て「これ、記事にしますね」と言ったら、「これも、これも、これも載せてください!」と、お金をかけずにスペースをとりに行くのが広報マンです。やっていることはまさに「営業活動」です。
(中略)
営業マンは扱う商品の知識も豊富でなくてはなりません。いい所だけでなく、弱点も含めて、です。競合他社のサービスについても精通している必要があります。(中略)また社内で進められている商品開発や企画のことも知らなくてはいけません。そういう知識が機能や性能、先様の欲求を満たすことに繋がったときに商談が成立するのです。
p.184,185
このフレーズを見つけるためにこの本を手にとったようなものである。今まで広報に関する本を読んだことはなかったが、広報をやっている知人の働き方を観察していると「これ完全に営業やんけ」と思うことが多々あった。営業マンが商品を売るように、広報は会社(という商品)を売るのである。
それでは「商品」とは何か
私がやってきた広報は、お金をかけずに人に知ってもらって、気に入ってもらったり、購入してもらったりするという仕事でした。だから、商品やそのコンテンツそのものがいいか悪いか、魅力があるかないかということが非常に大事でした。
p.190
吉本興業の場合は商品やコンテンツは芸人という「人」だった。それでは弊社のような受託開発会社の商品は何か。それも恐らく「人」である(要検証)。依頼主が作りたいと思うものが業務システムでも一般消費者向けサービスでも、プロジェクトマネージャー、システムエンジニア、プログラマがチームとなって顧客のビジネス目標が実現できるように尽力する。各プレイヤーが今までの開発で培ってきた知識や経験はもちろんだが、その人特有の趣向や工夫がプロダクトを更に良くする方向に作用するかもしれない。
『アジャイルソフトウェア開発の奥義』という本の「アジャイルソフトウェア開発宣言」に下記の一節がある。
プロセスやツールよりも、人と人同士の交流を
この一節は下記のように補足説明がされている。
成功の鍵を握る最も重要な要素は「人」である。プロセスが悪ければ最強のメンバーさえ無力にしてしまいかねないが、いいプロセスを使っても、開発チームに優秀な人材がいなければプロジェクトは失敗を免れない。また、どんなに優秀な人材がそろっていたとしても、仲間同士が協調して仕事をしなければ、手痛い失敗をすることになる。
そういった人(商品)の魅力を顧客や顧客候補に適切に届けるのが、現時点での「受託開発会社の広報」の大事な仕事なのだと考えている。
人以外でも広報として売り込めそうな要素はたくさんある。勉強会や社内研究の成果、「働き方改革」への各種取り組み、受託開発の魅力、会社の歴史編纂etc。色々あって優先順位づけに迷ってしまうが、広報活動を通じて周りの人たちに少しでもプラスの影響が与えられればいいと思う。
本職がプログラマであることは変わらず、広報活動によってコーディングの時間が制限される面もあるが、普段の自分の活動にレバレッジをかけやすい環境になりつつあることは素直に嬉しい。
引き続き頑張っていきたい。
もしこの記事に続編があれば「技術広報とはなんぞや」的なものを書いてみようと思う。