第1章 はじめに
1.1 本書の目的と構成
生成AI(人工知能)は、急速に発展し、教育機関や研究現場でも多くの可能性を秘めています。しかし、その潜在能力を引き出すためには、適切なプロンプト(指示文)の作成が重要です。本書は、特に大学教職員の皆様を対象に、生成AIを効果的に利用するためのプロンプト作成に焦点を当てたガイドです。
本書は前編と後編に分かれており、前編では従来型のプロンプト作成に関する基礎知識や実践的な方法について学びます。後編では、より高度なテクニックやマルチエージェントシステムを利用した応用例を取り上げます。
本書の構成は以下の通りです。本書の目的、対象読者、最新の技術動向について説明します。
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第2章 Microsoft 365 Copilot Chat のWebモードと職場モードの概要:大学での利用シーンに適したモードの選び方と効果的な使い方を解説します。
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第3章 なぜ日本人はプロンプトの作成が苦手なのか:日本語の特性や文化的な要因がプロンプト作成に与える影響を考察します。
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第4章 Microsoft 365 Copilot Chat: Microsoft 365 Copilot Chat の概要について説明します。
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第5章 従来のプロンプトエンジニアリングとは:基本概念と従来型プロンプト作成の重要ポイントを整理します。
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第6章 従来のプロンプト作成の基本ステップ:良いプロンプトを作るための手順とテクニックを具体的に解説します。
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第7章 実践例と活用シーン:大学業務におけるプロンプト活用例を提示し、具体的な応用を支援します。
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第8章 まとめと次へのステップ:前編の内容を整理し、後編へのつながりを示します。
本書を通じて、大学業務や研究、教育現場において生成AIの利活用に関する知識が深まり、実際に活用するための自信がつくことを目指します。
1.2 本書の対象読者(大学教職員)と想定する利用シーン
本書は、次のような大学教職員を対象にしています。
- 生成AIについてあまり詳しくないが、これから導入したいと考えている方。
- 日常業務の効率化を図りたいと考えている方(研究支援、教育資料作成、事務作業の効率化など)。
- 研究論文の要約や試験問題のアイデア出し、授業資料の作成に生成AIを活用したい方。
また、想定される利用シーンは以下の通りです。
- 研究活動:生成AIを活用して大量の文献を要約し、効率的に情報を取得する。
- 教育支援:授業資料や試験問題の案を効率的に作成する。
- 事務作業:メール文書の下書き作成や報告書の骨子作成に生成AIを利用する。
これらのシーンで、生成AIの利用が単なる補助ではなく、意思決定のスピード向上や新しい発想を引き出すための強力なツールとなることを期待しています。
第2章 生成AIの進化
この章では、生成AIが単なる予測モデルから複雑な推論能力を備えたシステムへと進化してきた過程を解説します。まず、AIがどのようにして膨大なデータを基に推論を行うかを示し、次にAIエージェントの概念とその役割を説明します。また、AIエージェントが協調して問題を解決する「マルチエージェントシステム」の可能性についても触れ、教育や研究分野における応用例を紹介します。
2.1 プロンプトエンジニアリングとは
プロンプトエンジニアリングとは、生成AIに対して期待する出力を得るために、適切な形式や内容の指示文(プロンプト)を設計する技術を指します。プロンプトエンジニアリングとは、生成AIに対して期待する出力を得るために、適切な形式や内容の指示文(プロンプト)を設計する技術を指します。生成AIは膨大なデータをもとに学習した知識を使って応答を生成しますが、その性能を最大限に引き出すには、与えるプロンプトの質が非常に重要です。生成AIは膨大なデータをもとに学習した知識を使って応答を生成しますが、その性能を最大限に引き出すには、与えるプロンプトの質が非常に重要です。
効果的なプロンプトエンジニアリングのためには、まず目的を明確にし、必要な情報や条件を整理することが求められます。効果的なプロンプトエンジニアリングのためには、まず目的を明確にし、必要な情報や条件を整理することが求められます。単なる質問ではなく、具体的な制約条件や文脈を含めることで、より正確かつ実用的な回答を得ることが可能になります。単なる質問ではなく、具体的な制約条件や文脈を含めることで、より正確かつ実用的な回答を得ることが可能になります。
たとえば、研究論文の要約をAIに依頼する場合、「要約してください」という簡単な指示よりも「この論文の結論部分を300文字以内で要約し、主要なデータを含めてください」といった形の詳細なプロンプトの方が適切な結果を得やすくなります。たとえば、研究論文の要約をAIに依頼する場合、「要約してください」という簡単な指示よりも「この論文の結論部分を300文字以内で要約し、主要なデータを含めてください」といった形の詳細なプロンプトの方が適切な結果を得やすくなります。
また、学生の課題に対するフィードバックを求める場合、単に「この課題を評価してください」とするのではなく、「この学生のエッセイの構成、論理性、文法、そして結論の妥当性に焦点を当てて評価し、改善点を具体的に示してください」と具体的な項目を示すことが重要です。また、学生の課題に対するフィードバックを求める場合、単に「この課題を評価してください」とするのではなく、「この学生のエッセイの構成、論理性、文法、そして結論の妥当性に焦点を当てて評価し、改善点を具体的に示してください」と具体的な項目を示すことが重要です。
さらに、歴史的な出来事について説明を求める場合、「第二次世界大戦について説明してください」では曖昧すぎますが、「第二次世界大戦中の主要な戦いとその戦略的な影響について、500文字以内で簡潔にまとめてください」といった形で焦点を絞ることで、より的確な情報を引き出すことが可能です。さらに、歴史的な出来事について説明を求める場合、「第二次世界大戦について説明してください」では曖昧すぎますが、「第二次世界大戦中の主要な戦いとその戦略的な影響について、500文字以内で簡潔にまとめてください」といった形で焦点を絞ることで、より的確な情報を引き出すことが可能です。
この技術は、教育現場や研究活動、さらには日常的な業務改善においても大きな効果をもたらす基盤的なスキルです。 この技術は、教育現場や研究活動、さらには日常的な業務改善においても大きな効果をもたらす基盤的なスキルです。本書では、基礎から実践までの具体的なプロンプト設計方法を紹介していきます。本書では、基礎から実践までの具体的なプロンプト設計方法を紹介していきます。
2.2 プロンプトエンジニアリングの限界
プロンプトエンジニアリングとは、生成AIからユーザーが適切かつ効果的な応答を得るための重要な技術です。しかし、この技術にはいくつかの制約や限界が伴う点に注意が必要です。
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文脈の理解不足
現行のAIモデルは膨大なデータを学習しているものの、複雑な背景知識や長期的な文脈を完全に理解することは困難です。そのため、プロンプトに意図が十分に伝わらない場合、期待通りの出力が得られないことがあります。たとえば、歴史的背景を踏まえた高度な質問や、多くの要素が絡む問題では、AIが適切な回答を導き出せないケースがあります。また、複数の段階を要する指示の場合、一部の文脈が無視されることもあります。 -
曖昧な指示への弱さ
プロンプトが不明確だったり曖昧な表現を含んでいたりすると、AIは誤解したり不適切な回答を生成する可能性があります。特に、具体的な指示が不足している場合、期待する結果とのギャップが生じます。たとえば、"詳細に説明してください"といった抽象的な指示よりも、具体的な質問や参照情報を明示した方が望ましい出力が得られることが多いです。 -
知識の更新の制限
AIモデルは学習時点のデータに基づいており、新しい情報や出来事についての知識が反映されないことがあります。そのため、最新の情報を必要とするプロンプトには対応できない場合があります。これにより、最新のニュースや科学的発見に関する情報の正確性に欠けることがあり、利用者が追加で調査する必要が生じます。知識ベースを最新状態に保つか、外部データベースとの統合が望まれる場面もあります。 -
バイアスの影響
学習データに基づくAIは、データに含まれる偏見(バイアス)の影響を受けることがあります。プロンプトが偏見を誘発する形になっている場合、出力結果にもその影響が現れることがあります。たとえば、特定の社会的偏見を含むデータで訓練されたAIは、意図しない不適切な内容を出力する可能性があり、利用者がそのリスクを認識し、必要に応じてフィルタリングすることが重要です。 -
複雑なタスクへの限界
一部の複雑なプロンプト、特に多段階の推論や高度な専門知識を必要とするものにおいて、AIは途中で適切な判断を行えない場合があります。特に、科学実験の設計や詳細な法律文書の解釈などでは、専門家による監督が必要となることがあります。 -
計算資源と速度の制限
複雑なプロンプトや大量のデータを扱う際には、処理に時間がかかることがあります。特に、リアルタイムでの応答が求められる状況では、この遅延が業務効率に影響を与えることがあります。
これらの限界を理解し、効果的なプロンプトエンジニアリングを行うためには、AIの特性を正しく把握し、指示内容を明確にすることが重要です。また、必要に応じてプロンプトを修正し、試行錯誤を重ねることも成功への鍵となります。さらに、AIの出力結果に対するレビューや検証を行い、人間の判断と併用することが望まれます。
2.3 推論技術とその応用
第2.2節で説明したプロンプトエンジニアリングの限界に対処するため、推論という新しいアプローチが生まれました。単なる入力文のパターン解析に留まらず、生成AIは文脈から意味を推測し、ユーザーが明示しない情報でも適切な結果を導き出せるよう進化しています。本節では、この推論技術の仕組みと、それが教育現場や研究支援でどのように応用されているかを具体的な例を通じて解説します。
推論とは、AIが与えられた情報や条件から新たな知識や結論を導き出すプロセスを指します。特にChatGPTのような大規模言語モデルにおける推論は、文脈の理解、情報の一貫性、および多段階推論の処理能力が重要なポイントです。
GPT-o1の推論能力の進化
OpenAIが提供するGPT-o1では、以前のバージョンと比較して以下の重要な進化が見られます。
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文脈の継続性の向上: 長文対話や複数ターンにわたる会話で文脈を正確に保持する能力が向上し、従来のように会話が進むにつれて文脈が途切れる問題が大幅に軽減されました。
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論理的一貫性の強化: 複数の条件や矛盾する情報を含む場面でも、矛盾のない整合的な応答が可能になっています。これにより、複雑な問いに対する信頼性の高い応答が得られます。
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多段階推論の処理能力: 複数のステップを要する問題でも、順序立てて情報を処理し、各ステップでの誤りを低減するよう改良されています。中間結果の見落としも抑えられ、複雑な問題に対する対応力が向上しました。
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背景知識の活用の拡大: 広範なデータセットに基づく知識を効果的に応用し、より現実的で具体的な応答が可能になりました。これにより、ユーザーのニーズに合わせたより深い理解が実現しています。
このように、GPT-o1の推論能力は文脈保持、論理的整合性、多段階の問題解決能力において大きな進化を遂げていますが、複雑なタスクや曖昧な情報が絡む場合には、人間の監督やレビューが必要になることも依然としてあります。
GPT-4oとGPT-o1の比較と推論技術の発展
OpenAIが提供するGPT-4oとGPT-4o1は、推論技術の進化を示す具体例として挙げられます。以下は両者の比較表です:
特性 | GPT-4o | GPT-o1 |
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文脈保持 | 長文や複数ターンの会話で部分的に対応可能 | 長時間の文脈保持が強化され、複数のトピックでも一貫性を維持 |
推論の正確性 | 単純な推論には対応するが誤差が多い場合もある | 複数条件の複雑な問題でも正確な結論を導き出す精度が向上 |
多段階推論 | 簡単なステップのみ処理可能 | 複雑なステップを順序立てて処理し、誤りを大幅に軽減 |
背景知識の活用 | 基本的な知識に基づく応答 | 広範なデータからの知識を活用し、より現実的で的確な応答 |
GPT-4o1では、文脈保持と多段階推論の強化により、教育分野での個別学習支援や研究支援におけるデータ分析など、さまざまな応用が期待されます。複雑な質問や多様な条件が絡む場合でも、適切に文脈を理解し、正確な応答が可能になるため、学生や研究者の負担軽減に大きく寄与するでしょう。
2.4 生成AIエージェント
生成AIエージェントは、特定の専門分野に特化した各エージェントが協調して自律的にタスクを遂行するシステムであり、ユーザーの多様な要求に柔軟かつ効率的に応答します。従来の生成AIがユーザー入力のプロンプトに依存していたのに対し、エージェントは文脈や動的な情報を補完することで、応答の質を飛躍的に向上させています。
生成AIエージェントの特徴
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専門知識に基づく応答: 各エージェントが異なる分野の知識を専門的に扱い、個別の知識を動的に統合することで、複雑な要求に適切な応答が可能です。
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自律性と知識統合: エージェントは、文脈や状況の変化に応じてリアルタイムで役割を調整し、より深いレベルでの情報分析を実現します。
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プロンプトエンジニアリングの補完: 手動でプロンプトを細かく調整する必要がなく、AIがユーザーの意図を動的に補完することで、効率的な情報取得が可能です。
応用例
- 個別化された教育: 各エージェントが学生の習熟度に基づいて適切な教材や課題を提示し、効果的な学習計画を提供します。
- 研究支援: データ収集エージェントと分析エージェントが連携し、膨大な情報を統合して研究者に新たな洞察を提供します。
- 医療診断の支援: 診断エージェントが症例データを分析し、治療エージェントが最適な治療計画をリアルタイムで提案します。
生成AIエージェントの進化と課題
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進化:
生成AIエージェントは、単なるデータ生成に留まらず、専門分野における高度な知識を連携させることで、複雑な問題にも正確に対応可能な次世代AIシステムへと進化しています。複数のエージェントが連携することで、特定の状況に応じた動的な応答が可能になり、プロンプトエンジニアリングの限界を超えた効率的な情報処理が実現します。 -
課題:
エージェント間の調整が複雑化することで、情報の同期に遅延が生じたり、通信エラーによる不適切な応答が発生するリスクがあります。また、複数のエージェントが異なる解釈をした場合に整合性を保つ仕組みが求められます。このため、適切なエラーハンドリングや情報共有の最適化が不可欠です。
生成AIエージェントは、教育、研究、医療、産業など多様な分野での応用が期待されており、今後の技術的な進展により、さらに洗練された応答と高度な意思決定支援を提供することが見込まれます。
2.5 生成AIマルチエージェント
生成AIにおけるマルチエージェントシステムとは、複数の生成AIエージェントが協調して情報を統合し、複雑なタスクに対して最適な応答を導き出す手法です。この仕組みを活用することで、単一エージェントが抱える制約を克服し、ユーザーの多様な要求にも柔軟かつ効率的に対応できます。マルチエージェントシステムは、専門分野に特化した各エージェントが連携することで、個別の知識を相互に補完し、応答の質を飛躍的に向上させます。
マルチエージェントシステムの特徴
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協調生成: 各エージェントが異なる知識や役割を担い、情報の交換を通じて高品質な出力を生成します。たとえば、言語エージェントが文章構造を処理し、別のエージェントが文脈や背景情報を補強する形で精度の高い応答が可能です。
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タスクの効率的分担: データの収集、分析、応答の生成を複数のエージェントで分担することで、リアルタイムでの処理速度が向上します。これにより、同時に複数の要求をこなすことができます。
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動的な適応: エージェントは入力情報や環境の変化に応じて役割を調整し、ユーザーの予期しない要求や突然の文脈の変化にも柔軟に対応可能です。
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専門知識の統合: 各エージェントが特定の分野に特化しており、それらを統合することで、複雑な質問に対しても信頼性の高い解答が得られます。
生成AIマルチエージェントの応用事例
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個別最適化された学習支援: 学生の理解度を分析するエージェントが学習の進捗に応じた教材を提示し、別のエージェントが復習や課題の作成を支援します。これにより、学習内容が個別にカスタマイズされ、効果的な教育が実現します。
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多言語の文脈的翻訳: 各言語に特化したエージェントが協力し、単なる翻訳に留まらず、文脈や文化的ニュアンスを考慮した適切な表現への変換を行います。
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クリエイティブコンテンツの共同生成: 一部のエージェントがストーリーの基本プロットを構築し、別のエージェントがキャラクターの描写や情景を補完することで、質の高い創作物の生成が可能になります。
利点と課題
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利点: 専門化されたエージェント間の協調により、応答の質が高まり、複雑で多面的な要求にも対応できます。また、分散処理によってリアルタイム応答や大規模データ処理が効率的に行えます。
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課題: エージェント間の情報共有や調整が複雑化し、通信の遅延や誤解が原因で不正確な出力が発生するリスクがあります。このため、効果的な調整機構やエラーハンドリングが不可欠です。
生成AIのマルチエージェントシステムは、応答の質を飛躍的に向上させるだけでなく、複雑なタスクへの対応能力を強化する重要な技術です。今後のさらなる技術の発展により、教育、研究、医療、産業など、さまざまな分野での幅広い応用が期待されています。
第3章 Microsoft 365 Copilot Chat
3.1 Microsoft 365 Copilot Chat とは
Microsoft 365 Copilot Chatは、Microsoftが提供するAIチャットサービスで、業務効率化や情報収集をサポートする次世代型のアシスタントです。TeamsやOutlookとシームレスに連携し、Microsoft 365内のデータとBing検索による最新情報を統合した応答をリアルタイムで提供します。エンタープライズレベルのセキュリティを備えており、ユーザーデータはAIモデルのトレーニングに利用されることはありません。
Copilot Chatには、Webモードと職場モードの2種類があり、それぞれ異なる利用環境と機能を提供します。Webモードは、Microsoft 365 A3やA5ライセンスを持つ組織が追加の費用なく利用可能ですが、職場モードには別途ライセンスの購入が必要です。詳細は次の節で解説します。
また、Copilot Chatは業務の多様なニーズに応じて柔軟にカスタマイズが可能です。たとえば、教職員が授業資料の作成、研究論文の要約、または事務作業の効率化といった場面で活用できます。エージェント機能を追加導入することで、特定の業務プロセスをさらに効率化し、自動化することも可能です。
3.2 Webモードとは何か
Webモードは、Microsoft 365 Copilot Chatをブラウザ上で利用する形態を指し、インターネット接続さえあれば、どこからでもアクセス可能な利便性を提供します。このモードは、Microsoft 365 A3およびA5ライセンスを持つ組織が追加費用なしで利用でき、ユーザーは専用アプリをインストールする必要がありません。
Webモードでは、Bing検索と連携し、最新のWeb情報をリアルタイムで取得しつつ、Microsoft 365内のデータも統合して応答を生成します。たとえば、授業準備中にWeb上の最新情報や内部文書を即座に取得して組み合わせた形で提示することが可能です。
さらに、Webモードはデバイスに依存しないため、PC、タブレット、スマートフォンといった様々な端末で利用でき、リモートワークや出張中の情報検索、ドキュメント生成などに効果的です。セキュリティ面も強化されており、ユーザーのデータはAIモデルの学習に利用されることはありません。
3.3 職場モードとは何か
職場モードは、Microsoft 365 Copilot Chatの高度な機能を活用できる企業・教育機関向けのモードであり、追加ライセンスの購入が必要です。このモードでは、Webモードよりも広範囲なデータアクセスが可能で、Microsoft 365内のメール、会議ノート、カレンダー、SharePointドキュメントなどの内部情報を総合的に分析して応答を生成します。たとえば、過去の授業計画や会議の議事録を基に、次回のタスクや重要事項を提案することが可能です。
職場モードの特徴は、セキュリティが強化された環境下で、社内の非公開情報を活用しながら、精度の高い意思決定支援を提供することです。また、利用者が特定のプロセスに特化した機能を拡張するために、カスタムAIエージェントを導入することも可能です。ただし、カスタムAIエージェントの具体的な機能や設定方法については、「大学教職員のための生成AIプロンプト作成ガイド(後編)」で詳しく解説します。
このように、職場モードは、組織全体の知識を一元的に管理し、複雑なプロジェクトや業務の効率化を強力にサポートする機能を提供します。特に教職員にとっては、研究資料の収集、授業準備、事務作業の負担軽減に大いに役立つでしょう。
3.4 Webモードと職場モードの違い
Microsoft 365 Copilot Chatは、ユーザーのニーズや利用環境に応じて、Webモードと職場モードの2つの利用方法を提供しています。どちらも情報検索や生成AIによる応答機能を活用できますが、アクセス可能なデータ範囲やライセンス要件、機能において違いがあります。以下では両モードの主な違いについて説明し、比較表を示します。
Webモードの特徴
- Bing検索を活用した最新Web情報に基づく応答が得られ、主に外部情報の利用が中心です。
- Microsoft 365 A3またはA5ライセンスを保有する組織は追加費用なしで利用可能です。
- ブラウザを通じてどこからでもアクセスできるため、リモートワークや外出先での利用に適しています。
職場モードの特徴
- 組織内のメール、会議ノート、SharePoint、Teamsのデータなど、社内の内部情報を総合的に活用します。
- 別途ライセンスの購入が必要であり、セキュリティが強化された環境で利用されます。
- カスタムAIエージェントを活用し、特定の業務プロセスに応じた柔軟な対応が可能です。
Webモードと職場モードの比較表
項目 | Webモード | 職場モード |
---|---|---|
主な利用対象 | Web情報検索、簡単な業務支援 | 組織内部データを活用した高度な業務支援 |
アクセス可能なデータ | Bing検索を通じた外部情報、限定的なMicrosoft 365データ | 組織のメール、会議ノート、SharePoint、Teamsデータなど |
ライセンス要件 | Microsoft 365 A3またはA5ライセンスで利用可能 | 別途ライセンスの購入が必要 |
利用環境 | ブラウザベース、インターネット接続環境下で利用可能 | 企業内ネットワークやセキュアな環境での利用が推奨 |
情報の統合範囲 | 主にWeb情報と基本的なMicrosoft 365データ | 内部データと外部情報の統合による包括的な応答 |
セキュリティレベル | エンタープライズレベルの基本的なデータ保護 | 強化されたセキュリティ環境でのデータ保護 |
カスタムAIエージェント | 利用不可 | 利用可能(後編で詳細を解説) |
Webモードは軽快な情報収集に向いている一方、職場モードは組織内データを活用した意思決定支援や特定業務の最適化に適しています。組織の業務内容やデータ活用の範囲に応じて使い分けることで、より高い効果が期待できます。
3.5 どちらを使うべきかの判断基準
Webモードと職場モードのどちらを選ぶべきかは、組織のニーズ、セキュリティ要件、およびデータ活用の範囲によって異なります。以下の判断基準に基づいて最適なモードを選択することが重要です。
Webモードを選ぶべき場合
- 外出先やリモート環境で柔軟に利用したい場合
- 最新のWeb情報をリアルタイムで活用することが業務の中心である場合
- ライセンス追加なしで基本的な情報取得を行いたい場合
職場モードを選ぶべき場合
- Microsoft 365内の組織データを活用し、プロジェクトや意思決定を支援したい場合
- 研究資料、会議ノート、過去の業務データなどの高度な内部情報が必要な場合
- カスタムAIエージェントを用いて特定の業務プロセスを最適化したい場合
最適な選択に向けたポイント
- 短期的な情報検索にはWebモードが適しており、必要な情報を迅速に取得できます。
- 一方、長期的かつデータ駆動型の業務改善には職場モードが効果的です。
大学教職員の場合、授業準備や資料作成などの日常的な作業にはWebモードが便利ですが、研究データやチームでの情報共有を伴うタスクには職場モードが有利です。組織の目標に応じて、両モードを柔軟に使い分けることが重要です。
3.6 基本操作とインターフェースの理解
Microsoft Copilot Chat(Webモード)を効果的に活用するためには、基本的な操作方法とインターフェースの構成を正しく理解することが重要です。この節では、初めて利用する方でもスムーズに使い始められるよう、基本的なステップを紹介します。
1. チャットの開始とログイン方法
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Microsoftアカウントの準備
- Copilot Chat(Webモード)を利用するには、Microsoftアカウントが必要です。大学や個人のMicrosoftアカウントを用意し、正しくログインしてください。
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Webブラウザからのアクセス
- ブラウザを開き、Copilot Chatにアクセスします。専用のインストールは不要で、インターネットに接続されていればすぐに利用可能です。
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チャット画面の表示
- ログイン後、チャットインターフェースが表示されます。画面上には入力ボックスと履歴が表示され、ここからプロンプトの入力が行えます。
2. インターフェースの主な構成
Copilot Chatのインターフェースは、シンプルで直感的に操作できるよう設計されています。主要な要素は以下の通りです。
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❶ モードの切り替え
チャット画面の上部にあるトグルスイッチで **[職場モード]と[Webモード]**の切り替えを行うことができます。
※ Microsoft 365 A3, A5 ライセンスのみの契約しているテナントでは、このトグルスイッチは表示されません。 -
❷ [新しいチャット]
入力する話題を変える場合には、**[新しいチャット]**ボタンを押します。 -
❸ 入力ボックス
チャット画面下部にある入力フィールドでプロンプトを入力します。ここに質問や指示を記述し、送信ボタンを押すと、AIが応答を返します。 -
❹ 応答表示エリア
AIの応答は画面中央に表示されます。応答が長い場合はスクロールして確認できます。また、複数の回答オプションが提示される場合もあります。
3. プロンプトの設計と基本操作
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シンプルなプロンプトの入力
- 簡単な質問から始めてみましょう。たとえば、「SDGsの概要を教えてください」と入力すると、AIが分かりやすく解説してくれます。
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追加条件の指定
- より具体的な回答を求めたい場合は、条件を付け加えると効果的です。たとえば、「SDGsの目標の中から環境に関するものを3つ挙げてください」とすることで、必要な情報を絞り込めます。
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応答のフィードバックと再調整
- AIからの応答が期待通りでない場合は、「もう少し具体的に」「異なる視点で説明して」などの追加のプロンプトを入力して、応答を再調整します。
4. 応答結果の確認と活用
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AIの応答を確認する
- 得られた応答を確認し、必要に応じて内容を修正したり、追加情報を求めたりします。
- 情報のコピーや保存
- 追加の質問
5. 操作時に気をつけるポイント
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信頼性の確認:
Webモードではインターネット上の情報に基づいて応答するため、情報の正確性や信頼性は利用者が判断する必要があります。 -
具体的なプロンプトを心がける:
抽象的な質問よりも、条件やキーワードを明確にすることで、的確な情報を得られます。 -
時間をかけた応答の調整:
複雑な質問には再質問やプロンプトの調整が必要な場合がありますので、最初から完璧な回答を期待せず、少しずつ調整していきましょう。
これらの基本操作とインターフェースに慣れることで、Microsoft Copilot Chat(Webモード)の機能を最大限に活用することが可能になります。次の章では、なぜ日本人においてプロンプトの書き方が課題となりがちなのかを掘り下げて解説します。
第4章 なぜ日本人はプロンプトの作成が苦手なのか
4.1 日本語の特性が引き起こす曖昧さと誤解
4.1.1 主語の省略
日本語では主語を省略することが一般的であり、日常会話では問題になりませんが、AIにとっては省略された主語を正確に推測するのが困難です。
生成AIが誤解しやすいプロンプト例:
「パンを食べました。」
→ 誰が食べたのかが明確でないため、AIが誤解する可能性があります。
生成AIが理解しやすいプロンプト例:
「私は今朝、パンを食べました。」
→ 主語と目的語が明確なため、AIが正確に内容を理解できます。
改善ポイント:
- 主語や対象を省略せず、具体的に記述することでAIの誤解を防ぎます。
4.1.2 曖昧な表現の多さ
日本語には「それ」「あれ」「これ」といった代名詞が多用され、AIがどの対象を指すのかを判断できないことがあります。
生成AIが誤解しやすいプロンプト例:
「それについて詳しく教えてください。」
→ 「それ」が何を指すのかが不明確なため、AIが正しい応答を生成できない可能性があります。
生成AIが理解しやすいプロンプト例:
「第二次世界大戦のヨーロッパ戦線について詳しく教えてください。」
→ 対象が具体的に示されているため、AIが適切に応答できます。
改善ポイント
- 代名詞の使用を避け、具体的な名詞を使うことで対象を明確にします。
4.1.3 敬語や婉曲表現の影響
日本語には「〜してくださいませんか」「〜いただけると助かります」などの婉曲表現があり、AIにとって依頼の意図が不明確になることがあります。
生成AIが誤解しやすいプロンプト例:
「こちらのレポートを見ていただけますか?」
→ 具体的に何を求めているのかが曖昧です。
生成AIが理解しやすいプロンプト例:
「このレポートの第3章を要約して、300文字以内で示してください。」
→ 依頼内容が具体的かつ明確であり、AIが正確に応答できます。
改善ポイント
- 敬語を必要以上に多用せず、具体的で直接的な表現を用います。
4.1.4 文脈依存の高い言語構造
日本語の多くの表現は、前後の文脈によって意味が決まりますが、AIはその文脈を完全に理解するのが難しい場合があります。
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生成AIが誤解しやすいプロンプト例:
「昨日の件について教えてください。」
→ 「昨日の件」が具体的に何を指すのかが不明であり、AIの解釈が分かれる可能性があります。
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生成AIが理解しやすいプロンプト例:
「昨日の会議で話した新規プロジェクトの進捗について教えてください。」
→ 文脈情報が具体的に示されているため、AIが適切に応答できます。
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改善ポイント: 文脈情報をプロンプト内で明確に示し、AIが正確に理解できるようにします。
4.1.5 意味の広い単語の多用
日本語には「見る」「する」「やる」など、意味が広く文脈によって解釈が異なる単語が多く、AIが正確に意味を推測するのが困難です。
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誤解しやすいプロンプト例:
「このデータを見てください。」
→ 「見る」が「確認する」「分析する」「検討する」のいずれを意味するのか不明です。
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理解しやすいプロンプト例:
「このデータの中から、収益に関する統計情報を分析し、レポートを作成してください。」
→ 具体的な行動を指定しているため、AIが正確に応答できます。
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改善ポイント: 意味が広い単語を避け、具体的な動詞を使用して行動内容を明確にします。
4.1.6 比喩表現や暗黙の了解
「腹が立つ」「頭が痛い問題だ」などの比喩表現や、文化的な暗黙の了解に基づく表現は、AIにとって解釈が難しいことがあります。
誤解しやすいプロンプト例:
「この案件は頭が痛いです。」
→ 比喩表現をAIが正確に解釈できず、的外れな応答が返る可能性があります。
理解しやすいプロンプト例:
「このプロジェクトは、予算オーバーの懸念があり、修正すべき部分を分析してください。」
→ 比喩を使わず、具体的な課題を示すことでAIが適切に応答します。
改善ポイント: 比喩表現を避け、課題や依頼内容を具体的に示すことが効果的です。
第4.1節のまとめ
日本語の特性である主語の省略、曖昧な表現、婉曲表現、文脈依存などが、生成AIにとって誤解を引き起こす原因となります。しかし、具体的な主語の明示、曖昧な表現の排除、直接的な依頼文の使用などを実践すれば、AIによる応答の精度は大きく向上します。特に、大学教職員が授業資料や研究資料の作成に生成AIを活用する際には、こうした工夫によってより効果的な結果が期待できます。
4.2 文法の違いがプロンプト作成に与える影響
日本語と英語の文法構造には大きな違いがあり、その1つが SVO(主語-動詞-目的語) 構造と SOV(主語-目的語-動詞) 構造の違いです。この違いが生成AIにとってプロンプトの理解を難しくすることがあります。
SVO構造とSOV構造の違い
英語の基本文法はSVO構造であり、「I eat an apple.(私はリンゴを食べる)」のように、動詞が主語と目的語の間に位置します。一方、日本語はSOV構造であり、「私はリンゴを食べる。」のように動詞が文末に置かれます。この違いによって、AIが意味を正確に把握するまでの文脈依存度が変わるのです。
生成AIの理解における問題点
1. 遅延する情報の解釈
SOV構造では、動詞が文末に位置するため、AIは文が終わるまで意味を確定できません。たとえば、「私は昨日、図書館で本を借りる」という文では、最も重要な動詞「借りる」が最後に出てくるため、AIが文全体の意味を正確に把握するのが遅れ、誤解を招く可能性があります。
-
生成AIが誤解しやすいプロンプト例:
「私は昨日、図書館で本を借りるつもりでした。」
→ 動詞が最後に出るため、途中での部分的な意味の解釈が困難です。
-
生成AIが理解しやすいプロンプト例:
「私は昨日、図書館で借りた本について教えてください。」
→ 重要な動詞の情報が前もって示されているため、AIが早期に文の意図を理解できます。
2. 句構造の混乱
日本語の文法では、補足情報が動詞の前に頻繁に追加されるため、AIが途中の情報をどう関連付けるべきか混乱することがあります。たとえば、**「この研究に関する追加データを分析し、報告書を提出する」**という指示文では、長い修飾語句が動詞の前に入るため、AIが指示の焦点を正確に捉えにくい場合があります。
-
生成AIが誤解しやすいプロンプト例:
「昨日収集したデータに基づき、分析した結果を報告してください。」
→ 修飾語が多いと、どの情報が最も重要かがAIにとって曖昧になります。
-
生成AIが理解しやすいプロンプト例:
「昨日のデータを分析し、その結果を300文字以内で報告してください。」
→ 修飾語を簡潔にし、動詞と目的語の関係を明確化しています。
3. 重要情報の位置のずれ
英語のSVO構造では、動詞や目的語が早期に登場するため、AIは意味を段階的に理解しやすいです。一方、日本語のSOV構造では、文の最後に重要な情報が集中するため、AIが文末まで待たなければならず、その途中で誤解が生じる可能性があります。
生成AIが誤解しやすいプロンプト例:
「この結果を基に次のステップを検討し、最適な方針を示してください。」
→ 文末まで読まないと最終的な指示が判明せず、AIが部分的に誤解する可能性があります。
生成AIが理解しやすいプロンプト例:
「最適な方針を示すために、この結果を検討してください。」
→ 重要な指示を文頭に配置し、誤解のリスクを軽減しています。
改善ポイント
- 主語、動詞、目的語の順序を意識し、できるだけ早い段階でAIに重要な情報を与えるようにします。
- 長い修飾語句や文脈依存の表現を避け、簡潔で直接的な指示文にすることが効果的です。
- 必要に応じて英語のようなSVO構造に近づける形でプロンプトを設計することで、AIの理解が容易になります。
第4.2節のまとめ
日本語のSOV構造は、生成AIがプロンプトを解釈する際に誤解を招く要因となります。しかし、主語と動詞、目的語の関係を意識して重要な情報を早めに提示する工夫を行えば、AIによる誤解のリスクを減らし、期待する応答が得られる確率を大幅に高めることができます。大学教職員が研究支援や授業資料作成に生成AIを活用する際にも、このような工夫が効果的です。
4.3 文化的背景と思考様式の違い
日本人が生成AIに適切なプロンプトを作成する際に課題となる背景には、文化的な要素や思考様式の違いが影響しています。本節では、ハイコンテクスト文化とローコンテクスト文化、および集団主義と個人主義という2つの観点から、その原因と解決策について説明します。
4.3.1 ハイコンテクスト文化とローコンテクスト文化の違い
ハイコンテクスト文化とは、コミュニケーションが言語だけでなく、文脈や暗黙の理解に強く依存する文化を指します。日本はその典型的な例であり、多くの情報が言葉以外の部分(相手の表情、背景、過去の関係)に埋め込まれています。一方で、英語圏の国々はローコンテクスト文化とされ、言語そのものが情報伝達の主要手段となります。
この違いにより、日本人が生成AIにプロンプトを作成する際、前提を省略した曖昧な表現を使いがちです。たとえば、「この問題についてどう思いますか?」といった質問は、日本人同士であれば文脈から具体的な意味が理解されますが、AIにとっては曖昧で具体性に欠けるため適切な応答を得にくくなります。
生成AIが誤解しやすいプロンプト例:
「資料について確認してください。」
→ 何の資料をどのように確認するかが不明確であり、AIが意図を誤解する可能性があります。
生成AIが理解しやすいプロンプト例:
「この会議資料の第3ページにある数値データを確認し、グラフ化してください。」
→ 具体的な対象とアクションが示されており、AIが意図を正確に理解できます。
改善ポイント
- AIに対してプロンプトを作成する際は、前提となる情報を明確に記述し、暗黙の了解に依存しないようにすることが重要です。
4.3.2 集団主義と個人主義の影響
日本は集団主義の文化が強く、個人よりも集団や組織の調和を重視する傾向があります。そのため、プロンプト作成時にも個人の意見や具体的な要求がぼやけてしまい、生成AIに正確な指示を与えにくくなることがあります。たとえば、明確な指示を避け、「みんなの意見を尊重してまとめてください」といった依頼は、AIにとって何をすべきか曖昧なままです。
一方、個人主義の文化では、具体的な行動や結果を重視し、個人が明確に責任を負うため、プロンプトも具体性に富んでいます。
生成AIが誤解しやすいプロンプト例:
「この研究について何か良いアイデアを出してください。」
→ AIにとって曖昧で漠然としており、適切なアイデアを出すのが難しいです。
生成AIが理解しやすいプロンプト例:
「この研究のデータ分析方法について、統計的手法を用いた新しいアプローチを提案してください。」
→ 明確な対象と期待される結果が示されているため、AIが的確に応答できます。
改善ポイント
- プロンプト作成時には、具体的な目的とその背景を示し、個人の意見や要求をはっきりと伝えるように心がけます。
まとめ
日本特有のハイコンテクスト文化や集団主義が原因で、生成AIが誤解しやすい曖昧なプロンプトが生じることがあります。しかし、ローコンテクスト文化の特徴を参考にし、明確な指示、具体的な対象、期待される結果を示すことで、AIによる応答の精度を高めることが可能です。大学教職員が授業資料の作成や研究支援に生成AIを活用する際にも、こうした文化的な背景を意識することで、より効果的な活用が期待されます。
第5章 従来のプロンプトエンジニアリングとは
5.1 プロンプトエンジニアリングの基本概念
プロンプトエンジニアリングとは、生成AIが適切な応答を生成できるように、効果的な指示文(プロンプト)を設計する技術です。AIモデルは膨大なデータを学習しているため、プロンプトの内容や構造次第で出力結果が大きく変わります。
そのため、プロンプト作成では次の3つが重要となります。
- 具体性: 曖昧な表現を避け、主語・動詞・目的語を明確にします。
- 文脈の提供: 必要な背景情報をプロンプト内に含め、AIが正確な理解を持てるようにします。
- 期待する出力形式の指定: 出力の形式や条件(例:文字数制限、要点の優先順位)を具体的に示します。
プロンプトエンジニアリングの重要性
適切なプロンプトを設計することで、AIが高い精度で情報を抽出したり、複雑な推論を行ったりすることが可能になります。たとえば、シンプルな「要約してください」ではなく、「この論文の結論部分を300文字以内で、重要な統計データを含めて要約してください」と詳細に指示することで、より精度の高い出力が得られます。
良いプロンプトの構成要素
- 目的: AIに何をしてほしいのかを明確にする。
- コンテキスト: 文脈や背景情報を提供する。
- 具体的な指示: 出力形式や期待する結果を詳細に示す。
プロンプトエンジニアリングは、AIが膨大な情報から正しい結果を導き出すための土台であり、大学の研究支援、授業資料作成、事務作業効率化など、幅広い応用において効果的なスキルとされています。
5.2 良いプロンプトと悪いプロンプトの違い
プロンプトの質は、生成AIが提供する応答の正確さと有用性を左右します。良いプロンプトは、明確で具体的な情報を提供し、AIに適切な文脈と期待される出力形式を伝えるものです。一方、悪いプロンプトは、曖昧さや情報不足があり、AIが誤解しやすくなります。
良いプロンプトの特徴
-
目的が明確: AIに何をしてほしいかが具体的に示されています。
この研究論文の第3章を300文字以内で要約し、主要な統計結果を含めてください。」
-
十分な文脈提供: 関連する情報が示され、AIが適切に背景を理解できます。
「2018年のデータに基づく収益推移をもとに、重要なトレンドを特定し、分析してください。」
-
出力形式の指定: 箇条書きや表形式など、出力スタイルを指定することで期待する結果が得られやすくなります。
「このデータセットから、次の形式で結果を示してください。
- ポイント1
- ポイント2」
悪いプロンプトの特徴
-
目的が不明確: 何を求めているかがぼんやりしており、AIが適切に対応できません。
「要約してください。」(何を、どの部分を要約すべきか不明)
-
文脈不足: 必要な情報が不足しているため、AIが誤解を起こしやすいです。
「このデータを分析してください。」(どのデータか、具体的な分析内容が不明)
-
出力形式の不明確: 出力の期待が示されていないと、AIが適切な形式を選べず、使いにくい結果が生成されます。
「結果を教えてください。」(箇条書きか文章形式かが曖昧)
良いプロンプトと悪いプロンプトの比較表
要素 | 良いプロンプト | 悪いプロンプト |
---|---|---|
目的の明確さ | 「このデータを用いて、今月の売上を分析しトレンドを示してください。」 | 「売上について何か教えてください。」 |
文脈の提供 | 「この資料の第2章に焦点を当て、要点を抽出してください。」 | 「資料を要約してください。」 |
出力形式の指定 | 「箇条書きで5つの要点を示してください。」 | 「重要な点を教えてください。」 |
第4章の参照
第4章では、特に日本語の曖昧さや文化的背景がプロンプト作成にどのような課題をもたらすかについて詳しく解説しています。AIが誤解しやすい曖昧な表現を回避するためには、そこで提示した改善ポイントを踏まえたプロンプト設計が重要です。
第5.2節のまとめ
良いプロンプトを作成するためには、目的、文脈、出力形式を明確に設定することが不可欠です。大学教職員が授業や研究にAIを活用する場合、適切なプロンプト設計により、質の高い情報やアイデアを効率的に引き出すことが可能となります。
5.3 大規模言語モデルとのやり取りの仕組み
大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)との効果的なやり取りには、AIの内部処理や応答生成の基本原理を理解することが重要です。LLMは膨大なデータをもとに、与えられたプロンプトに対して最も適切な応答を生成しますが、そのプロセスには以下のようなステップがあります。
1. プロンプトの入力
AIはユーザーから与えられたテキスト(プロンプト)を入力データとして受け取り、その内容を解析します。プロンプトの具体性と文脈の提供が、適切な応答を得る上で重要なポイントです。
例:
- 悪いプロンプト: 「この資料をまとめてください。」
- 良いプロンプト: 「この論文の結論部分を300文字以内で要約し、主要な統計データを含めてください。」
2. 文脈と関連情報の処理
AIは、プロンプト内に含まれる単語やフレーズの意味を解釈し、関連する文脈を抽出します。文脈理解は、AIが入力に対して一貫した応答を生成するための重要なステップです。
たとえば、複雑なプロンプトでは、AIが文脈を段階的に推測し、各ステップで意味が重層化されます。
チェイン・オブ・ソート(Chain-of-Thought):
複雑な推論が必要な場合、AIは段階的に解釈し、各ステップごとに情報を積み上げていきます。この手法によって、推論型の質問でも精度の高い結果が得られます。
3. 応答の予測と生成
AIは、次に予測される最適な単語やフレーズを段階的に生成します。生成の基盤となるのは、事前学習によって得られた膨大なデータから得られる確率的な単語の関連性です。応答の予測には以下の技術が関わります:
- 自己回帰型モデル: 直前の単語やフレーズをもとに次の単語を予測し、応答を逐次生成します。
- 注意機構(Attention Mechanism): プロンプト内の重要な情報に焦点を当て、特に関連する部分を優先的に処理することで、適切な応答を導きます(詳細は、第6.3.2項で説明)。
4. 応答の検証と最適化
生成された応答は、内部的に検証され、指定された条件(たとえば文字数制限やフォーマットの要求)に合致しているかがチェックされます。また、Self-ConsistencyやReActのような技術を活用し、複数の生成結果から最も整合性のある応答が選択される場合もあります。
生成AIとユーザーの相互作用のポイント
- 明確なプロンプト設計: 曖昧な指示を避け、期待する出力形式を明確にすることで、応答の精度が向上します。
- 段階的なプロンプト: 複雑な問題では、複数のステップに分割してAIに順序立てて回答させることで、効果的な結果が得られます。
- 応答のレビューと修正: 必要に応じて出力結果を人間がレビューし、再プロンプトを行うことも重要です。
第5.3節のまとめ
大規模言語モデルとのやり取りは、適切なプロンプト設計とAIの内部構造に対する基本的な理解に依存しています。大学教職員が研究や授業資料の作成でAIを活用する際も、文脈やフォーマットを意識したプロンプト設計を行えば、より信頼性の高い応答が得られるでしょう。
5.4 従来型プロンプトエンジニアリングの限界と今後の展望
従来型プロンプトエンジニアリングには、文脈の理解不足や最新情報への対応の制限といった課題があります(詳細は2.2節参照)。こうした限界を克服するために、さまざまな新しい技術が開発されています。本節ではその概要と教育現場への影響について説明します。
1. 従来型の課題の再認識
従来型のプロンプトエンジニアリングは、明確で具体的なプロンプトを設計することでAIの性能を引き出す手法ですが、以下のような課題を抱えています。
- AIが複雑な文脈や長期的な指示を十分に解釈できない。
- ユーザーが何度も試行錯誤を重ねる必要があり、効率が低下する。
- リアルタイムで最新情報に対応できないため、動的なタスクへの対応が難しい。
これらの課題を解決するためには、AIの推論力や情報取得の方法を進化させることが重要です。
2. 今後の展望:新しい技術とその可能性
(1) 自動プロンプト生成と強化
従来はユーザーがプロンプトを細かく設計していましたが、**自動プロンプト生成技術(Automatic Prompt Engineer)**の発展により、AIがユーザーの意図を自ら解釈し、最適なプロンプトを補完・改良することが期待されます。これにより、特にプロンプト設計が苦手なユーザーでも、より正確で効率的な応答が得られます。
(2) コンテキスト維持と多段階推論
新しい生成AIモデルは、**チェイン・オブ・ソート(Chain-of-Thought)や自己整合性(Self-Consistency)**などの技術を取り入れることで、複雑な文脈や長期的な推論を段階的に解釈できます。これにより、単一のプロンプトに頼らず、AIが複数のステップに分けて最適解を導くプロセスが可能になります。
(3) 外部データの動的統合
従来のプロンプトではAIの知識の範囲内に限られていましたが、外部データベースやAPIと統合するRetrieval-Augmented Generation(RAG)技術により、常に最新情報を取り込みながらリアルタイムで正確な情報を提供するAIシステムが実現されつつあります。
※ これらの技術の詳細な応用例は、「大学教職員のための生成AIプロンプト作成ガイド(後編)」で紹介します。
3. マルチエージェントシステムとの統合
今後は、複数のAIエージェントがそれぞれの専門分野でタスクを分担し、連携して応答を生成するマルチエージェントシステムが重要な役割を果たします。この仕組みは、単一エージェントが抱えていた制約を克服し、複雑な要求にも柔軟に対応することができます。
※ マルチエージェントシステムの具体的な導入事例についても、後編で詳しく説明します。
4. 教育現場への影響
こうした技術の進化により、教育現場における生成AIの活用範囲は大幅に広がります。たとえば、以下のような応用が期待されます。
- 個別最適化された授業支援: 各学生の理解度に応じてカスタマイズされた教材の提供。
- 研究支援: 大量のデータを動的に収集し、分析することで研究者に新たな視点を提供。
- 事務効率化: 煩雑な文書作成や報告書作成を自動化し、教職員の負担を軽減。
第5.4節のまとめ
従来型のプロンプトエンジニアリングの限界は、新技術やシステムの導入によって克服されつつあります。大学教職員がこれらの新しい技術を活用することで、効率的かつ正確な情報取得が可能になり、教育や研究の現場で生産性の向上が期待されます。
第6章 従来のプロンプト作成の基本ステップ
6.1 目的の明確化と要件定義
プロンプト作成において最も重要な第一歩は、目的を明確にすることと、それに基づいた要件定義です。このステップを怠ると、生成AIが曖昧な解釈を行い、期待とは異なる応答が返されるリスクが高まります。
目的の明確化
プロンプトを作成する前に、以下の点を具体的に検討します:
-
解決したい課題は何か?
例:研究論文の要約、試験問題の生成、データ分析結果の報告など。 -
期待する出力の形は何か?
例:箇条書き、簡潔な要約、数値データを含む具体的な提案など。
例:
目的が「研究論文の要約」である場合、単に「要約してください」では不十分です。何を要約し、どの程度の長さで、どの情報を重視すべきかを決めておく必要があります。
要件定義
目的が明確になった後、それを満たすための具体的な条件を設定します。要件定義では次の要素に焦点を当てます:
1. 情報の範囲と制限
- どの情報を参照すべきか?
- 関連データや制約条件はあるか?
例: 「論文の結論部分を300文字以内で要約し、主要な統計結果を含めてください。」
2. フォーマットとスタイル
- 出力形式は文書形式か、箇条書きか、数値リストか?
- 専門用語の使用、簡潔さ、または具体的な説明をどの程度求めるか?
例: 「簡潔な文章で、学生向けに理解しやすい説明にしてください。」
3. 出力の具体性と例
プロンプトには期待する出力例を含めることで、AIが望む出力スタイルをより正確に理解できます。
例:
次のような形式で出力してください:
- ポイント1:〇〇
- ポイント2:△△
プロンプトの改善ポイント
- 抽象的な指示を避ける: 「この資料をまとめてください」よりも、「この資料の第2章を400文字以内で要約し、主要な理論と結果を強調してください」と具体的に記述する。
- 条件や制限を適切に設定する: 必要以上の情報が出力されるのを防ぎ、無関係な情報を排除するための要件を細かく示す。
まとめ
目的の明確化と要件定義は、生成AIを最大限に活用するための基盤です。大学教職員が授業資料作成や研究支援にAIを利用する際には、これらのステップを確実に行うことで、必要な情報を効率よく引き出せるようになります。
6.2 プロンプト構造の基本要素(役割、文脈、要望など)
効果的なプロンプトを作成するためには、以下の基本要素を正確に構築することが重要です。それぞれの要素が適切に組み合わさることで、生成AIが意図した応答を返しやすくなります。
1. 役割の設定(Role)
AIがどのような立場で応答すべきかを明確にします。特定の知識分野の専門家、教師、学生などの役割を指定することで、回答のスタイルや深さをコントロールできます。
例:
「あなたは大学の数学教授です。学生に線形代数の基礎を説明してください。」
効果:
- AIが回答のトーンや情報の詳細レベルを調整するため、適切な専門性を持った応答が得られます。
2. 文脈の提供(Context)
プロンプトに関連する背景情報を具体的に提示します。AIが文脈を理解しやすいようにすることで、曖昧さを排除し、一貫性のある応答が得られます。
例:
「この論文は2020年の新型コロナウイルスによる経済的影響について述べています。第3章をもとに、結論を300文字以内で要約してください。」
効果:
- 必要な情報を含むプロンプトにより、AIが重要な要素を見逃さず、適切な出力が得られます。
3. 要望の具体化(Instruction/Request)
プロンプトには、AIに求める具体的なタスクを明示します。単なる「説明してください」ではなく、何をどのように説明するかを具体的に指示することが重要です。
例:
「このデータセットを分析し、売上が前年比で増加した月を箇条書きで示してください。」
効果:
指示が具体的であればあるほど、AIは余計な解釈をせずに正確な出力を提供します。
4. 出力形式の指定(Output Format)
AIにどの形式で応答すべきかを明確に指示します。リスト形式、段落形式、表形式など、出力方法を指定することで結果がより使いやすくなります。
例:
次の形式で出力してください:
- ポイント1
- ポイント2
効果:
- ユーザーが期待する形式で応答が得られ、情報の利用効率が向上します。
5. 制約条件の設定(Constraints)
応答の範囲や長さ、フォーマット、特定のデータのみを含むなど、制約条件を設けることで、より精度の高い応答が得られます。
例:
「300文字以内で説明してください。専門用語は最小限に抑え、大学1年生でも理解できるレベルにしてください。」
効果:
- AIが過度に冗長な出力を行わず、ユーザーが求める要件を満たした応答が得られます。
6. 応答例の提示(Examples)
期待する応答例をプロンプトに含めることで、AIがより具体的な出力イメージを持つようになります。
例:
「以下の形式に従って回答してください:
例: 2020年の売上は前年比で10%増加しました。要因はAとBです。」
効果:
- AIが具体的な出力スタイルを理解しやすくなり、期待に沿った応答が得られます。
第6.2節のまとめ
プロンプト構造の基本要素は、役割、文脈、要望、出力形式、制約条件などが密接に関わっています。これらの要素を適切に設定することで、生成AIがユーザーの意図を正確に理解し、質の高い応答を得ることが可能になります。大学教職員が研究や授業で生成AIを活用する際には、これらの要素を意識したプロンプト設計が鍵となります。
6.3 プロンプト技術
効果的なプロンプト作成には、生成AIが正確で一貫性のある応答を提供できるよう、多様な技術が存在します。本節では、基本的な入門技術から応用技術、最新技術までを段階的に紹介し、大学教職員がさまざまな業務で活用できるよう説明します。
6.3 プロンプト技術
プロンプト技術には、生成AIを最大限活用するためのさまざまな手法が存在します。この章では、ゼロショットやフューショットの基本技術から、複雑な推論を必要とする応用技術、そして最新のプロンプト設計まで、大学教職員が活用できる具体的な手法を解説します。
6.3.1 入門技術
入門技術は、生成AIを初めて使う場合に最適です。簡単な質問やタスクにおいて効果的であり、AIが与えられた情報をそのまま使って応答を生成します。
■ Zero-shot Prompting
技術的な説明:
ゼロショットプロンプティングは、具体的な例を事前に与えず、プロンプト(指示文)だけでAIに応答させる手法です。これはシンプルな質問やタスクに適していますが、曖昧なプロンプトでは望ましい結果が得られにくいため、指示をできるだけ明確にすることが重要です。
大学教職員向けプロンプト例:
「この研究論文の結論部分を200文字以内で要約してください。」
「次の英文を日本語に翻訳してください:‘The impact of AI on education is significant.’」
■ Few-shot Prompting
技術的な説明:
フューショットプロンプティングは、AIが出力形式や内容の期待値を正確に理解するよう、いくつかの例を示してから応答を生成させる手法です。例示があることで、AIが指示内容を適切に解釈し、正確な応答が得られやすくなります。
大学教職員向けプロンプト例:
『AIの応用分野は広い。』要約:『AIは多分野で活用されている。』
『機械学習の進化により、新しい発見が可能となった。』要約:『機械学習は新しい発見を促す。』
次の文も同じように要約してください:『自然言語処理は情報の自動解析に革新をもたらしている。』」
6.3.2 応用技術
応用技術は、より複雑なタスクに対応し、論理的推論や複数ステップにわたる問題を解決する場合に用います。研究論文の分析や授業資料の作成などに高い効果があります。
■ Chain-of-Thought Prompting
技術的な説明:
チェイン・オブ・ソートプロンプティングは、複雑な問題を複数のステップに分解し、段階的に結論へ導く手法です。長いプロセスが必要な推論や、複数の要因が絡む課題に効果的です。
大学教職員向けプロンプト例:
「学生の試験成績データから、①平均点を算出し、②低い点数を取った原因を分析し、③今後の改善策を提示してください。」
■ Meta Prompting
技術的な説明:
メタプロンプティングは、AIが自らプロンプトを改良し、複数回の反復によって最適な応答を生成する手法です。生成された出力が不適切な場合にプロンプトを動的に修正することで、精度を向上させます。
大学教職員向けプロンプト例:
「学生のレポートを100文字以内で要約してください。不十分な場合はプロンプトを改良し、再度要約を試みてください。」
■ Self-Consistency
技術的な説明:
セルフコンシステンシーは、複数回の応答を生成し、それらの中から最も一貫性のある応答を選ぶ手法です。一貫した結果を得るために、異なるアプローチから導かれた応答を比較します。
大学教職員向けプロンプト例:
「次の文献を要約し、3回異なる方法で応答を生成してください。その中から最も整合性のある要約を提示してください。」
■ Generate Knowledge Prompting
技術的な説明:
AIが既存の知識に基づき新しい情報や推論を生成する手法です。未知の情報や、将来の予測などを含む質問に対応する際に有効です。
大学教職員向けプロンプト例:
「AI技術が今後10年間で大学の授業方法に与える影響について予測し、3つの主要な変化を説明してください。」
■ Tree of Thoughts
技術的な説明:
複数の思考パターンを展開し、分岐的に最も良い解を選び出す手法です。選択肢の中から最適な解決策を見つける場面で使用されます。
大学教職員向けプロンプト例:
「次の3つの教育戦略の中から、コスト効果と学生の成果に基づき最適なものを選び、その理由を述べてください。」
■ Retrieval-Augmented Generation (RAG)
技術的な説明:
外部データベースやAPIから最新情報を取得し、動的に情報を応答に反映する技術です。最新の研究動向や時事的な情報に基づいた回答が得られます。
大学教職員向けプロンプト例:
「最新の学術論文を検索し、2023年に発表された生成AIに関する主要な技術的進展を3つまとめてください。」
6.3.3 最新技術
最新技術は、外部ツールの活用、動的な推論、複数モーダル情報の統合など、生成AIの限界を超える高度な方法を提供します。
■ Automatic Reasoning and Tool-use
技術的な説明:
AIが計算機能や外部ツールを活用し、複雑な分析や数値計算をリアルタイムで行う技術です。
大学教職員向けプロンプト例:
「次の学生データをもとに平均点と偏差値を計算し、成績の分布を表形式で示してください。」
※ ChatGPTや Copilot Chat の Advanced Data Analytics 機能がこれに該当します。
■ Automatic Prompt Engineer
技術的な説明:
Automatic Prompt Engineerは、AIが自律的に最適なプロンプトを生成し、応答を改良するプロセスです。ユーザーが初期プロンプトを与えると、AIがその結果を評価しながらプロンプトを動的に修正し、望ましい出力を得られるまで反復的に最適化します。この技術は、特に複雑なタスクや多様な条件が必要な場合に効果を発揮します。
大学教職員向けプロンプト例:
「次の課題に対するフィードバックを生成してください。不十分な場合は、プロンプトを自動的に改良し、より具体的なフィードバックを示してください。」
「学生レポートの評価基準を動的に改善し、適切な指標を用いた評価結果を生成してください。」
■ Active-Prompt
技術的な説明:
Active-Promptは、AIが自律的に不足している情報や曖昧な要素を検出し、適切な質問を生成して補完する手法です。これにより、AIはユーザーから明確な追加情報を取得しながら、精度の高い応答を提供できます。この技術は、特に情報が断片的である場合や、複雑なタスクにおいて重要です。
大学教職員向けプロンプト例:
「このレポートのフィードバックを生成してください。不足している情報がある場合、適切な質問を提示してからフィードバックを出力してください。」
「次のデータを分析し、結果を示してください。データに不明確な部分がある場合、その内容を補足するための質問を提示してください。」
■ Directional Stimulus Prompting
技術的な説明:
Directional Stimulus Promptingは、AIが特定の方向性や思考パターンに従って応答を生成するよう調整する手法です。与えられた条件や制約の中で、AIの推論の範囲を絞り、期待される結果に焦点を合わせます。この技術は、特定の要件や目標に沿った応答が必要なタスクにおいて非常に有効です。
大学教職員向けプロンプト例:
「このエッセイの内容を評価し、論理の一貫性に特に焦点を当てて改善点を示してください。」
「次の授業計画を分析し、学生の主体的な学びを促す観点からアドバイスを提供してください。」
■ Program-Aided Language Model (PALM)
技術的な説明:
Program-Aided Language Model (PALM)は、AIがプログラムやスクリプトを実行し、その結果を応答に反映する手法です。AIが指示された計算やデータ処理を自動的に行い、数値や構造化データの生成をサポートします。これにより、AIの応答が単なる文章生成に留まらず、計算やデータ分析の精度が向上します。
大学教職員向けプロンプト例:
「次の学生の成績データを用いて平均点と標準偏差を計算し、結果を表形式で出力してください。」
「Pythonコードを使って、次のデータセットの回帰分析を実行し、得られた回帰方程式を示してください。」
※ ChatGPTや Copilot Chat の Advanced Data Analytics 機能がこれに該当します。
■ ReAct (Reasoning + Acting)
技術的な説明:
ReActは、推論(Reasoning)と行動(Acting)を統合した手法であり、AIが逐次的に情報を分析し、実行すべきアクションを決定します。まずAIがプロンプトに基づいて推論し、その後、次に取るべき行動(データの再取得、条件の再評価など)を実施しながら、最終的な出力に反映します。複数ステップで動的に結果を改善できるのが特徴です。
大学教職員向けプロンプト例:
「次の学生の成績データを評価し、①成績が低い理由を特定し、②今後の指導方針を提案してください。」
「この研究課題の進捗状況を確認し、不足データがあれば取得を指示し、次のアクションを示してください。」
■ Reflection
技術的な説明:
Reflectionは、AIが自ら生成した応答を評価し、その中で生じた誤りや不十分な部分を反省・修正する手法です。この手法により、AIは一度生成した回答を客観的に見直し、より高い精度の応答へと改善できます。複雑な問題や動的な状況において、自己修正を通じて正確さと一貫性を向上させます。
大学教職員向けプロンプト例:
「この授業計画の評価結果を示し、問題があれば修正し、再度提案してください。」
「学生レポートに対するフィードバックを生成し、フィードバックの誤りや不足を自己評価した上で、改良した結果を出力してください。」
■ Multimodal CoT
技術的な説明:
テキストだけでなく、画像や表などの複数の情報モードを組み合わせて推論を行う手法です。授業資料や研究発表の準備に有用です。
大学教職員向けプロンプト例:
「次のテキストデータと図表を基に、近年の大学入試傾向の変化についてレポートを作成してください。」
■ Graph Prompting
Graph Promptingは、データ間の関係性をグラフ構造として表現し、AIがその構造に基づいて推論する手法です。ノード(要素)とエッジ(関係)を用いることで、複雑なネットワーク情報を処理し、重要な要素や関係を特定します。ソーシャルネットワーク分析や研究分野における概念間の相互関係を視覚化する際に有効です。
大学教職員向けプロンプト例:
「次の研究トピック間の関連性をグラフで表し、主要なテーマとその影響関係を説明してください。」
「このネットワーク図を解析し、影響力の高いノードを特定し、その理由を示してください。」
第6.3節のまとめ
これらのプロンプト技術は、大学教職員が教育、研究、事務作業など多岐にわたる場面で生成AIを活用するために重要です。技術レベルに応じて適切な手法を選び、応用することで、生産性と情報活用の精度を高めることができます。
6.4 プロンプトのテストと改善の方法
効果的なプロンプトを作成するには、試行錯誤と反復的なテストが重要です。AIから期待通りの出力を得るためには、初期プロンプトの検証、結果の分析、修正のサイクルを繰り返し、最適化を行う必要があります。本節では、プロンプトのテストと改善方法について具体的なステップを解説します。
1. 初期プロンプトのテスト
最初に作成したプロンプトに基づき、AIに応答を生成させます。この段階では、出力が期待通りであるかを確認し、出力の品質や一貫性を評価することが重要です。
具体例:
- プロンプト: 「この論文の第3章を200文字以内で要約してください。」
- テスト結果: 出力が要件(文字数や要約範囲)を満たしているかを確認し、情報の欠落や不正確さがないか評価します。
2. 結果の評価
AIの出力を以下の観点で評価し、プロンプトの改善が必要かどうかを判断します。
- 正確性: 応答がプロンプトの要件を満たしているか。
- 一貫性: 出力が矛盾なく、文脈に沿っているか。
- 情報の網羅性: 必要な情報がすべて含まれているか。
- 形式の適合性: 出力形式が指定通りであるか。
評価基準の例:
- 正確な要約: 80%以上の情報が要件に沿っている。
- 適切な文体: 学術的なトーンが維持されている。
3. プロンプトの修正
評価結果をもとに、プロンプトのどの部分を修正すべきかを特定します。修正は、次のいずれかの方法で行います:
-
具体化: 曖昧な部分をより明確に記述します。
- 修正前: 「このデータを分析してください。」
- 修正後: 「2021年の売上データを用いて、月ごとの増加率を計算し、棒グラフ形式で示してください。」
-
制約条件の追加: 出力の長さや形式、必要な情報などの具体的な制約を設定します。
- 修正前: 「AIの教育分野への応用について説明してください。」
- 修正後: 「AIの教育分野への応用について、500文字以内で3つの具体例を含めて説明してください。」
-
出力例の提示: 期待する応答例を提供することで、AIが出力の方向性を理解しやすくなります。
- 修正前: 「次の文章を要約してください。」
- 修正後: 「例:『AIの応用は多岐にわたる』のように、要点を簡潔にまとめた要約を作成してください。」
4. テストと修正の反復
修正したプロンプトを再度テストし、出力の改善状況を確認します。このプロセスを繰り返すことで、最適なプロンプトへとブラッシュアップされます。
反復プロセスのステップ:
- 初期プロンプトを用いた出力をテストする。
- 結果を評価し、問題点を特定する。
- 修正案を導入して再テストする。
- 満足できる応答が得られるまでこのサイクルを繰り返す。
5. 異なるシナリオでのテスト
最終的なプロンプトが汎用的なシナリオで機能するかを確認するため、異なる条件下でのテストを行います。
例:
- 同じプロンプトで異なるデータやテーマに適用し、出力が期待通りかを確認する。
- プロンプトに新たな制約を加えても、AIが柔軟に対応するかを評価する。
6. ベストプラクティスの確立
最適化されたプロンプトをもとに、成功した事例や改善過程を記録してベストプラクティスを構築します。これにより、他の業務やタスクでの再利用が可能になります。
記録例:
- 最初のプロンプトと修正版プロンプト
- 各ステップごとの評価と修正内容
- 成功した応答例とその条件
第6.4節のまとめ
プロンプトのテストと改善のサイクルは、効果的な生成AI活用に不可欠です。大学教職員がこのプロセスを適切に活用することで、授業資料の作成、研究支援、事務作業などの場面で、より正確で実用的な応答を得ることが可能になります。
第7章 従来型プロンプトエンジニアリングの実践例
従来型プロンプトエンジニアリングでは、具体的な事例を通じて、どのように生成AIを効果的に活用できるかを示すことが重要です。本章では、大学の教職員が日常的に直面する業務を中心に、研究支援、教育支援、事務作業の効率化を目的としたプロンプト作成例を紹介します。また、各場面に応じたベストプラクティスとプロンプト技術の応用方法を提示し、実践に役立つ知識を提供します。
特に、生成AIは文献レビューや試験問題の作成、さらには大量のメール処理などに活用することで、大幅な効率化を実現できます。本章の例をもとに、読者が自身の業務に適したプロンプト設計を行い、実用性の高い成果を得るための指針としてください。
以下の節では、各シチュエーションごとに具体的なプロンプトの使い方を紹介し、効果的な出力を得るためのテクニックを解説します。
7.1 研究支援のプロンプト作成例(シチュエーション別)
1. 文献の要約と分析
シチュエーション: 大量の文献から研究テーマに関連する部分のみを効率よく抽出したい。
プロンプト例:
「次の研究論文から、教育現場でAIが効果を示した具体例を2つ要約してください。」(Few-shot Prompting)
2. 研究テーマの選定
シチュエーション: 新たな研究テーマを設定する際、参考になる仮説やトピックを収集したい。
プロンプト例:
「次のキーワードに基づき、新しい研究テーマを3つ提案してください:『AI』『遠隔教育』『学生パフォーマンス』。」(Generate Knowledge Prompting)
3. 実験デザインの提案
シチュエーション: 実験計画を効率的に構築し、効果的な変数を特定したい。
プロンプト例:
「AIによる学習支援効果を検証するための実験デザインを提案し、独立変数と従属変数を特定してください。」(Chain-of-Thought Prompting)
4. 既存データの分析
シチュエーション: 膨大な量の調査データから意味のあるパターンを発見したい。
プロンプト例:
「このアンケート調査結果を分析し、顕著なパターンを特定し、その要因を簡潔に説明してください。」(Self-Consistency)
5. 引用文献の管理
シチュエーション: 多くの論文から正確に引用情報を整理し、統一された形式で出力したい。
プロンプト例:
「次の参考文献をAPA形式で出力し、レポートに挿入できるようリスト化してください。」(Few-shot Prompting)
6. 専門分野外の情報収集
シチュエーション: 自分の専門外の分野の知識を短時間で収集し、研究に活用したい。
プロンプト例:
「AIの倫理的課題に関する最新の研究動向を、2023年発表の学術論文から3つ要約してください。」(Retrieval-Augmented Generation)
7. 仮説検証
シチュエーション: 提出した仮説が他の研究データと一致しているかを迅速に確認したい。
プロンプト例:
「AIによるパフォーマンス向上に関する仮説を検証するために、既存の研究から参考になる証拠を3つ示してください。」(Generate Knowledge Prompting)
8. データのクリーニングと前処理
シチュエーション: データ分析前に欠損データや異常値を迅速に検出し、処理したい。
プロンプト例:
「次のデータセットを調べ、欠損データを特定し、デフォルト値を適用して補完してください。」(Automatic Reasoning and Tool-use)
9. 実験結果の視覚化
シチュエーション: 実験データを効率よくグラフ化して研究レポートに挿入したい。
プロンプト例:
「このデータセットを用いて、成績の分布をヒストグラムとして表示し、グラフの説明を100文字以内で述べてください。」(Program-Aided Language Model)
10. 研究成果の要約
シチュエーション: 研究成果を学会発表用に簡潔にまとめ、プレゼンテーションに使用したい。
プロンプト例:
「この研究結果を300文字以内で要約し、結論部分に強調すべき点を示してください。」(Zero-shot Prompting)
第7.1節のまとめ
これらのプロンプト例は、研究活動のさまざまな局面で時間短縮と生産性向上に役立ちます。適切なプロンプト技術を用いることで、効率的かつ効果的な情報抽出が可能です。
7.2 教育支援のプロンプト作成例(試験問題のアイデア出しなど)
生成AIは教育現場での多様なタスク、特に試験問題の作成や授業計画の補助において非常に効果的です。試験問題の内容、形式、難易度をカスタマイズしたり、学生の理解度に応じたフィードバックを提供したりすることができます。本節では、具体的なシチュエーションごとのプロンプト例を紹介し、教職員がどのように生成AIを教育支援に活用できるかを示します。
1. 試験問題のアイデア出し
シチュエーション: 新しい授業内容に基づいて複数の試験問題を作成したい。
プロンプト例:
「AIと教育の関係について、短答式、選択式、記述式の試験問題を3つずつ作成してください。」(Few-shot Prompting)
2. 問題の難易度設定
シチュエーション: 同じテーマで異なるレベルの学生に対して適した問題を作成したい。
プロンプト例:
「AIの基本的な概念に関する問題を、初級、中級、上級の難易度でそれぞれ1問ずつ作成してください。」(Chain-of-Thought Prompting)
3. 解答例と採点基準の作成
シチュエーション: 試験問題に対応する標準的な解答例と採点基準を示したい。
プロンプト例:
「次の試験問題の模範解答を提示し、採点基準(5段階評価)を説明してください:『生成AIが教育現場で果たす役割を述べなさい。』」(Zero-shot Prompting)
4. 学生の理解度別に問題を調整
シチュエーション: 学生の学力に応じてカスタマイズされた問題を提示したい。
プロンプト例:
「AI技術の基本概念に関する問題を、理解度が低い学生向けと高い学生向けにそれぞれ異なる形式で作成してください。」(Directional Stimulus Prompting)
5. 問題のランダム生成
シチュエーション: 試験のたびに異なる問題をランダムに生成し、繰り返し学習を防止したい。
プロンプト例:
「AIの進化に関する問題を5問ランダムに生成し、それぞれ異なる観点から質問してください。」(Meta Prompting)
6. 問題のフィードバック機能
シチュエーション: 学生が解答した後に、自動で適切なフィードバックを提供したい。
プロンプト例:
「次の解答を採点し、誤った箇所を指摘した上で、どのように改善すべきかフィードバックしてください。」(Reflection)
7. 過去問題の分析と活用
シチュエーション: 過去の試験問題を分析し、頻出テーマや改善点を特定したい。
プロンプト例:
「過去5年間の試験問題を分析し、最も出題頻度が高いトピックと改善が必要な領域を特定してください。」(Retrieval-Augmented Generation)
8. 授業ごとの小テスト作成
シチュエーション: 毎回の授業内容に基づいて小テストを作成し、理解度を測りたい。
プロンプト例:
「今日の授業内容(AIの歴史)に基づき、5問の小テスト問題を作成してください。」(Few-shot Prompting)
9. 長文問題と短文問題のバランス調整
シチュエーション: 試験において長文問題と短文問題のバランスを取りたい。
プロンプト例:
「AIに関する試験問題を長文回答と短文回答に分けてそれぞれ3問ずつ作成し、出題目的も示してください。」(Self-Consistency)
10. 問題形式の多様化
シチュエーション: 学生の興味を引き出すため、さまざまな形式の問題を用意したい。
プロンプト例:
「AIの倫理的課題に関する問題を、選択式、穴埋め式、論述式の3形式でそれぞれ1問ずつ作成してください。」(Graph Prompting)
第7.2節のまとめ
これらのプロンプトを活用することで、試験問題の作成から採点、フィードバックまでのプロセスを効率化し、学生の理解をより深めることが可能です。生成AIを適切に活用すれば、教育現場での多様なニーズに柔軟に対応できるでしょう。
7.3 事務手続き効率化のプロンプト作成例(メール文書下書きなど)
大学での事務業務は、メール対応、報告書作成、会議記録の整理など多岐にわたります。生成AIを活用することで、これらのタスクを効率化し、時間を節約できます。本節では、事務手続きに役立つ具体的なプロンプトとその活用シチュエーションを紹介します。
1. 会議後のフォローアップメール作成
シチュエーション: 会議終了後に参加者へ要点を共有するフォローアップメールを迅速に送信したい。
プロンプト例:
「次の会議議事録を基に、要点とアクションアイテムをまとめたフォローアップメールを作成してください。」(Zero-shot Prompting)
2. 学生向けイベント案内メールの作成
シチュエーション: 学生にイベント情報を通知し、参加を促すメールを作成したい。
プロンプト例:
「AI技術に関するセミナーの案内メールを作成してください。日時、場所、参加方法を含めて簡潔にまとめてください。」(Few-shot Prompting)
3. 部署内の週次報告メールの作成
シチュエーション: 毎週の活動内容をまとめて、関係者へ報告するメールを作成したい。
プロンプト例:
「次の活動報告データを基に、週次報告メールを作成してください。重要な成果と今後の課題を簡潔に記載してください。」(Chain-of-Thought Prompting)
4. 出欠確認メールの自動作成
シチュエーション: イベントや会議の出席確認メールを効率的に送信したい。
プロンプト例:
「次のイベント(日時:〇月〇日)に関する出席確認メールを作成し、返信期限を明記してください。」(Directional Stimulus Prompting)
5. 新しい学生への歓迎メール作成
シチュエーション: 新入生への歓迎メールを作成し、重要な情報を提供したい。
プロンプト例:
「新入生への歓迎メールを作成し、学内の重要なリンク、初回授業の日時、サポート窓口の情報を含めてください。」(Meta Prompting)
6. 書類提出リマインダーメール
シチュエーション: 重要な書類の提出期限を学生や教職員に通知したい。
プロンプト例:
「次のリストに基づき、提出期限が近づいている書類についてリマインダーメールを作成してください。」(Reflection)
7. クレーム対応の返信メール
シチュエーション: 学生や保護者からのクレームに対し、適切なトーンで返信したい。
プロンプト例:
「次のクレーム内容に基づき、謝罪と問題解決の手順を含む返信メールを作成してください。」(Self-Consistency)
8. 出張申請承認の通知メール
シチュエーション: 出張申請が承認されたことを迅速に申請者へ通知したい。
プロンプト例:
「次の出張申請が承認されたことを知らせるメールを作成し、出張に関する詳細(予算、期間)を含めてください。」(Zero-shot Prompting)
9. 年次報告書の概要メール
シチュエーション: 年次報告書の主要な成果や課題をまとめた概要をメールで送信したい。
プロンプト例:
「この年次報告書から主要なポイントを抽出し、概要メールを作成してください。」(Generate Knowledge Prompting)
10. 会議出席依頼メール
シチュエーション: 関係者に特定の会議への出席を依頼し、必要な事前資料を通知したい。
プロンプト例:
「次の会議に関する出席依頼メールを作成し、添付資料についても簡潔に説明してください。」(Few-shot Prompting)
第7.3節のまとめ
事務手続きにおける生成AIの活用は、単なる文書作成の自動化にとどまらず、コミュニケーションの質を向上させ、業務の効率化に寄与します。これらのプロンプトを実践することで、時間を節約し、教職員が本来の教育活動に集中できるようになります。
7.4 活用上の注意点とトラブルシューティング
生成AIを活用する際には、いくつかのリスクや注意すべき点があります。AIの出力は常に正確とは限らず、誤った情報や不適切な表現が含まれる可能性があります。また、プロンプトの設計によっては期待通りの結果が得られない場合もあります。本節では、代表的な注意点とその対処法について解説します。
1. 出力内容の検証
AIが生成した情報には誤りが含まれる可能性があります。特に事実確認が必要な情報(統計データ、文献情報など)については、必ず信頼できる外部ソースで検証する必要があります。
トラブルシューティング:
- 問題: AIが不正確なデータを提供する。
- 対処法: 外部データベースや専門文献を用いてクロスチェックを行う。プロンプトに「情報源を明示するように」と明確に指示することで、精度が向上する場合があります。
2. プロンプトの曖昧さによる誤解
プロンプトが曖昧である場合、AIは意図とは異なる応答を生成することがあります。これは特に複雑な質問や条件がある場合に起こりやすいです。
トラブルシューティング:
- 問題: AIの応答が期待と異なる。
- 対処法: プロンプトを具体的かつ明確に記述し、制約条件(文字数、出力形式など)を追加する。また、Few-shot Promptingを用いて具体例を示すと効果的です。
3. 文脈依存型の誤解
長い文脈や複数ターンの対話では、AIが途中で文脈を失い、整合性のない応答を生成することがあります。
トラブルシューティング:
- 問題: 会話の途中で文脈が失われ、回答が矛盾する。
- 対処法: Chain-of-Thought Promptingを用いて、段階的に回答を導き出すように設計するか、前回の応答を要約して次のプロンプトに組み込む。
4. バイアスの影響
AIの出力には、学習データに由来するバイアスが含まれる場合があります。これにより、不適切な内容や偏見が出力されることがあります。
トラブルシューティング:
- 問題: AIが偏見を含む内容を出力する。
- 対処法: 出力内容をレビューし、不適切な応答に対してフィルターや手動修正を行う。バイアスを軽減するためにプロンプトで「中立的かつ客観的な視点」を強調することも有効です。
5. 出力が過剰に冗長または不十分
AIの応答が過剰に長い、または情報が不足している場合、要件に沿った適切な制御が必要です。
トラブルシューティング:
- 問題: 出力が期待する情報を十分に含んでいない、または冗長すぎる。
- 対処法: プロンプトで出力の長さや形式を明示し、Self-Consistencyを用いて複数のバリエーションを生成し、最適なものを選ぶ。
6. 外部情報との統合における問題
AIが内部知識に基づいて回答する場合、最新情報や特定の情報が不足することがあります。
トラブルシューティング:
- 問題: 最新情報や特定の知識に基づく正確な回答が得られない。
- 対処法: Retrieval-Augmented Generation(RAG)技術を活用し、外部データベースやAPIから必要な情報を取得して応答に反映させる。
7. 繰り返しエラーの対処
プロンプト設計に問題がある場合、同じエラーが繰り返し発生することがあります。
トラブルシューティング:
- 問題: 同様のエラーが何度も発生する。
- 対処法: プロンプト設計を見直し、メタプロンプティングやセルフリフレクションを利用してAIに応答内容の評価・改善を指示する。
8. AIが誤って情報を補完する問題
AIは曖昧な情報を自ら補完し、事実に基づかない出力を生成することがあります。
トラブルシューティング:
- 問題: AIが誤った情報や補完データを含む応答を生成する。
- 対処法: 情報補完が不要である場合、その旨をプロンプトで明確に指定する。必要な場合には外部データベースから正確なデータを取得する設定を行う。
9. 機密情報の保護
AIの利用中に機密情報が含まれる場合、不適切に出力されるリスクがあります。
トラブルシューティング:
- 問題: 出力結果に不要な機密情報が含まれる。
- 対処法: 機密情報を含むプロンプトの利用を最小限に抑え、AIが生成する出力を手動でレビューする。また、事前にマスキング処理を行うことでリスクを軽減します。
10. 計算や定量的タスクの誤差
AIが複雑な計算を伴うプロンプトに誤差を含む結果を出力することがあります。
トラブルシューティング:
- 問題: 計算結果に誤りがある。
- 対処法: Program-Aided Language Modelを使用して、AIが計算を正確に実行できるようサポートする。また、出力結果を二重に確認し、必要であれば手動で修正します。
第7.4節のまとめ
生成AIの活用には、出力の正確性と信頼性を確保するための適切なプロンプト設計とレビューが不可欠です。本節で紹介したトラブルシューティングの方法を活用することで、実用的な応答を得られ、教育や研究支援における効率的なAI活用が可能となります。
第8章 前編のまとめと次へのステップ
8.1 従来のプロンプトエンジニアリング手法の整理
これまでの章で示してきたように、従来型のプロンプトエンジニアリングは、生成AIを効果的に活用する上で不可欠なスキルです。その基本ステップには、目的の明確化、適切な文脈の設定、出力に対する要件の具体化が含まれ、いずれも出力の品質に直結します。これらのステップを踏むことで、AIから望ましい結果を得る可能性が高まり、教育や研究現場での応用がしやすくなります。
Zero-shot PromptingやFew-shot Promptingなどの入門的な技術を用いることで、シンプルな質問からでも効果的な出力が得られるよう工夫されてきました。また、複雑なタスクでは、Chain-of-Thought PromptingやMeta Promptingといった応用技術が活用され、AIが段階的に推論しながら結論を導き出すプロセスが確立されました。
しかし、これらの手法には限界もあり、特にプロンプトの設計や調整においては、試行錯誤の繰り返しと労力を必要とするケースが多く見られました。また、外部データをAIに参照させる場合や、動的な文脈の変化に対応する際には、従来型のプロンプトエンジニアリングのみでは不十分な場面もありました。この点は、第5章や第6章で詳しく述べたように、プロンプトの細かな設計が求められる理由でもあります。
一方で、従来型のプロンプトエンジニアリングは現在もなお、基礎的なスキルとして重要な役割を果たしています。 なぜなら、最新技術や自動プロンプト生成技術が登場したとしても、AIが最適な応答を生成するためには、ユーザーが適切な意図と条件をプロンプトに反映させる能力が不可欠だからです。
今後のステップでは、従来型手法の経験と知見を基礎に、より高度な自律的プロンプト生成技術や外部データとの動的な統合による知識拡張の重要性が増すと考えられます。そのため、本書で紹介したプロンプトエンジニアリングの基本と実践例を再確認し、次世代のプロンプト技術に応用していく準備を整えることが大切です。大学教職員の皆様は、従来の技術を正しく理解し活用することで、AIからの効果的な支援を引き出し、新しい教育・研究環境への対応力を高めることができます。
8.2 マルチエージェント時代に向けた意識改革
マルチエージェント時代の到来により、生成AIの活用方法は従来の個別エージェントから、協調して問題を解決するシステムへと進化しています。従来はユーザーが単一のプロンプトでAIを直接指示する形が一般的でしたが、複数のエージェントが連携して情報を収集し、分析、実行する新しいアプローチが必要になります。
1. 新たな役割の認識
マルチエージェント環境では、ユーザーはAIに全てを任せるのではなく、AIエージェント間の連携を適切に管理し、最適な結果を得るためのナビゲーターとしての役割を果たす必要があります。このためには、エージェントごとの専門性や機能を理解し、タスクごとに適切に使い分けるスキルが求められます。
2. プロンプト設計の再定義
従来のプロンプト設計では、単一の出力を得ることが目的でしたが、マルチエージェント環境では、各エージェントに段階的かつ動的なプロンプトを設定し、情報の流れを制御することが重要です。たとえば、データ収集エージェント、分析エージェント、出力エージェントの間でプロンプトを連携させることで、複雑なタスクにも対応できるようになります。
例:
- 研究における文献レビューでは、情報収集エージェントが最新の研究を検索し、別のエージェントが要点を抽出し、最終的にまとめ役のエージェントが適切なレポート形式で出力します。
3. AIと人間の共同作業の強化
マルチエージェント時代では、AIは単に人間の補助を行うだけでなく、意思決定の過程そのものに積極的に関与します。しかし、重要なポイントは、最終的な判断や方向性を人間が確実に管理し、責任を持つことです。AIが生成するすべての情報を盲信するのではなく、適切なフィルターやレビューを行う必要があります。
4. 学びの重要性
マルチエージェント環境においては、従来のAIスキルに加えて、新しい知識を積極的に学び続ける姿勢が重要です。大学教職員であれば、学生支援、研究支援、事務効率化の各場面でマルチエージェントの強みを生かすため、以下の意識改革が求められます:
- 各エージェントの得意分野を理解し、最適に組み合わせる。
- 新しい技術に対して柔軟に対応する姿勢を持つ。
- 自身のプロンプト作成能力を継続的にアップデートする。
第8.2節のまとめ
マルチエージェント時代の到来は、AIをより高度に活用するための新しい可能性を開きますが、それと同時に新たな責任も伴います。ユーザーが単なるAIの利用者から、AIシステム全体を設計し、最適化する管理者へと意識を変革することで、教育や研究の分野で大きな成果が期待されます。このような意識改革をもとに、AIを最大限活用する環境を整え、次世代の教育改革を先導していくことが重要です。
8.3 後編における発展的な内容の予告
後編では、前編で学んだ従来型プロンプトエンジニアリングをさらに発展させ、マルチエージェント技術の活用、複雑なタスクへの対応、動的な情報処理に焦点を当てていきます。後編は、大学業務におけるAI活用を拡張し、教職員が抱える日常の課題を高度な方法で解決するためのガイドとなります。以下に後編で扱う主要なテーマを紹介します:
1. マルチエージェント技術の活用
後編の核となるのは、複数のAIエージェントが連携し、複雑なタスクを分担して効率的に遂行するマルチエージェント技術です。特に、Microsoft 365 Copilot Chat のエージェント機能がその中心となり、教育現場、研究支援、事務業務の各分野で実用的な応用例を提示します。
2. プロンプト設計の高度化
単一エージェントでの設計から、複数の役割を定義し動的に連携するプロンプト設計へと進化する方法を詳しく解説します。従来のプロンプト設計の知識を基盤に、チェーン・オブ・エージェント思考を取り入れ、AI間の連携を円滑にする技術を学びます。
3. 大学業務における活用シナリオの拡張
授業支援、論文作成、データ分析、事務処理の効率化といった具体的な業務シナリオを紹介し、AIエージェントを使って実現できる効果的な手法を解説します。これにより、教職員はAIを活用した新たな教育モデルを設計する力を養います。
4. 安全な運用とトラブル対応
生成AIの安全な運用には、データプライバシーの保護、ユーザー教育、エラーへの対応策が不可欠です。後編では、これらの注意点を実践的に解説し、円滑な導入・運用を支援します。
後編は、前編での学びを実践し、次世代の教育環境へとつなげる重要なステップとなります。マルチエージェント技術を活かした高度なプロンプト設計を習得し、大学業務を革新するためのさらなる知識を深めていきましょう。