1. 概要
OpenGrADSを使用して降水量の時系列変化を可視化し、降水が強まるタイミングを特定する方法を説明する。
2. 使用データ
-
MSM-S (地表面データ)
- https://database.rish.kyoto-u.ac.jp/arch/jmadata/data/gpv/latest/
- 1時間降水量 (降水強度の時間変化を把握するために使用)
- 時刻は初期値から60分間隔で34時刻分
3. 分析手順
3.1. GrADSの起動とデータの読み込み
reinit
sdfopen ./Opengrads/MSM-S.nc
このコマンドでMSM-Sのコントロールファイルを開き、データを使用可能な状態にする。
3.2. 降水量の時系列プロット
(1) 特定地点の降水量時系列グラフ
set lon 135 # 任意の経度
set lat 35 # 任意の緯度
set t 2 34 # 全時間範囲を指定(初期時刻は固定値のため除外)
set gxout line # 折れ線グラフを選択
display r1h # 1時間降水量の変化をプロット
(2) 地域平均の降水量時系列グラフ
特定の範囲の平均を取ることで、広域的な降水の傾向を分析。
set t 2 34 # 全時間範囲(初期時刻は固定値のため除外)
set lon 135
set lat 35
set gxout line
display r1h # 一度時系列グラフを描画しないと何故かうまくいかない
clear
a=aave(r1h, lon=130, lon=140, lat=30, lat=40)
display a
3.3. 降水強度の急増タイミングを特定
降水強度が急激に変化するタイミングを検出するには、時系列データの時間変化率(微分)を計算する。
set gxout line
b = a - a(t-1)
display b # 1時間ごとの降水量変化を計算
このグラフを観察し、降水強度が大きく増加する時点を特定する。
3.4. 降水が強まる要因の解析
降水量の急増が確認されたタイミングについて、以下の3つの要素を確認することで、降水強度が増す原因を特定できる:
- 地上風の解析
set t [降水量急増のタイミング]
set gxout vector
display skip(u, 20, 20);skip(v, 20, 20) # 地上風ベクトル
- 地上風の収束域を確認することで、水蒸気の集中する場所を特定できる
- 南からの暖かく湿った空気の流入は、降水の強化に重要な役割を果たす
- 風向の急激な変化は、前線の通過や局地的な収束の形成を示唆する可能性がある
- 相対湿度の解析
set gxout contour
set clevs 60 70 80 90 100 # 等値線の間隔を設定
display rh # 相対湿度の分布表示
- 相対湿度が90%以上の領域は、雲形成や降水の可能性が高い地域
- 時間変化を見ることで、水蒸気の供給経路を把握できる
- 鉛直方向の相対湿度分布も重要な指標となる
鉛直断面での解析も有効:
reinit
sdfopen ./Opengrads/MSM-P.nc
set lon 135 # 東経135度(確認したい位置の経度もしくは緯度に合わせる)
set z 1 10 # 鉛直層の指定
set gxout contour
d rh # 鉛直断面の相対湿度分布
- 鉛直流の解析
set gxout contour
d 36*w # 鉛直p速度
- 負の値(上昇流)が強い領域は、対流活動が活発な場所を示す
- 特に-0.5Pa/s以下の強い上昇流域は、激しい降水の可能性が高い
- 上昇流と収束域が重なる場所は、特に注意が必要
これらの要素を組み合わせて解析することで、以下のような現象が特定できる:
- 前線に伴う降水
- 局地的な対流性降水
- 地形性降水
- 台風や低気圧に伴う組織化された降水システム