はじめに
文部科学省の "リーディングDXスクール(生成AIパイロット校)" など、教育分野での生成AIの利活用が手探りながらスタートしました。
文部科学省が作成した 「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」の中でも
- 子供の発達段階や実態を踏まえ、年齢制限・保護者同意当の利用規約の遵守を前提に、教育活動や学習評価の目的を達成する上で、生成AIの利用が効果的か否かで判断することを基本とする(特に小学校段階の児童に利用させることには慎重な対応をとる必要がある)。
- まずは、生成AIへの懸念に十分な対策を講じらえている学校でパイロット的に取り組むことが適当。
と記述されています。
また、各学校で生成AIを利用する際のチェックリスト(「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」のP.15)なども作成されています
- ⽣成AIツールの利⽤規約を遵守しているか(年齢制限・保護者同意を遵守しているか)
- 事前に、⽣成AIの性質やメリット・デメリット、情報の真偽を確かめるような使い⽅等に関する学習を実施しているか
- 教育活動の⽬的を達成する上で効果的か否かで利⽤の適否を判断しているか
- 個⼈情報やプライバシーに関する情報、機密情報を⼊⼒しないよう、⼗分な指導を⾏っているか
- 著作権の侵害につながるような使い⽅をしないよう、⼗分な指導を⾏っているか
- ⽣成AIに全てを委ねるのではなく最後は⾃⼰の判断や考えが必要であることについて、⼗分な指導を⾏っているか
- AIを利⽤した成果物については、AIを利⽤した旨やAIからの引⽤をしている旨を明⽰するよう、⼗分な指導を⾏っているか
- 読書感想⽂などを⻑期休業中の課題として課す場合には、AIによる⽣成物を⾃⼰の成果物として応募・提出することは不適切⼜は不正な⾏為であること、⾃分のためにならないことなどを⼗分に指導しているか。保護者に対しても、⽣成AIの不適切な使⽤が⾏われないよう、周知・理解を得ている
- 保護者の経済的負担に⼗分に配慮して⽣成AIツールを選択しているか
しかしこれらの資料からは、教育に生成AIを導入した際のメリット、デメリットがどのようなものがあるかを明確に読み取ることは難しいと思います。
そこで本記事では Microsoft Bing Chat 内で仮想の有識者に議論を行わせることで、教育に生成AIを導入した際にどのようなメリット、デメリットがあるのかを確認していきたいと思います。
注意事項
生成AIは入力に基づいて内容を生成しますが、そのプロセスは確定的ではなく、予測不可能な結果をもたらすことがあります。したがって、本記事で使われているプロンプトを入力しても、同じ結果が得られない可能性があることを認識しておいてください。
議論を行わせるための前提条件
以下の条件を元に議論を行わせます。
- 高等学校での探求学習に生成AIを導入した場合のメリット、デメリットについて議論する。
- 議論に参加するメンバーは以下の7名です。
※偏った議論をさせないため、肯定的、否定的、中立的、教育以外の専門家などを参加してもらいます。-
AIの専門家
-
高等学校の校長先生
-
学校経営コンサルタント
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高等学校の副校長先生(AI導入に否定的)
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高等学校の教頭先生(AI導入に肯定的)
-
高等学校の教員(AI導入に否定的)
-
高等学校の教員(AI導入に肯定的)
-
探求学習が何かを生成AIに認識させ、生成AIを探求学習に使う場合に影響を与える基本的な要素は何かを調べる
Bing Chat の会話スタイルは 「より創造的に」 を選択して実験をスタートします。
まずはじめに Bing Chat に探求学習とはどういう学習方法で、生成AIを探求学習に使う場合に影響を与える基本的な要素が何かを聞いてみましょう。
高等学校において、{生成AI}を{探求学習}に使う場合に影響を与える基本的な要素は何ですか
以下の定義に基づき、要素を抽出してください。
{探究学習}
教科における、教師が立てた問いを生徒たちが正解を探すのではなく、自分自身で問いを立てて、その答えを出したいという「探究心」を大切にして、学習を進めていく方法です。そのため、「生徒の主体性」をいかに引き出せるかが重要なポイントとなってきます。
探究学習は以下の流れて行います。
1. 自分なりに問いを立てる
生徒が探究していると言えるためには、自分で問いを立てること、が不可欠です。逆に言えば、先生や人から与えられた問いは、探究学習の問いとは言えません。自分なりに課題を見つけて、課題設定をして初めて探究学習の一歩となります。
2.情報を集めて分析する
生徒が自分の問いに答えようとするためには、情報を集めて分析すること、が必要です。ただ単に問いを立てるのが探究学習ではありません。自分の立てた問いに対して、答えようとする活動が探究学習です。探究学習では、立てた問いに答えるための、情報を集めて分析します。
3.まとめて発表する
生徒が探究の最後に行うべきなのは、まとめて発表すること、です。もしアウトプットがなければ、せっかくのインプットも消化不良で終わる可能性があります。生徒の学びが実りあるものにしたり、学びに区切りをつけるためにも、まとめて発表する機会が大切です。
{生成AI}
Bing Chat を使用します。Bing Chat は Generative AI の一種ですが、インターネットを検索してその結果を元に、文章を作成できるといった特徴があります。
Bing Chat の優れている点は入力されたプロンプトに含まれるキーワードを抽出し、それを使用してWeb検索を行い、その情報をもとに回答を生成することができることです。ここではちゃんと文部科学省が作成した「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を参照して、回答を生成していることが見て取れます。
ディスカッションの開始
ではこの前提に基づいてディスカッションを始めたいと思います。
次のプロンプトを入力してみましょう。
生成AIを探求学習に使う場合に影響を与える基本的な要素を加味したうえで以下の議論を行ってください。
あなたは{専門家1}、{専門家2}、{専門家3}、{専門家4}、{専門家5}、{専門家6}、{専門家7}の役割を持っています。
今から{トピック}について交互に発話させ課題と解決方法を混ぜならが水平思考を使い議論してください。
議論とは他者の発言に対して考察し、より発展させるための意見を述べることです。
ラウンド1の議論は{専門家1}から発言してください。そのあとは各専門家がランダムに発言してください。
各専門家の発言を踏まえた意見を続けて出してください。
ラウンド1の議論と結論を参考にし、それぞれの専門家はラウンド2の議論を行ってください。
ラウンド1,2の議論と結論を参考にし、それぞれの専門家はラウンド3の議論を行ってください。
ラウンド終了後、次のラウンドに行くか確認してください。
必ず{ゴール}に向かい議論してください。
各条件は以下の通りです。
#条件
{専門家1}
- AI研究者
{専門家2}
-高等学校(High School)経営コンサルタント
{専門家3}
-高等学校(High School)の校長
{専門家4}
-生成AI導入に否定的な高等学校(High School)の副校長
{専門家5}
-生成AI導入に肯定的な高等学校(High School)の教頭
{専門家6}
-生成AI導入に肯定的な高等学校(High School)の教員
{専門家7}
-生成AI導入に否定的な高等学校(High School)の教員
{トピック}
-高等学校(High School)の探究学習で生成AIを活用できるか
{ゴール}
-専門家全員の意見を交えて、高等学校(High School)の探究学習で{探究学習のテーマ}を元に生成AI活用に関するメリット、デメリットを洗い出す。
Bing Chat は探究学習のテーマとして 「日本の伝統文化と現代文化の関係」 というテーマを選んでくれましたね。特定の探究学習のテーマについて議論をさせたい場合には、プロンプトに探究学習のテーマを事前に入れておくとよいでしょう。
まずはじめに AI研究者 が発言しています。はじめに生成AIの特徴をよく知っている専門家に話をさせることで、俯瞰的な視点での議論からスタートすることができるます。
では次に 学校経営コンサルタント に発言してもらいたいと思います。プロンプトに 「議論を続けて」 と入力します。
ちゃんと AI研究者 の発言をうけて、回答していますよね。しかも コンサルタント らしく、わかりやすく要点を箇条書きでまとめていますね。またコストについても言及しています。
では次は 校長先生 に発言してもらいましょう。プロンプトに 「議論を続けて」 と入力します。
校長先生 から、はじめて生成AI導入に否定的な意見が出てきました。
では次は 副校長先生 に発言してもらいましょう。プロンプトに 「議論を続けて」 と入力します。
副校長先生 は元々生成AI導入には否定的な立場の方なので、否定的な意見を述べています。校長先生 とは異なるデメリットを上げていることにも注目してみましょう。
では次は 教頭先生 に発言してもらいましょう。プロンプトに 「議論を続けて」 と入力します。
教頭先生 は生成AI導入に肯定的な立場です。副校長先生 の意見に足して、それぞれ肯定的な意見を述べていることがわかります。
では次は 教員 に発言してもらいましょう。プロンプトに 「議論を続けて」 と入力します。
この先生は 「楽しく学ぶ」 を信念としてもっているようですね。素晴らしいことです。0から1を築くことは難しいことですが、少しの刺激を提供することで、生徒が成長することはよくあると思います。生徒にとっては生成AIはロケットのブースターのような役割を果たしてくれるものだと思います。
ではもう一人の 教員 に発言してもらいましょう。プロンプトに 「議論を続けて」 と入力します。
この先生は、「手段が目的にならないように」 と警告しています。 「教育の本質は、生徒に知識や技能や態度を身につけさせることではなく、生徒に自ら学ぶ力や考える力や表現する力を育てることです。」 まさにその通りですよね。
GIGA スクールにおける情報端末の利用も含め、私も 「手段が目的にならないように」 に十分注意していきたいと思いました。
ここまでで参加者全員に発言してもらいました。続いて第2ラウンドに行きたいと思います。プロンプトに**「議論を続けて」** と入力します。
ラウンド2は 学校経営コンサルタント から発言をはじめてもらいます。最初に入力したプロンプトでランダムに発言するように指示していますので、Bing Chat がランダムに発言者を選んでいるわけです。このラウンドでは、ラウンド1とは異なる順番で各立場の人に発言させることで、議論が多角的に展開することが期待しています。
また、ラウンド1の各人の発言を元に 学校経営コンサルタント が発言していることにも注目してみましょう。
次に 教頭先生 に意見を聞いてみたいと思います。プロンプトに 「議論を続けて」 と入力します。
新しいことを始める際には、「メリット」・「デメリット」の両方が存在するものです。「デメリット」があるからといって、それをやらないべきではなく、むしろ「メリット」があるからこそ、挑戦すべきだと私も思います。
次に 生成AIの導入に肯定的な教員 に意見を聞いてみたいと思います。プロンプトに 「議論を続けて」 と入力します。
やっぱりこの先生は「楽しくなければ教育でない」がモットーなんですね。すばらしい!!
生成AIの導入に否定的な副校長 ではなく、生成AIの導入に否定的な教員 を指名したところなんか現実に起こりそうなことです。
次に 生成AIの導入に否定的な教員 に意見を聞いてみたいと思います。プロンプトに 「議論を続けて」 と入力します。
ラウンド2では、学校経営コンサルタント、生成AI導入に肯定的な高等学校の教頭、生成AI導入に肯定的な高等学校の教頭、生成AI導入に否定的な高等学校の教員 の4人に発言してもらいました。
次が最終ラウンドです。プロンプトに 「議論を続けて」 と入力します。
校長先生 の結論は生成AIを使うべきでないといった結論でした。
生成AI導入に否定的な高等学校の副校長 も校長先生と同じような意見ですね。
AI研究者 はラウンド1で発言した通り探究学習に生成AIを利用すべきだと言っています。またラウンド1での否定派の指摘事項を加味して、リスクの軽減策などについても発言しています。
学校経営コンサルタント も一貫して肯定的な意見ですね。
生成AI導入に肯定的な高等学校の教頭 の発言内容も 学校経営コンサルタント と同じような内容です。
「 ラウンド3の議論で、生成AIの刺激や楽しさについて様々な意見が出されましたが...」って言っているのは、あなた自身でしょとツッコミどころ満載ですね !!
生成AI導入に否定的な高等学校の教員 はやはり、否定的なままでした。
まとめ
今回の実験は結論を出すことではなく、メリットとデメリットを明らかにすることを目標としていました。そのため、私自身は得られた結果に満足しています。生成AIを活用することで、単独で行うブレストではなかなか気づかないアイデアに気づくことができました。
OpenAI の ChatGPT-4 や Anthropic の cloude.ai を使っても同じようなディスカッションはできるのですが、以下のような発言を最後にしてきたのは Bing Chat のみです。Microsoftの社員がいうことではないですが、Microsoft の AI に対する取り組みの誠実さには感心しました。