はじめに
近年、生成AIの進化が注目を集めています。生成AIは、人間の作業を代替するだけでなく、新しい可能性を切り開く役割を果たしています。本稿では、生成AIの進化と自動運転技術の進化を比較しながら、生成AIが人間や社会に与える影響、そして今後の生成AIとの向き合い方について考察します。
自動運転の進化
自動運転技術は、運転の自動化度合いに応じて6つのレベルに分類されています。この分類は、米国自動車技術者協会、SAEが定めており、日本の国土交通省でも採用されています。
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レベル0: 運転自動化なし
すべての運転操作を人間が行います。 -
レベル1: 運転支援
特定の運転操作(例: ステアリングや加減速)をシステムが支援しますが、他の操作は人間が担当します。 -
レベル2: 部分的運転自動化
ステアリングと加減速の両方をシステムが同時に支援しますが、監視や緊急時の対応は人間が行います。 -
レベル3: 条件付き運転自動化
特定の条件下でシステムがすべての運転操作を行いますが、システムが対応できない場合には人間が介入します。 -
レベル4: 高度運転自動化
限定された条件下でシステムが完全に運転を行い、人間の介入は不要です。 -
レベル5: 完全運転自動化
すべての環境・条件下でシステムが運転を行い、人間の操作は一切必要ありません。
生成AIの進化
孫正義氏は2024年10月に開催された「SoftBank World 2024」で、生成AIの進化を6つのレベルに分類し、その進化段階を詳しく説明されました。(孫正義氏の想定ではさらレベル6~8までの進化が期待されるそうです。)
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レベル0: 生成AIなし
すべてのタスクを人間が行います。 -
レベル1: 一般的な会話
人間とほぼ同等のスピードで自然な会話が可能です。応答速度は0.1秒から0.2秒以内で、途中で遮られても内容を理解し会話を続ける能力を持っています。 -
レベル2: 博士号レベルの知識
すべての科目において博士号(PhD)レベルの知識を持ちます。医学、物理、数学など多岐にわたる分野で高度な知識を有します。 -
レベル3: エージェント機能
ユーザーの代わりにスケジュール管理や情報収集などを行い、日常業務を自律的にサポートします。 -
レベル4: 発明能力
新しいアイデアやソリューションを自ら考案します。独自の創造性を発揮し発明を行います。 -
レベル5: 組織的な活動
複数のAIエージェントが協調して組織的な活動を行います。チームとして複雑なタスクを効率的に遂行します。
それぞれの進化の共通点
自動運転技術と生成AIには共通して、人間の役割を補完しながら次第に主導権がシステムに移行していく進化のプロセスが見られます。両者とも初期段階では、人間が操作や判断を主導し、システムはそれを補助する役割を担います。しかし、進化が進むにつれて、システムがより多くのタスクを自律的に遂行するようになり、最終的には人間の関与が不要になる「完全な自律性」が実現されます。
職業に与える影響範囲の違い
自動運転技術の進化は、運転に関連する特定の職業や日常生活に影響を与えることが中心です。一方で、生成AIは、知識、創造、コミュニケーション、意思決定といった広範な領域を対象としており、その影響はより多岐にわたります。
自動運転が影響を与える職業:タクシー運転手、物流ドライバー、バス運転手 など
生成AIが影響を与える職業:事務職、データアナリスト、研究者、コンサルタント、クリエイティブディレクター、エンジニア、マーケター、営業担当、翻訳者、医師、弁護士 など
常に新しいレベルのものに触れる
自動運転技術の進化により、レベル3では特定の条件下で運転操作が完全に自動化され、ドライバーは監視役に専念することで運転負担が大きく軽減されています。一方、生成AIは、医療や法律といった専門分野での活躍が一例として考えられます。生成AIが医療診断結果を提供し、それを医師が評価・修正することで診断の精度が向上しています。同様に、AIが作成した法律文書を弁護士が確認し、適切な文脈に整えることで、高速かつ高品質な業務遂行が可能になっています。このように、AIの得意な領域を人間が補完する役割は非常に重要です。
特にエンジニアリングの分野では、生成AIがコード生成や最適化を行い、エンジニアは設計やレビューに集中する環境が整いつつあります。例えば、ChatGPTやClaudeはプログラムの作成を支援し、GitHub CopilotやCursorはリアルタイムのコード補完を通じてコーディング効率を向上させます。また、v0はプロトタイプ作成を迅速に行える環境を提供し、Bolt.newやReplit Agentは、エンドツーエンドでアプリケーション開発を自動化するプラットフォームとして機能します。これにより、単純作業が削減されるだけでなく、プロジェクト全体の効率が向上し、新たな技術開発により多くの時間を割くことが可能になっています。生成AIや自動運転技術の進化は、人々の負担を減らし、新しい価値を創造するための力強い支援となっています。
完全な自動化を迎えるまでスキルが求められる
自動運転技術や生成AIのような先進的なシステムが完全自動化に至るまでの過程では、人に知識やスキルが求められると予想されます。
自動運転と運転免許
レベル5の完全な自動運転に到達すると、私たちは免許なしに車に乗り、好きな場所へ移動することができるでしょう。しかし、それまでの過程では、人間はシステムを補完し、緊急時に介入する能力が求められます。
現在のレベル2やレベル3では、システムの動作を監視し、予測不能な状況に対応するために運転技術を持つことが必須です。つまり、運転免許の取得は、トラブル時に適切に対応する能力を維持するために、完全自動運転までは、必要とされるでしょう。
生成AIと各種資格
レベル5の完全な生成AIに到達すると、人間が直接関与せずとも、AIが独自に知識を生成し、意思決定や創造的な活動を完遂できるようになるでしょう。しかし、それまでの過程では、生成AIを活用するためのスキルや資格が人間に求められます。
現在のレベル2やレベル3の段階では、AIが提供する情報や提案を監視し、誤りを修正したり、適切な判断を行ったりするための専門知識が不可欠です。たとえば、生成AIが作成した医療診断結果を評価する医師や、AIによる法律文書を確認する弁護士のように、AIが得意とする領域を補完する人間の役割が重要です。また我々エンジニアも、AIが生成したプログラムが効率的か、安全であるか、保守性が高いか等をレビューし誤りがあれば修正する必要があります。以下の画像はスキルのないエンジニアが生成AIを乱用してシステムを作成した際に生じる問題のいい例だと思います。つまり、各種専門資格は、完全な生成AIが実現するまでの間は必要とされるでしょう。
https://x.com/lamrongol/status/1859183945520497005
まとめ
生成AIの進化は、自動運転技術の進化と似ており、初期段階では人間の補助的役割を担いながら、次第に自律性を高め、最終的には完全な自動化を目指すという共通の進化過程をたどります。完全自動化が実現するまでの間、私たち人間にはシステムを補完し、監視し、緊急時に対応する役割が求められます。そのためには、適切な知識やスキル、資格が引き続き必要です。しかし、従来通りのやり方にとらわれるのではなく、常に新しいレベルのものに触れることで、例えば、自動運転では運転負担が軽減され、生成AIでは医療診断や法律文書作成、エンジニアリングでのコード生成を支援するなど、単純作業を削減し効率を向上させながら、人々の負担軽減と新たな価値創造を実現することが可能となります。
参考
- 国土交通省 自動運転車両の呼称
- SoftBank World 2024 孫正義氏の講演
- ChatGPT
- Claude
- GitHub Copilot
- Cursor
- v0
- Bolt.new
- Replit Agent
- LamrongolさんのX投稿