論文メモ
前口上: プロジェクトベースにチームメンバーをガチャガチャ入れ替えるのは効果的か
ベンチャーで働いていると慢性的人手不足ゆえプロジェクトベースにチームができては解散しメンバー構成が安定しないことがあります。逆に大企業で異動があまりなく見知った顔と仕事するだけで日々に変化がないこともあります。
The Effects of Group Longevity Project Communication and Performance : Administrative Science Quarterly はR&D プロジェクトにおけるグループ存続期間(メンバーが共に働いた平均在籍期間)がコミュニケーション行動、技術的成果(パフォーマンス)にどのように影響するかをまとめた論文です。
1982年の論文なので古い論文なのですが、今でも通じるところはあるので読み解いていきます。
背景: 口頭・対人コミュニケーションが情報伝達手段として重要という仮説
論文の中ではエンジニアリング分野では口頭・対人コミュニケーションが報告書や論文よりも強力な情報伝達手段と仮定しています。ここはインターネットの発展によってありようが多少は変わっている部分かもしれないですね。
(当時の)過去研究から、社内コミュニケーションの活性化はプロジェクト成果向上に寄与する一方、外部専門家との交流はプロジェクト特性によって効果が分かれることがわかっています。
グループ存続期間が長くなるにつれてチームが安定志向になり、外部情報から隔絶されるのでは? というのが仮説です。
米国大手企業R&D施設のプロジェクトを対象
米国大手企業R&D施設の50プロジェクトグループ(各3〜15名) を対象に測定。
プロジェクト内/部門内/研究所内/組織内/外部専門家/ベンダーの コミュニケーションがパフォーマンスにどう影響与えるかを測定しています。パフォーマンスは部署長・研究所長による7段階主観評価です。
グループ存続期間はメンバー個々のプロジェクト在籍期間の平均とし、在籍期間を0–1.5年/1.5–4.9年/5年以上に区切り解析しています。
結果: 在籍期間が2〜4年でパフォーマンスがピーク
結果は在籍期間が2〜4年でパフォーマンスがピークとなり山形カーブが確認できました。1.5年未満もしくは5年以上でパフォーマンスは有意に低下。
長期在籍グループほどプロジェクト内コミュニケーション、組織内(他部門)コミュニケーション、外部専門家とのコミュニケーションが減少しました。その他の部門内/研究所内/ベンダーとのコミュニケーションには顕著な差がありませんでした。
これは長期在籍→コミュニケーション減少→成果低下というモデルで説明できます。
対策: どうやれば長期存続チームのモチベーションを上げられるか
長期存続グループほど自分たちのやり方が最善、外部情報は不要で新情報への感度が低下するNot Invented Here(NIH)症候群がみられました。
これを防ぐためにプロジェクトごとに平均在籍期間をモニターし、5年超の長期在籍チームには定期的に外部または新規要員をアサインすることで固定化した価値観を破壊し、コミュニケーション活性化することを提言しています。
補足: その後の研究&個人的考察
その後の研究では長期チームでも外部との接点を意図的に設計すればパフォーマンス悪化を防げるという主張もあるようです。確かにチーム全体でカンファレンスへや勉強会に参加している企業もありますね。
一方でブルックスの法則:ソフトウェア開発において遅延しているプロジェクトに人員を追加するとかえってプロジェクトがさらに遅れてしまう は未だ崩れた話を聞きません。プロジェクトベースにチームができては解散が非効率な部分は不変でチームが安定化するには時間がかかるという認識はもっておく必要がありそうです。