はじめに
運良く機会があったので2年くらいエンジニアリングマネージャー(以下EM)をやってみた。今後の自分のためにメモを残す。
以下、ITサービスに関わるソフトウェアエンジニアをエンジニアと記す。
前提として、会社のビジネスがある程度うまくいき、チームが大きくなって組織課題が発生するとEMが必要になる。なのでEMを置いていること自体が素晴らしいことである。
EMになった経緯
チームが大きくなってきて一人のEMで支えきれなくなってきたので、メンターや1on1などを徐々に引き受けるようになり、そのあと正式にEMに。
EMの責務
マネージャーはmanageする人であり、manageという単語は「管理する・なんとかする」という意味らしい。EMはチームにオーナーシップを持って、チームのあらゆることを何とかする人、というのが私の理解である。あらゆることは例えば以下のようなこと。
- 全体: 会社の戦略を理解し、チームメンバーに伝え、協力する。採用活動など。
- チーム間: 他のチームと円滑にコミュニケーションできるようにする。
- チーム内: チームの健康を保ち、チームメンバーのキャリアの成功に貢献する。目標設定や評価も行う。
リーダーシップスタイル
EMは一種のリーダーだが、どうやらひとくちにリーダーといってもいろいろあるらしいということを知った。例えば 10 Common Leadership Styles のように典型的なものでも10種類くらいあるらしい。自分の理想はサーバント型かなと思い、「メンバーに気持ちよく働いてもらい最高の成果を出してもらう」ということを目標にした。
EMとの最初の1on1では、お互いが理想とするスタイルについて意見交換し、どのような支援を受けたいのかなどについてすり合わせるのが良いと思う。
EMに求められるスキル全般
会社によって度合いが異なると思うが、技術面ではガイドラインやロードマップの整備、そのほかの面では採用能力やチーム間コミュニケーション能力が求められると思う。
人を管理するマネージャー(ピープルマネージャー)としては1on1やコーチング、フィードバックのスキルも必要になる。また、常に機嫌をよくしておくためにアンガーマネジメントも大切になる。
日々の業務では、そのような表出するスキルだけでなく、メタ認知スキルというか、構造化と言語化のスキルの必要性を感じた。何となくうまく対処できないとき、概念の適切な名前がわかると、問題を可視化したり次のアクションを考えやすくなったりするようなことがあった。
ピープルマネージメント
人を管理するマネージャー(ピープルマネージャー)の考え方の土台としてはアンディ・グローブの「HIGH OUTPUT MANAGEMENT」をまず読んだ。実践方法としては「ヤフーの1on1」を参考にした。
マネージャー向けの研修でSLIIというフレームワークを学ぶ機会があってとてもよかった。メンバーの状況によって支援のスタイルを柔軟に変えるというもので、経験が浅いタスクならハンズオンでやるが、習熟しているタスクなら結果だけ聞く、のように、人ではなく課題単位で対処方法を変える。これは人のスキルや目標設定について考えるときにも役に立った。例えばシニアエンジニアは全てがシニアレベルとは限らなくて、技術には習熟しているがビジネスコミュニケーションが苦手だったりする。
コーチングの本も少し読んだり、プロからコーチングを受けたりもしてみた。いわゆる傾聴(active listening)というやつで、自分の感想や意見を言う前に、まずは質問して内容を理解し共感するように努めてみた。(おそらくうまくできてはいなかったとは思うが)
心構え
マネージャーになるとき、「高速道路を走っているとしたらマネージャーは大型バスだと思えばよい。同じことをしても目立つ」と言われて記憶に残った。
また、マネージャーはいつでも話しかけられやすい状態であるべきで、常に機嫌がいいことが望ましい。特に、他人に対する怒りはなるべく少ない方がいい。例えばハンロンの剃刀とか、自我を小さくして怒りポイントを極小化する、みたいなテクニックを教えてもらった。怒りを感じた時に、なぜ怒るんだっけ? 自分の機嫌が悪いから? 単なるミス? 価値観の違い? など原因を考えていくことで、行為に対して自分が怒ること自体は肯定した上で、自分の怒りポイントが解明されるほうが大事で他人に向けてもしょうがない、のような感じに消化するようにした。
目標設定・フィードバック
一般的には改善点のない人はいないらしいが、シニアなメンバーの目標設定は難しかった。その人が高いレベルで当たり前にできていることを他のメンバーができるようになるために共有してもらったりした。
また、大きなキャリアアップを望んでいない場合などもあり、そういう場合でもスキルアップには前向きだったりするので、「成長」よりはその人にとってのキャリアの成功が大切だと思うようにした。