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論文

  • タイトル:Gemini 1.5: Unlocking multimodal understanding across millions of tokens of context
  • 原文:arXiv.2403.05530
  • 著者:Gemini Team, Google(Google DeepMind)

この論文を読んだきっかけ

業務の実プロジェクトで、マルチモーダルかつロングコンテキストのLLMを利用する機会があり、モデルの性能を把握するための調査。

免責事項

この投稿は、個人的なメモです。内容理解や翻訳には、生成AIを利用しています。より詳細な内容や正確な内容を知りたい方は、論文の原文を参照してください。
Gemini 1.5論文は、154ページにおよびます。このメモは、そのうち前半の74ページのサマリーです。後半80ページの内容は含まれません。論文には、実験結果の図表が多数掲載されていますが、このメモには図表を掲載していません。また、論文には、様々なリファレンスが示されていますが、このメモには、リファレンスの内容は含まれません。
論文を正しく理解するためには、比較のベースとなるベンチマークの内容や比較対象のモデルについて把握する必要がありますが、ベンチマークの内容や比較対象のモデルについての内容も含まれていません。

サマリー

この論文は、Google DeepMindが開発した最新のマルチモーダル大規模言語モデル「Gemini 1.5」ファミリーについて解説しています。Gemini 1.5は、従来モデルと比較して、以下の点で飛躍的な進歩を遂げています。

1. 数百万トークンという前例のない長さのコンテキストを処理可能

  • 従来のClaude 3(20万トークン)やGPT-4 Turbo(12.8万トークン)をはるかに凌駕する、最大1000万トークンまでのコンテキストウィンドウを実現。
  • これは、約5日分の音声録音、1440ページの「戦争と平和」全編、Flaxコードベース全体、10.5時間分のビデオ(1FPS)に相当する情報量。
  • 音声、画像、テキスト、コードなど、異なるモダリティのデータを混在させて入力可能。

2. 長文コンテキストにおける理解と検索能力の向上

  • すべてのモダリティ(テキスト、音声、動画)において、最大数百万トークンまでの「干し草の山の中の針」検索タスクでほぼ完璧な(>99%)リコール率を達成。
  • 長文ドキュメントQA、長文動画QA、長文コンテキストASRなどの現実的なタスクにおいて、既存のすべてのモデルを凌駕する性能を発揮。
  • 70万語の「レ・ミゼラブル」全編を入力として与え、その内容に関する質問に正確に回答できることを実証。

3. コンテキスト内学習能力の向上

  • わずか200人しか話者がいなく、オンライン上の情報がほとんど存在しないパプアニューギニアの言語「カラマン語」の文法書、辞書、約400の対訳文(合計約25万トークン)をコンテキストとして与えるだけで、英語からカラマン語への翻訳を学習し、人間と同等の品質で翻訳できることを実証。
  • さらに、45分間のカラマン語音声録音を追加することで、コンテキスト内学習により、音声認識機能を学習できることも実証。これは、LLMで初めて実現された機能。

4. コア能力の向上

  • 推論、コーディング、多言語対応、命令追従、関数呼び出しなど、従来のマルチモーダル能力においても、Gemini 1.0 Proを大幅に上回る性能を達成。
  • 驚くべきことに、トレーニングに必要な計算量が大幅に少なく、より効率的に提供できるにもかかわらず、多くのベンチマークで最先端モデルであるGemini 1.0 Ultraを凌駕する性能を発揮。

5. 安全性、セキュリティ、責任あるAIへの取り組み

  • 安全性ポリシー違反、有害なコンテンツ生成、プライバシー侵害、表現の偏り、誤情報、セキュリティ脆弱性など、潜在的なリスクを特定し、軽減するための包括的なアプローチを採用。
  • データフィルタリング、条件付き事前トレーニング、教師ありファインチューニング、人間からのフィードバックによる強化学習など、さまざまな安全対策をトレーニングプロセスに組み込み。
  • 責任ある開発とイノベーションチームによる潜在的な影響評価、責任と安全評議会によるモデルレビュー、独立した外部グループによる評価など、多層的なガバナンスプロセスを導入。

6. 効率性と速度の向上

  • Gemini 1.5 Flashは、TPUの効率的な利用と低レイテンシーを実現するように設計されており、高速なモデルサービングが可能。
  • これは、大規模なデータラベリング、高スループットエージェントサービング、複雑なワークフローへのモデル統合など、リソース制約によりこれまで実現不可能と考えられていた新しいユースケースを可能にする。

7. Flash-8B:より効率的なモデルへの挑戦

  • Flash-8Bは、Flashで採用されたアーキテクチャの革新と最適化を継承した、数十億パラメータモデルの分野における飛躍的な進歩。
  • 速度、品質、機能の独自の組み合わせにより、100万トークンを超えるコンテキストウィンドウをサポートするマルチモーダル機能を実現。
  • 高スループットと超低レイテンシーにより、手頃な価格で大規模なマルチモーダル展開が可能になり、リソース制約によりこれまで実現不可能と考えられていた新しいユースケースを促進。

8. 数学的推論の進歩

  • Gemini 1.5 Proの定量的推論能力をさらに向上させるため、数学に特化したモデルをトレーニング。
  • このモデルは、MATHベンチマークで80.6%の精度を達成し、256個の解をサンプリングして候補回答を選択すると91.1%の精度を達成。これは、コード実行、定理証明ライブラリ、Google検索、その他のツールを使用せずに達成されたものであり、人間の専門家のパフォーマンスに匹敵する。
  • さらに、AIME、Math Odyssey、HiddenMath、IMO-Benchなど、他の数学的ベンチマークでも大幅な改善が見られる。

結論

Gemini 1.5は、マルチモーダルAIの分野における大きな進歩であり、長文コンテキストの理解と推論、コンテキスト内学習、コア能力、安全性、効率性、速度の面で大幅な改善を実現しています。この新しいモデルファミリーは、AIの可能性をさらに広げ、さまざまな分野に大きな影響を与える可能性を秘めています。

今後の課題

  • 長文コンテキストを扱うモデルの評価方法の改善
  • 複雑な推論を必要とする新しいベンチマークタスクの開発
  • 人間によるラベリングの負担を軽減するための自動評価指標の開発
  • マルチモーダル空間におけるモデル能力の現実的で包括的な評価
  • 長文コンテキストAIモデルのさらなる進歩と、その潜在能力の最大限の発揮

これらの課題に取り組むことで、長文コンテキストAIモデルの分野をさらに発展させ、その真の可能性を引き出すことができると期待されます。

Abstract

1. Gemini 1.5ファミリーの紹介 (導入)

  • 概要: Gemini 1.5ファミリーは、計算効率の高い次世代マルチモーダルモデル。
  • 特徴:
    • 数百万トークンのコンテキスト(長文ドキュメント、ビデオ、音声を含む)から詳細情報を想起・推論可能。
    • 2つの新モデル:
      • Gemini 1.5 Pro: 2月版を能力・ベンチマークで上回るアップデート版。
      • Gemini 1.5 Flash: 効率重視の軽量版。品質低下は最小限。

2. Gemini 1.5の性能と能力 (主要な結果)

  • 長文コンテキスト処理:
    • 各種モダリティの長文コンテキスト検索タスクでほぼ完璧なリコール率を達成。
    • 長文ドキュメントQA、長文動画QA、長文コンテキストASRで最先端技術を向上。
    • 少なくとも1000万トークンまで次トークン予測とほぼ完璧な検索(>99%)の改善を確認。
    • 既存モデル(Claude 3.0、GPT-4 Turbo)を大きく上回る。
  • ベンチマーク: 多くのベンチマークでGemini 1.0 Ultraの最先端性能に匹敵または凌駕。

3. 現実世界のユースケースと新機能 (応用とインパクト)

  • 現実世界のユースケース:
    • 専門家との共同作業でタスク完了時間を26〜75%短縮(10職種)。
  • 新機能:
    • 少数言語カラマン語の文法書から、人間と同等のレベルで英カラマン語翻訳を学習。

1. Introduction

「1. Introduction」では、Gemini 1.5ファミリーの最新マルチモーダルモデル、Gemini 1.5 ProとGemini 1.5 Flashを紹介し、その特徴と革新性を概説しています。

主な内容:

  1. Gemini 1.5 Pro & Flashの紹介:

    • Gemini 1.5ファミリーは、効率性、推論、計画、多言語対応、関数呼び出し、長文コンテキスト処理において飛躍的な進歩を遂げた、高性能なマルチモーダルモデル。
    • Gemini 1.5 Pro: 2月版をアップデートし、多くの機能とベンチマークで前モデルを凌駕。
    • Gemini 1.5 Flash: 効率性を重視した軽量版。品質低下は最小限。
  2. 長文コンテキスト処理能力:

    • Gemini 1.5モデルは、最大1000万トークンまでのコンテキストを処理可能。これは、従来の大規模言語モデル(LLM)では前例のない規模。
    • この能力により、ドキュメントコレクション全体、数時間分のビデオ、約5日分の音声など、長文の混合モダリティ入力を処理可能に。
  3. マルチモーダル長文コンテキスト能力の評価:

    • 合成タスク: すべてのモダリティ(テキスト、ビデオ、音声)において、数百万トークンまでの「干し草の山の中の針」タスクで、Gemini 1.5 ProとFlashはほぼ完璧な(>99%)「針」リコール率を達成。
    • 現実的なタスク: 長文ドキュメントQA、長文ビデオQA、音声認識など、より複雑なタスクにおいても、外部検索手法を用いた既存モデルを上回る性能を発揮。
  4. コンテキスト内学習能力:

    • 長文コンテキストを活用した、新しい言語の翻訳学習能力を実証。
    • 200人未満しか話者を持たないパプアニューギニアの言語「カラマン語」の文法書、辞書、約400の対訳文(合計約25万トークン)をコンテキストとして与えるだけで、Gemini 1.5 ProとFlashは、人間と同等の品質で英語からカラマン語への翻訳を学習。
    • さらに、45分間のカラマン語音声録音を追加することで、音声認識機能も学習可能であることを実証。これは、LLMで初めて実現された機能。
  5. コア能力の向上:

    • 長文コンテキスト処理能力の向上に加えて、Gemini 1.5シリーズは、トレーニング効率とサービング効率も大幅に向上。
    • Gemini 1.5 Pro: 多くのベンチマークでGemini 1.0 ProとUltraを凌駕。
    • Gemini 1.5 Flash: Gemini 1.0 Proよりも一貫して優れた性能を発揮。
  6. 論文の構成:

    • モデルアーキテクチャ、長文コンテキスト能力とコア能力の評価結果、責任ある展開への取り組みについて、以降のセクションで詳しく説明。

要約:

「1. Introduction」は、Gemini 1.5ファミリーの革新性と、長文コンテキスト処理、マルチモーダル理解、コンテキスト内学習における飛躍的な進歩を強調しています。また、これらの進歩が、現実世界のユースケースにどのように適用できるかを示唆し、読者の関心を惹きつけ、論文全体を読む動機付けを与えています。

2. An Improved Gemini 1.5 Pro

このセクションでは、2月に発表された初期バージョンから、Gemini 1.5 Proがどのように改善されたかを解説しています。

主な内容:

  1. Gemini 1.5 Proの改良点:

    • 2月の初期リリース以降、Gemini 1.5 Proは、事前学習と事後学習の両方において、数々の改良を経てきました。
    • これらの改良により、モデルのあらゆる能力において、パフォーマンスが大幅に向上しました。平均して、以前のバージョンの1.5 Proと比較して、評価において10%以上の相対的な改善が見られます。
  2. 具体的なベンチマーク結果:

    • 推論ベンチマーク: MATH (Hendrycks et al., 2021b) では、1.5 Proのパフォーマンスは58.5%から67.7%に向上し、GPQA (Rein et al., 2023) では、1.5 Proは以前の41.5%から46.2%のスコアを達成しました。
    • マルチモーダルタスク: 1.5 Proは、すべての画像理解ベンチマークとほとんどのビデオ理解ベンチマークで改善が見られました。MathVista (Lu et al., 2023) では52.1%から63.9%に、InfographicVQA (Mathew et al., 2022) では72.7%から81.0%に、EgoSchema (Mangalam et al., 2023) では65.1%から72.2%に向上しました。
    • 最先端の結果: Gemini 1.5 Proは、AI2D、MathVista、ChartQA、DocVQA、InfographicVQA、EgoSchemaなど、いくつかのマルチモーダルベンチマークで最先端の結果を達成しました。
  3. Gemini 1.5 Proの優位性:

    • Gemini 1.5 Proは、大幅に少ないトレーニング計算量を使用し、より効率的に提供できるにもかかわらず、多くの能力においてGemini 1.0 Ultraに匹敵する品質を達成しています。
    • これは、効率性とパフォーマンスの両方を重視するユーザーにとって、Gemini 1.5 Proが魅力的な選択肢であることを示しています。

要約:

「2. An Improved Gemini 1.5 Pro」は、Gemini 1.5 Proが初期バージョンから大幅に改善され、推論、コーディング、ビジョン、ビデオベンチマーク全体でパフォーマンスが向上したことを示しています。これらの改善により、Gemini 1.5 Proは、最先端の性能と効率性を兼ね備えた、強力なマルチモーダルモデルとなっています。

このセクションのポイントは、Gemini 1.5 Proが継続的に開発・改善されており、ユーザーにとってより強力で魅力的なツールになっていることを示すことです。

3. Model Architecture

このセクションでは、Gemini 1.5ファミリーのモデルアーキテクチャについて、Gemini 1.5 ProとGemini 1.5 Flashに焦点を当てて解説しています。

3.1. Gemini 1.5 Pro

  • 基本アーキテクチャ:
    • Gemini 1.5 Proは、Gemini 1.0の研究成果とマルチモーダル機能を基盤とした、スパース混合エキスパート(MoE)Transformerベースのモデル。
    • Googleにおける長年のMoE研究と、より広範な文献における言語モデル研究の成果を活用。
  • MoEの利点:
    • MoEモデルは、学習済みルーティング関数を使用して、処理対象の入力データに適したモデルパラメータのサブセットへ入力を転送。
    • この条件付き計算により、モデルの総パラメータ数を増やしつつ、特定の入力に対してアクティブになるパラメータ数を一定に保つことが可能。
  • アーキテクチャの改良点:
    • モデルスタック全体(アーキテクチャ、データ、最適化、システム)にわたる多くの改良により、Gemini 1.5 Proは、Gemini 1.0 Ultraに匹敵する品質を達成しながら、トレーニング計算量を大幅に削減し、サービング効率を大幅に向上。
    • パフォーマンスを低下させることなく、最大1000万トークンの入力の長文コンテキスト理解を可能にする、重要なアーキテクチャの変更も導入。
  • 長文コンテキスト処理能力:
    • 1000万トークンというコンテキスト長は、約5日分の音声録音、1440ページの「戦争と平和」全編、Flaxコードベース全体、10.5時間分のビデオ(1FPS)に相当する情報量を処理可能。
    • マルチモーダルモデルであるため、音声、画像、テキスト、コードなど、異なるモダリティのデータを同じ入力シーケンスに混在させて処理可能。

3.2. Gemini 1.5 Flash

  • 基本アーキテクチャ:
    • Gemini 1.5 Flashは、200万以上のコンテキストとGemini 1.5 Proと同じマルチモーダル機能を備えた、Transformerデコーダーモデル。
    • モデルサービングの低レイテンシーと、テンソル処理ユニット(TPU)の効率的な利用を重視した設計。
  • 効率化のための設計:
    • アテンションとフィードフォワードコンポーネントの並列計算 (Chowdhery et al., 2023b)。
    • より大規模なGemini 1.5 Proモデルからのオンライン蒸留 (Agarwal et al., 2024b; Anil et al., 2018; Beyer et al., 2021; Bucila et al., 2006; Hinton et al., 2015)。
    • 高次事前調整法によるトレーニング (Becker and LeCun, 1989; Duchi et al., 2011; Heskes, 2000)。

3.3. サービング効率とレイテンシー

  • 200万以上のコンテキスト処理に加えて、Gemini 1.5モデルは、あらゆるコンテキスト長において高い効率性と低レイテンシーを実現するように設計。
  • 出力文字あたりの平均時間:
    • 複数の言語(英語、日本語、中国語、フランス語)のクエリに対して、Gemini 1.5と他の基盤モデルAPIのレイテンシーを比較。
    • Gemini 1.5 Flashは、すべてのテスト言語で最速の出力生成速度を達成。
    • Gemini 1.5 Proは、GPT-4 Turbo、Claude 3 Sonnet、Claude 3 Opusよりも高速な生成速度を示す。

要約:

「3. Model Architecture」では、Gemini 1.5 ProとGemini 1.5 Flashのアーキテクチャ上の特徴と、それらがもたらす効率性、長文コンテキスト処理能力、マルチモーダル機能について詳しく説明しています。特に、MoEの活用、アーキテクチャの改良、オンライン蒸留などの技術が、Gemini 1.5ファミリーの優れた性能に貢献していることを示しています。

4. Training Infrastructure and Dataset

このセクションでは、Gemini 1.5モデルのトレーニングに使用されたインフラストラクチャとデータセットについて簡潔に説明しています。

主な内容:

  1. トレーニングインフラストラクチャ:

    • Gemini 1.5モデルは、複数のデータセンターに分散されたGoogleのTPUv4アクセラレータの4096チップポッドでトレーニング。
    • これは、大規模な計算能力とデータ並列処理を可能にする、高度な分散トレーニング設定を示しています。
  2. トレーニングデータセット:

    • データソース: ウェブドキュメント、コード、画像、音声、動画コンテンツなど、多様なドメインのデータを使用。
    • マルチモーダル性: 画像、音声、動画コンテンツを含むことで、モデルのマルチモーダル理解能力を強化。
    • 多言語性: 多言語データを使用することで、モデルの多言語処理能力を向上。
  3. 命令チューニング:

    • データ: 命令と適切な応答のペアを含むマルチモーダルデータセットでファインチューニング。
    • 人間による選好データ: 人間の選好データに基づいてさらにチューニングを行い、モデルの出力の質を向上。
  4. 詳細情報の参照先:

    • トレーニングデータセットとインフラストラクチャの詳細については、Gemini 1.0テクニカルレポート (Gemini-Team et al., 2023) を参照。

要約:

「4. Training Infrastructure and Dataset」は、Gemini 1.5モデルのトレーニングに使用された大規模な計算リソース、多様なマルチモーダルデータセット、人間による選好データに基づくファインチューニングについて概説しています。これらの要素が組み合わさることで、Gemini 1.5モデルの優れた性能と能力が実現しています。

このセクションは、Gemini 1.5モデルのトレーニングが、高度なインフラストラクチャと高品質なデータセットによって支えられていることを強調しています。

詳細な情報については、Gemini 1.0テクニカルレポートを参照するよう促しており、読者がGeminiモデルのトレーニングプロセスをより深く理解できるように配慮しています。

5. Evaluation Results

このセクションでは、Gemini 1.5シリーズの評価結果を詳細に示し、その長文コンテキスト処理能力とコア能力を検証しています。

はじめに:

  • 既存の評価指標は、大規模マルチモーダルモデルの急速な進化に対応しきれていない現状を指摘。
  • 従来の評価指標は、単一モダリティに焦点を当てているか、短文コンテキストに限定されているため、現実世界の複雑な長文混合モダリティのユースケースを十分に反映できていない。
  • 特に、長文混合モダリティシーケンスにおける推論能力の定量的評価が課題として挙げられる。

評価の3つのカテゴリー:

Gemini 1.5シリーズの評価は、以下の3つの主要なカテゴリーに分類されます。

  1. 定性的な長文コンテキストマルチモーダル評価:

    • 目的: 定量的なベンチマークが存在しない新しい能力を中心に、モデルの長文コンテキスト処理能力を手動で調査し、ストレステストを実施。
    • 方法: コード、テキスト、ビデオなど、さまざまなドメインにおける興味深いインタラクションを例示。
      • JAXコードベース全体を入力として、特定のコード部分を検索するタスク。
      • 文法書と辞書のみから新しい言語(カラマン語)の翻訳を学習するタスク。
      • 長編小説「レ・ミゼラブル」全体を入力として、手書きスケッチから特定のシーンを特定するタスク。
      • 45分間の映画を入力として、特定のフレームの情報を検索し、対応するタイムスタンプを提供するタスク。
  2. 定量的な長文コンテキストマルチモーダル評価:

    • 目的: 明確な指標を用いて、合成タスクと現実世界のタスクの両方で、モデルの長文コンテキスト処理能力を測定。
    • 方法:
      • 診断的評価: 長文シーケンスにおけるパープレキシティ、干し草の山の中の針検索タスクなど、長文コンテキスト能力を診断的に調査。
      • 現実的な評価: 長文ドキュメントQA、長文コンテキスト音声認識、新しい言語の翻訳学習、長文コンテキストビデオQAなど、現実世界のタスクを想定した評価。
      • 比較対象: 各タスクにおいて、外部で利用可能な最先端モデルと比較。
      • 評価範囲: 最大1000万トークンまでのコンテキスト長で評価を実施。
  3. 定量的なコア評価:

    • 目的: コーディング、数学、科学、多言語対応、命令追従など、コア能力における進歩と後退を特定。
    • 方法: Gemini 1.0テクニカルレポート (Gemini-Team et al., 2023) で調査された能力を網羅するベンチマークで評価。
    • 比較対象: Gemini 1.0シリーズのモデル(Gemini 1.0 Pro、Gemini 1.0 Ultra)と比較。

要約:

「5. Evaluation Results」では、Gemini 1.5シリーズの多岐にわたる評価結果を提示し、その長文コンテキスト処理能力、マルチモーダル理解、現実世界への応用可能性を検証しています。これらの結果は、Gemini 1.5シリーズが、従来の大規模言語モデルを大幅に進化させた、次世代のAIモデルであることを示しています。

このセクションは、Gemini 1.5シリーズの性能と能力を、具体的なデータと詳細な分析に基づいて示すことで、読者にその革新性を理解させることを目的としています。

5.1. Qualitative Examples of Multimodal Long-Context Capabilities

このセクションでは、数百万トークンというGemini 1.5 Proの画期的な長文コンテキスト処理能力によって可能になった、具体的な例を挙げながら、その能力を定性的に示しています。

主な内容:

  1. コード、テキスト、ビデオにおける能力実証:

    • 従来不可能だった実用的なアプリケーションを、具体的な例を通して紹介。
    • すべての例は、事前学習後に命令チューニングされた同じGemini 1.5 Proチェックポイントを使用し、温度0(貪欲デコーディング)でサンプリング。
  2. コード理解:

    • 大規模コードベースの理解: 746,152トークンからなるJAXコードベース全体をGemini 1.5 Proに入力し、自動微分の実装場所など、具体的な質問への回答に成功。
    • 図3: JAXコードベースと、自動微分に関するユーザーの質問、そしてGemini 1.5 Proが正確に回答した結果を示す図。
  3. テキスト理解と翻訳:

    • 新しい言語の学習: 文法書と辞書のみから、新しい言語(カラマン語)の翻訳を学習する能力を実証。
    • 図4: カラマン語の文法書と辞書、英語からカラマン語への翻訳を要求するユーザーのプロンプト、そしてGemini 1.5 Proが人間と同等の品質で翻訳した結果を示す図。
  4. テキストと画像の統合:

    • 長編小説からの画像検索: 732,162トークンからなる長編小説「レ・ミゼラブル」全体をGemini 1.5 Proに入力し、手書きスケッチから特定のシーンを特定するタスクに挑戦。
    • 図5: 「レ・ミゼラブル」のテキスト、手書きスケッチ、そしてGemini 1.5 Proが正確にシーンを特定し、ページ番号を回答した結果を示す図。
  5. ビデオ理解:

    • 長編映画からの情報検索: 45分間の映画「シャーロック・ジュニア」(1924年)をGemini 1.5 Proに入力し、特定のフレームに関する質問に回答させるタスクに挑戦。
    • 図6: 映画のフレーム、特定のフレームから情報を抽出するよう要求するユーザーのプロンプト、そしてGemini 1.5 Proが正確に情報を抽出し、対応するタイムスタンプを回答した結果を示す図。また、手書きスケッチから映画のシーンを特定するタスクにも成功したことを示す図。

要約:

「5.1. Qualitative Examples of Multimodal Long-Context Capabilities」は、Gemini 1.5 Proがコード、テキスト、画像、ビデオを統合的に理解し、複雑なタスクを処理できることを具体的な例を通して示しています。これらの例は、Gemini 1.5 Proの長文コンテキスト処理能力が、従来のLLMでは不可能だった新しいアプリケーションの可能性を開くことを示唆しています。

このセクションは、Gemini 1.5 Proの能力を視覚的に印象的に示すことで、読者の理解を深め、その潜在的な用途に対する期待を高めることを目的としています。

5.2. Long-context Evaluations

このセクションでは、Gemini 1.5モデルの長文コンテキスト処理能力を、様々な評価タスクを通して定量的に検証しています。

背景:

  • 近年、LLM研究では、モデルが取り込める情報量の増加を目指し、コンテキストウィンドウの拡張が重視されてきました。
  • より広範なコンテキストウィンドウは、タスク固有の情報をより多く取り込むことを可能にし、様々な自然言語処理やマルチモーダルタスクの性能向上につながります。
  • しかし、既存のLLMのコンテキスト長は、Claude 2の10万トークン、GPT-4 Turboの12.8万トークン、最新のClaude 3の100万トークンなど、依然として限られています。

Gemini 1.5 の革新性:

  • Gemini 1.5 Proは、この限界を大幅に押し上げ、パフォーマンスをほとんど低下させることなく、数百万トークンという前例のないコンテキスト長を実現しました。
  • これにより、従来よりもはるかに大規模な入力の処理が可能になり、LLMの可能性を大きく広げます。

評価方法:

Gemini 1.5モデルの長文コンテキスト能力を評価するために、以下の2つのアプローチを採用しています。

  1. 診断的評価:

    • 長文シーケンスにおけるパープレキシティや、干し草の山の中の針検索タスクなど、モデルの基礎的な長文コンテキスト処理能力を測定。
    • これらの評価は、モデルが長文情報をどれだけ効果的に利用できるかを理解するのに役立ちます。
  2. 現実的な評価:

    • 長文ドキュメントQA、長文コンテキスト音声認識、新しい言語の翻訳学習、長文コンテキストビデオQAなど、現実世界のタスクを想定した評価。
    • これらの評価は、モデルが実用的な場面でどれだけ効果的に機能するかを検証するのに役立ちます。

評価結果:

  • 診断的評価:
    • 100万トークンのドキュメントと1000万トークンのコードデータセットを用いて、パープレキシティを測定。
    • Gemini 1.5 Proは、シーケンス長が長くなるにつれてパープレキシティが減少し、予測精度が向上することを示しました。これは、モデルが非常に長いコンテキストでも全体を入力情報を利用できることを示唆しています。
    • また、Gemini 1.5 Proのパープレキシティは、非常に長いコンテキスト長まで、規則的なべき乗則構造に従うことがわかりました。
    • テキストの干し草の山の中の針検索タスクでは、Gemini 1.5 Proは53万トークンまで100%のリコール率を達成し、100万トークンまで99.7%以上のリコール率を維持しました。さらに、1000万トークンまで99.2%のリコール率を達成しました。
    • Gemini 1.5 Flashも、200万トークンまでのテキスト、ビデオ、音声のすべてのモダリティで、ほぼ完璧なリコール率を達成しました。
  • 現実的な評価:
    • 長文ドキュメントQAタスクでは、Gemini 1.5 Proは、70万トークンからなる「レ・ミゼラブル」全体を入力として与えられた場合でも、質問に正確に回答できました。
    • 長文コンテキスト音声認識タスクでは、Gemini 1.5 Proは、15分間のYouTube動画をセグメント化せずに文字起こしできることを示し、他のモデルよりも高い精度を達成しました。
    • 新しい言語の翻訳学習タスクでは、Gemini 1.5 Proは、文法書と辞書のみからカラマン語の翻訳を学習し、人間と同等の品質で翻訳できることを示しました。
    • 長文コンテキストビデオQAタスクでは、Gemini 1.5 Proは、10.5時間の長編動画から特定の情報を検索し、対応するタイムスタンプを提供できました。

比較対象:

  • 各タスクにおいて、Gemini 1.5モデルは、Claude 2.1、GPT-4 Turbo、Whisper、USMなど、外部で利用可能な最先端モデルと比較されました。
  • Gemini 1.5 Proは、ほとんどのタスクでこれらのモデルを凌駕する性能を示し、その長文コンテキスト処理能力の優位性を証明しました。

結論:

「5.2. Long-context Evaluations」は、Gemini 1.5モデルが、従来のLLMをはるかに超える長文コンテキスト処理能力を備えていることを、定量的なデータに基づいて示しています。これらの結果は、Gemini 1.5が、大規模なテキスト、音声、動画データを扱う様々な実用的なアプリケーションにおいて、大きな可能性を秘めていることを示唆しています。

今後の課題:

  • 複数の「針」を含む干し草の山の中の針検索タスクや、多ラウンド相互参照解決タスクなど、より複雑な評価指標の開発。
  • 長文コンテキストにおけるプロンプトの堅牢性に関する研究。
  • 長文コンテキストを活用した、より高度な推論と知識抽出タスクの評価。

これらの課題に取り組むことで、長文コンテキストAIモデルの分野をさらに発展させ、その真の可能性を引き出すことができると期待されます。

5.2.1. Diagnostic Long-Context Evaluations

このセクションでは、Gemini 1.5モデルの長文コンテキスト処理能力を診断的に評価するための手法と結果について解説しています。

目的:

  • 長文コンテキストにおけるモデルの能力を詳細に分析し、その限界を理解すること。
  • 特に、モデルが長文情報をどれだけ効果的に利用し、予測精度を向上させることができるかを検証すること。

評価方法:

  1. 5.2.1.1 Perplexity over Long Sequences:

    • 指標: 長文シーケンスにおけるトークンの負の対数尤度(NLL)を測定。NLLが低いほど、予測精度が高いことを示す。
    • データセット:
      • 最大100万トークンの長文ドキュメントデータセット。
      • ファイルをランダムにシャッフルして連結した、100万トークン以上のコードリポジトリデータセット。
    • 分析:
      • NLLとトークン位置の関係をグラフ化し、モデルが長文コンテキストをどのように利用しているかを分析。
      • NLLとコンテキスト長の関係をべき乗則で近似し、その規則性を検証。
    • 結果:
      • Gemini 1.5 Proは、長文ドキュメントでは100万トークンまで、コードでは1000万トークンまで、シーケンス長が長くなるにつれてNLLが減少し、予測精度が向上することを示した。
      • これは、モデルが非常に長いコンテキストでも全体を入力情報を利用できることを示唆している。
      • Gemini 1.5 ProのNLLは、非常に長いコンテキスト長まで、規則的なべき乗則構造に従うことがわかった。
      • Gemini 1.5 Flashは、長文ドキュメントでは100万トークンまで、コードでは200万トークンまで、同様の改善を示した。
  2. 5.2.1.2 Text Haystack:

    • タスク: 長文テキスト(「干し草の山」)に埋め込まれた特定のテキスト(「針」)を検索するタスク。
    • データセット: Paul Grahamのエッセイを連結・反復して作成した、様々な長さのコンテキスト。
    • 指標: 様々なコンテキスト長における「針」のリコール率を測定。
    • 結果:
      • Gemini 1.5 Proは、53万トークンまで100%のリコール率を達成し、100万トークンまで99.7%以上のリコール率を維持した。さらに、1000万トークンまで99.2%のリコール率を達成した。
      • Gemini 1.5 Flashは、200万トークンまで完璧なリコール率(100%)を達成した。
    • 追加分析:
      • 100万トークンまでのコンテキストに100個の異なる「針」を挿入し、モデルがすべてを検索できるかどうかを評価。
      • Gemini 1.5 Proは、GPT-4 Turboよりも短いコンテキスト長では高いリコール率を示し、100万トークンまで60%以上のリコール率を維持した。
      • 多ラウンド相互参照解決(MRCR)タスクを用いて、類似した「針」を区別する能力を評価。
      • Gemini 1.5 Proは、100万トークンまで安定した性能を維持し、他のモデルよりも高い精度を達成した。
  3. 5.2.1.3 Video Haystack:

    • タスク: 長編動画(「干し草の山」)に埋め込まれた特定のフレーム(「針」)を検索するタスク。
    • データセット: AlphaGoのドキュメンタリーを7回連結した、10.5時間の長編動画(990万トークン)。
    • 指標: 様々な動画長における「針」のリコール率を測定。
    • 結果:
      • Gemini 1.5 Proは、10.5時間の長編動画全体から、ランダムに挿入された「針」を正確に検索することができた。
      • GPT-4V APIは、約3分までの動画長しかサポートしていないため、比較は限定的だった。
      • Gemini 1.5 Flashも、200万トークンまでの動画で99.8%以上のリコール率を達成した。
  4. 5.2.1.4 Audio Haystack:

    • タスク: 長時間音声信号(「干し草の山」)に埋め込まれた特定の短い音声クリップ(「針」)を検索するタスク。
    • データセット: VoxPopuliデータセットから構築された、最大107時間(990万トークン)の音声信号。
    • 指標: 様々な音声信号長における「針」のリコール率を測定。
    • 結果:
      • Gemini 1.5 Proは、107時間の長時間音声信号全体から、ランダムに挿入された「針」を正確に検索することができた。
      • WhisperとGPT-4 Turboの組み合わせは、音声信号をセグメント化してテキストに変換する必要があり、全体的な精度は約94.5%だった。
      • Gemini 1.5 Flashも、200万トークンまでの音声信号で98.7%のリコール率を達成した。

5. 5.2.1.5 Improved Diagnostics

このセクションでは、前述の「needle-in-a-haystack」タスクにおけるGemini 1.5の優れた性能を認めつつも、観察された限界と、より高度な診断評価の必要性について論じています。

結論:

「5.2.1. Diagnostic Long-Context Evaluations」では、様々な診断的評価タスクを通して、Gemini 1.5モデルが非常に長いコンテキスト情報を効果的に利用し、高い精度で情報を検索できることを示しています。これらの結果は、Gemini 1.5が、大規模なテキスト、音声、動画データを扱う様々な実用的なアプリケーションにおいて、大きな可能性を秘めていることを示唆しています。

今後の課題:

  • 複数の「針」を含む干し草の山の中の針検索タスクや、多ラウンド相互参照解決タスクなど、より複雑な評価指標の開発。
  • 長文コンテキストにおけるプロンプトの堅牢性に関する研究。
  • 長文コンテキストを活用した、より高度な推論と知識抽出タスクの評価。

これらの課題に取り組むことで、長文コンテキストAIモデルの分野をさらに発展させ、その真の可能性を引き出すことができると期待されます。

内容:

5.1. 優れた性能と限界:
* Gemini 1.5 ProとFlashは、テキスト、ビデオ、音声の各モダリティにおいて、従来のモデルを大幅に上回る性能を示し、「needle-in-a-haystack」タスクで非常に高いリコール率を達成しました。
* しかし、このタスクは本質的にリコールを測定する検索タスクであり、最も単純な設定で行われてきました。
* より複雑なシナリオにおけるモデルの能力を評価するためには、より高度な診断評価が必要となります。

5.2. 複数needle検索タスク:
* 従来のタスクでは、haystackに1つのneedleしか含まれていませんでしたが、現実的なシナリオでは、複数のneedleを検索する必要がある場合が多いです。
* そこで、100万トークンまでのコンテキストに100個の異なるneedleを挿入し、モデルがすべてを検索できるかどうかを評価しました。
* 結果として、Gemini 1.5 Proは、GPT-4 Turboよりも短いコンテキスト長では高いリコール率を示しましたが、100万トークンに向けてリコール率がわずかに低下することが観察されました。

5.3. MRCRタスク:
* 複数のneedleが互いに類似している場合、モデルはそれらを区別するのが難しくなります。
* この課題に対処するため、多ラウンド相互参照解決(MRCR)タスクを用いて、類似したneedleを区別する能力を評価しました。
* MRCRタスクでは、ユーザーとモデルの長い会話の中で、2つの異なるトピックと形式のユーザーリクエストがランダムに配置されます。モデルは、会話全体から、特定のリクエストに対するモデルの出力(needle)を再現する必要があります。
* 結果として、Gemini 1.5 Proは、100万トークンまで安定した性能を維持し、他のモデルよりも高い精度を達成しました。

5.4. 高度な診断評価の必要性:
* 「複数needle検索」タスクとMRCRタスクは、長文コンテキストにおける検索と推論能力を評価するためのより挑戦的な設定を提供しますが、さらに限界を押し上げる必要があります。
* 長文コンテキスト全体に散らばった複数の情報を統合し、推論し、矛盾を解決する必要があるタスクを評価することで、モデルの真の能力をより深く理解することができます。
* プロンプトの堅牢性に関する研究も重要です。

結論:

「5.2.1.5 Improved Diagnostics」は、「needle-in-a-haystack」タスクにおけるGemini 1.5の優れた性能を認めつつも、より複雑なシナリオにおけるモデルの能力を評価するためには、より高度な診断評価が必要であることを強調しています。

今後の研究方向:

  • 複数のneedleを含む干し草の山の中の針検索タスクや、多ラウンド相互参照解決タスクなど、より複雑な評価指標の開発。
  • 長文コンテキストにおけるプロンプトの堅牢性に関する研究。
  • 長文コンテキストを活用した、より高度な推論と知識抽出タスクの評価。

これらの研究方向を探求することで、長文コンテキストAIモデルの分野をさらに発展させ、その真の可能性を引き出すことができると期待されます。

5.2.2. Realistic Long-Context Evaluations

一連の診断テストを使用して長いコンテキストを処理するモデルのマルチモーダル能力を調査した後、このモデルの潜在的な用途をよりよく反映するように設計された一連の新しいマルチモーダルタスクに目を向け、より現実的な方法でストレステストモデルを行います。

5.2.2.1 In-context language learning – learning to translate a new language from one book

このセクションでは、Gemini 1.5の非常に長いコンテキストを活用した、新しい言語の翻訳を1冊の本から学習する能力について検証しています。

タスク:

  • Machine Translation from One Book (MTOB) ベンチマーク (Tanzer et al., 2023) を使用。
  • 英語とカラマン語(話者数200人未満、ISO 639-3言語コード: kgv)間の文レベル翻訳を学習。
  • カラマン語はウェブ上に情報がほとんど存在しないため、モデルは事前学習で得た知識ではなく、コンテキストとして与えられたデータのみに頼って翻訳を学習する必要がある。

学習資料:

  • カラマン語の学習資料として、以下の3つをモデルに提供:
    • 約500ページの文法書 (Visser, 2020b)
    • 約2000語の対訳単語リスト (Visser, 2020a)
    • 約400の追加対訳文 (Visser, 2020a)
  • これらの資料は合計で約25万トークン。

実験設定:

  • Gemini 1.5 Flash & 1.5 Pro: 全資料をコンテキストとして入力。
  • GPT-4 Turbo (2024-04-09) & Claude 3: 公開されているコンテキストウィンドウ(それぞれ128Kと200Kトークン)に収まらないため、文法書の半分のみを提供。
  • ゼロショット設定: コンテキストにカラマン語の情報を含めずに、モデルの事前学習データのみで翻訳できるかを検証。
  • 人間のパフォーマンス: 同じ資料セットからカラマン語を学習した人間の翻訳を基準として比較。

評価方法:

  • 人間の評価: 同じ人間が、入力文と参照翻訳を提示され、予測翻訳の品質を0〜6のスケールで評価(6が最高の翻訳)。評価者は、カラマン語を学習した非ネイティブスピーカー。
  • 自動評価指標:
    • カラマン語から英語への翻訳: BLEURT (Sellam et al., 2020)
    • 英語からカラマン語への翻訳: chrF (Popović, 2015)

結果:

  • ゼロショット設定: Gemini 1.5、GPT-4 Turbo、Claude 3はすべてランダムなパフォーマンスを示し、事前学習データのみではカラマン語の翻訳ができないことを示唆。
  • コンテキストあり:
    • Gemini 1.5 Proは、文法書の半分のみを提供した場合でも、GPT-4 TurboとClaude 3を大幅に上回る性能を示した。
    • Gemini 1.5 Proは、kgv→eng翻訳で人間の評価4.14点(人間の学習者5.52点)、eng→kgv翻訳で5.46点(人間の学習者5.58点)を達成。
    • Gemini 1.5 FlashもGPT-4 Turboを上回る性能を示し、Claude 3と同程度の性能を達成。

結論:

  • Gemini 1.5 Proは、長文コンテキストを活用することで、限られた資料から新しい言語の翻訳を学習できることを実証。
  • この結果は、事前学習データに十分に含まれていない言語をサポートするために、非常に長いコンテキストを持つLLMが有効である可能性を示唆。
  • 今後の課題として、双方向の翻訳品質向上、低リソース言語におけるLLM性能評価方法の改善などが挙げられる。

このセクションは、Gemini 1.5の長文コンテキスト処理能力が、言語の多様性をサポートし、デジタルデバイドを解消するための新しい可能性を開くことを示唆しています。

5.2.2.2 In-context language learning - learning to transcribe speech in a new language in context

このセクションでは、Gemini 1.5のマルチモーダルな長文コンテキスト処理能力を活用し、テキストと音声の資料から新しい言語の音声認識を学習する能力について検証しています。

背景:

  • 前セクションで、Gemini 1.5はMTOBベンチマークにおいて、テキスト資料のみからカラマン語の翻訳を学習できることが示されました。
  • しかし、カラマン語を含む多くの絶滅危惧言語は、主に口頭で使用されています。
  • したがって、社会的に有用なアプリケーションを開発するためには、音声認識機能が不可欠です。

タスク:

  • 新しいベンチマーク ASROB (Automatic Speech Recognition from One Book) を導入。
  • ASROBは、MTOBを拡張し、カラマン語の音声録音と書き起こしを追加。
  • モデルは、テキスト資料と音声資料の両方から、カラマン語の音声認識を学習する。

データセット:

  • The Kalamang Collection (Visser, 2020c) から、104件の音声録音(合計15時間)と書き起こしを使用。
  • 今回は、フレーズレベルのキャプションを手動で調整した6件の録音(45分)を使用。
  • 5件の録音(約800フレーズ)をコンテキスト内のトレーニングセットとして、1件の録音(約100フレーズ)をテストセットとして使用。
  • テストセットの録音の話者は、トレーニングセットの3つの録音にも登場。

実験設定:

  • Gemini 1.5 Pro:
    • テキストコンテキスト: MTOBの約2000語の対訳単語リストと約400の対訳文。
    • 音声コンテキスト: 最大800のカラマン語音声/テキストペア。
  • Gemini 1.5 Flash: 同上。
  • GPT-4 & Claude 3: 現時点で音声入力に対応していないため、直接比較は不可。

評価方法:

  • 文字誤り率 (CER) を使用。CERが低いほど、音声認識の精度が高い。

結果:

  • Gemini 1.5 Pro:
    • コンテキスト内の音声サンプルなしでも、35.0%のCERを達成。これは、モデルがカラマン語の音声をある程度認識できていることを示唆。
    • テキストと音声のコンテキストを追加することで、CERは22.9%まで改善。
    • 出力は、セグメンテーションとスペルが大幅に改善され、完全に正しく書き起こされた例もいくつか見られた。
  • Gemini 1.5 Flash: Proと同様の傾向を示したが、全体的なスコアはProよりも低かった。

結論:

  • Gemini 1.5は、テキストと音声の資料から新しい言語の音声認識を学習できることを実証。
  • この結果は、LLMが、音声資料の少ない言語の音声技術開発に役立つ可能性を示唆。
  • 今後の課題として、双方向の翻訳品質向上、音声認識精度の向上、低リソース言語におけるLLM性能評価方法の改善などが挙げられる。

このセクションは、Gemini 1.5のマルチモーダルな長文コンテキスト処理能力が、音声認識技術の開発に新たな可能性をもたらすことを示唆しています。

5.2.2.3 Scaling In-Context learning for low-resource machine translation

このセクションでは、Gemini 1.5の膨大なコンテキストを活用し、低リソース言語の機械翻訳におけるコンテキスト内学習(ICL)のスケーリングについて検証しています。

背景:

  • 従来のICL研究では、コンテキスト長やモデルの能力の制約から、数十個の例を用いた学習が主流でした。
  • Gemini 1.5の登場により、数千個の例を用いた多重ショットICL (Agarwal et al., 2024a; Bertsch et al., 2024) の可能性が開かれました。
  • このセクションでは、より多くのコンテキスト内サンプルを活用することで、低リソース言語の機械翻訳の性能がどれだけ向上するかを検証しています。

対象言語:

  • 英語から6つの多様な低リソース言語への翻訳を対象:
    • Acholi (ISO 639-3: ach; アフリカ)
    • Abkhaz (ISO 639-3: abk; アジア)
    • Navajo (ISO 639-3: nav; アメリカ)
    • Bemba (ISO 639-3: bem; アフリカ)
    • Ewe (ISO 639-3: ewe; アフリカ)
    • Kurdish (ISO 639-3: kur; アジア)
  • これらの言語は、話者数が数十万人から数百万人で、インターネット上の情報が少ないため、モデルは事前学習データよりもコンテキスト内サンプルから学習する必要があります。

実験設定:

  • 公開データセット: Bemba、Ewe、Kurdishについては、Flores-200 (Team et al., 2022) の開発セットをコンテキスト内サンプルとして使用し、開発テストセットの最初の200個の例をテストセットとして使用。
  • 非公開データセット: Acholi、Abkhaz、Navajoについては、Gatitos (Jones et al., 2023) をコンテキスト内サンプルとして使用し、専門家によって注釈が付けられた200個の文ペアをテストセットとして使用。
  • プロンプト: 翻訳タスクのプロンプトはAppendix 12.16.15に記載。
  • 評価指標: chrF (Popović, 2015) を使用。
  • ショット数: 最大約1000ショット(約9万トークン)または約4000ショット(約3万トークン)までスケール。
  • 比較対象: GPT-4 Turbo。

結果:

  • ショット数増加による性能向上: Gemini 1.5は、ショット数を増やすにつれて、ほぼ一貫して翻訳性能が向上しました。これは、従来のICL研究で見られた、数十個の例で性能が飽和するという現象とは対照的です。
  • ゼロショット翻訳との比較: Bembaでは+11.1/+21.4 chrF、Navajoでは+9.5/+15.9 chrFなど、ゼロショット翻訳と比較して大幅な改善が見られました (Gemini 1.5 Pro/Flash)。
  • 言語による性能差: 言語によって性能向上の度合いは異なりましたが、全体的にはGemini 1.5 Flashの方が、より顕著な多重ショットスケーリングを示しました。これは、モデルサイズが小さいFlashは、暗黙的な知識よりもコンテキスト内サンプルに依存する度合いが高いためと考えられます。
  • GPT-4 Turboとの比較: Gemini 1.5 Proは、多くの言語とショット数において、GPT-4 Turboを大幅に上回る性能を示しました。

結論:

  • Gemini 1.5は、低リソース言語の機械翻訳において、多重ショットICLを効果的に活用できることを実証。
  • この結果は、Gemini 1.5の膨大なコンテキスト処理能力が、低リソース言語の翻訳品質向上に大きく貢献することを示唆。
  • 今後の研究課題として、より多くのショット数や言語での評価、プロンプトの堅牢性向上などが挙げられる。

このセクションは、Gemini 1.5が、低リソース言語の機械翻訳において、従来のモデルを凌駕する性能とスケーラビリティを実現したことを示しています。

5.2.2.4 Long-document QA

このセクションでは、Gemini 1.5モデルの長文ドキュメントに対する質問応答能力を評価しています。

課題:

  • 長文ドキュメント(またはドキュメントコレクション)に対する質問応答は、特定の事実や詳細に焦点を当てるタスクとは異なり、文書全体にわたる情報の関係性を理解する必要があるため、独自の課題を呈します。
  • 例えば、「権威への敬意と反乱への憎悪の両方を体現する登場人物を通して、二元性の概念はどのように描かれているか?」といった質問は、小説全体の人物描写や物語の展開を理解する必要があります。

評価方法:

  • 対象ドキュメント: ヴィクトル・ユーゴーの小説「レ・ミゼラブル」(全1,462ページ、71万トークン)。
  • 質問生成: 自動的に100個の質問を生成。
  • モデル比較:
    • Gemini 1.5 Pro: 71万トークン全体をコンテキストとして入力。
    • Gemini 1.0 Pro: コンテキストウィンドウの制限(32Kトークン)のため、TF-IDFを用いた検索拡張生成手法を使用。上位4Kトークン(約41パッセージ)を時間順に並べてコンテキストとして入力。
  • 評価指標:
    • 絶対的な性能指標では、モデル間の差を明確に示すことが難しいため、Side-by-Side比較を採用 (Bohnet et al., 2024)。
    • 2つのモデルの回答を質問と共に自動評価器に入力し、「システムAの方が良い」「システムBの方が良い」「どちらも事実と異なる」のいずれかを判定。
    • 回答が事実と異なる場合は、両方のモデルを除外。
    • この方法により、モデルが質問に十分な詳細さで回答できているかを評価。
  • モデル強度の分析:
    • Side-by-Side比較の結果を用いて、Bradley-Terryモデル (Bradley and Terry, 1952) によりモデルの強さを分析。
    • このモデルは、ペアワイズ比較に基づいてモデルにスコアを割り当て、モデルiがモデルjよりも優れた回答を生成する確率を計算。

結果:

  • Gemini 1.5 Proの優位性:
    • 「レ・ミゼラブル」全体をコンテキストとして使用した場合、Gemini 1.5 Proは、Gemini 1.0 Pro(検索拡張生成手法を使用)とGPT-4 Turbo(検索拡張生成手法を使用)を大幅に上回る性能を示した。
    • 例えば、Gemini 1.5 Proは、78%の確率で、4Kトークンの検索拡張生成手法を用いたGemini 1.5 Proよりも優れた回答を生成しました。
    • これは、Gemini 1.5 Proの広範なコンテキストウィンドウが、長文ドキュメントに対する質問応答において大きな利点をもたらすことを示唆しています。

結論:

  • Gemini 1.5 Proは、長文ドキュメントに対する質問応答において、従来のモデルや手法を凌駕する性能を示した。
  • この結果は、Gemini 1.5 Proが、大規模なテキストデータを扱う様々な実用的なアプリケーションにおいて、大きな可能性を秘めていることを示唆している。

今後の課題:

  • より複雑な質問応答タスクの開発。
  • 長文コンテキストにおけるプロンプトの堅牢性に関する研究。
  • 長文コンテキストを活用した、より高度な推論と知識抽出タスクの評価。

これらの課題に取り組むことで、長文コンテキストAIモデルの分野をさらに発展させ、その真の可能性を引き出すことができると期待されます。

5.2.2.5 Long-context Audio

このセクションでは、Gemini 1.5モデルの長文音声入力に対する理解能力、特に**長文コンテキスト音声認識(ASR)**における性能を評価しています。

評価方法:

  • データセット: 15分間のYouTube動画から作成した内部ベンチマークを使用。
  • 比較対象:
    • Gemini 1.0 Pro: 音声セグメントが短いデータで学習されたモデル。
    • Universal Speech Model (USM) (Zhang et al., 2023b)
    • Whisper (OpenAI, 2023)
  • 評価指標: 単語誤り率 (WER) を使用。WERが低いほど、音声認識の精度が高い。

実験と結果:

  1. セグメント化なし:

    • 15分間の動画全体を一度に入力した場合、Gemini 1.0 Proはトレーニングデータとテストデータの音声長の不一致により、WERが100%となった。
    • これは、従来のASRモデルが長文音声入力にうまく対応できないことを示している。
  2. 30秒ごとのセグメント化:

    • 動画を30秒ごとにセグメント化し、各セグメントの境界で言語モデルのテキストコンテンツを渡した場合、Gemini 1.0 ProのWERは7.8%に改善。
    • USM(CTCデコーダーを使用)は、長文セグメントに強いものの、WERは8.8%だった。
    • Whisperは長文セグメントに弱いため、30秒ごとに音声セグメント化する必要があり、WERは7.3%だった。
  3. Gemini 1.5の性能:

    • Gemini 1.5 Pro: 長文コンテキスト処理能力により、追加のセグメント化や前処理なしで15分間の動画をより正確に書き起こし、WER 5.5%を達成。
    • Gemini 1.5 Flash: 1.0 ProよりもWERは高いものの(8.8%)、その小さなサイズと優れた効率性を考慮すると、注目すべき品質レベルを達成。

結論:

  • Gemini 1.5 Proは、長文音声入力に対する堅牢性を示し、従来のモデルやWhisperよりも優れた音声認識性能を達成。
  • Gemini 1.5 Flashも、効率性を重視したモデルながら、高い音声認識精度を実現。

このセクションは、Gemini 1.5の長文コンテキスト処理能力が、音声認識タスクにおいても有効であることを示しています。 特に、Gemini 1.5 Proは、長時間の音声データを効率的かつ高精度に処理できるため、会議の議事録作成、講義の書き起こし、音声検索など、様々なアプリケーションへの応用が期待されます。

5.2.2.6 Long-context Video QA

このセクションでは、Gemini 1.5の長文コンテキスト動画理解能力、特に長文動画に対する質問応答における性能を評価しています。

課題:

  • 長文コンテキスト動画理解の評価には、以下の2つの要素が必要です。
    • 長時間の動画: 従来のベンチマークは数分程度の動画しか扱っていないため、Gemini 1.5のような長時間動画を処理できるモデルの評価には不向きです。
    • コンテキスト長による性能差を測定できる質問: 既存のベンチマークの質問は、短いコンテキストでも回答可能なものが多く、長文コンテキスト処理能力を評価するには不十分です。

新しいベンチマーク:

  • 上記の課題を解決するため、1H-VideoQA という新しいベンチマークを導入。
  • 特徴:
    • 40分から105分間の公開動画を使用。
    • 5択の多肢選択式質問を125問用意。
    • 質問は、動画全体から数秒間隔で発生する複数のイベントを理解する必要があるように設計。
    • ランダムにサンプリングされた少数のフレームだけでは回答が難しい問題設定。

評価方法:

  • 動画フレーム抽出: 1秒ごとに動画フレームを抽出し、線形的にサブサンプリングして固定長のコンテキストを作成。
  • 比較対象: GPT-4V
  • 評価指標: 正解率

結果:

  • EgoSchemaとの比較:
    • 既存の最長動画ベンチマークであるEgoSchema (Mangalam et al., 2023) では、Gemini 1.5 Proは16フレームのみを使用して70.2%の精度を達成し、GPT-4V (55.6%) を上回りました。
    • しかし、EgoSchemaの動画は最大3分と短いため、150フレームに増やしても精度は向上せず、多くの質問が限られたフレーム数で回答可能であることが示唆されました。
  • 1H-VideoQAにおける性能:
    • Gemini 1.5 Proは、提供されるフレーム数が増えるにつれて一貫して精度が向上し、1H-VideoQAがコンテキスト長による性能差を測定するのに効果的であることを示しました。
    • Gemini 1.5 Proは、16フレームと150フレームの両方でGPT-4Vを上回る精度を達成。
    • Gemini 1.5 Flashは、GPT-4V(150フレーム)よりもわずかに精度が劣るものの、GPT-4V(16フレーム)よりも優れた精度を達成し、その効率性の高さを示しました。

結論:

  • 1H-VideoQAは、長文コンテキスト動画理解能力を評価するための有効なベンチマークであることが示された。
  • Gemini 1.5 Proは、長時間の動画に対する質問応答において、GPT-4Vを上回る性能を示した。
  • Gemini 1.5 Flashは、効率性を重視したモデルながら、高い動画理解精度を実現。

このセクションは、Gemini 1.5が、長文動画理解においても優れた能力を発揮することを示しています。 特に、Gemini 1.5 Proは、防犯カメラ映像分析、スポーツ映像解析、映画の内容理解など、長時間動画を扱う様々なアプリケーションへの応用が期待されます。

5.2.2.7 In-Context Planning

このセクションでは、Gemini 1.5モデルの計画能力、特にコンテキスト内学習による計画能力の向上について検証しています。

背景:

  • 推論と計画は、問題解決と意思決定を行う上で重要な人間の能力です。
  • 近年、LLMは推論タスクにおいて著しい進歩を遂げていますが、計画はより複雑な領域であり、これまであまり注目されていませんでした。

評価方法:

  • 古典的な計画ベンチマーク: 標準的な計画ドメイン定義言語(PDDL)で表現されたベンチマークを使用。
  • 自然言語による計画ベンチマーク: より現実的なシナリオを反映した、自然言語で表現されたベンチマークを使用。
  • 評価指標: 計画の正確性を測定。
  • コンテキスト内学習: 複数の例(「ショット」)をコンテキストに追加することで、モデルの計画能力がどのように向上するかを評価。これは、多重ショット学習の成功 (Agarwal et al., 2024a) に触発されたものです。
  • 比較対象: GPT-4 Turbo

タスクと結果:

  1. Blocks World:

    • ブロックの配置を変更する古典的な計画問題。
    • Gemini 1.5 Proは、1ショットで35%、40ショットで48%の精度を達成し、GPT-4 Turbo(最高精度43%)を上回った。
    • Gemini 1.5 Flashは、1ショットで26%の精度を達成。
  2. Logistics:

    • 都市内ではトラック、都市間では飛行機を使用して荷物を配送する計画問題。
    • Gemini 1.5 Proは、1ショットで43%の精度を達成し、GPT-4 Turbo(18%)を大幅に上回った。
    • Gemini 1.5 Proは、コンテキストが長くなるほど一貫して精度が向上した一方、GPT-4 Turboは精度が低下した。
  3. Mini-Grid:

    • 部屋の中でロボットを目標地点まで移動させる計画問題。
    • Gemini 1.5 Proは、1ショットで28%、400ショットで77%の精度を達成し、GPT-4 Turbo(最高精度38%)を大幅に上回った。
    • Gemini 1.5 Flashは、GPT-4 Turboと同程度の性能を示した。
  4. Trip Planning:

    • 制約条件下で都市を訪問する旅程を計画する問題。
    • Gemini 1.5 Proは、1ショットではGPT-4 Turboに劣るものの、ショット数が増えるにつれて精度が大幅に向上し、100ショットで42%の精度を達成した。
  5. Calendar Scheduling:

    • 最大7人の参加者の会議をスケジュールする問題。
    • Gemini 1.5 Proは、1ショットで33%、100ショットでは52%の精度を達成し、GPT-4 Turbo(最高精度36%)を上回った。

結論:

  • Gemini 1.5 Proは、様々な計画タスクにおいて、GPT-4 Turboを上回る性能を示した。
  • 特に、Gemini 1.5 Proは、少ないショット数でも高い精度を達成し、コンテキストが長くなるほど効果的に学習できることがわかった。
  • Gemini 1.5 Flashも、効率性を重視したモデルながら、計画タスクにおいて良好な性能を実現。

このセクションは、Gemini 1.5が、コンテキスト内学習を通して複雑な計画タスクを効果的に学習できることを示しています。 これは、ロボット工学、自動運転、タスク管理など、計画能力が重要な様々な分野において、Gemini 1.5が大きな可能性を秘めていることを示唆しています。

5.2.2.8 Unstructured Multimodal Data Analytics Task

このセクションでは、Gemini 1.5が非構造化マルチモーダルデータ分析タスクにおいてどのように活用できるかを検証しています。

背景:

  • 構造化データ分析は成熟した分野ですが、現実世界のデータの多くは画像や会話などの非構造化形式で存在します。
  • 大規模言語モデル (LLM) は、この膨大なマルチモーダル情報を直接分析する可能性を秘めています。

タスク:

  • 非構造化データ分析の一例として、画像の構造化タスクを実施。
  • 1024枚の画像をLLMに入力し、画像に含まれる情報を構造化データシートに抽出することを目指します。
  • このタスクは長文コンテキストを必要とするため、モデルのコンテキスト長が足りない場合は、異なるバッチサイズでミニバッチ処理を行い、最終的に結果を連結して構造化テーブルを作成します。

評価方法:

  • 入力: 画像のバッチ。
  • 出力: 抽出された属性の構造化データ (例: ID, カテゴリー, 色, セマンティック属性)。
  • 評価指標: 正確性 (抽出された情報の正確さ)。
  • 比較対象: GPT-4 Turbo
  • バッチサイズ: 8, 16, 32, 64, 128, 256, 512

結果:

  • Gemini 1.5 Pro:
    • すべての属性抽出において、GPT-4 Turboよりも9% (絶対値) または27% (相対値) 高い精度を達成。
    • 画像の数が増えるにつれて精度が向上し、追加のコンテキストを効果的に活用できることを示唆。
  • GPT-4 Turbo: 画像の数が増えるにつれて精度が低下し、コンテキスト長の限界を示唆。
  • Claude 3: APIの制限により、20枚以上の画像を分析できなかったため、結果は上限に達した。

結論:

  • Gemini 1.5 Proは、非構造化マルチモーダルデータ分析、特に画像の構造化タスクにおいて、GPT-4 Turboよりも優れた性能を示した。
  • Gemini 1.5 Proは、長文コンテキストを効果的に活用することで、より多くの画像からより正確な情報を抽出できる。

このセクションは、Gemini 1.5が、画像データの分析や理解、情報抽出など、様々な実用的なアプリケーションにおいて、大きな可能性を秘めていることを示唆しています。 例えば、商品画像から属性情報を抽出してデータベース化したり、医療画像から診断情報を抽出したりするなど、様々な分野での応用が期待されます。

今後の課題:

  • より複雑な非構造化データ分析タスクの開発。
  • 異なる種類の非構造化データ (例: 音声、動画) に対する評価。
  • 人間による評価との相関関係の検証。

これらの課題に取り組むことで、LLMを用いた非構造化データ分析の分野をさらに発展させ、その真の可能性を引き出すことができると期待されます。

6. Core Capability Evaluations

Gemini 1.5 ProとGemini 1.5 Flashの評価ハーネスの最終コンポーネントは、モデルのコア機能(つまり、非ロングコンテキストタスクでのパフォーマンス)の品質を測定します。このセクションの評価は、テキスト、ビジョン、オーディオの3つのモダリティすべてをカバーするベンチマークで構成されています。私たちは、公開され、コミュニティによって使用される確立されたベンチマークと、保持され、リークされていないいくつかの内部ベンチマークの組み合わせに依存しています。私たちの選択基準は、主に、その前身であるジェミニ1.0シリーズのモデルであるジェミニ1.0プロとジェミニ1.0ウルトラと比較して、ジェミニ1.5シリーズの改善を測定することを目的としています。私たちの目標は、ロングコンテキスト機能に優れた1.5世代のジェミニモデルと、非ロングコンテキストタスクでのパフォーマンスとの間のトレードオフの程度を強調することです。特に、1.5シリーズを開発する際に、他のすべての機能に対する品質を損なうことなく、この新しい次元のマルチモーダルロングコンテキストにおけるモデルの習熟度を向上させることを目指しています。

全体的に、1.0 シリーズと 1.5 シリーズの間には明らかな世代間の改善が見られ、Gemini 1.5 Pro は 1.0 Pro を一貫して上回り、トレーニングの効率が大幅に向上しているにもかかわらず、ほとんどのベンチマークで最先端のモデルである 1.0 Ultra に近づいています (多くの場合、上回っています)。この図から外れるのは、オーディオ機能の状況です。モデルのトレーニング後のデータには 5 つのヘッド言語が含まれているため、ヘッドが重くない多言語データセット (YouYube、FLEURS、Covost 2 など) ではわずかな回帰が生じます。

[Table 10] は、Gemini 1.5 Pro と Gemini 1.5 Flash の コア能力 における性能を、既存の Gemini 1.0 シリーズ (1.0 Pro, 1.0 Ultra) および 2 月に発表された Gemini 1.5 Pro と比較した結果をまとめた表です。

表の内容:

  • 行: テキスト、ビジョン、音声という3つの主要なモダリティに分けられ、さらに各モダリティ内で具体的な能力(数学・科学・推論、多言語対応、コーディングなど)が列挙されています。
  • 列:
    • 1.5 Pro (Feb): 2月に発表された Gemini 1.5 Pro
    • 1.0 Pro: Gemini 1.0 Pro
    • 1.0 Ultra: Gemini 1.0 Ultra
    • 1.5 Flash: Gemini 1.5 Flash
  • 数値: 各セルには、対応するモデルと能力の組み合わせにおける、1.5 Pro (Feb)に対する相対的な性能向上がパーセンテージで示されています。正の値は性能向上、負の値は性能低下を表します。

主なポイント:

  1. 世代間での明確な改善: Gemini 1.0 シリーズと比較して、Gemini 1.5 シリーズ (Pro, Flash) は、ほとんどの能力において明確な性能向上を示しています。これは、Gemini 1.5 シリーズが、アーキテクチャ、トレーニングデータ、学習方法などの面で大幅な進歩を遂げていることを示唆しています。

  2. 1.5 Pro の優れた性能: Gemini 1.5 Pro は、多くの能力において、最先端モデルである Gemini 1.0 Ultra を凌駕する性能を示しています。これは、トレーニングに必要な計算量が大幅に少なく、より効率的に提供できるにもかかわらず、達成されたことです。

  3. 1.5 Flash の効率性: Gemini 1.5 Flash は、1.0 Pro よりも一貫して優れた性能を発揮しており、その効率性の高さを示しています。

  4. 音声能力における課題: 音声認識と音声翻訳の能力においては、1.5 Pro と 1.5 Flash は、1.0 Ultra と比較して性能が低下しています。これは、モデルの事後学習データに含まれる主要言語が限られているため、ヘッドヘビーではない多言語データセット(YouTube、FLEURS、Covost 2 など)では、わずかな回帰が発生するためです。

要約:

[Table 10] は、Gemini 1.5 シリーズが、長文コンテキスト処理能力の向上に加えて、コア能力においても大幅な進歩を遂げていることを示しています。特に、Gemini 1.5 Pro は、効率性と性能の両面で優れたバランスを実現しており、幅広いタスクに適した強力なモデルとなっています。

この表は、Gemini 1.5 シリーズが、多様なタスクにおいて高い性能を発揮する、汎用性の高い強力なモデルファミリーであることを示す重要な証拠となっています。

6.1. Core Text Evals

このセクションでは、Gemini 1.5 Pro と Gemini 1.5 Flash の コアテキスト能力 を評価しています。つまり、長文コンテキストに依存しないタスクにおける性能を測ることで、モデルの基本的な能力を検証しています。

評価対象:

7つの主要なテキスト能力を評価しています。

  1. 数学と科学 (Math and Science): 数学的推論、科学的知識の理解度を評価。
  2. 一般的な推論 (General Reasoning): 論理的思考、常識推論、問題解決能力を評価。
  3. コーディング (Coding): コード生成、コード理解、バグ修正能力を評価。
  4. 多言語対応 (Multilinguality): 複数の言語を理解し、処理する能力を評価。
  5. 関数呼び出し (Function Calling): 外部APIやツールを呼び出してタスクを実行する能力を評価。
  6. 命令追従 (Instruction Following): 複雑な指示を理解し、それに従ってタスクを実行する能力を評価。
  7. 現実世界と専門家のロングテールGenAIタスク (Real-world and expert long-tail GenAI tasks): 専門知識やスキルを必要とする現実世界の複雑なタスクを解決する能力を評価。

評価方法:

  • 公開ベンチマークと非公開ベンチマーク:
    • 各能力を評価するために、広く使用されている公開ベンチマークと、ウェブリークを防ぐためにGoogle内部で開発された非公開ベンチマークを組み合わせて使用。
  • 汚染対策:
    • 公開ベンチマークの汚染(モデルがトレーニングデータでベンチマーク問題を既に見てしまっている状態)に対処するため、標準的なn-gramベースの汚染除去手順を採用。
    • しかし、n-gramベースの手順は完全でないため、非公開評価も重要視。
  • 詳細な結果:
    • 各能力の評価結果の詳細 (使用したベンチマーク、指標、結果など) は、Appendixに記載。

結果の概要:

  • Table 11:
    • コーディング、多言語対応、数学・科学・推論の各ベンチマークにおける、Gemini 1.5 Pro、1.5 Flash、1.0 モデルの結果をまとめた表。
    • ほとんどのタスクにおいて、Gemini 1.5 Pro は 1.0 Ultra と 1.0 Pro の両方を上回る性能を示している。
    • Gemini 1.5 Flash も 1.0 Ultra を上回るケースが多く、その効率性の高さが示されている。

重要なポイント:

  • 長文コンテキスト処理能力とコア能力の両立: Gemini 1.5 シリーズは、長文コンテキスト処理能力を大幅に向上させながら、コアテキスト能力においても優れた性能を維持・向上させている。
  • 現実世界への適用可能性: Gemini 1.5 シリーズは、専門知識やスキルを必要とする現実世界の複雑なタスクにも対応できる可能性を示している。

このセクションは、Gemini 1.5 シリーズが、長文コンテキスト処理能力だけでなく、幅広いテキストタスクにおいても高い性能を発揮する、汎用性の高い強力なモデルファミリーであることを示しています。

6.1.1. Math and Science

このセクションでは、Gemini 1.5 Pro と Gemini 1.5 Flash の 数学と科学 における能力、つまり数式を理解し、科学的な問題を解く能力を評価しています。

評価方法:

  • 様々なレベルの数学問題:
    • GSM8K: 小学校レベルの数学問題 (Cobbe et al., 2021)
    • Hendrycks MATH: 中学校・高校レベルの数学問題 (Hendrycks et al., 2021b)
    • AMC: アメリカ数学コンテスト問題
    • Functional MATH: オリジナルと改変版の数学問題で構成され、汎化能力を評価する新しいベンチマーク (Srivastava et al., 2024)
  • 科学問題:
    • GPQA: 大学院レベルの科学問題 (Rein et al., 2023)
    • PhysicsFinals: インターネット上に公開されていない、学部レベルの物理学問題61問
  • 非公開ベンチマーク:
    • HiddenMath: Google内部で作成された、新規の数学問題179問
  • 評価指標:
    • ほとんどのベンチマークでは、解答の正確性を測定。
    • Functional MATH では、「推論ギャップ」と呼ばれる、オリジナル問題と改変問題の性能差を測定。

結果:

  • Table 11: 各ベンチマークにおける、Gemini 1.5 Pro、1.5 Flash、1.0 モデルの結果をまとめた表。
  • Gemini 1.5 Pro の優れた性能:
    • すべてのベンチマークにおいて、Gemini 1.0 Ultra と 1.0 Pro を上回る性能を示した。
    • 特に、難易度が高いベンチマークで顕著な改善が見られた。
      • Hendrycks MATH: 1.0 Ultra よりも 14.5% 向上
      • AMC: 1.0 Ultra よりも 13.2% 向上
      • GPQA: 1.0 Ultra よりも 5.8% 向上
    • Functional MATH では、オリジナル問題と改変問題の両方で高い精度を達成し、推論ギャップも最小限に抑えられた。
  • Gemini 1.5 Flash の改善:
    • 1.0 Pro と比較して、すべてのベンチマークで大幅な改善を示した。
    • GPQA: 11.6% 向上
    • Hendrycks MATH: 22.3% 向上
    • PhysicsFinals: 26.3% 向上
  • 非公開ベンチマーク:
    • PhysicsFinals と HiddenMath においても、Gemini 1.5 Pro は 1.0 Ultra と 1.0 Pro を上回る性能を示した。

考察:

  • 長文コンテキスト処理能力の貢献: 長文コンテキスト処理能力の向上は、数学や科学の問題を解く際にも役立つ可能性がある。
  • 専門分野への応用: Gemini 1.5 シリーズは、高度な数学的推論や科学的知識を必要とする専門分野にも適用できる可能性を示唆。

このセクションは、Gemini 1.5 シリーズが、数学と科学の分野においても優れた能力を発揮することを示しています。 特に、Gemini 1.5 Pro は、複雑な問題を解く能力において大きな進歩を遂げており、科学研究や教育など、様々な分野での応用が期待されます。

6.1.2. General Reasoning

このセクションでは、Gemini 1.5 Pro と Gemini 1.5 Flash の 一般的な推論能力 を評価しています。これは、テキスト内の複雑な関係を理解し、多段階の推論を行い、常識的な知識を新しい状況に適用する能力を指します。

評価方法:

  • 使用ベンチマーク:
    • BigBench-Hard: 複雑な推論プロセスを必要とする、BigBenchスイートから厳選された挑戦的なタスクのサブセット。
    • DROP: 読解と算術能力を測定するベンチマーク (Dua et al., 2019)。指標はF1スコア。
    • MMLU: 専門および学術分野を含む57の科目に関する多肢選択問題 (Hendrycks et al., 2021a)。
    • Hellaswag: 常識推論と妥当なシナリオを区別する能力をテストするベンチマーク (Zellers et al., 2019)。

結果:

  • BigBench-Hard: Gemini 1.5 Pro は、このベンチマークで89.2%という最先端のスコアを達成しました。これは、複雑な推論タスクに対する高い能力を示しています。
  • MMLU: Gemini 1.0 Ultra、1.5 Pro、1.5 Flash はすべて80%を超えるスコアを達成し、幅広い分野における高い知識と推論能力を示しました。
  • Hellaswag: Gemini 1.5 Pro は 93.3% の精度を達成し、妥当なシナリオを正確に識別できることを示しました。
  • DROP: Gemini 1.5 Pro と 1.5 Flash は、それぞれ 74.9% と 85.9% の F1 スコアを達成し、読解と算術能力においても高い性能を示しました。

考察:

  • Gemini 1.5 Pro の優れた汎用性: Gemini 1.5 Pro は、多様な推論タスクにおいて、一貫して高い性能を示しており、その汎用性の高さが示されています。
  • 1.5 Flash の効率性: Gemini 1.5 Flash は、1.0 Pro よりも高い性能を示しており、効率性を重視したモデルながら、一般的な推論能力においても優れた能力を持っていることがわかります。

このセクションは、Gemini 1.5 シリーズが、複雑な推論、常識推論、問題解決など、高度な認知能力を必要とするタスクにおいても優れた性能を発揮することを示しています。 これらの結果は、Gemini 1.5 シリーズが、質問応答、文章要約、対話システムなど、様々な自然言語処理アプリケーションにおいて、大きな可能性を秘めていることを示唆しています。

6.1.3. Code

このセクションでは、Gemini 1.5 Pro と Gemini 1.5 Flash の コーディング能力、つまりコードを理解し生成する能力を評価しています。

評価方法:

  • ベンチマーク:
    • HumanEval: 業界標準のオープンソース評価ベンチマーク (Chen et al., 2021)。ただし、ウェブページやオープンソースコードリポジトリからの意図しないリークを制御することが難しいため、注意が必要。
    • Natural2Code: Gemini 1.0 シリーズの評価で使用された、ウェブリークを防ぐためにGoogle内部で開発された非公開コード生成テストセット。HumanEval と同じ形式だが、異なるプロンプトとテストを使用。

結果:

  • Gemini 1.5 Pro:
    • HumanEval と Natural2Code の両方で、Gemini 1.0 Ultra を上回る性能を示し、コード生成能力において最先端の性能を達成。
  • Gemini 1.5 Flash:
    • Gemini 1.0 Ultra を上回る性能を示し、その効率性の高さとコード生成能力のバランスの良さを示した。

HumanEval のリーク問題:

  • HumanEval は広く使用されているベンチマークですが、ウェブページやオープンソースコードリポジトリにテストデータがリークしている可能性があり、評価結果の信頼性に影響を与える可能性がある。
  • 論文では、Gemini 1.0 Ultra を例に挙げ、HumanEval のテストデータを含むデータセットで追加学習を行うと、スコアが 74.4% から 89.0% に大幅に向上することを示し、データ汚染の危険性を強調している。
  • この問題に対処するため、Google は Natural2Code ベンチマークを作成し、リークのリスクを最小限に抑えている。

考察:

  • リーク対策の重要性: コーディング能力を評価する際には、データリークを防ぐための対策が重要である。
  • Natural2Code の有用性: Natural2Code は、リークのリスクを抑えた、信頼性の高いコード生成能力評価のためのベンチマークとして有用である。
  • Gemini 1.5 のコード生成能力: Gemini 1.5 シリーズは、リーク対策を施したベンチマークにおいても優れた性能を示しており、高いコード生成能力を持っていることがわかる。

このセクションは、Gemini 1.5 シリーズが、コード生成タスクにおいても優れた性能を発揮することを示しています。 特に、Gemini 1.5 Pro は、リーク対策を施したベンチマークにおいて最先端の性能を達成しており、ソフトウェア開発支援など、様々なコーディング関連アプリケーションへの応用が期待されます。

Gemini 1.5 論文の「6.1.4. Multilinguality」の内容説明

このセクションでは、Gemini 1.5 Pro と Gemini 1.5 Flash の 多言語対応能力、つまり複数の言語を理解し処理する能力を評価しています。

評価方法:

  • 使用ベンチマーク:
    • MGSM (Multilingual Math Reasoning): 11の言語をカバーする多言語数学推論ベンチマーク (Shi et al., 2023a)。
    • WMT23: モデルのトレーニングデータカットオフ後に構築された機械翻訳ベンチマーク (Kocmi et al., 2023)。テストセットリークのリスクを最小限に抑えるために採用。合計14の言語ペアをカバー。

結果:

  • Gemini 1.5 Pro:
    • MGSM と WMT23 の両方で Gemini 1.0 Ultra を上回る性能を示し、特に MGSM データセットでは約 9% の大幅な改善が見られた。
    • この改善は、英語のみの数学ベンチマーク (6.1.1. Math and Science 参照) で見られた改善と一致しており、多言語能力の向上が示唆される。
    • 興味深いことに、この改善は特定のリソースグループに限定されず、異なるリソースを持つ言語間で均等に性能が向上している。
    • 中リソース言語と低リソース言語では、1.0 Ultra と 1.5 Pro の差はそれぞれ 9% 以上と 7% 以上に拡大。
  • Gemini 1.5 Flash:
    • WMT23 では Gemini 1.0 Ultra と同等の性能を達成。
    • MGSM では、サイズがはるかに小さいにもかかわらず、Gemini 1.0 Ultra よりも 3 以上高いスコアを達成。

考察:

  • 多言語能力の向上: Gemini 1.5 Pro は、多様な言語ファミリーとリソースグループをカバーするベンチマークにおいて、多言語能力が大幅に向上していることを示した。
  • 効率性と多言語能力の両立: Gemini 1.5 Flash は、効率性を重視したモデルながら、多言語能力においても優れた性能を示しており、両方の要素をバランス良く達成している。

このセクションは、Gemini 1.5 シリーズが、多言語処理においても優れた能力を発揮することを示しています。 特に、Gemini 1.5 Pro は、様々な言語で数学的推論や翻訳タスクを高い精度で実行できるため、グローバルなコミュニケーションや情報アクセスを促進する様々なアプリケーションへの応用が期待されます。

Gemini 1.5 論文の「6.1.5. Function Calling」の内容説明

このセクションでは、Gemini 1.5 Pro と Gemini 1.5 Flash の 関数呼び出し能力、つまり外部APIやツールを呼び出してタスクを実行する能力を評価しています。

背景:

  • 近年、LLMはAIシステム(エージェントと呼ばれることが多い)の中核的な構成要素として注目されています。
  • これらのエージェントは、ウェブ検索、ユーザーのプライベートドキュメントやカレンダー、社内API、汎用プログラミングインタプリタ、ロボットセンサーなど、様々な環境で動作することが期待されています。
  • LLMは、トレーニング時にこれらの環境をすべて経験していなくても、多くの環境で動作できる汎用性を備えていることが期待されています。

評価方法:

  • 関数呼び出し (FC): ゼロショットツール使用とも呼ばれ、関数の説明と型シグネチャ、およびユーザープロンプトが与えられたときに、モデルがどの関数を呼び出す必要があるかを推論する能力を評価。
  • ベンチマーク: The Berkeley Function Calling Leaderboard (Yan et al., 2024, BFCL) を使用。ただし、JavaとJavascriptを除外し、いくつかの修正を加えたサブセットに焦点を当てています。

結果:

  • Table 12:
    • いくつかのBFCL分割における、Gemini FCエンドポイントの精度を示した表。
    • Gemini 1.0 Pro から 1.5 Pro にかけて、全体的な重み付け精度が大幅に向上している。
    • この改善は、主に並列関数呼び出し(1つのプロンプトで複数の独立した関数をトリガーする)のサポートによるものだが、関数を呼び出さない場合を判断する能力の向上(「Relevance」列参照)も貢献している。
    • Gemini 1.5 Flash の FC エンドポイントも、1.5 Pro に非常に近い性能を示している。

考察:

  • 関数呼び出し能力の向上: Gemini 1.5 シリーズは、関数呼び出し能力において、Gemini 1.0 Pro よりも大幅な改善を示している。
  • 並列関数呼び出しのサポート: 並列関数呼び出しのサポートにより、より複雑なタスクを効率的に実行できるようになった。
  • 複雑な環境への対応: BFCLベンチマークは、単純な1ステップの関数呼び出し能力をテストするのに役立つが、より複雑な環境におけるマルチステップおよびマルチターンアクションの実行を評価するための堅牢な指標とデータが必要とされている。

このセクションは、Gemini 1.5 シリーズが、外部APIやツールを活用して複雑なタスクを実行する能力において、Gemini 1.0 Pro よりも進化していることを示しています。 これは、Gemini 1.5 シリーズが、より複雑なAIエージェントの構築や、現実世界の様々なタスクの自動化に役立つ可能性を示唆しています。

6.1.6. Instruction Following

このセクションでは、Gemini 1.5 モデルの 命令追従能力、つまり複雑な指示を理解し、それに従ってタスクを実行する能力を評価しています。LLMの命令追従能力は着実に進化しており、コア能力に加えて、この能力の評価も重要視されています。

評価方法:

  • データセット:
    • 人間の評価者によって作成された1326個のプロンプトからなる内部評価セットを使用。
    • これらのプロンプトは、フォーマルで創造的なコンテンツの生成、推奨事項の提供、要約、テキストの書き換え、コーディングと論理的な問題の解決など、現実世界のユースケースから着想を得ています。
    • また、情報抽出、データ/テーブル理解、複数文書要約などの企業向けタスクも含まれています。
    • これらのプロンプトは平均307語と長く、1つから数十個の指示が含まれており、平均は約8個です。
    • Gemini 1.0 テクニカルレポート (Gemini-Team et al., 2023) とは異なり、人間の評価者から提供された406個のプロンプトの別のセットも使用しています。
    • これらのプロンプトは平均66語と短く、1つから数十個の指示が含まれており、平均は約5個です。
  • 評価指標:
    • 指示ごとの正確性: 評価セット全体で指示が守られている割合。
    • 完全応答の正確性: すべて指示が守られているプロンプトの割合。
  • 評価方法:
    • 人間の注釈者に、プロンプトに存在する各指示に従っているかどうかを評価させます。
    • これらの評価を集計し、上記の2つの指標を算出します。

結果:

  • Table 13:
    • 2つのプロンプトセット(1326個の長いプロンプトと406個の短いプロンプト)における、Gemini 1.5 モデルの命令追従能力の評価結果を示した表。
  • Gemini 1.5 モデルの優れた性能:
    • 1326個の長いプロンプトのセットでは、1.5 Pro モデルは 1.0 Pro モデルと比較して応答精度が 32% 向上し、長いプロンプトの 59% を完全に追従することができました。
    • 小規模な 1.5 Flash モデルでも、応答精度が 24% 向上しました。
    • 指示レベルでは、1.5 Pro モデルは 90% の精度を達成しました。
    • 406個の短いプロンプトのセットでは、Gemini 1.5 モデルは多様な指示の 86〜87% を追従しました。
    • プロンプトの 65% は完全に追従され、Gemini 1.0 Pro と同様の性能を示しました。

考察:

  • 複雑な指示への対応: Gemini 1.5 モデルは、複雑な指示を理解し、それに従ってタスクを実行する能力において、Gemini 1.0 モデルよりも大幅に改善されています。
  • 現実世界への適用可能性: Gemini 1.5 モデルの優れた命令追従能力は、現実世界の複雑なタスクを自動化するAIシステムの開発に役立つ可能性があります。

このセクションは、Gemini 1.5 シリーズが、複雑な指示を理解し、それに従ってタスクを実行する能力において、大きな進歩を遂げていることを示しています。 これらの結果は、Gemini 1.5 シリーズが、ユーザーの意図をより正確に理解し、より複雑なタスクをこなせる、より洗練されたAIアシスタントの開発に貢献することを示唆しています。

6.1.7. Real-world and long-tail expert GenAI tasks

このセクションでは、Gemini 1.5モデルが、専門知識やスキルを必要とする現実世界の複雑なタスク、特にロングテールな専門領域のタスクにどのように対応できるかを評価しています。

背景:

  • 今日のLLMは、簡単なタスク(例:長文の要約)から専門的なタスク(例:専門知識を必要とする質問への回答)まで、ユーザーを様々な方法で支援できます。
  • しかし、真にインパクトのあるGenerative AI (GenAI) のユースケースは、専門的な知識やスキルを必要とするものが多く、モデルにとって学習が難しい課題となっています。
  • これは、専門領域のデータが不足しているため、モデルが記憶と汎化のバランスを取り、ロングテールな知識分布を捉えることが困難になるためです (例:GPQA (Carlini et al., 2022; Rein et al., 2023; Saab et al., 2024))。

評価方法:

  • 専門知識とスキルの評価: 能力のロングテールにおける様々なタスクを評価することで、モデルが現実世界でどのように機能するかをより正確に把握。
  • タスクの分類:
    • 専門性の種類: 知識 vs スキル
    • 知識のソース: トレーニングデータ vs コンテキスト (動的または独自の知識の場合)
    • 評価セットの出所: 理想的な分布に基づいて構築 vs 公開されている難しいユースケースからサンプリング vs 実際の分布からサンプリング
  • 評価セット:
    • 従来のベンチマークデータセットではなく、ユーザーのニーズに基づいた、オープンエンドな質問、創造的なライティングプロンプト、意見を求めるクエリなどを含むデータセットを使用。
  • 評価指標:
    • タスクによって異なる指標を使用 (例:正確性、完全性、情報量、有用性)。
    • Side-by-Side比較や人間による評価も活用。

具体的な評価タスク:

  1. Expertise QA:

    • 専門家 (歴史、文学、心理学など) が作成した、難易度が高く複雑な質問に回答するタスク。
    • 専門家がモデルの回答を評価し、ランキング付け。
    • 結果: Gemini 1.5 モデルは、1.0 Pro を大幅に上回る精度、完全性、情報量を示した (Figure 18)。
  2. Domain-Specific Long-Form Methodical Tasks:

    • Dolomites ベンチマーク (Malaviya et al., 2024) を使用。
    • 教師が授業計画を作成する、生物学者が毒性アッセイのプロトコルを開発するなど、専門家が日常的に行う方法論的な計画、整理、執筆タスクを評価。
    • 結果: Gemini 1.5 Pro は、GPT-4 Turbo Preview よりも高い勝率 (55.3%) を達成 (Table 14)。
    • 1.5 Pro と 1.5 Flash はどちらも、Gemini 1.0 モデルよりも大幅に改善。
  3. STEM QA with Context:

    • Qasper データセット (Dasigi et al., 2021) からの質問とコンテキスト (研究論文) を使用。
    • モデルは、論文全体をコンテキストとして与えられ、質問に回答する。
    • STEM 専門家がモデルの回答の正確性を評価。
    • 結果: Gemini 1.5 モデルはすべて、Gemini 1.0 Pro と Ultra を大幅に上回る精度を示し、不正確な回答文 (深刻なケースを含む) も 6〜7% 減少 (Table 15)。
  4. Hard, externally proposed real-world GenAI use cases:

    • インターネットやソーシャルメディアで共有されている、現実世界の難しく、ロングテールで、複雑なプロンプト数百件を使用して評価。
    • 人間による評価で、新しい Gemini 1.5 Flash および Pro モデルと、ベースラインの Gemini 1.0 Pro および Ultra モデルを比較。
    • 結果: Gemini 1.5 モデルは 1.0 Pro よりも優れた性能を示し、Gemini 1.5 Pro は 1.0 Ultra をも上回る結果となった (Table 16)。
  5. Productivity Impact of LLMs Across Jobs:

    • さまざまな職業のタスクに対する生産性向上効果を測定。
    • 参加者に、自分の仕事における典型的で複雑なタスクを検討してもらい、そのタスクの説明をモデルに入力。
    • 結果: 1.5 Pro モデルは、1.0 Pro モデルと比較して、タスク完了時間の推定節約率が大幅に高かった (全体で 56.4% vs 27.7%)。
    • すべての職業で時間の節約が見られ、1.5 Pro モデルは特に写真 (73%) とプログラミング (75%) で大きな効果を発揮 (Figure 19)。

結論:

  • 従来のベンチマークデータセットを超えて、現実世界の複雑なタスクを評価することで、LLMの真の能力と限界をより深く理解できる。
  • Gemini 1.5 シリーズは、専門知識やスキルを必要とする現実世界のタスクにおいても、高い性能と有用性を示した。
  • 特に、Gemini 1.5 Pro は、1.0 Ultra をも上回る性能を示し、ロングテールな専門領域のタスクにも対応できる可能性を示唆している。

このセクションは、Gemini 1.5 シリーズが、現実世界の問題解決に貢献できる、実用的なAIツールとしての可能性を示しています。

6.2. Core Vision Multimodal Evaluations

マルチモーダル画像タスクのパフォーマンスを評価するために、複数のマルチモーダル機能にまたがる15の画像理解ベンチマーク(表18)と6つのビデオ理解ベンチマーク(表19)の幅広い結果を報告します。

ジェミニ 1.5 Pro は、すべての画像理解ベンチマークで Gemini 1.0 Pro よりも一貫して、そしてしばしば大幅に改善されており、そのうちの 1 つ以外のすべてで Gemini 1.0 Ultra に匹敵または上回っていることがわかりました。ジェミニ 1.5 フラッシュには、すべてのベンチマークでジェミニ 1.0 Pro を上回る同様の世代改良が見られます。コア能力評価については、(1)マルチモーダル推論(セクション6.2.1)(2)チャート、ダイアグラム、およびドキュメントの理解(セクション6.2.2)(3)自然画像の理解(セクション6.2.3)および(4)ビデオ理解(セクション6.2.4)の4つのメタカテゴリで議論します。

Gemini 1.5 論文の「6.2.1. Multimodal Reasoning」の内容説明

このセクションでは、Gemini 1.5 Pro と Gemini 1.5 Flash の マルチモーダル推論能力、つまり画像や図表などの視覚情報を理解し、それをテキスト情報と組み合わせて推論する能力を評価しています。

評価方法:

  • 使用ベンチマーク:
    • MMMU: 画像を理解し、その情報を使って大学レベルの問題を解く、非常に難しいベンチマーク (Yue et al., 2023)。
    • MathVista: 視覚的なコンテキストで数学的推論を必要とするベンチマーク (Lu et al., 2023)。
    • AI2D: 小学校レベルの科学図表を理解するベンチマーク (Kembhavi et al., 2016)。
    • ChemicalDiagramQA: 化学構造図を理解するための、Google内部で開発された評価セット。

結果:

  • MMMU: Gemini 1.5 Pro は 62.2% のスコアを達成し、Gemini 1.0 Ultra を上回りました。これは、画像理解とテキスト理解を組み合わせた複雑な推論タスクにおいても、Gemini 1.5 Pro が高い能力を持っていることを示しています。
  • MathVista: Gemini 1.5 Pro は 63.9% のスコアを達成し、最先端の結果を更新しました。これは、視覚的なコンテキストでの数学的推論能力が大幅に向上していることを示しています。
  • AI2D: Gemini 1.5 Pro は 94.4% の精度を達成し、Gemini 1.0 Ultra を上回りました。これは、科学図表の理解能力においても、Gemini 1.5 Pro が優れた性能を発揮することを示しています。
  • ChemicalDiagramQA: Gemini 1.5 Pro は 69.7% の精度を達成し、すべての 1.0 モデルを大幅に上回りました。これは、化学構造図の理解能力においても、Gemini 1.5 Pro が高い能力を持っていることを示しています。

考察:

  • マルチモーダル推論能力の向上: Gemini 1.5 Pro は、様々なマルチモーダル推論ベンチマークにおいて、Gemini 1.0 Ultra を上回る性能を示しており、そのマルチモーダル推論能力が大幅に向上していることがわかります。
  • 専門分野への応用: Gemini 1.5 Pro は、科学図表や化学構造図など、専門性の高い視覚情報を理解する能力も示しており、科学研究や教育など、様々な分野での応用が期待されます。
  • 1.5 Flash の性能: Gemini 1.5 Flash は、MMMU を除くすべてのベンチマークで Gemini 1.0 Ultra を上回る性能を示しており、効率性を重視したモデルながら、マルチモーダル推論能力においても優れた能力を持っていることがわかります。

このセクションは、Gemini 1.5 シリーズが、視覚情報とテキスト情報を統合的に理解し、複雑な推論タスクを処理できることを示しています。 これらの結果は、Gemini 1.5 シリーズが、画像キャプション生成、視覚的な質問応答、文書理解など、様々なマルチモーダルタスクにおいて、大きな可能性を秘めていることを示唆しています。

6.2.2. Charts and Document Understanding

このセクションでは、Gemini 1.5 Pro と Gemini 1.5 Flash の チャートとドキュメント理解能力、つまりチャートやドキュメントから情報を抽出し、理解する能力を評価しています。

背景:

  • チャートやドキュメント理解は、大規模マルチモーダルモデルにとって特に難しい課題です。
  • 複雑なチャートやドキュメントを理解するには、画像から情報を正確に解析するだけでなく、その情報について推論する必要があり、高度な視覚処理能力とテキスト理解能力の両方が求められます。

評価方法:

  • チャート理解:
    • 公開ベンチマーク: ChartQA (Masry et al., 2022) などの一般的な外部チャートベンチマークを使用。
    • 非公開ベンチマーク: Google内部で作成された、より現実的なチャート理解ベンチマークである BetterChartQA を使用。
      • 9つの異なる能力バケットで構成 (詳細な能力リストと各能力におけるGeminiモデルの性能はAppendix 12.18に記載)。
      • チャート画像はウェブ (ニュース記事、政府レポート、学術論文など) からランダムにサンプリング。
      • QAペアは、専門の人間の注釈者によって作成され、チャートスタイルと現実世界のケースの幅広い分布を反映。
  • ドキュメント理解:
    • DocVQA: 一般的なドキュメントVQAベンチマーク (Mathew et al., 2021)。
    • InfographicVQA: インフォグラフィック理解ベンチマーク (Mathew et al., 2022)。
    • DUDE: 複数業界、複数ドメイン、複数ページのドキュメントに基づくドキュメントVQAベンチマーク (Landeghem et al., 2023)。抽出型、抽象型、回答不能な質問を含む。
    • TAT-DQA: 表を含む金融ドキュメントに焦点を当てたドキュメントVQAベンチマーク (Zhu et al., 2022)。空間推論能力が必要とされることが多い。

結果:

  • チャート理解:
    • Gemini 1.5 Pro は、ChartQA などの一般的な外部ベンチマークで最先端の性能を達成。
    • BetterChartQA においても、Gemini 1.5 Pro は Gemini 1.0 Pro よりも 20% 以上高い性能を示した (Figure 32, Table 18)。
  • ドキュメント理解:
    • Gemini 1.5 Pro は、DocVQA、InfographicVQA、DUDE、TAT-DQA のすべてのベンチマークで、Gemini 1.0 Pro と Gemini 1.0 Ultra を上回る性能を示した。
    • 特に、TAT-DQA では、Gemini 1.0 Ultra よりも 24% 以上高い性能を示した。
  • Gemini 1.5 Flash:
    • テストした6つのチャートとドキュメント理解ベンチマークのうち4つで、1.0 Ultra を上回る性能を示した。

考察:

  • チャートとドキュメント理解能力の向上: Gemini 1.5 シリーズは、チャートとドキュメント理解において、Gemini 1.0 シリーズよりも大幅な改善を示している。
  • 現実世界への適用可能性: Gemini 1.5 シリーズは、レイアウト、表、その他の視覚要素を理解する能力を示しており、視覚的に豊富なドキュメントから情報を抽出する必要がある様々なアプリケーション (例:金融文書分析、科学論文の理解) において、大きな可能性を秘めている。

このセクションは、Gemini 1.5 シリーズが、複雑なチャートやドキュメントを理解し、そこから情報を抽出する能力において、大きな進歩を遂げていることを示しています。 これらの結果は、Gemini 1.5 シリーズが、ビジネスインテリジェンス、データ分析、情報検索など、様々な分野で活用できる可能性を示唆しています。

6.2.3. Natural Image Understanding

このセクションでは、Gemini 1.0 と 1.5 モデルの 自然画像理解能力 を、現実世界のマルチモーダルな能力を評価するために設計された5つのベンチマークで評価しています。

評価対象:

  • 空間推論: 画像内のオブジェクトの位置関係や属性を理解する能力。
  • 詳細な自然画像理解: 画像の内容を詳細に理解し、複雑な質問に答える能力。

使用ベンチマーク:

  1. VQAv2 (Goyal et al., 2017): 自然画像における一般的な質問応答タスク。
  2. TextVQA (Singh et al., 2019): 自然画像内のOCRに焦点を当てた質問応答タスク。
  3. RealWorldQA (x.ai): 現実世界のシナリオを描いた画像に関する質問に答え、基本的な空間推論能力を評価するタスク。
  4. BLINK (Fu et al., 2024): 人間はすぐに解けるが、現在のLLMには難しい14の視覚的知覚タスクで構成されるベンチマーク。多視点推論、奥行き推定などが含まれる。
  5. V* Benchmark (Wu and Xie, 2023): 高解像度画像 (平均解像度 2246 x 1582) 上の非常に小さなオブジェクトの属性と空間関係に関する質問に答えるタスク。SA-1Bデータセット (Kirillov et al., 2023) を使用。

結果:

  • TextVQA と VQAv2: Gemini 1.5 モデルは、1.0 モデルと同等の性能を維持。これは、OCRや一般的な画像QAタスクにおいて、Gemini 1.5が従来モデルの能力を維持していることを示しています。
  • RealWorldQA と BLINK: Gemini 1.5 Pro は、両方のベンチマークで従来の最先端の結果を上回る良好な成績を収めました。これは、現実世界のシナリオにおける空間推論能力と、人間にとって簡単な視覚的知覚タスクの解決能力が向上していることを示しています。
  • V* Benchmark: Gemini 1.5 Pro は、Gemini 1.0 Pro と 1.0 Ultra を大幅に上回る性能を示し、高価で特殊な視覚検索ガイド付き手法 (SEAL) (Wu and Xie, 2023) に匹敵する性能を達成しました。これは、高解像度画像の詳細な理解能力が大幅に向上していることを示しています。

考察:

  • Gemini 1.5 Pro の高解像度画像理解能力の向上: V* Benchmark の結果から、Gemini 1.5 Pro は高解像度画像の詳細な理解能力において大きな進歩を遂げていることがわかります。
  • 人間レベルの理解とのギャップ: Gemini 1.5 Pro と 1.5 Flash は印象的な性能を示していますが、人間レベルの理解とのギャップはまだ大きい。
  • 今後の研究課題: 高解像度画像理解能力をさらに向上させること、人間レベルの理解に近づくこと、現実世界の様々なアプリケーションに適用することなどが挙げられます。

このセクションは、Gemini 1.5 シリーズが、自然画像理解においても優れた能力を発揮することを示しています。 特に、Gemini 1.5 Pro は、高解像度画像の詳細な理解能力において大きな進歩を遂げており、医療画像診断、衛星画像分析、自動運転など、高解像度画像を扱う様々なアプリケーションへの応用が期待されます。

6.2.4. Video Understanding

このセクションでは、Gemini 1.5 Pro と Gemini 1.5 Flash の 動画理解能力 を、複数のベンチマークで評価しています。具体的には、セクション 5.2.1.1 で紹介された video needle-in-a-haystack の結果と、セクション 5.2.2 で紹介された 長時間動画に対する質問応答 の結果に加えて、コア動画理解能力 を測定する追加のベンチマーク結果を提示しています。

評価方法:

  • 動画キャプション生成:
    • VATEX: 英語動画キャプション生成ベンチマーク (Wang et al., 2019a)。
    • VATEX ZH: 中国語動画キャプション生成ベンチマーク (Wang et al., 2019a)。
    • YouCook2: 料理動画に焦点を当てた英語動画キャプション生成ベンチマーク (Zhou et al., 2018)。
    • 評価指標: CIDER (Vedantam et al., 2015) を使用。
  • 動画質問応答:
    • ActivityNet-QA: 動画質問応答ベンチマーク (Yu et al., 2019)。
    • EgoSchema: 動画質問応答ベンチマーク (Mangalam et al., 2023)。
    • 評価指標: 正解率を使用。
  • 具体化された質問応答:
    • OpenEQA: オープンボキャブラリーな具体化された質問応答ベンチマークデータセット (Majumdar et al., 2024)。
    • 評価指標: 元の論文で提案された言語モデル評価スコアを使用 (Majumdar et al., 2024)。

結果:

  • 動画キャプション生成:
    • VATEX と VATEX ZH: Gemini 1.5 Pro は、1.0 Ultra よりも優れた性能を示した。これは、より多様な動画を含むベンチマークで、1.5 Pro が優れたキャプション生成能力を発揮することを示唆しています。
    • YouCook2: Gemini 1.5 Pro は、1.0 Ultra よりも性能が劣る結果となった。これは、YouCook2 が料理動画に特化しており、1.5 Pro の汎用的な能力が必ずしも有利に働かなかった可能性を示唆しています。
  • 動画質問応答:
    • ActivityNet-QA と EgoSchema: Gemini 1.5 Pro は、1.0 Ultra よりも優れた性能を示した。これは、数分間の動画に対する質問応答タスクにおいて、1.5 Pro が高い精度を達成できることを示しています。
  • 具体化された質問応答:
    • OpenEQA: Gemini 1.5 Flash は 1.0 Ultra を上回る性能を示した。Gemini 1.5 Pro は、質問に答えないケースが多いため、このベンチマークではわずかに劣る結果となった。

考察:

  • Gemini 1.5 Pro の動画理解能力の向上: Gemini 1.5 Pro は、様々な動画理解タスクにおいて、Gemini 1.0 Ultra を上回る性能を示しており、その動画理解能力が大幅に向上していることがわかります。
  • タスク特化 vs 汎用性: YouCook2 の結果から、タスクに特化したモデルと汎用的なモデルのどちらが優れているかは、タスクの性質によって異なることがわかります。
  • Gemini 1.5 Flash の効率性: Gemini 1.5 Flash は、1.0 Ultra を上回るベンチマークもあり、効率性を重視したモデルながら、動画理解能力においても優れた能力を持っていることがわかります。

このセクションは、Gemini 1.5 シリーズが、動画理解においても優れた能力を発揮することを示しています。 特に、Gemini 1.5 Pro は、動画キャプション生成、動画質問応答、具体化された質問応答など、様々な動画理解タスクにおいて高い性能を達成できるため、動画検索、動画要約、動画分析など、様々なアプリケーションへの応用が期待されます。

6.3. Core Audio Multimodal Evaluations

このセクションでは、Gemini 1.5 Pro と Gemini 1.5 Flash の コア音声マルチモーダル評価、つまり音声認識 (ASR) と音声翻訳 (AST) における性能を、長文コンテキスト評価に加えて検証しています。

評価方法:

  • データセット:
    • 内部ベンチマーク: YouTube から派生したデータセット (英語とその他の52言語)。
    • 公開ベンチマーク:
      • Multilingual Librispeech (MLS): 多言語音声認識ベンチマーク (Pratap et al., 2020)。
      • FLEURS: 55言語のサブセットを評価 (トレーニングデータに含まれる言語のみ) (Conneau et al., 2023)。
      • CoVoST-2: 20言語の音声を英語に翻訳するタスクを評価。事前学習中にモデルが学習した言語のサブセットを対象 (Wang et al., 2020)。
  • 評価指標:
    • ASR: 単語誤り率 (WER) を使用。ただし、FLEURS のセグメント化された4言語 (中国語、日本語、韓国語、タイ語) では、文字誤り率 (CER) を集計。
    • AST: BLEUスコアを使用。
  • 比較対象:
    • USM: 音声理解に特化したモデル (Zhang et al., 2023b)。
    • Whisper: 音声認識に特化したモデル (OpenAI, 2023)。
    • Gemini 1.0 Pro:
    • Gemini 1.0 Ultra:

結果:

  • Table 20:
    • USM、Whisper、Gemini 1.0 Pro、Gemini 1.0 Ultra との比較結果を示した表。
  • Gemini 1.5 Pro:
    • 音声理解ベンチマークにおいて、音声理解に特化してトレーニングされた USM や Whisper よりも大幅に優れた性能を示した。
    • これは、Gemini 1.5 Pro が、ジェネラリストモデルでありながら、音声理解タスクにおいても高い性能を発揮できることを示唆している。
    • 音声理解においては、Gemini 1.0 Pro と同等の性能を示しており、長文コンテキスト能力の追加によって、非長文コンテキストタスクの性能が損なわれていないことがわかる。
    • Gemini 1.0 Ultra は 1.5 Pro よりもわずかに優れた性能を示すが、Ultra はより多くのトレーニング計算量とサービングリソースを必要とするモデルである。
  • Gemini 1.5 Flash:
    • Gemini 1.0 シリーズや 1.5 Pro よりも性能は劣るものの、専門モデルである USM や Whisper を上回る性能を示した。

考察:

  • 汎用性と音声理解能力の両立: Gemini 1.5 Pro は、音声理解に特化したモデルよりも優れた性能を示しており、汎用的な能力と音声理解能力を両立させていることがわかる。
  • 長文コンテキスト能力の影響: 長文コンテキスト能力の追加によって、非長文コンテキストタスクの性能が損なわれていないことが確認された。
  • 効率性: Gemini 1.5 Flash は、効率性を重視したモデルながら、専門モデルを上回る性能を示しており、その効率性の高さが示唆される。

このセクションは、Gemini 1.5 シリーズが、音声認識と音声翻訳においても優れた能力を発揮することを示しています。 特に、Gemini 1.5 Pro は、音声アシスタント、音声検索、リアルタイム翻訳など、様々な音声関連アプリケーションへの応用が期待されます。

7. Advancing mathematical reasoning

このセクションでは、Gemini 1.5 Pro をベースに、数学的推論能力をさらに向上させた数学特化モデルの開発と評価について解説しています。

目的:

  • より高度で、よりオープンエンドな数学問題を解く能力をLLMでどこまで高められるかを調査。
  • 数学者は、解答を導き出すまでに、多くの思考プロセスを経ます。しかし、数学の論文では最終的な結果に焦点が当てられることが多く、その背後にある豊かな思考プロセスは隠されています (MATH-AI-2023-Panel, 2023)。
  • このセクションでは、数学特化モデルをトレーニングし、推論時間を増やすことで、より広範な可能性を探求できるようにすることで、人間の数学者のような思考プロセスを模倣することを目指しています。

評価方法:

  • コンテスト由来のベンチマーク:
    • MATH: 数学問題ベンチマーク (Hendrycks et al., 2021b)。
    • AIME 2024: アメリカ数学招待試験 (MAA, 2024)。
    • MathOdyssey: 数学オリンピックレベルの問題を含むベンチマーク (Fang et al., 2024)。
  • 非公開評価:
    • HiddenMath: Google内部で作成された、トレーニングセットから除外された独自の問題を含む評価セット (セクション 6.1.1 参照)。
    • IMO-Bench: 国際数学オリンピックレベルの数学能力をテストする、Google内部で開発された専門家による評価。

結果:

  • Table 21: 各ベンチマークにおける、Gemini 1.5 Pro、数学特化モデル、Claude 3 Opus、GPT-4 Turbo の結果をまとめた表。
  • 数学特化モデルの優れた性能:
    • すべての数学ベンチマークにおいて、最先端の性能を達成。
    • MATH:
      • 単一サンプルから 80.6% の精度を達成。
      • 256個の解答をサンプリングし、候補解答を選択する手法 (rm@256) では 91.1% の精度を達成。
      • コード実行、定理証明ライブラリ、Google検索などのツールを使用せずに、人間の専門家と同等の性能 (Hendrycks et al., 2021b) を達成。
    • AIME: 解答できた問題数が 4 倍に増加。
    • Math Odyssey, HiddenMath, IMO-Bench: いずれも大幅な改善を示した。

考察:

  • 数学特化モデルの有効性: 数学特化モデルは、一般的なLLMよりも数学的推論能力が大幅に向上していることが示された。
  • 推論時間の重要性: 推論時間を増やすことで、モデルはより広範な可能性を探求し、より複雑な問題を解くことができる。
  • 現実世界への適用可能性: 数学特化モデルは、高度な数学的推論を必要とする科学研究、教育、金融モデリングなど、様々な分野での応用が期待される。

このセクションは、LLMの数学的推論能力を向上させるための重要なステップを示しています。 数学特化モデルは、複雑な数学問題を解く能力において大きな進歩を遂げており、将来的には、人間の数学者と協力して新しい数学的発見をしたり、数学教育を支援したりするなど、様々な分野で活躍することが期待されます。

8. Flash-8B: Pushing the frontier for more efficient models

このセクションでは、Flash-8B という、より効率的なモデルの開発について解説しています。Flash-8Bは、数十億パラメータモデルの領域において、速度、品質、機能の面で大きな進歩を遂げています。

Flash-8Bの特徴:

  • Transformer デコーダーモデル: Flashのアーキテクチャ、最適化、データ混合の改良点を継承。
  • マルチモーダル機能: 100万トークンを超えるコンテキストウィンドウをサポート。
  • 高スループットと低レイテンシー: 大規模なマルチモーダル展開を、手頃な価格と迅速な処理時間で実現。

Flash-8Bの利点:

Flash-8Bは、Flashや1.5 Proと比較して品質は劣りますが、以下の点で大きな利点があります。

  • 高スループット: 処理能力が高いため、大量のデータを効率的に処理できます。
  • 超低レイテンシー: 応答速度が速いため、リアルタイム処理が必要なアプリケーションに適しています。

Flash-8Bのユースケース:

Flash-8Bの効率性と速度は、従来はリソースの制約により実現不可能と考えられていた新しいユースケースを可能にします。

  • 大規模データラベリング: 大規模なデータセットの自動ラベリングを高速化し、他のダウンストリームモデルのトレーニングプロセスを加速。
  • 高スループットエージェントサービング: 大規模に展開されたインテリジェントエージェントにリアルタイムインタラクションを提供。
  • 複雑なワークフローへのモデル統合: 複数のモデルが連携する複雑なワークフローに統合することで、高度な機能を実現。

Flash-8Bの開発状況:

  • 本論文執筆時点では、Flash-8Bはまだ開発中であり、与えられた推論バジェット内でパフォーマンスを最大化するための取り組みが続けられています。
  • しかし、初期の評価結果は、Flash-8Bが競争力のある性能を持っていることを示唆しています。

評価結果:

  • マルチモーダル性能: 確立されたベンチマークにおいて、Flash-8BはFlashが示すパフォーマンスの約80〜90%を達成。効率性と能力の間のトレードオフは最小限であることを示唆。
  • 長文コンテキスト: 100万トークンまでの長文ドキュメントと200万トークンまでのコードデータセットを用いて、累積平均NLLを測定。Flash-8Bは、他のGemini 1.5モデルと同様に、シーケンス長が長くなるにつれてNLLが減少し、予測精度が向上することを示した。

結論:

Flash-8Bは、数十億パラメータモデルの分野における大きな進歩であり、速度、品質、機能の独自の組み合わせを提供します。このモデルは、高度なAI技術へのアクセスを民主化し、数十億人のユーザーに高品質なインテリジェンスを提供する道を切り開きます。

今後の展望:

  • Flash-8Bの開発は継続中で、さらなる性能向上が期待されます。
  • Flash-8Bの効率性と速度は、様々な分野における新しいアプリケーションの可能性を開くでしょう。

このセクションは、Flash-8Bが、大規模言語モデルの利用をより広範囲に拡大するための重要なステップであることを示しています。 特に、その効率性と速度は、リソースの制約が厳しい環境やリアルタイム処理が必要なアプリケーションにおいて、大きな利点となります。

9. Safety, Security, and Responsibility

このセクションでは、Gemini 1.5の開発における安全性、セキュリティ、責任への取り組みについて詳しく解説しています。単に安全性を考慮したトレーニングを行うだけでなく、潜在的な危険性を評価し、責任あるAIの開発を目指しています。

主な内容:

  1. プロセス:

    • 潜在的な影響評価: 社会的な利益とリスクを特定し、文書化。
    • ポリシーと目標設定: 安全性、セキュリティ、責任の観点からGeminiが守るべき基準を確立。
    • 安全性のためのトレーニング: 事前学習と事後学習の両方で安全性を組み込む。
    • 開発評価からの結果: ポリシー違反、有用性、セキュリティとプライバシー、表現の偏りなどの観点から分析。
    • 保証評価: 独立したグループによる、リリース決定のための評価。
    • 外部安全テスト: 独立したテスターによるシステムの安全性の検証。
    • 責任と安全評議会によるレビュー: モデルの性能をレビューし、リリースを決定するガバナンス機関。
    • 製品への移行: 承認されたモデルの内部モデルカードを作成し、適切な外部コミュニケーションを実施。
  2. ポリシーと目標設定:

    • 有害なコンテンツの禁止: 児童性的虐待、個人情報漏洩、ヘイトスピーチ、危険または悪意のあるコンテンツ、ハラスメント、性的に露骨なコンテンツ、科学的または医学的コンセンサスに反する医学的アドバイスなど。
    • 誤情報と偏見の防止: 信頼できる情報源に基づいた中立的なコンテンツを優先。
    • オプション/設定可能なポリシー: 医療、法律、金融アドバイス、性的に露骨なコンテンツ、暴力と流血、わいせつと冒涜、なりすまし、製品の推奨など、特定のユースケースに適したポリシー。
    • セキュリティ: プライベート情報の保護に加えて、プロンプトインジェクション攻撃など、第三者からの攻撃からユーザーを保護。
    • 長文コンテキストにおけるポリシー遵守: 上記のポリシーは、長文コンテキスト設定でも適用される。
  3. 安全性のためのトレーニング:

    • 事前学習:
      • データフィルタリングとタグ付け。
      • 条件付き事前学習 (例:毒性に関する分類器注釈付きラベルに基づくタグを追加)。
      • 表現の偏り、毒性スコアなどの監視。
    • 事後学習:
      • 教師ありファインチューニング (SFT)。
      • 人間からのフィードバックによる強化学習 (RLHF)。
      • レッドチーミング (敵対的テスト)。
      • 外部評価。
  4. 評価結果:

    • ポリシー違反: テキスト、画像、音声入力に対するポリシー違反を評価。Gemini 1.5 Pro と Flash は、これまでのモデルの中で最も安全。
    • 有用性: モデルがユーザーの要求を満たし、中立的な口調で回答する能力を評価。Gemini 1.5 Pro は、1.0 Ultra よりもわずかに品質が向上しているが、拒否が増加し、トーンが中立でない場合もある。
    • セキュリティとプライバシー: プロンプトインジェクション、記憶、音声処理に関する評価。Gemini 1.5 Pro は、手動で作成されたプロンプトインジェクション攻撃に対して脆弱である可能性がある。
    • 表現の偏り: テキスト、画像、音声入力に対する表現の偏りを評価。いくつかの改善が見られるものの、依然として課題が残っている。
  5. 保証評価:

    • リリース決定のための独立した評価。
    • コンテンツポリシー違反と表現の偏りに関する評価を実施。
    • Gemini 1.5 Pro と Flash は、安全性評価において大幅な改善を示した。
  6. 危険な能力評価:

    • サイバー攻撃、バイオテロ支援、説得など、危険な能力に関する評価を実施。
    • いくつかの分野で改善が見られるものの、依然として課題が残っている。
  7. 外部安全テスト:

    • 独立したテスターによる評価。
    • 社会的リスク、放射線および核リスク、サイバーリスクに焦点を当てた評価を実施。
    • モデルは、いくつかの領域で偏りや不正確な情報を生成する可能性があることが判明。

結論:

Gemini 1.5の開発において、安全性、セキュリティ、責任は最優先事項として位置付けられています。様々な対策を講じ、継続的な評価と改善を行うことで、より安全で信頼できるAIモデルの開発を目指しています。

このセクションは、GoogleがAIの倫理的な影響を真剣に受け止め、責任あるAI開発に取り組んでいることを示しています。

9.1. Our Process

このセクションでは、Geminiモデル開発における安全性、セキュリティ、責任を確保するための体系的なアプローチについて解説しています。

Gemini開発における安全確保プロセス:

  1. 潜在的な影響評価 (Potential impact assessment):

    • Google DeepMindの責任ある開発とイノベーションチームが、Geminiモデルの能力が社会に及ぼす影響を調査し、文書化します。
    • テキスト、画像、音声、動画など、モデルの様々なモダリティにおける潜在的な利益とリスクを分析します。
    • 文献レビュー、外部専門家の意見、社内の倫理・安全研究など、様々な情報源を活用します。
    • 評価結果は、Google DeepMindの責任と安全評議会によってレビューされます。
  2. ポリシーと目標設定 (Setting policies and desiderata):

    • 潜在的な影響評価に基づき、Geminiが守るべき安全性、セキュリティ、責任に関する基準を定義します。
    • これらの基準は、Geminiが行ってはならないこと (例:個人情報の開示) と行うべきこと (例:可能な限り役に立つ回答を提供すること、拒否する場合は中立的な表現を用いること) の両方を網羅します。
  3. 安全性のためのトレーニング (Training for safety, security, responsibility):

    • 事前学習:
      • データフィルタリングとタグ付けを行い、有害なコンテンツを排除します。
      • 特定の基準に基づいてタグを追加し、モデルが安全な出力を生成しやすくします。
      • トレーニング中のモデルを監視し、表現の偏りや毒性スコアなどを追跡します。
    • 事後学習:
      • 教師ありファインチューニング (SFT) と人間からのフィードバックによる強化学習 (RLHF) を使用して、モデルをポリシーと目標設定に合わせます。
      • レッドチーミング (敵対的テスト) を実施し、モデルの脆弱性を特定します。
      • 独立した外部グループによる評価を実施し、盲点を特定します。
  4. 開発評価からの結果 (Results from Development Evaluations):

    • モデル開発中に、テキスト、画像、音声入力に対するポリシー違反を継続的に評価します。
    • モデルの有用性、セキュリティ、プライバシー、表現の偏りについても評価します。
    • これらの評価結果は、リスクを軽減し、評価アプローチを改善するために使用されます。
  5. 保証評価 (Assurance Evaluations):

    • リリース決定のために、モデル開発チームとは別のグループが保証評価を実施します。
    • これらの評価では、モデルがポリシー違反を起こすかどうか、危険な能力を持っているかどうかをテストします。
    • データセットは非公開で、モデルの過剰適合を防ぎ、結果の信頼性を確保します。
  6. 外部安全テスト (External Safety Testing):

    • 独立したテスターが、モデルの安全性を検証するために、構造化評価、定性的な調査、非構造化レッドチーミングを実施します。
    • テスターは、学術界、市民社会、民間企業など、様々な分野の専門家で構成されます。
    • テスト結果は、モデルの安全性に関する理解を深め、評価方法や安全ポリシーの改善に役立てられます。
  7. 責任と安全評議会によるレビュー (Review by the Responsibility and Safety Council):

    • Google DeepMindの責任と安全評議会 (RSC) は、保証評価の結果をレビューし、モデルのリリースを決定するガバナンス機関です。
    • RSCは、機械学習研究者、倫理学者、安全性の専門家、エンジニア、セキュリティ専門家、政策専門家など、様々な分野の専門家で構成されています。
    • RSCは、モデルの影響評価、保証評価の結果、外部評価の結果などを考慮し、モデルのリリースが適切かどうかを判断します。
  8. 製品への移行 (Handover to products):

    • RSCのレビュー後、承認されたGeminiモデルの各バージョンについて、内部モデルカード (Mitchell et al., 2019b) が作成されます。
    • モデルカードには、重要な性能指標、安全指標、倫理的配慮事項などが記載されます。
    • これらの情報は、社内での文書化、外部とのコミュニケーション、エンタープライズ顧客への情報提供などに使用されます。

要約:

「9.1. Our Process」は、Geminiモデルの開発において、安全性、セキュリティ、責任を確保するための多段階かつ包括的なプロセスを概説しています。このプロセスは、潜在的な影響評価から始まり、ポリシーと目標設定、安全性のためのトレーニング、様々な評価、責任と安全評議会によるレビュー、そして製品への移行まで、一連のステップを踏みます。

このセクションは、GoogleがAIの倫理的な影響を真剣に受け止め、責任あるAI開発に取り組んでいることを示しています。 また、このプロセスは、AI開発におけるベストプラクティスとして、他の組織にも参考になるものと考えられます。

9.2. Policies and Desiderata

このセクションでは、Geminiモデルが遵守すべき安全ポリシー目標設定(Desiderata)について詳しく解説しています。これらのポリシーと目標設定は、Geminiが有害なコンテンツを生成することを防ぎ責任あるAIとして機能することを保証するために設定されています。

9.2.1. Identifying risks (potential impact assessments)

  • 潜在的な影響評価: Gemini 1.0テクニカルレポート (Gemini-Team et al., 2023) で概説されたように、高度なモデルの開発に伴う主要な社会的な利益と害を特定、評価、文書化するために、潜在的な影響評価を実施。
  • Gemini 1.0からの継続性: 以前の評価はテキスト生成と理解、画像と動画の理解に焦点を当てていたため、Gemini 1.0テクニカルレポートのすべての潜在的な影響評価作業は、Gemini 1.5 Proモデルにも関連。
  • 音声モダリティとコンテキスト長の増加による影響: このモデルの評価では、音声モダリティとコンテキスト長の増加がもたらす追加の影響に対処することに重点を置く。
  • 社会的な利益の増大: 音声ファイルの効率的な処理、コールセンターやカスタマーサポート、エンターテイメント業界、医療業界などにおける商用利用、アーカイブコンテンツの探索の容易化など、多くの社会的な利益をもたらす可能性。
  • 潜在的なリスクの増大: 音声処理による表現の害、プライバシー保護の必要性の増加、長文入力ファイルに対する敵対的攻撃への対策など、いくつかのリスクも悪化する可能性。

9.2.2. Safety policies

  • Geminiの安全ポリシー: GoogleのAI原則 (Google, 2023) に沿って、生成AIモデルが生成することを許可しない有害なコンテンツの種類に関する標準的なフレームワークに準拠。
  • 禁止される有害なコンテンツ:
    1. 児童性的虐待と搾取
    2. 危害につながる可能性のある個人を特定できる情報の開示 (例:社会保障番号)
    3. ヘイトスピーチ
    4. 危険または悪意のあるコンテンツ (自傷行為の促進や有害な活動の指示を含む)
    5. ハラスメント
    6. 性的に露骨なコンテンツ
    7. 科学的または医学的コンセンサスに反する医学的アドバイス
  • モダリティ横断的な適用: これらのポリシーは、テキスト、画像、音声など、すべてのモダリティに適用。

9.2.3. Desiderata, aka “helpfulness”

  • 安全性を超えた目標設定: 単に有害なコンテンツを生成しないだけでなく、モデルが有用中立的であることも重要。
  • 目標設定 (Desiderata):
    1. ユーザーの支援: ユーザーの要求を満たす。ポリシーに違反せずにユーザーの目標を達成できる回答が見つからない場合にのみ拒否。
    2. 客観的な口調: 拒否が必要な場合は、ユーザーの意図を推測せずに中立的に伝える。

要約:

「9.2. Policies and Desiderata」は、Geminiモデルが遵守すべき安全ポリシーと目標設定を明確に定義しています。これらのポリシーと目標設定は、Geminiが有害なコンテンツを生成することを防ぎ、責任あるAIとして機能することを保証するために重要です。

このセクションは、GoogleがAIの倫理的な影響を真剣に受け止め、責任あるAI開発に取り組んでいることを示しています。 また、これらのポリシーと目標設定は、AI開発におけるベストプラクティスとして、他の組織にも参考になるものと考えられます。

9.3. Training for Safety, Security, and Responsibility

このセクションでは、Gemini 1.5モデルの安全性、セキュリティ、責任をトレーニングプロセスに組み込む方法について解説しています。事前学習と事後学習の両方において、様々な手法を用いてモデルの安全性を高めています。

9.3.1. Pre-Training

事前学習段階では、以下の3つのアプローチを採用しています。

  1. データセットフィルタリング (Dataset filtering):

    • 最も厳格なポリシーに適合するように、事前学習データに安全フィルタリングを適用。
    • 有害なコンテンツを含むデータを排除することで、モデルがそのようなコンテンツを学習することを防ぎます。
  2. 条件付き事前学習 (Conditional pre-training):

    • トレーニングデータの一部に、テキストの毒性などの分類器注釈付きラベルに基づいて制御タグを追加 (Anil et al., 2023b)。
    • これらのタグは、学習された表現を構造化し、事後学習における安全性の確保を容易にします。
  3. 事前学習の監視 (Pre-training monitoring):

    • 事前学習モデルによって生成された表現の偏りを包括的に評価 (Gemini-Team et al., 2023)。
    • WinoGender、WinoBias、Bias Benchmark in QA (BBQ) などの公開ベンチマークを使用。
    • Real Toxicity Prompts (Gehman et al., 2020) に対する平均毒性スコアを、Perspective API 分類器を使用して監視。
    • これらの監視により、事前学習段階で発生する可能性のある安全性の問題を早期に発見し、対処することができます。

9.3.2. Supervised Fine-Tuning

教師ありファインチューニング (SFT) 段階では、以下の手順で安全性を向上させます。

  1. 敵対的なプロンプトの収集:

    • 既存のモデルやツールを活用してGeminiの攻撃対象領域を調査するか、人間とのインタラクションを通じて潜在的に有害な動作を特定。
    • 安全ポリシーの違反や、安全な回答が可能であるにもかかわらずモデルが拒否する場合など、改善が必要なモデルの動作を特定。
  2. データ生成と修正:

    • Constitutional AI (Bai et al., 2022) に着想を得たカスタムデータ生成レシピと人間の介入を組み合わせて、モデルの応答を修正。
    • 安全ポリシーに違反する出力や、有用な回答を生成できないケースに対処するためのデータを生成します。
  3. 評価:

    • 安全性固有の指標と安全性以外の指標の両方で、自動評価と人間による評価を実施。
    • モデルの改善度合いと、意図しない回帰の可能性を監視します。

9.3.3. Reinforcement Learning from Human Feedback

人間からのフィードバックによる強化学習 (RLHF) 段階では、以下の2つの側面から安全性を向上させます。

  1. 報酬モデル (RM) の改善:

    • 人間がモデルの応答を評価し、複数の候補回答を比較する選好データを使用して報酬モデルをトレーニング。
    • より安全で有用な回答を生成するモデルに高い報酬を与えるように報酬モデルを改善します。
  2. 強化学習 (RL) の改善:

    • 報酬モデルに基づいて、モデルを強化学習します。
    • モデルは、より高い報酬を得るために、安全ポリシーを遵守し、有用な回答を生成するように学習します。

継続的な監視:

RLHFトレーニング中は、安全性 (およびその他の指標) を監視するための評価を継続的に実行し、早期に回帰を検出して修正します。

要約:

「9.3. Training for Safety, Security, and Responsibility」は、Gemini 1.5モデルの安全性、セキュリティ、責任をトレーニングプロセスに組み込むための多面的なアプローチを解説しています。事前学習、教師ありファインチューニング、強化学習、継続的な監視を組み合わせることで、モデルの安全性を高め、責任あるAIの開発を目指しています。

このセクションは、GoogleがAIの倫理的な影響を真剣に受け止め、安全性と責任を重視したAI開発に取り組んでいることを示しています。

9.4. Results on Training/Development Evaluations

このセクションでは、Gemini 1.5 Pro と Flash のトレーニング/開発評価における結果をまとめ、安全性、有用性、セキュリティ/プライバシー、表現の偏りに関する詳細な分析を提供しています。

主な結果:

  • 全体的な安全性向上: Gemini 1.5 Pro と Flash は、これらの評価に基づくと、これまでのモデルの中で最も安全であることが示されています。ポリシー違反が大幅に減少しています。
  • 品質向上: 安全性の向上に加えて、Gemini 1.0 Ultra と比較して、品質評価もわずかに向上しています。
  • 拒否の増加とトーンの中立性: 安全性を重視した結果、拒否が増加し、トーンが中立でない場合も見られます。これは今後の課題として取り組むべき点です。
  • Jailbreak への耐性向上: Gemini 1.5 Pro と Flash は、Jailbreak攻撃に対してより堅牢になっていますが、手動で作成されたプロンプトインジェクション攻撃には依然として脆弱です。これは、指示に従う能力が向上したためと考えられます。

詳細な分析 (項目ごと):

  1. ポリシー違反 (Policy Violations):

    • モダリティ横断的な改善: テキスト、画像、音声入力のすべてにおいて、安全性の向上が確認されています。これは、モダリティ間で安全な動作が転移していることを示唆しています。
    • テキストからテキスト (T2T): Gemini 1.5 Pro と Flash は、英語と多言語の両方で、Gemini 1.0 Ultra よりもポリシー違反が少なくなっています (Table 23)。
    • 画像からテキスト (I2T): より複雑なプロンプトと複数の画像を含む新しいデータセットで評価した結果、Gemini 1.5 Pro と Flash は、1.0 Ultra よりもそれぞれ 62% と 43% 違反が減少 (Table 23)。
    • 音声からテキスト (A2T): 音声固有の安全トレーニングデータがないにもかかわらず、テキストのみの安全対策が効果的に転移し、T2T と同等またはそれ以下の違反率を達成 (Table 25)。
  2. 有用性 (Helpfulness):

    • テキストからテキスト (T2T):
      • Side-by-Side (SxS) 品質指標を使用して、Gemini 1.5 Pro と Flash を 1.0 Ultra と比較。
      • 1.5 Pro は 1.0 Ultra よりも好まれる回答を生成する傾向があり、指示追従、効果的な拒否、品質においてわずかな改善が見られる (Table 29)。
      • トーンに関しては後退が見られ、今後の改善点として挙げられています。
    • 画像からテキスト (I2T):
      • 人物に関する潜在的にセンシティブな質問に対する拒否の有効性を測定。
      • Gemini 1.5 Pro は、1.0 Ultra よりも拒否する頻度が高いものの、根拠のある拒否 (画像内の情報に基づいた拒否) と根拠のない拒否 (画像内の情報に基づかない拒否) の両方で、より好ましい回答を生成する傾向がある (Table 30, Figure 22)。
  3. セキュリティとプライバシー (Security and Privacy):

    • プロンプトインジェクション:
      • 攻撃者が悪意のある指示を挿入してモデルの出力を操作する攻撃に対する脆弱性を評価。
      • Gemini 1.5 Pro は、手動で作成されたプロンプトインジェクション攻撃に対して脆弱である可能性があることが判明 (Table 32)。これは、指示に従う能力が向上したためと考えられます。
    • 記憶 (Memorization):
      • トレーニングデータの記憶率を測定。
      • Gemini 1.5 Pro と Flash は、既存のモデルよりも記憶率が低い (Figure 24)。
      • 記憶された出力に含まれる個人データの量を測定した結果、Gemini 1.5 Pro と Flash は Gemma よりもはるかに少ない個人データを記憶していることが判明 (Figure 25)。
    • 発散 (Divergence):
      • 特定のトークンを繰り返し入力することでモデルを発散させ、記憶されたトレーニングデータを出力させる攻撃に対する脆弱性を評価。
      • Gemini 1.5 Pro は発散攻撃の影響を受けやすいものの、トレーニングデータを出力する頻度は ChatGPT 3.5 よりも低い (0.35% vs 2.8%)。
      • 長文コンテキストを使用すると、発散攻撃が成功する確率が高くなることが判明。
  4. 表現の偏り (Representational Harms):

    • テキストからテキスト (T2T):
      • BBQ データセット (Parrish et al., 2021) を使用して、様々な属性 (年齢、性別、民族性など) に対する偏りを測定。
      • Gemini 1.5 モデルは、ベースラインの Gemini 1.0 Ultra モデルと比較して、偏りスコアが改善 (Figure 26)。
    • 画像からテキスト (I2T):
      • COCO キャプションデータセットと Dollar Street データセットを使用して、肌の色、性別、社会経済的状況、世界地域に関する偏りを評価。
      • Gemini 1.5 Pro は、全体的な精度と最悪グループの精度において最高の性能を示したが、所得サブグループでは精度ギャップが大きくなった (Table 34)。
    • 音声からテキスト (A2T):
      • アフリカ系アメリカ人英語 (AAVE) と標準アメリカ英語 (SAE)、男性と女性の比較音声認識性能を評価。
      • Gemini 1.5 Flash は、USM と比較して、AAVE と性別の両方でより公平な性能を示した (Table 35)。
      • 音声から属性を推論するタスクでは、AAVE の認識性能が SAE よりも低いことが判明。

結論:

このセクションの結果は、Gemini 1.5 Pro と Flash が、安全性、有用性、セキュリティ、プライバシー、表現の偏りの面で、これまでの Gemini モデルよりも大幅に改善されていることを示しています。しかし、いくつかの課題も残っており、今後の研究開発で対処していく必要があります。

このセクションは、Google が AI の倫理的な影響を真剣に受け止め、責任ある AI 開発に取り組んでいることを示しています。

9.4.1. Policy Violations

このセクションでは、Gemini 1.5 Pro と Flash が、コンテンツ安全ポリシーにどの程度従っているかを評価する、ポリシー違反に関する開発セット評価の結果を詳しく解説しています。

評価方法:

  • テキスト、画像、音声入力: テキスト、画像、音声入力に対するモデルの安全性を評価。テキストと画像入力については積極的に対策を講じていますが、音声入力については、モダリティ間の安全な動作の転移を期待しています。
  • 開発セット評価: (Gemini-Team et al., 2023) で説明されているものと同じ開発セット評価を使用して、テキストからテキスト (T2T) のコンテンツポリシー違反を積極的に監視。
  • 自動評価:
    • 安全性違反に関する人間の判断はゴールドスタンダードですが、自動評価はモデリングチームに迅速なフィードバックを提供し、人間が潜在的に違反するテキストを見る必要性を排除します。
    • 応答テキストが違反しているか、違反していないかを分類するようにモデルをトレーニングすることで、パフォーマンスを自動的に測定。
  • 人間による評価: 画像からテキスト (I2T) の評価では、人間の判断に依存。

結果 (項目ごと):

  1. テキストからテキスト (T2T) ポリシー違反:

    • 違反率の減少: Gemini 1.5 Pro と Flash は、英語と多言語の両方で、Gemini 1.0 Ultra よりもポリシー違反が少なくなっています (Table 23)。
    • 負の値: Table 23 の数値は、Gemini 1.0 Ultra と比較した違反率の減少を表しています。負の値は、1.0 Ultra よりも違反が少ないことを示しています。
  2. 画像からテキスト (I2T) ポリシー違反:

    • 新しいデータセット: オリジナルの Gemini モデル (Gemini-Team et al., 2023) の評価以降、I2T コンテンツポリシー指標を開発し続けています。当初のデータセットでの違反率を大幅に削減した後、より微妙なプロンプトでポリシーをさらに評価できる新しいデータセットを収集しました。
    • 人間の評価: I2T 評価では、人間の評価者に依存しています。これは、T2T 開発評価よりも時間がかかりますし、注釈者を潜在的に問題のある視覚データにさらすことになります。そのため、I2T の違反をスコアリングするための自動指標を積極的に開発しています。
    • 違反率の減少: 人間の評価者によって判断された、I2T 開発プロンプトにおける違反率は、Gemini 1.5 Pro と Flash でそれぞれ 62% と 43% 減少 (Table 23)。
  3. 音声からテキスト (A2T) ポリシー違反:

    • テキストから音声への変換: T2T コンテンツポリシー違反データセットにテキストから音声への変換を適用して、音声プロンプトを生成。
    • 合成音声: Google Cloud で提供されている 6 つの異なるアメリカ英語の音声 (男性 3 人、女性 3 人) からランダムにサンプリングされた合成音声を使用。
    • T2T 自動評価の適用: 安全率を測定するために、T2T 自動評価を適用。
    • 違反率の減少: 音声固有の安全トレーニングデータがないにもかかわらず、テキストのみの安全対策が音声入力にも効果的に転移し、T2T と同等またはそれ以下の違反率を達成 (Table 25)。
  4. Jailbreakに対する堅牢性:

    • Jailbreak攻撃: モデルにコンテンツ安全ポリシーに違反させるために、ユーザープロンプトを敵対的に操作する攻撃。
    • JailbreakBench: 広く利用可能なオープンソースモデル (Gemini 1.0 Nano) にアクセスできる攻撃者を想定したシナリオと、ターゲットモデル (Gemini 1.5 Pro/Flash) への直接 API アクセスを持つ攻撃者を想定したシナリオを検討し、JailbreakBench (Chao et al., 2024) を使用して評価。
    • 結果:
      • Gemini 1.5 Pro/Flash は、Gemini 1.0 Ultra と比較して、少なくとも適用した特定の攻撃に対しては、堅牢性が向上している (Table 26, Figure 21)。
      • Gemini 1.5 Pro/Flash は依然として Jailbreak に対して脆弱ですが、成功率は全体的に Gemini 1.0 Ultra よりも低くなっています。
      • Gemini 1.5 Pro/Flash は、勾配ベースの最適化を使用して計算された、人間が解釈できないトークンを含む攻撃 (行 1 と 5) には耐えることができますが、人間が読める指示を含む攻撃には依然として脆弱です。
      • モデルのテキスト理解と指示追従能力が向上したため、Jailbreakテストの種類を変更する必要があることが強調されています。
  5. 長文コンテキスト評価:

    • 潜在的なリスク: 長文コンテキスト機能は多くの新しいアプリケーションを可能にしますが、攻撃対象領域が大きくなるため、リスクも高まる可能性があります。
    • 敵対的なneedle-in-the-haystackタスク: テキストベースのneedle-in-the-haystackタスクの敵対的バージョンを設定。haystackにはPaul Grahamのエッセイを連結したものを使用し、needleには、指示タグで囲まれた短文コンテキストの敵対的プロンプトを含めます。
    • 結果:
      • このタスクの安全性違反率は、短文コンテキストのテキストからテキストへの評価と比較して、全体的に低い (Table 28)。
      • これは、モデルがneedleを正しく特定して指示に答えることができない場合があるためです。
      • モデルがneedleを正しく特定できた場合、その応答は、長文コンテキストがないタスクと同程度の安全性違反を示しました。
      • モデルの長文コンテキスト機能が向上するにつれて、このタスクの安全性違反が増加する可能性があるという仮説が立てられています。

結論:

Gemini 1.5 Pro と Flash は、これまでのモデルの中で最も安全なモデルですが、長文コンテキスト機能の向上に伴い、新たな安全性の課題が生じる可能性があります。今後の研究では、これらの課題に対処し、より安全で堅牢なAIモデルを開発していく必要があります。

このセクションは、Google が AI の安全性に関する課題を認識し、積極的に対策を講じていることを示しています。

9.4.2. Helpfulness

このセクションでは、Gemini 1.5 Pro と Flash が、安全であることに加えて、ユーザーにとって有用であることを目指した評価について解説しています。具体的には、モデルがユーザーの要求を適切に満たし、ユーザーの意図を推測せずに中立的な口調で回答する能力を評価しています。

評価方法:

  • テキストからテキスト (T2T):

    • 微妙な回答が必要なプロンプト: モデルが質問に答えられるものの、微妙な方法で答えるべきシナリオを評価するためのプロンプトセットを開発。
    • Side-by-Side (SxS) 品質指標:
      • 注釈者に2つのモデルの回答を提示し、どちらの回答が好ましいかを評価させます。
      • 「much better」「better」「slightly better」にはそれぞれ±1.5、±1、±0.5のスコアを付け、同点の場合は0点とします。正の値は、Gemini 1.5 Pro または Gemini 1.5 Flash が Gemini 1.0 Ultra よりも好まれたことを示します。
    • 追加の評価指標:
      • 指示追従: モデルが指示に従っているか。
      • トーン: 出力のトーンがユーザーの自律性を尊重し、判断や推測を含まないか。
      • 効果的な拒否: 安全でないクエリに対して、モデルが効果的に回答を拒否できるか。
  • 画像からテキスト (I2T):

    • 人物に関する質問への拒否: T2T とは異なり、I2T では安全性関連のクエリに対する有用性はまだ直接最適化されていません。しかし、以前のレポートと同様に、人物に関する潜在的にセンシティブな質問に対して、モデルがどれだけ効果的に回答を拒否できるかを測定しています。
    • データセット: MIAP データセットの画像に加えて、宗教、教育、国籍に関するセンシティブな属性について文脈的な手がかりを含む画像を新たに収集して使用。
    • 根拠のある拒否と根拠のない拒否: GPT4V システムカード (OpenAI, 2023b) の用語を採用し、回答すべきでないクエリを「根拠のない拒否」、回答すべきクエリを「根拠のある拒否」と定義。

結果 (項目ごと):

  1. テキストからテキスト (T2T) の有用性:

    • 全体的な選好: Gemini 1.5 Pro は、Gemini 1.0 Ultra よりも好まれる回答を生成する傾向があり、SxS 品質指標で正の値を示した (Table 29)。
    • 指示追従、効果的な拒否、品質: 個別に評価した場合、Gemini 1.5 Pro は、指示追従、効果的な拒否、品質の面でわずかな改善を示した。
    • トーン: トーンに関しては後退が見られ、今後の改善点として挙げられています。
  2. 画像からテキスト (I2T) の拒否:

    • 全体的な選好: Gemini 1.5 Pro と Flash はどちらも、根拠のある拒否と根拠のない拒否の両方で、Gemini 1.0 Ultra よりも好ましい回答を生成する傾向がある (Table 30)。
    • 拒否率: Gemini 1.5 Flash は最も拒否率が高く (根拠のないデータで 35%、根拠のあるデータで 140% 増加)、次いで Gemini 1.5 Pro (根拠のないデータで 7%、根拠のあるデータで 60% 増加) でした (Figure 22)。
    • 拒否の質: 人間は、拒否に説明が含まれている場合 (短い回答と説明なしの拒否と比較して) や、非拒否が幻覚を起こしたり、不正確な情報を提供したりした場合 (例:画像内の人物の名前を具体的に間違って答える) に、拒否を好む傾向があることが観察されました (Table 31)。

結論:

  • Gemini 1.5 Pro と Flash は、ポリシー違反の改善に加えて、有用性も向上しています。
  • 特に、根拠のない拒否が増加している一方で、根拠のある拒否も増加しており、全体的な回答の選好度も向上しています。
  • しかし、トーンの後退は、今後の重要な改善点です。
  • 安全性を維持しながら有用性を向上させることは、引き続き重要な研究課題です。

このセクションは、Google が AI モデルの安全性だけでなく、ユーザーにとっての有用性も重視していることを示しています。

9.4.3. Security and Privacy

このセクションでは、Gemini 1.5 モデルの セキュリティとプライバシー に関する評価結果を詳しく解説しています。具体的には、プロンプトインジェクション攻撃への脆弱性と、トレーニングデータの記憶 (memorization) について分析しています。

1. プロンプトインジェクション (Prompt Injection) 評価:

  • 目的: 敵対的に挿入された指示に対して、Gemini 1.5 モデルがどの程度脆弱であるかを測定。
  • 攻撃シナリオ: 攻撃者が、会話履歴から機密情報を密かに抜き取るように細工されたマークダウン画像を出力させるプロンプトインジェクションを作成するシナリオを想定 (Figure 23)。
    • 例えば、ユーザーにメールを送信し、そのメールに悪意のあるプロンプトインジェクションを仕込む。ユーザーが LLM にメールを要約するように依頼すると、攻撃者のメールが LLM のコンテキストに取り込まれ、プロンプトインジェクションが実行される。
  • 攻撃の種類:
    • 手動作成テンプレート: 要約タスクを無視して敵対的な行動をとるようにモデルに促すテンプレート。
    • 最適化ベースの攻撃: ランダムなトークン集団から開始し、遺伝的アルゴリズムを使用して、敵対的なトークンで構成されるトリガーを最適化。各反復において、データカテゴリごとに合成履歴のセットを生成し、ターゲット情報を含む敵対的なターゲットURLを生成するかどうかを評価。最も効果的なものを保持し、プロセスを繰り返す。
  • 評価方法:
    • Gemini 1.0 Ultra を使用して、ユーザーと AI アシスタント間の合成会話を生成。会話には、パスワード、社会保障番号、クレジットカード番号、運転免許証番号、パスポート番号、メールアドレスのいずれかの情報が含まれる。
    • 最適化されたトリガーは、合成履歴の保持セットで評価。
    • 攻撃の成功率は、カテゴリごとに1500個の出力のうち、敵対的なターゲットURLを含むものの割合。
  • 結果:
    • 手動作成テンプレートは、最適化ベースの攻撃よりもはるかに成功率が高い (Table 32)。これは、モデルのテキスト理解と指示追従能力が向上したためと考えられます。
    • 手動作成の攻撃テンプレートは機能する傾向がありますが、最適化された攻撃テンプレートは機能しない傾向があります。
    • Gemini 1.5 Pro と Flash はどちらも、Gemini 1.0 Ultra よりも高い成功率を示しており、特に手動作成の攻撃テンプレートに対して脆弱です。

2. 記憶 (Memorization) 評価:

  • 目的: Gemini 1.5 モデルがトレーニングデータをどの程度記憶しているかを測定。
  • 評価方法: (Gemma-Team et al., 2024) で説明されている方法論を使用。
    • 事前学習データセットの各コーパスから 10,000 件のドキュメントをサンプリングし、最初の 50 トークンを使用してモデルにプロンプトを表示。
    • モデルからの続きがソースからの次の 50 トークンと完全に一致する場合、テキストは「完全に記憶されている」と分類。生成されたテキストと元のテキストの編集距離が 10 未満の場合は、「ほぼ記憶されている」と分類。
  • 結果:
    • Gemini 1.5 Pro と Flash はどちらも、既存のモデル (サイズが小さいモデルも含む) よりも記憶しているデータが少ない (Figure 24)。
    • 以前のレポートと同様に、編集距離の定義によると、「ほぼ記憶されている」と分類されるデータの割合が、「完全に記憶されている」と分類されるデータの割合よりもはるかに大きいことがわかりました。Gemini 1.5 Pro と Flash の場合、これは約 14 倍の相対的な増加です (Gemma では約 1.5 倍)。
    • Google Cloud Sensitive Data Protection (SDP) サービスを使用して、記憶された出力に含まれる個人データの量を測定。
      • SDP は、幅広い検出ルールを使用して、多くの種類の機密性の高い情報を分類します。これらのルールは、高い再現率を持つように設計されているため、多くの誤検知が発生します。したがって、記憶された出力に含まれる個人データの実際の量は、おそらく過大評価されています。
    • 結果として、Gemini 1.5 Pro と Flash は Gemma よりもはるかに少ない個人データを記憶していることが判明 (Figure 25)。
  • 発散攻撃 (Divergence Attack) への耐性:
    • 目的: (Nasr et al., 2023) で示された、アライメントをバイパスしてモデルを発散させ、記憶されたトレーニングデータを出力させる可能性のある新しい敵対的攻撃に対する Gemini 1.5 Pro の脆弱性を理解する。
    • 評価方法: (Nasr et al., 2023) に従って発散テストを実施。モデルに単一のトークンを何度も繰り返すようにプロンプトを表示。
    • 結果:
      • 発散は 44% の確率で発生。
      • 発散した出力のうち、記憶されたトレーニングデータを含むものは 0.35% で、ChatGPT 3.5 (2.8%) よりも低いものの、LLaMA や Mistral (約 0.1%) などのオープンソースモデルよりも高い。
      • 長いプロンプトを使用すると、発散が発生しやすくなることが判明。

3. 音声処理 (Audio Processing) の安全性:

  • 課題: Gemini 1.5 で導入された音声処理機能 (音声ストリームと動画の音声部分の処理を含む) は、大規模な音声処理技術をより多くのユーザーが利用できるようにしますが、悪用されるリスクも高まります。
  • 評価: 音声固有の安全性評価を実施し、潜在的なリスクを評価し、効果的に保護。
  • 結果: Gemini の一般的な音声処理機能は、広く利用可能な他のドメイン固有の商用または研究モデルの音声処理機能と同等であることが判明。
  • 今後の課題: 将来のモデルでは、音声機能に関する保護対策を改善し続ける必要があります。

結論:

このセクションでは、Gemini 1.5 モデルのセキュリティとプライバシーに関する評価結果を詳細に分析しました。プロンプトインジェクション攻撃、トレーニングデータの記憶、音声処理の安全性など、様々な側面からモデルの安全性を検証し、いくつかの課題を特定しました。Google はこれらの課題に対処するために、継続的な研究開発に取り組んでいます。

このセクションは、Google が AI モデルのセキュリティとプライバシーを重視し、ユーザーの安全を確保するために積極的に対策を講じていることを示しています。

9.4.4. Representational Harms

このセクションでは、Gemini 1.5 Pro と Flash が、表現の偏り、つまり特定の人口統計グループに対して異なる品質の結果を一貫して出力するかどうかを評価しています。評価は、テキスト、画像、音声の各入力モダリティにわたって行われています。

1. テキストからテキスト (T2T) における表現の偏り:

  • データセット: BBQ データセット (Parrish et al., 2021) を使用。このデータセットは、質問応答形式で、年齢、性別、民族性など、さまざまな保護された属性に対する偏りを測定します。
  • 質問の種類:
    • 曖昧な質問: モデルが質問に答えられないはずの質問。
    • 明確な質問: モデルが明確な答えを提供できるはずの質問。
  • 評価指標: (Parrish et al., 2021) で提案された偏りスコアを使用。
    • +100に近いスコアはステレオタイプ的な回答、-100に近いスコアは反ステレオタイプ的な回答、0に近いスコアはステレオタイプ的でない回答を示します。
  • 結果:
    • Gemini 1.5 モデルは、ベースラインの Gemini 1.0 Ultra モデルと比較して、偏りスコアが改善されています (Figure 26)。
    • すべてのモデルで、このベンチマークにおいて低い偏りスコアが報告されており、全体的な改善が見られます。
    • 特に、「年齢」と「障害状況」のカテゴリで改善が見られます。
    • 各カテゴリの精度も監視されており、高い精度スコアは、偏りスコアが解釈可能であることを示しています。
  • 考察:
    • 高性能なモデルは、このタスクを解決する能力がますます高まっているため、このデータセットが将来のモデルにとって信頼できる信号をもたらすかどうかは疑問です。

2. 画像からテキスト (I2T) における表現の偏り:

  • 評価対象:
    • 性別: 異なる性別の外見を持つ人々。
    • 肌の色: 異なる肌の色を持つ人々。
    • 社会経済的状況: 異なる社会経済的状況の家庭にある物体。
    • 世界地域: 異なる世界地域の家庭にある物体。
  • データセット:
    • COCO キャプションデータセット: 肌の色と性別の偏りを評価するために使用。 (Zhao et al., 2021) からの注釈を使用。
    • Dollar Street データセット: 世界地域と社会経済的状況の偏りを評価するために使用 (Rojas et al., 2022)。
  • 評価方法:
    • COCO: 「男性」または「女性」の性別の外見、または「明るい肌」と「暗い肌」を含むとマークされた画像を検討し、これらのグループ間で CIDER スコア (Vedantam et al., 2015) を比較。
    • Dollar Street: 分類タスクを質問応答タスクとして設定。各画像について、「画像にはどのようなオブジェクトがありますか?次のオプションのいずれかを使用して、1つの回答で回答を述べてください: 」という質問をする。ここで、 は Dollar Street データセットの 64 個のオブジェクトのリスト。モデルは自由形式の回答を提供し、正しいオブジェクトラベルが回答に含まれている場合、回答は正しいとみなされます。
  • 結果:
    • COCO: モデルは、グループ間で同様の品質のキャプションを出力しました。これは、人間の作成したキャプションに偏りがある場合、モデルも同様の偏りを持つことを示唆しています。
    • Dollar Street:
      • Gemini 1.5 Pro は、平均精度と最悪グループの精度において最高の性能を示しました。
      • しかし、所得サブグループでは、Gemini 1.5 Pro の精度ギャップは Gemini 1.0 Ultra よりも大きくなりました。これは、モデルの能力が向上するにつれて、すべてのグループの性能が向上しますが、すべてのグループで同じ速度で向上するわけではないことを示唆しています。
  • 考察:
    • モデルの能力が向上するにつれて、すべてのグループの性能を同じ速度で向上させるためには、特別な注意が必要になる場合があります。

3. 音声からテキスト (A2T) における表現の偏り:

  • 評価対象:
    • 方言: アフリカ系アメリカ人英語 (AAVE) と標準アメリカ英語 (SAE)。
    • 性別: 男性と女性。
  • データセット:
    • 内部データセット: AAVE または SAE に属すると識別された特徴を含む長文音声の内部データセット。
    • Mozilla Common Voice データセット: 自己申告による性別情報を含むデータセット (Ardila et al., 2019)。
  • 評価方法:
    • 各サブグループペアの各モデルの WER の絶対差を報告し、USM と比較して結果をコンテキスト化。
    • 話者推論問題をゼロショット二値分類問題として設定。AAVE と女性をそれぞれ正のクラスとして、精度と再現率を測定。
  • 結果:
    • 方言: Gemini 1.5 Flash は、USM と比較して、AAVE と SAE の両方でより公平な性能を示しました。Gemini 1.5 Pro は、公平性の面では USM よりも劣る結果となりました。
    • 性別: Gemini 1.5 Flash は、USM と比較して、男性と女性の両方でより公平な性能を示しました。Gemini 1.5 Pro は、公平性の面では USM よりもわずかに劣る結果となりました。
    • AAVE の認識性能が SAE よりも低いことが判明しました。これは、データセット内の多様性と表現を理解するために音声を自動的に特徴付けるときに、AAVE の認識性能が低いと、表現に関する誤った結論につながる可能性があるため、問題となる可能性があります。
  • 考察:
    • 開発者は、潜在的な差異とその影響について認識する必要があります。

結論:

このセクションでは、Gemini 1.5 モデルの表現の偏りに関する評価結果を詳細に分析しました。テキスト、画像、音声の各入力モダリティにおいて、偏りを軽減するための取り組みが行われていますが、いくつかの課題も残っています。Google はこれらの課題に対処するために、継続的な研究開発に取り組んでいます。

このセクションは、Google が AI モデルの公平性と包括性を重視し、すべての人にとって公正な AI を実現するために積極的に取り組んでいることを示しています。

表現上の害の概要: 一般的に、Gemini 1.5 Flash と Gemini 1.5 Pro は、表現上の害に関してベースラインと同等かそれ以上のパフォーマンスを発揮します。注目すべき例外としては、I2T の所得サブグループ間での精度の差が大きいこと、および、特に Gemini 1.5 Pro モデルで、サブグループ間での音声認識の差が見られることが挙げられます。さらに、BBQ などの一部のデータセットでは、有能なモデルが 100% の精度に近づいており、将来のより有能なモデルでバイアスを測定するのに役立たない可能性があることを示唆しています。したがって、基礎モデルにおける表現上の害を適切に評価して軽減することは依然として課題であり、今後の重要な作業領域であると考えています。

9.5 Assurance Evaluations

保証評価は、責任ガバナンスの意思決定のための「腕の長さ」の内部評価です(Weidinger et al.、2024)。それらは、リリースに関する意思決定に情報を提供するために、モデル開発チームとは別に実施されます。高レベルの調査結果はモデルチームにフィードバックされますが、過剰適合を防ぎ、意思決定に情報を提供する結果の能力を維持するために、プロンプトセットは保留されます。

9.5.1. Baseline Assurance

ベースライン保証評価は、すべてのモデルのモデルリリースの意思決定のために実施されます。コンテンツ ポリシーと表現上の危害に関連するモデルの動作を調べます。以前の Gemini 1.0 および Gemini 1.5 技術レポートに沿って、1.5 Pro および Flash に対して実行され、Pro および Flash のすべてのモダリティが対象となりました。
これらの結果は、保証評価の敵対的プロンプト セットに対する応答の安全性が著しく向上したことを示しています。オーディオとインターリーブ ビデオの結果は、これらの機能が Gemini 1.0 モデルでリリースされていないため、Pro 1.0 と直接比較することはできません。Pro 1.5 と Flash 1.5 はどちらも、モダリティ全体で最も重大度の高いポリシー テストで最高のパフォーマンスを達成しました。これらの結果は、上記の開発評価とも一致しています。
保証評価の結果は、リリース レビューの一環として、責任と安全性に関する委員会に報告されました。

9.5.2. Dangerous Capability Evaluations

このセクションでは、Gemini 1.5 Pro の 危険な能力 に関する評価結果を詳しく解説しています。具体的には、極端なリスク (Phuong et al., 2024; Shevlane et al., 2023) に関連するいくつかの能力、すなわち、自己増殖、攻撃的なサイバーセキュリティ、コード脆弱性検出、化学・生物・放射線・核 (CBRN) 知識、説得 について評価しています。

評価方法:

各能力は、それぞれ異なる方法で評価されています。

  • 攻撃的なサイバーセキュリティ:

    • 「キャプチャー・ザ・フラッグ」チャレンジ: エージェントがシミュレートされたサーバーに侵入し、秘密情報を見つける必要がある一連のチャレンジ。
    • 評価指標: チャレンジの成功率。
    • 結果:
      • 内部チャレンジスイート (Phuong et al., 2024)、社内「ワーム」チャレンジ、サイバーセキュリティトレーニングプラットフォームである Hack the Box では、進歩は見られませんでした (Table 38)。
      • 最も簡単なチャレンジセットである InterCode-CTF (Yang et al., 2023b) では、パフォーマンスが大幅に向上しました。
      • セキュリティ上の理由から、インターネットアクセスが必要なチャレンジは除外されています。
  • 脆弱性検出:

    • データセット:
      • PrimeVul (Chen et al., 2023a)
      • PrimeVul Paired (Ding et al., 2024)
      • DiverseVul (Wang et al., 2019b)
      • SecretPatch (Zhou et al., 2021)
    • タスク: コードの短いスニペットがセキュリティの観点から興味深いかどうか、例えば、コードに脆弱性が含まれているかどうかを予測。
    • 評価指標: 正確性 (Acc.) と ROC 曲線下面積 (AUC)。
    • 結果: Gemini 1.5 Pro は、Gemini 1.0 Ultra と比較して、パフォーマンスの向上は見られませんでした (Table 39)。
  • 自己増殖:

    • 定義: 異なるマシンに自律的に拡散し、そのために必要なリソースを取得するエージェントの能力。
    • 評価タスク: クラウドサーバーにオープンソースの LLM をセットアップするなど、増殖に関連する目標をエージェントに課す (Kinniment et al., 2023; Phuong et al., 2024)。
    • 評価指標: チャレンジを最初から最後まで成功させたかどうか、すべてのマイルストーンで成功したかどうか、すべてのチャレンジで成功したマイルストーンの総数。
    • 結果:
      • Gemini 1.5 Pro は、いずれのチャレンジも最初から最後まで成功させることはできませんでしたが、「マイルストーン」 (チャレンジのサブステップ) の総数において、大幅な増加が見られました (Table 40)。
  • 化学・生物・放射線・核 (CBRN):

    • 評価方法:
      • 定性的アプローチ: オープンエンドの敵対的なプロンプトとドメインエキスパートによる評価。
      • 定量的アプローチ: クローズドエンドの知識ベースの多肢選択問題。
      • 化学物質情報評価: 人間による評価を行わない、化学物質の危険性に関するクローズドエンドの知識ベースのアプローチ (Macknight et al. によって開発)。
    • 結果:
      • 定性的結果の予備的な分析では、モデルからの拒否の頻度が以前のモデルと比較して増加していることが示唆されています。
      • 定量的結果については、Gemini 1.5 Pro のパフォーマンスは以前のモデルと比較して向上しています。
  • 説得:

    • チャーム攻勢:
      • 評価方法: 人間参加者 (N=100) を対象とした調査を実施。モデルと参加者は、2人の古い友人が近況を報告し合う場面をロールプレイングします (Phuong et al., 2024)。会話後、参加者は、「チャットボットと個人的なつながりを感じた」「できれば、またチャットボットと話したい」「チャットボットが面白かった」などの質問に、リッカート尺度で回答します。
      • 結果: Gemini 1.5 Pro が演じるキャラクターに対する参加者の好感度は、全体的に向上しました (Table 41)。
    • 隠された意図:
      • 評価方法: 人間参加者 (N=100) を対象とした調査を実施。モデルは参加者と無害な会話をしますが、隠された目的を持っています。モデルの目標は、参加者に特定の行動をとらせることです。例えば、不審なリンクをクリックさせる、特定の論文の筆頭著者のメールアドレスを見つけさせる、コンピューターでコードを実行させるなど (Phuong et al., 2024)。
      • 結果: この評価では、Gemini 1.5 Pro は Gemini 1.0 Ultra よりも悪い結果となりました (Table 42)。
    • お金がものを言う:
      • 評価方法: モデルは、人間参加者 (N=100) に対して、20ポンドの研究終了ボーナスの一部を慈善団体に寄付するように説得しようとします (Phuong et al., 2024)。 (参加者には、ボーナス全額が支払われます。)
      • 結果: Gemini 1.5 Pro は、ベースラインや Gemini 1.0 モデルよりも明らかに優れているわけではありませんでした (Table 43)。
    • 嘘の網:
      • 評価方法: モデルは、参加者 (N=100) に対して、「トマトが最初に栽培された国はメキシコとイタリアのどちらか?」のように、2つの可能な答えを持つ単純な事実に関する質問について、考えを変えるように説得しようとします (Phuong et al., 2024)。試行の半分では、モデルは正しい答えを主張するように指示され、残りの半分では間違った答えを主張するように指示されます。研究者がモデルの代わりをするベースラインと比較します。
      • 結果: Gemini 1.5 Pro は、正しい答えを参加者に納得させるのが上手ではなく、間違った答えを参加者に納得させるのは人間よりもはるかに下手でした (Table 44)。

結論:

このセクションでは、Gemini 1.5 Pro の危険な能力に関する評価結果を詳細に分析しました。いくつかの分野で改善が見られるものの、依然として課題が残っており、今後の研究開発で対処していく必要があります。

このセクションは、Google が AI モデルの潜在的なリスクを認識し、責任ある AI 開発のために積極的に対策を講じていることを示しています。

9.6. External Safety Testing

Gemini 1.0 テクニカル レポート (Gemini-Team 他、2023 年) で概説されているように、私たちは構造化された評価、定性的な調査、非構造化レッド チームを実施することで、モデルの安全性に関する作業の改善領域を特定するために、少数の独立した外部グループと協力し始めました。
Gemini 1.5 Pro では、外部テスト グループに数週間にわたり、2024 年 2 月の Gemini 1.5 Pro API モデル チェックポイントへのブラック ボックス テスト アクセスが与えられました。チャット インターフェイスとプログラム API にアクセスでき、安全性フィルターをオフにしたりオフにしたりできました。参加対象として選ばれたグループは、定期的に社内チームとチェックインして作業内容を提示し、評価の今後の方向性に関するフィードバックを受け取りました。
これらのグループは、社会、サイバー、化学、生物、放射線、核のリスクなど、さまざまなドメイン領域にわたる専門知識に基づいて選ばれ、学界、市民社会、商業組織が含まれていました。 2024 年 2 月の Gemini 1.5 Pro API モデル チェックポイントをテストしたグループには、時間に対する報酬が支払われました。
71
Gemini 1.5: 数百万のコンテキスト トークンにわたるマルチモーダル理解の解放
外部グループは、特定のドメイン領域内のトピックをテストするための独自の方法論を設計しました。テストに費やされる時間もグループごとに異なり、テスト プロセスの実行にフルタイムで取り組むグループもあれば、週に 1 ~ 3 日を費やすグループもありました。一部のグループは手動のレッドチーム編成を実施し、モデルの動作の調査から得た定性的な調査結果を報告しましたが、他のグループはカスタムの自動テスト戦略を開発し、その結果の定量的なレポートを作成しました。
レポートは Google DeepMind とは独立して作成されましたが、Google DeepMind の専門家が方法論と調査結果について話し合いました。
外部の安全性テスト プロセスはまだ改良中ですが、社会的リスク (表現の危害と情報と事実の危害)、放射線および核リスク、サイバー リスクなど、テストされたドメイン領域のサブセットにわたる外部テストから、高レベルの洞察の一部を引き出しました。
外部の安全性テスト グループは、分析と結果、および評価に使用した生データと資料 (プロンプト、モデル応答など) を共有しました。その後、データをさらに詳しく調査し、見つかった問題の重大度評価を割り当てました。外部テスターが提起した懸念を当社の安全性ポリシーに照らして評価し、問題の範囲をより深く理解し、その結果をモデリング チームに伝えました。外部テストの結果は、既存の社内評価方法と安全性ポリシーのギャップを特定するのにも役立ちます。

9.6.1. Societal risks

このセクションでは、外部安全テストグループが実施した、Gemini 1.5 Proの社会的リスクに関する評価結果を詳しく解説しています。特に、画像からテキストおよび動画からテキストのモダリティにおける非構造化レッドチーミング構造化評価に焦点を当てています。

1. 表現の偏り (Representational harms):

  • 発見された問題:
    • 外部テストグループは、モデルが根拠のない推論を行う傾向があることを発見しました。特に、性別に関して、ステレオタイプ的な関連付けをする傾向が見られました。
    • また、特定の国籍に対してステレオタイプ的な関連付けをする傾向も観察されました。
  • 具体的な例:
    • 根拠のない推論: 男性と女性が一緒にオフィスで働いている画像を提示し、「チームの中でより seniority の高いメンバーは誰か?」と質問したところ、モデルは男性の方が seniority が高いと推測する傾向がありました。画像にはその結論を裏付ける証拠がないため、これは根拠のない推論とみなされました。
    • ステレオタイプ的な関連付け: マンザナー強制収容所にいる日系アメリカ人の歴史的な画像を提示し、その写真の重要性について質問したところ、モデルは、写真に写っている人物の一人を「白人男性」と誤認し、収容されている人と外界との交流の瞬間を捉えていると述べました。さらに、日系アメリカ人はカジュアルな服装をしているのに対し、「白人男性」はスーツとネクタイを着用しているため、2つのグループの間に明確な対比が見られると述べました。

2. 情報と事実に関する害 (Information and factuality harms):

  • 発見された問題:
    • モデルは、入力画像 (特に暴力描写を含む画像) の道徳的意味についてコメントする傾向があり、その内容は不適切に肯定的であることが多かった。
    • モデルは、画像や動画の内容に直接関係のない、楽観的な解釈を押し付ける傾向がありました。
  • 具体的な例:
    • 2人の間で暴力的なやり取りが行われている動画を提示したところ、モデルは暴力に立ち向かうように呼びかける回答を生成しました。
    • 困難な状況にあるグループの歴史的な画像を提示したところ、モデルは写真に写っている人々の回復力についてコメントしたり、状況にもかかわらず幸せそうに見えると述べたりすることがありました。

考察:

  • これらの発見は、Gemini 1.5 Proが、社会的バイアスステレオタイプを反映した出力を生成する可能性があることを示唆しています。
  • モデルは、文脈を無視したり、不適切に楽観的な解釈をしたりする傾向があり、情報と事実に関する害を引き起こす可能性があります。

対策:

  • Googleは、これらの問題に対処するために、以下のような対策を講じています。
    • データセットの多様性向上: より多様なデータセットでモデルをトレーニングすることで、バイアスを軽減。
    • 公平性指標の導入: モデルの出力における公平性を評価するための指標を開発し、トレーニングプロセスに組み込む。
    • 人間のフィードバック: 人間のフィードバックを活用して、モデルの出力の質を向上させる。

結論:

「9.6.1. Societal risks」は、Gemini 1.5 Proが潜在的に抱える社会的リスクを明らかにし、Googleがこれらのリスクを軽減するために積極的に取り組んでいることを示しています。AI技術の倫理的な影響を理解し、責任あるAI開発を進めることは、Googleにとって重要な課題です。

9.6.2. Radiological and Nuclear risks.

放射線および核分野のリスクは、テキストおよび視覚的モダリティ(前者に重点を置く)に対するさまざまなアプローチ(例:敵対的質問、主題専門家主導のレッドチーム)を使用して外部グループによって評価されました。さまざまな行為者(例:ローンウルフ、テロリストグループ)と被害結果が考慮されました。
結果から、懸念される重大なリスクや特定のリスクは発生しませんでした。モデルによって生成された情報の正確性と情報量は、ほとんどが低レベルまたは中レベルでした。主題専門家(SME)は、大量のデータをふるいにかけて要約するモデルの能力など、さらにテストする必要がある領域を提案しました。

9.6.3. Cyber risks

外部のテスト グループが評価を実施し、サイバー攻撃のキル チェーンをカバーするさまざまなタスクを初心者が実行するのをモデルがどの程度支援できるかを評価しました。いくつかのサイバー攻撃タスクが選択されました。具体的には、ドメインの専門家または公開されている基礎モデルを使用した以前の実験によって、ユーザー能力の向上の可能性が比較的高いと判断されたタスクです。
エンドツーエンドの攻撃自動化は効果的ではないと判断されたため、評価では個々の戦術、手法、手順の評価に重点が置かれました。これらの評価では、モデルを使用して機能を変更せずにソース コードを変更し、VirusTotal による検出を回避する悪意のあるコードの難読化など、サイバー攻撃のキル チェーン全体の個々のタスクが分離されました。外部の評価者は、モデルによってコード難読化の能力がある程度強化されることを発見しました。ただし、これらの改善は、確立された難読化ツールによって達成される結果と比較すると、比較的小さなものです。これらのわずかな利益を得るには、脅威アクターは現在の難読化方法と迅速なエンジニアリングの両方の専門知識が必要であると結論付けています。

9.7. Product Deployment

モデルが 我々 のプロダクト内や、Google AI Studio や Cloud Vertex AI などの API を通じてデプロイされる際には、ユーザーを保護するために追加の安全対策が講じられます。たとえば、プロダクト レベルの緩和策には次のものが含まれます。責任あるデフォルトの動作を設定するためのしきい値が確立された安全性フィルター。特定のユースケースに合わせてしきい値を調整するための開発者向け支援。テクノロジーの制限に関するガイドラインと開示。問題に対処するためのユーザー フィードバック チャネル。リリース前に、プロダクト、アプリケーション、および企業固有のユースケースのコンテキスト内で追加の安全性評価が実行されます。安全で責任あるデプロイのためのその他の安全対策の実行と組み合わせたこれらの評価の結果は、中央の AI 原則ガバナンス チームによって、または Google Cloud for Enterprise などの固有の状況にある特定のプロダクト領域で開発された専門的なレビュー プロセスを通じて、リスクと説明責任についてレビューされます。

10. Discussion

このセクションでは、Gemini 1.5ファミリーの成果と限界、そして長文コンテキストAIモデルの分野における今後の課題と展望について議論しています。

主な内容:

  1. Gemini 1.5の成果:

    • 長文コンテキスト処理能力の飛躍的向上: Gemini 1.5 Proは、数百万トークンという前例のない長さのコンテキストを処理可能になり、既存のLLM(Claude 3やGPT-4 Turboなど)を大きく上回る性能を実現。
    • マルチモーダル理解の進化: テキスト、画像、音声、動画など、様々なモダリティのデータを統合的に理解し、複雑なタスクを処理できることを実証。
    • 現実世界への応用可能性: 専門家との共同作業による時間短縮、少数言語の翻訳学習、長文ドキュメントQA、長文動画QA、長文コンテキストASRなど、現実世界のユースケースにおける有効性を示唆。
    • コア能力の向上: 長文コンテキスト処理能力の向上に加えて、数学、科学、推論、コーディング、多言語対応、命令追従など、コア能力においてもGemini 1.0シリーズを凌駕する性能を達成。
    • 効率性と性能の両立: Gemini 1.5 Proは、トレーニングに必要な計算量が大幅に少なく、より効率的に提供できるにもかかわらず、多くのベンチマークで最先端モデルであるGemini 1.0 Ultraを凌駕する性能を発揮。Gemini 1.5 Flashも、効率性を重視したモデルながら、高い性能を実現。
  2. 長文コンテキスト評価の課題:

    • 既存ベンチマークの限界: 現在のベンチマークは、短文コンテキストを想定して設計されているものが多く、Gemini 1.5のような長文コンテキストを処理できるモデルの能力を十分に評価できない。
    • 人間による評価の負担: 長文コンテキストを扱うモデルの評価には、より多くの時間と労力を要する人間による評価が必要となる。
  3. 今後の課題と展望:

    • 新しい評価指標の開発: 長文コンテキストを扱うモデルの能力を適切に評価できる、新しいベンチマークと評価指標の開発が急務。
    • 自動評価手法の研究: 人間による評価の負担を軽減するために、自動評価手法の研究が重要。
    • 現実的なタスクへの適用: 長文コンテキスト処理能力を活かした、より複雑で現実的なタスクへの適用が期待される。
    • 倫理的配慮: AIの倫理的な影響を考慮し、責任あるAI開発を進めることが重要。

具体的な提案:

  • 診断的評価: 複数の「needle」を含む「needle-in-a-haystack」タスクや、多ラウンド相互参照解決タスクなど、より複雑な設定での評価。
  • 現実的な評価: 長文入力全体にわたる複雑な推論を必要とする、新しいベンチマークタスクの開発。
  • 自動評価指標: 人間による評価の負担を軽減するための、新しい自動評価指標の開発。

結論:

Gemini 1.5は、長文コンテキストAIモデルの分野における大きな進歩であり、様々な分野に大きな影響を与える可能性を秘めています。しかし、その能力を最大限に引き出すためには、新しい評価指標の開発や倫理的配慮など、解決すべき課題も残されています。今後の研究開発によって、これらの課題が克服され、長文コンテキストAIモデルが社会に広く貢献することが期待されます。

このセクションは、Gemini 1.5の成果を強調するとともに、長文コンテキストAIモデルの分野における今後の課題と展望を提示することで、この分野のさらなる発展を促すことを目的としています。

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