県や市の公式ホームページ制作の経験から、気をつけておきたい点をメモに残しておきたいと思います。
納品前
納期が3月に集中する
行政サイトの場合、お金は年間予算や国からの特別補助金などから支払われます。つまり基本的に年度を跨ぐことが出来ません。(保守にかかる費用は別です)その為、行政の案件に頼っている制作会社は納期が重なり3月が滅茶苦茶忙しくなります。 年度末は余裕を持ったスケジュールを組んでおきましょう。
見積もりは2割増しで
ここで言う見積とは入札時の見積もりではありません。行政の案件をいくつかこなして担当者と仲良くなってくると、コンペの上限金額を決めるために事前に見積を頼まれる事があります。「もし○○みたいな案件だったらいくら位でできそう?期間と見積もり貰えると助かるんだけど。」みたいな感じです。サラリーマン金太郎の東北編で出てきたアレです。大事なのはここで割引など一切考えずに、むしろ1〜2割多めに出すことです。
何故多めに見積もりを出さないといけないか?
地方自治体の中には情報系の課を持っているところがあり(今はほとんどあると思いますが・・)、そこがブレーンとなって金額の調整を行ったりします。彼らは基本頭がいいので(前職聞いたらビビるような人ばかり)、彼らの高スキルを基準にして「もうちょい安くできるやろ」って感じで減らしてきます。
そんなこんなで先ほど見積もりで出した金額から1〜2割減された金額がコンペの上限金額になります。
ここを考えてないと誰が取っても赤字になるだろうみたいな、地獄のコンペが開催されてしまいます。(やり過ぎて誰からも入札されずに終わる時がありますが、そういう事だと思います。)
対象ブラウザについて
閲覧者とサイト管理者で少し変わってきます。
閲覧者について
サポートが続いているブラウザをマックスでサポートする必要があります。っと言ってもこれを書いている時点でIE8のサポートが切れているので昔ほど負担にはならないかもしれません。ただそれはPCの話で、問題はスマートフォンです。特に古いAndroidのブラウザだと普通にバグあったりして地獄を見ますw最低でも4系以上で担当者と話をつめておきましょう。さらにもーーっと問題があるのがガラケーサイトです。公共的なサイトである為、要件にガラケーも入ってきます。制作メンバーにおっさん、おばちゃんが居れば大丈夫ですが若い子だけだとノウハウがありません。現場ではすでにロストテクノロジー化してしまっているのです!周りに聞ける人がいない場合ネットに残った古いブログの記事からノウハウを勉強しなおさなければなりません。
サイト管理者
要件に古いIEが書かれてしまっている時はピンチです。何故かと言うとCMS側でサポートが終了している事があるからです。そういった時は更新作業時だけ、ChromeやFirefoxを使ってもらうよう担当者に提案しましょう。最近の案件では最初から「更新作業はIE又は、ChromeやFirefoxで行う」っとなっている事も多いので前例がない訳ではありません。ここがポイントです。彼らは「前例」が大好きなのです。
CMSの選定
無料のWordPress入れとけばいいっしょ!・・・とはなりません。(1つの課で使うだけのような、単発企画であればありかもしれませんが)何故かと言うと一般サイトではあまり無いような様々な要件があるからです。
- CMSが入っているサーバーと、公開用のサーバーを分ける。(CMSサーバーで作成したコンテンツを公開サーバーに静的ファイルとして書き出す)
- 記事の投稿権限と、公開権限は別々のアカウントに分ける必要がある。
- セキュリティは最高レベルの物が要求される
- etc...
無料CMSだと大量のプラグインの使用や、オリジナルのカスタマイズは必須です。その工数を考えると有料のCMSを使ったほうが安上がりだったりします。
製作中
JIS X 8341-3:2016
行政サイトではほぼ必ずと言っていいほど要件の中に含まれています。詳しくはウェブアクセシビリティ基盤委員会を見て欲しいのですが、IMGタグのaltに説明を入れたり、サイトの文字の大きさを変更できたり、サイトの背景と文字色を変更できたり・・・っといったウェブアクセシビリティについての規格です。達成基準は3段階(レベルA〜AAA)あり、最終的にテストを行い納品サイト内で何処まで達成できたか、達成できなかった場合今後どのように達成を目指すのか表示する必要があります。難易度はレベルAはコーディング中に注意しておけば達成できる内容です。レベルAAになると難易度は上がり、レベルAAAに至っては現実的ではないレベルの要件が含まれています。(実際はレベルAA以上が要件になる事が多いです。)
アクセシビリティの要件では、音声読み上げや外国語への翻訳などが求められる事もあります。その場合外部の有料サービスを使う事になるのでその選定作業もしっかりと工数に入れておきましょう。
レベルAAA達成してもクソサイトになる事がある
どこの自治体か書けませんがどうしてこうなった!っていう公式サイトがあります。翻訳機能があるがメニューが全部画像で翻訳されないのを見た時は目を疑いました。点数だけ追い求めるとこうなります。機械的なチェックだけでなく目視でのチェックも必ず行って下さい。客観性だけでなく主観性も重要です。
例えば、目の見えない人は本当にあの使いにくい音声読み上げツールを使っているのでしょうか?実際にはガラケーやiPhoneに搭載された優秀なアクセシビリティー機能が多く利用されていると聞きます。想像力を働かせましょう。製作者と担当者はぜひ一度スマホのアクセシビリティー機能をONにしてサイトにアクセスしてみるべきです。
旧コンテンツの移行作業
新規ではなくリニューアルの場合移設作業が必要になります。(ただ、公式ホームページを未だ作っていない地方自治体は存在しませんので100%リニューアル案件でしょう )エクスポート&インポートで終了!っと簡単にいけば最高なのですが中々そうもいきません。公式ホームページの場合運用年数にもよりますが数千ページを移行するのは骨が折れます。
例えば過去の案件でこんなものがありました
- 7個(うち2つは納品2ヶ月前に追加)のサイトを行政系と観光系のサイトの2つに再編しなければならない
- 7個の使っているCMSがバラバラ。(XOOPS,WordPress,オリジナルCMS,静的サイト)
- システムが古すぎてRSSすら吐いていない
- IMGタグとかに説明が入って無かったりして「JIS X 8341-3:2016」を考えると修正が必要
スクレイピング作戦
最初旧サイトのコンテンツをスクレイピングしてこようと考えました。以前楽天からデータと画像をスクレイピングして、EC-CUBEのDBにぶっこむという作業をやったことがあったからです。しかし今回の場合ホームページ・ビルダーのどこでも配置モードで作られたようなページや、Flashで作られたコンテンツなど例外で対応しないといけいないパターンが大量にあり、費用対効果の面から断念しました。
人海戦術
スクレイピングを諦めた事から社内リソース+外部のフリーランスを使って手作業で旧コンテンツを移していくことにしました。その際以下の様な事を気をつけました。
- ページ辺りの単価設定(パターン化されているカテゴリではカスタムフィールドを設定でき、HTMLタグの知識がなくても作業ができるので安く頼める)
- スタイルシートはデザイン統一させる為触らせない。
- 確認のやり取りに電話・メール以外にチャットツールで細かくやり取りする。(ただし最初の説明だけは音声で伝えた方が理解度は高いです。)
- 対象ページはGoogleスプレットシートを使い、終わったらチェックしてもらう。(疑問点があれば一緒にメモを残してもらう)
もちろんすべて人海戦術で行った訳ではありません。エクスポート&インポートできる所は機械的に行えましたし、スクレイピング可能な所は行いました。それでも全体の7割は手作業になったと思います。
納品後
担当者が4月に人事異動で消えたりする
行政(県庁、市役所)では2~3年毎に人事異動で人が動きます。その時期が年度が変わる4月なので、納品して操作説明会までしっかりしても納品直後の4月に何も知らない新しい担当者に変わってしまって運用が困難になったりします。例えばネットに弱い担当者に変わってしまい、納品したサイトが運用されず放置されるという最悪のパターンまであります そういった事もあるので、操作説明会などを4月以降も最低1回は行えるように予算とスケジュールを確保しておきましょう。
カテゴリやアカウントが大量に変わる。
4月になると人事異動以外に、部や課の再編成も行われます。公式ホームページでは課ごとに更新可能範囲を分けていたり、投稿者・承認者で権限をわけていたり・・・兎に角アカウントが大量に必要になる構成が多いと思います。つまり3月までに一生懸命設定したアカウントや、カテゴリが4月で変わってしまいます。これはほぼ確定で発生する作業なので、必ず保守費用の中に含めておきましょう。スケジュールの確保も一緒に!
まとめ
最近では「ふるさと納税」や「移住」で自治体同士で競わなければならなくなり、行政サイトの出来が税収に直結するような流れになってきました。今、行政サイトは戦国時代と言えるでしょう。その影響か型にはまったサイトではなく、少し遊びを入れたサイトを要求される事が多くなったと思います。
作る側としては、まずこの記事で書いたようなリスクを回避して、中身のあるコンテンツで他県と戦う自治体をサポートしていけたらと思います。
営業です(小声)
最近では行政向けの制作ノウハウも、少しづつ溜まってきました。
もし行政系の共同コンペや、制作パートナーをお探しでしたらお気軽にご連絡下さい