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【2022年版】プロジェクトマネジメントの基本知識と最新動向

Last updated at Posted at 2022-02-07

はじめに

2021年にプロジェクトマネジメント知識体系のデファクトスタンダードであるPMBOK®︎ガイドの第7版が公開されました。6版から7版への改訂にあたって考え方が大きく変わっており、「プロジェクトマネジメントで行うべきプロセスを定義し、プロジェクトに適合するプロセスを選択する」という考え方から、「プロジェクトマネジメントの原則を定義して、原則に沿ったマネジメント方法をプロジェクトの特性に合わせながら構築する」という考え方に変わりました。

この改訂によりプロジェクトマネジメントの自由度は上がったものの、PMBOK®︎の初学者にとっては原則だけが提示されるようになり、そもそもプロジェクトとはどういったものなのかは理解しにくいものになったと感じます。

本稿では、プロジェクトマネジメントをこれから学ぶ人に向けて、知っておくべき基礎知識と、2022年現在のプロジェクトマネジメントの動向について述べます。

そもそもプロジェクトとは何か

そもそも「プロジェクト」とは何かについて、定義やその構造について説明します。

プロジェクトの定義とは

PMBOK®︎によるとプロジェクトとは「独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施される有期性の業務」と定義されます。

詳しく説明すると、プロジェクトとは

  • プロダクト(product):ビルや橋のような建造物やソフトウェアなど有形・無形の製品
  • サービス(service):コンサートでの演奏や旅行体験など、無形の財や価値
  • 所産(result): レースでの優勝やオリンピックでの金メダルなど、結果

を創造するための一連の活動のことで、

  • 独自性:その人や組織にとって、はじめてであること。
  • 有期性:明確な始まりと終わりがあること

という2つの特性を持っているということです。

例えば、新規製品の開発や既存製品の改良、新たなサービスの開発といった業務はプロジェクトです。既存製品の量産や、開発したサービスの運用といった業務は、独自性や有期性がないためプロジェクトではありません。これらは「定常業務」と呼ばれます。

プロジェクトマネジメントとは

プロジェクトマネジメントとは、その名前の通りプロジェクトをマネジメントすることです。
PMBOK®︎では「プロジェクト要求事項を満たすために、知識、スキル、ツールと技法をプロジェクト活動へ適用すること。意図した成果を上げるためにプロジェクトの作業を導くこと。」と定義されます。

プロジェクトの構造

プロジェクトについてもう少し具体的に知るため、いくつかの切り口でプロジェクトを分解してみましょう。切り口ごとに概要を以下に述べます。

プロジェクトの「段階」

プロジェクトはいくつかの段階に分解することができます。これらはPMBOK®︎ガイド第6版で「5つのプロセス群」として説明されています。

  • 立ち上げ
    • プロジェクトの企画をします。プロジェクトの達成目標や関係者、投資対効果などを明らかにして、スポンサーからプロジェクトを開始する認可を得ます。
  • 計画
    • プロジェクトの目標達成に向けて企画内容を洗練し、目標達成のために必要なアクションを定義します。
  • 実行
    • 計画段階で定義したアクションを実行します。
  • 監視
    • プロジェクトの進捗やパフォーマンスが計画通りかどうかを監視します。状況により、計画の変更が必要な箇所を特定し、該当する変更を開始します。
  • 終結
    • プロジェクトを正式に完了し、プロジェクトのアウトプットを定常業務へ移管します。

プロジェクトの「勘所」

プロジェクトをうまく進めるためには、いくつか「気にしておくべき事柄(=勘所)」があります。これらの勘所については、PMBOK®︎ガイド第6版では「10の知識エリア」として説明されています。

まずは、プロジェクトに関わる多くのヒトやモノに関する4つの勘所について説明します。

  • ステークホルダー
    • ステークホルダーとはプロジェクトの成否により利害が発生する「利害関係者」のことです。組織の経営者、ユーザー、開発したプロダクトを維持する管理者などが該当します。
    • プロジェクトを支援する人だけでなく、阻害する人もいます。プロジェクト成功のためには、利害関係者を特定して良好な関係を築きあげ、協力しながらプロジェクトを進めることが不可欠です。
    • プロジェクトを通して、誰がステークホルダーかは変化します。変化を見逃さないようにしましょう。
  • 資源
    • 資源とは、プロジェクトチームのメンバー(=人的資源)や、目的達成に必要な材料(=物的資源)のことです。
    • プロジェクト成功のためには、資源を適切なタイミングと場所で確実に使える状態にすることが重要です。
    • プロジェクト目標の達成には、必要なスキルと熱意を持った人材でチームを形成することが不可欠であり、人的資源の管理が特に重要です。
  • 調達
    • プロジェクト達成に必要なチームリソースや、開発に必要な材料などは、所属組織だけで賄えることはほとんどありません。
    • 外部組織(=サプライヤ)と契約を結び、人材や材料を外部から調達します。
    • どのような方法でサプライヤを選定し、どのような契約を結ぶのかがプロジェクトに大きく影響を与えます。
  • コミュニケーション
    • プロジェクトにおいては、ステークホルダーやサプライヤなどの関係者、チームメンバーと「コミュニケーション」が必ず発生します。
    • 誰といつどのようにコミュニケーションをするか、その方法を取り決めておくことでプロジェクトを円滑に進めることができます。
    • 2020年頃からリモートワークも増え、WEB会議やチャットなどコミュニケーション方法が多様化しています。

次はプロジェクトで管理することに関連する勘所についてです。

プロジェクトは、高品質なもの(=要求にしっかり応えているもの)を、最小限のコストで、限られた時間の中で成果を挙げることが求められます。

いわゆるQCDと言われるもので、関連する勘所は以下の4つです。

  • スコープ

    • 端的にいうと、「プロジェクトで何をするか、何をしないか」ということです。
    • プロジェクト自体やそのアウトプットに対する要求事項を収集・分析し、納期やコストを考慮してスコープを決めます。
    • プロジェクトのアウトプットに対するスコープは、後述する「品質」を測定するための尺度となります。
  • 品質

    • 品質は、要求にどれだけ応えられているかということです。
    • プロジェクトマネジメントにおいては、プロジェクトにより創出されるアウトプットそれ自体の品質と、アウトプットするためのプロセスの品質の2つが重要です。
    • 品質は高ければ高いほど良いというわけではなく、予算や納期とのバランスをとりながらどこまで品質を高めるかが重要です。
  • スケジュール

    • プロジェクトの進捗を把握して関係者と状況を共有し、スケジュールの計画や調整をしたりします。
    • プロジェクトのスコープや資源などから、プロジェクト完了に必要な期間を見積もり、どう進めるかを計画します。
    • プロジェクト全体の進捗状況や個別のタスクの進行状況を把握して、遅延などあれば対処を行います。
  • コスト

    • プロジェクトには、必ず予算が設定されています。
    • 資源やスコープ、スケジュールなどから、プロジェクト達成に必要なコストを見積もり、実際にかかったコストと比較します。
    • コストは低ければ良いわけではなく、適切なコストを見積り、コントロールすることが重要です

最後に、プロジェクト全体に影響を与える勘所です。

  • リスク
    • これまでにあげた勘所すべてには、プロジェクトの内外からのさまざまな「リスク」が潜んでいます。
    • リスクは予期しない事象のことです。脅威も好機もリスクであり、例えば雨天が続いて工事が遅れることも、好天が続いて工事が早まることもリスクです。
    • スケジュールだけではなく、コスト(工事遅延による人件費増など)や調達(材料の調達遅れなど)といった、全ての勘所に影響を与えます。
  • 統合
    • これまでにあげた全ての勘所には依存関係があり、ある勘所の変更が他の勘所に影響を与えます。
    • 例えばスケジュール遅延は多くの場合コスト増加につながり、資源や調達の計画にも影響を与えます。
    • そのため、これらの勘所については必ず「統合」して検討します。何か変更が発生したら、全体への影響を考慮することが肝要です。

先に説明した段階と、これら知識エリアのマトリクスでやるべきことを取りまとめたものが「49のプロセス」であり、PMBOK®︎ガイドの第6版ではこのプロセスをベースに説明されています。記載されているプロセス通りにすべてをマネジメントしようとするのではなく、プロジェクトの特性や状況に応じてテーラリングすることが推奨されています。

うまくいくプロジェクトの「共通事項」

これまでに述べた切り口とはまた別の切り口で分解してみます。

そもそも「うまくいっているプロジェクト」の共通点はなんでしょうか?
さまざまな業界・業種のプロジェクトを分析したところ、以下の12の共通点が導出されました。
これらの共通点は、PMBOK®︎ガイド第7版で「プロジェクトマネジメントの原則」と呼ばれるものです。詳細はPMBOK®︎ガイド第7版を参照してください。

  • スチュワードシップを持ち責任ある意思決定を行う
  • お互いを尊重し協力し合うチームを構築する
  • ステークホルダー(利害関係者)と効果的に関わる
  • 価値の創造に焦点を当てる
  • システム思考によりプロジェクト内外の状況の変化を認識し、対応する
  • プロジェクトに携わる誰もがリーダーシップを持つ
  • 状況に応じて適切なアプローチを設計する
  • 品質をプロセスと結果に組み込む
  • 事態の複雑さに気を配り、対処する
  • プラスのリスク(好機)を最大限に高め、マイナスのリスク(脅威)を最小限に抑える
  • 適応性と回復力を備え、価値実現に向けて進み続ける
  • 受益者(顧客・ユーザ等)から、プロジェクトの成果がもたらす変革への賛同を得る

プロジェクトの「活動」

プロジェクトにおける活動は、以下8つの活動群に分類することができます。これらの活動群は、PMBOK®︎ガイド第7版で「プロジェクト・パフォーマンス領域」と呼ばれるものです。こちらも詳細はPMBOK®︎ガイド第7版を参照してください。

  • Stakeholders(利害関係者) 
    • プロジェクトの関係者に向けた活動です。
  • Team(チーム)
    • プロジェクト活動を行うチームに向けた活動です。
  • Development Approach and Life cycle(開発アプローチとライフサイクル) 
    • プロジェクトの遂行に関する活動のうち、大方針に関連する活動です。
  • Planning(計画)
    • 大方針にもとづく計画に関する活動です。
  • Project work(プロジェクト作業) 
    • 計画に沿って作業を実行に移す活動です。
  • Delivery(提供・納品)
    • 一定の品質を所産のスコープと品質に関する活動です。
  • Measurement(測定)
    • プロジェクト全体のパフォーマンス(主にQCD)の測定に関する活動です。
  • Uncertainty(曖昧さ・複雑さ・変動性などの不確実性への対処) 
    • プロジェクトの外からの影響への対処に関する活動です。

プロジェクトマネジメントの原則を指針としつつ、これら活動群における個々の活動をテーラリングしてプロジェクトに最適な手法でプロジェクトマネジメントを行う、ということがPMBOK®︎ガイドの第7版の主旨です。

勘所と原則を比べてみると、内容が概ね似通っていることがわかります。つまり、PMBOK®︎ガイドの第6版から第7版の改訂によって説明の切り口は大きく変わったものの、プロジェクトマネジメントで重要なポイントそのものは大きく変わっていないことがわかります。

プロジェクトに影響を与える外部要因

これまではプロジェクトの内部について説明してきましたが、プロジェクトの外部からも影響を与える要因があります。

外部からプロジェクトに影響を与える事象は、以下6つの視点で洗い出すことができます。この視点で洗い出すことをPESTLE分析といいます。

  • Political(政治)
  • Economics(経済)
  • Social(社会)
  • Technological(技術)
  • Legal(法律)
  • Environmental(環境)

これら外部要因の変動はプロジェクトに何らかの影響を与えますが、プロジェクトの中から外部要因自体に対処することは、ほとんどの場合できません。

例えば、法律の変更が開発中の製品が影響を受ける場合、法律の変更に抗うよりもその変更を受容し製品仕様の見直しを行うことは、容易に想像できるでしょう。外部要因は日々監視を怠らず、何か変更がみられる際には素早く対処する必要があります。

プロジェクトマネジメントの動向

ここまでプロジェクトの定義や構造、外部要因について述べてきましたが、次はビジネスや市場といった環境の変化が、プロジェクトマネジメントにどういった影響を与えたかについて述べます。

予測不能な時代の到来

例えば2018年頃には「Uber」や「Airbnb」といった既存ビジネスモデルを破壊するサービスが出現したり、2020年には感染症の流行により世界中で生活様式が変化したりしています。このように、これまでの常識が非常識になることが増えています。

現代社会はビジネス環境や市場、組織、個人等、あらゆるものを取り巻く環境が変化し、将来の予測が困難となっており、2019年頃から現代は「VUCAの時代」と呼ばれるようになりました。

VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった造語で、予測不可能な状態や、カオス化した経済のことを表現しています。

グローバル市場の変化

VUCAの時代では、グローバル市場には以下のような傾向が見られます。

  • 顧客中心

    • 顧客のニーズをより理解して、顧客へのロイヤリティを提供・維持するように変化しています。
    • 多くの組織があらゆる顧客データやニーズを収集して分析してインサイトを得て、新しいアイディアの創出やプロダクト・サービスの改善を行っています。
  • ソフトウェアが価値を強化

    • 多くの組織がWebサイトやWebアプリを通してビジネス上の取引の一部を行い、スマートビルや電気自動車といった建物や車など、あらゆるものにソフトウェアが搭載されるようになりました。
    • このため、プロダクトやサービスを撤退するまでメンテナンスし続ける必要があり、長期的かつ継続的な開発を行うようになっています。
  • 継続的な提供と支払い

    • プロダクトを開発して売り切るような課金を都度行うモデルから、プロダクトやサービスを継続的に改良・発展させながらユーザに長期的な利用を促して継続的に課金するモデル(いわゆるサブスクリプション)に変わりつつあります。

このような傾向から市場はこれまでのプロジェクトで成果物を1回だけ提供する短期的なモデルから、継続的に価値を提供する長期的なモデルに移行しています。

例えばZoom社やNetflix社のように、ソフトウェア製品を中心に事業を展開し、顧客のあらゆるデータを収集・分析することで顧客を理解して、継続的な顧客体験を提供して継続的な収益を得る、というようなビジネスモデルが増えています。

プロジェクトマネジメントの変化

グローバル市場が変化することで、プロジェクトマネジメントにおいても重視するものが変わってきました。

OUTPUTからOUTCOMEへ

成果物を1回だけ提供する従来のプロジェクトマネジメントではQCD(品質・コスト・納期)をコントロールして成果物を創造すること(=output)が重視されていました。しかし、PMBOK®︎ガイドの第7版でプロジェクトマネジメントの原則の1つに「価値の創造に焦点を当てる」と定義されたように、継続的に価値を提供するモデルでは従来のQCDだけではなく開発した製品やサービス、所産による効果や成果(=outcome)が重視されるようになり、プロジェクト成否を分ける重要な指標になっています。

プロジェクトマネジメントからプロダクトマネジメントへ

VUCA時代のグローバル市場においては、プロジェクトよりも長期的な視点で価値を提供し続けることに焦点をおいた「プロダクトマネジメント」が注目されています。

プロダクトマネジメントでは、下図に示すように、プロダクトの導入から成長、成熟、そして撤退までのライフサイクルを通して、プロダクトの成功に向けて複数のプロジェクトを実施していきます。

PdMとPM.png
図:プロダクトマネジメントとプロジェクトマネジメントの関係

これら複数のプロジェクトのoutcomeを高めてプロダクトを成功させるには、コアとなるビジョン(=プロダクトを通してどのような未来を作りたいのか)を明確にした上で、プロダクトの「Why」(=プロダクトを通して何を達成するのかという目標や課題)を設定することが特に重要です。

その上で「What」「How」にあたる一つ一つのプロジェクトを実行し、成果を確かめながらマネジメントしていくことで、プロダクトを成功に導きます。このように、プロジェクトではなく、プロダクトを中心とする考え方に変わりつつあります。

おわりに

本稿ではプロジェクトとは何か、そして2022年になってどのように変わってきているのかについて、PMBOK®︎をベースに述べました。

プロジェクトマネジメントの知識体系であるPMBOK®︎ガイドが第6版から第7版にかけて大幅な改訂がされていますが、プロジェクトマネジメントの方法というよりも、ビジネスや市場といったプロジェクトを取り巻く環境の大きな変化によってプロジェクトの在り方や重視するものが変化しています。

今回の改訂で、筆者が特に注目した変化は、以下の2つです。

  • プロジェクト管理の成果(QCD)よりも、プロジェクトの成果がもたらす価値を重視
  • マネージャによる中央集権的な管理よりも、チーム全員による分散型の管理を重視

特に後者は、プロジェクトメンバー全員がプロジェクトに主体的に関わり、プロジェクトマネージャーだけではなく、メンバー全員でプロジェクトをマネジメントする必要性が示されています。プロジェクトマネージャだけではなく、プロジェクトメンバーもPMBOK®︎を学ぶことで、プロジェクトへより貢献できるようになることから、今後プロジェクトマネジメントを学習する人は増えると予想しています。

本稿が、これからプロジェクトマネジメントについて学ぶ方々の一助になれば幸いです。

参考文献

  • Project Management Institute. 2018. A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK®︎ Guide) - Sixth Edition
  • Project Management Institute. 2021. A Guide to the Project Management Body of Knowledge (PMBOK®︎ Guide) - Seventh Edition and The Standard for Project Management
  • 及川 卓也 他. 2021. 『プロダクトマネジメントのすべて』. 翔泳社.
  • トッド・オルソン. 2021. 『プロダクト・レッド・オーガニゼーション 顧客と組織と成長をつなぐプロダクト主導型の構築』. 横道稔訳. 日本能率協会マネジメントセンター.

PMBOK is a registered mark of the Project Management Institute, Inc.

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