読み飛ばし対象:かなりどうでもよい前置き
IT業界に入り、情報処理試験ベースでキャリアを考えた時
ITパスポート→基本情報技術者→応用情報技術者 とステップアップしていくと思います。
しかしこれはT字型人材でいうところのベースの部分であり、
その後、大きく分けるとシニアエンジニアとして専門性を深めるキャリアと管理者~事業部長~経営幹部とリーダーとして進むキャリアが考えられます。
(もちろん細かいところではめちゃくちゃ細分化されますが)
私は情報処理試験ベースで言うと
プロジェクトマネージャー → ITストラテジスト とキャリアを深めていきました。
が、ITストラテジストを取ろうとしたときに検索すると比較対象としてヒットするのが「中小企業診断士」という資格です。
大体 サイトだと「難易度は同じくらい」 とか書かれています。というかサイトによってはITストラテジストの方が難しい扱いにされています。
世間知らずな私はよく考えずに深く調べずに「難易度同じくらいなら登録資格の方が良くね?」という浅はかな考えのもと中小企業診断士をとることにしたのですがめちゃくちゃ後悔しました。
その後、ITストラテジストも取得したので以下の観点で両者を比較していきたいと思います。
- 対象範囲
- 資格取得の難易度
- 資格維持の難易度
- 資格の価値
対象範囲
- ITストラテジスト:IT・DX領域の戦略立案に特化
- 中小企業診断士:経営全般の実務支援が対象
中小企業診断士はひたすら広く浅いです。ITエンジニア出身の私にとってはひたすらに広かったです。
ITストラテジストも他の高度情報処理に比べれば割と広めの資格ではありますが主にDX寄りに深く、財務会計などの知識は用語等のみでOKです。
ITストラテジスト
- IT戦略の立案・推進を担う上級情報処理技術者試験。
- 午前I,午前II,午後I,午後IIと4科目あるが知識分野としては午前I以外全て同じ知識分野
- 企業のIT導入、DX推進、情報システム企画が主なフィールド。
- 技術者だけでなく、経営層や情報システム部門の幹部候補も対象。
- 【カバー範囲】
- ITガバナンス、経営戦略とIT戦略の整合性
- 新規事業・業務改革におけるIT活用
- システム導入の企画〜提案段階
中小企業診断士
- 経営コンサルティングの国家資格。
- 経営全般(財務、会計、マーケティング、組織、人事、生産管理など)が対象。
- 異なる知識分野の試験が7個もある
- 経済学・経済政策
- 財務・会計
- 企業経営理論
- 運営管理(オペレーション・マネジメント)
- 経営法務
- 経営情報システム
- 中小企業経営・中小企業政策
- その後2次試験の科目が4つもある
- 組織人事
- マーケティング・流通
- 生産・技術
- 財務・会計
- 特に中小企業を主な支援対象とするが、大企業のコンサルや自治体支援も可。
- 【カバー範囲】
- 経営戦略、財務、マーケティング、人事、法務、IT、オペレーション
- 経営改善計画、補助金申請、事業承継支援など
資格取得の難易度
お互い試験の構成が違うのでITストラテジスト基準で比較対象にしやすいもので勝負させます。
なお、試験の「難易度」は「難解さ理解の難しさ」という意味の難易度と、「勉強量が必要」という意味の難易度 があるかと思いますが。
ここでは前者を「難易度(質)」「難易度(量)」と勝手によんでいきます。
Round1. ITストラテジスト 午前I VS 診断士 経営情報システム
ほぼイーブン
そもそも私は両試験共に免除しました。
他の情報処理試験を持っている方ならばノー勉強で両者とも行けると思います。
Round2. ITストラテジスト午前II VS 診断士1次試験
勝負にならないレベルで圧倒的に中小企業診断士
中小企業診断士は財務会計、経済学などの理解が必要な科目もあり
その他の科目もとにかく範囲が広く覚えることあり
で、難易度(質)も難易度(量)も圧倒的に中小企業診断士の方が難しいです。
勉強時間で言うとITストラテジストは(他の情報処理を取っている人ならば)10~90時間ほど勉強量かと思いますが
中小企業診断士の1次試験は200~1000時間ほどとなります。
また、中小企業診断士1次試験の試験範囲はITストラテジストの午後1,2の試験範囲をほぼカバーしているので
中小企業診断士を持っている人ならITストラテジストの午前1,2はほぼノー勉強で受かると思いますが、逆はないです。
Round3. ITストラテジスト午後I VS 診断士2次試験 生産・技術
中小企業診断士の方が難しい
どちらもケース文を読みそれに対する設問に答えるタイプの論述式なのですが、大きな違いがあります。
ITストラテジストの論述の模範回答を見ると「基本的に文中から抜き出し」になります。
論述なので決まった正解がないとはいえ、それに近いものはある状態です。
中小企業診断士の2次試験は「抜き出したうえで、その情報から戦略を考える」になります。
正解のベクトルすら決まっていません。例えばある人は施策Aを実施する、ある人は施策Aを実施しないという回答になっても両者とも正解になり得るでしょう。
ただ、各設問間で自分の中のストーリーに矛盾なく最終的に経営戦略として成り立たせる必要があります。
診断士2次試験はケース文が与えられているとはいえ、自身の戦略を組み立てて回答する必要があります。
Round4. ITストラテジスト2次試験 VS 診断士2次試験全般
ITストラテジストの方が難しい?
というかITストラテジストの難易度は午後IIに集約されていて、午前1,2午後1は前座にしかすぎません。
ただこちらに関しては試験の内容が違うので比較できるものでもないのですが・・・
診断士2次試験は前述の通り「ケース文が与えられて、戦略を述べる」形になります。
ITストラテジストはケース文というよりは例文があるだけでほぼ情報が与えられません。むしろ「ケース文を書く」試験になります。問われる内容はもちろん毎回違います。
また2時間で2,200~3,600字を書くという作業もかなり大変で、タイムマネジメントや文章構成力等も必要になります。
ただし問われる内容は毎回違うといっても、ベースの文章を用意しておきそれを設問に合わせてカスタマイズする形をとることで対応はでき事前準備が可能になります。
いずれにせよ、カスタマイズに耐えうる引き出しの多さは必要になりますね。
・・・ということで「ケースを書く」ITストラテジストと「ケースを分析する」診断士2次試験で単純比較はできないのですが、
時間、文章量、自分の引き出しの多さ等の観点でITストラテジストの方が難易度が高いかと思います。
Extra Round 合格率
合格率でいうと
- ITストラテジスト 10数%
- 中小企業診断士
- 1次試験 20%前後
- 2次試験 20%前後
単純な確率計算で言うと、中小企業診断士のストレート合格は0.2 * 0.2 = 4%
ですが、
1次試験の効力は2年間持つので0.2*0.2+(1-0.2)*0.2 = 20.0%
前後
・・・とかいう全くあてにならない比較だとITストラテジストの方が難しく見えますが、
こんなもんは全くあてにならないです
そもそも2次試験の20%というのは母集団が「1次試験に受かった猛者」が母集団です。
ITストラテジストは試験料も勉強量も(中小企業診断士と比べれば)非常にカジュアルなので、「とりあえず申し込んでみた」くらいの層も混じった有象無象玉石混交の母集団です。
「資格難易度ランキング」とかのサイトでこの「合格率」とやらでITストラテジストや中小企業診断士を含んだ各資格がランキングされていますが。
合格率は難易度を示すのに全く当てにならないということが身に染みてわかりました。
(ここらへんは情報処理プロマネ試験の合格率10数%とPMP®の合格率60%が単純比較できないのも同様だと思います。PMP®は35時間の前提講義とそれに十数万払っているという本気度の高い方たちが母集団なので・・・)
まとめ
ITストラテジスト | 難易度 | 中小企業診断士 | |
---|---|---|---|
午前1 | ≒ | 経営情報 | 大差なし |
午前2 | <<<<<<< | 1次試験 | 7科目ある分単純に7倍大変。忘却曲線もあるので実際にはもっと大変 |
午後1 | <<<< | 2次試験生産・技術 | 設問で問われる質が診断士の方が深い |
午後2 | ≧ | 2次試験 | 比較しがたいが、試験時のネタ集め、タイムマネジメント、文章組み立ての観点でITストラテジストの方が大変 |
難易度(質)に関してはITストラテジストの午後2が一矢報いているので単純比較はできませんが
難易度(量)に関しては圧倒的に中小企業診断士の方が大変です。
3. 資格維持の難易度
ITストラテジスト
- というか更新という概念がない
中小企業診断士
- 5年ごとに更新(理論政策更新研修の受講が必要)
- 更新コスト(数万円/5年)、継続的な実務経験や研修受講が求められる
資格の価値
ITストラテジスト
- 「取りたい"IT資格"」で毎回上位にランキング。ただIT企業限定の調査なので、業種限定しない調査だと10~20位くらい
- IT企業だと資格手当や昇進材料になったり、同僚にドヤれたりする
- IT系以外の企業だと完全に相手に「?」マークがつく
ITストラテジストのDX推進などの活躍の場はIT系以外の企業なので、資格ネームバリューとそれを見せつける相手にアンマッチが発生している。
中小企業診断士
- 「取りたい資格」で大体1位
- IT企業だと「?」マークつく人が多い
- IT企業以外だとドヤれることが多い
- 診断士のコミュニティも多数あるのでネットワークを形成しやすい
- 独立開業もしやすい(補助金、事業計画策定支援などの案件)
- 資格そのもので仕事が来やすい(特に公的支援や補助金案件)
・・・といったものの他の士業に比べたら独占業務等がないのであくまで「ITストラテジストに比べて」という接頭辞がつきます
まとめ
- ITストラテジスト:企業内での査定等に強み
- 中小企業診断士:独立や対外支援、行政案件に強み
さすがに苦労した分くらいは中小企業診断士の方が資格バリューはあります。
ただ、いずれの資格も「資格をとったら仕事」になるようなものではなく「資格を前提条件として仕事につなげる」ことは変わりません。
おまけ:情報処理安全確保支援士の維持コストに対して資格バリューをもうちょっと何とかしてほしい