秘密戦隊ゴレンジャー第47話「赤い大逆襲!怒りのゴレンジャー」(脚本:上原正三、監督:山田稔、技斗:岡田勝、(C)石森プロ、東映)より
イーグルの江戸川総司令はゴレンジャーの警護にも関わらず彼らとイーグル諜報部員007の目の前で黒十字軍のコンドラーによって拉致されてしまった。悔しがる一同。
キレンジャー「しまったばい。」
すると空中から青地に黒十字軍のマークがついた紙が落ちてきた。ゴレンジャーのリーダーのアカレンジャーは拾い上げた。その怪しい紙に書かれた文言をアカレンジャーが読み上げた。
アカレンジャー「二十四時間以内に
嵐ヶ原に、バリドリーンとバリタンクを持ってこい。
さもなくば
江戸川総司令の命はない。
鳥牙仮面」
なお鳥牙仮面は「とりきばかめん」と読む。
アカレンジャーは顔を起こし、瞬時にその青い紙を右手で握りつぶしてしまった。
怒りに燃えていたのである。
♪チャチャチャチャーン、チャチャン
CM
♪チャチャチャチャーン、チャチャン
CM明けてゴレンジャールーム。
強化ヘルメットを置く一同。
なお新命明と大岩大太はいつの間にか愛用の帽子を被っていた。
明らかに強化ヘルメットを脱いでから帽子を被ったはずなのだが、
帽子を被る場面は映らなかった。
閑話休題。
大岩大太「総司令の命には替えられん。渡すべきだよ、この際。」
素朴な大岩大太はこう言った。
頭の片隅にはマスターの特製大盛カレーが食べられなくなるという打算もあったかもしれないが、それはこの際無視すべきだろう。
だが大岩とコンビを組む事が多い新命明はこう反論した。
新命「しかし渡したからと言って、総司令の命が無事に帰るという保証はどこにもないんだ。何しろ黒十字軍だからな、相手は。」
新命はかつて黒十字軍からの果し状に応じて一人で出向き罠にハマって地図を奪われた過去があるので説得力がある。
その後、誰も口を開こうとしなかったが
007「見て!」
007がモニターを指差した。
モニターには火の山仮面マグマン将軍と江戸川総司令の姿が映っていた。
この映像をどうやって送受信していたのかは謎だが皆モニターに釘付けになった。
火の山仮面「ゴレンジャー、よーく見ろ。」
大岩「総司令。」
火の山仮面「御覧の通り、諸君達の総司令は冷凍カプセルの中で眠っている。諸君の決断が延びればこのまま、凍死していくのだ。」
海城剛「なんて事をするんだ!」
大岩はモニターのそばまで寄っていた。
火の山仮面「男は思い切りが大事だぞ。」
ペギー松山(と007)の存在を火の山仮面は忘れているのか、それとも勢いなのか、火の山仮面はそう言った後、高笑い。火の山仮面はカメラの前から立ち去り、凍らされて意識のない江戸川総司令がアップになった後、映像は途切れた。
大岩大太「死んでしまう。総司令が死んでしまう。渡すべきだよ、海城どん。」
総司令が死ねばツケを溜めてまでたくさん食べていたマスター特製カレーを食べられなくなるからだろうか。大岩は強硬に主張した。
あまりの事態に海城は何も答えられなかったが、海城の斜め後ろにいた007が口をひらいた。
007「これ、総司令から預かったものよ。非常事態に聞かせろって。」
007が懐から取り出したのはカセットテープだった。
1976年はこれで音声をアナログ信号(?)で録音していた。
海城は無言で007から受け取り、ペギーに手渡した。
ペギーは頷いて、それを再生させた。
007も海城もテープを再生させることはできると思うのだが、動揺していたのであろう。
江戸川総司令の声「ゴレンジャー諸君。私の命が如何なる危険にさらされようとも次の三つは守ってくれ。
その一つ、ゴレンジャー基地の地図。
その2、バリドリーン。
その3、バリタンク。
その三つの何か一つは欠けても我がゴレンジャーは破滅の道を辿るだろう。
ゴレンジャーの破滅は世界人類の破滅にも繋がるのだ。
一時的感情で判断せず終始冷静であることを望む。
これは総司令としての至上命令と心得てほしい。
以上。」
大岩の表情はますます沈痛なものになった。
いつもはクールな新命でさえ、その目から涙が出そうであった。
海城「どうすべきか。」
新命「冷静に判断しよう。俺達はそれに従う。」
新命はチラッと海城の方を見ていた。
大岩「任せるばい。」
彼は顔を海城の方へ向けた。
さて坊やこと明日香健二の意見はというと
明日香「うん」
ペギーも頷いた。
とはいうもののフルーツパーラーゴン(そう、スナックではなくなったのに大岩はフルーツパーラーゴンでもカレーを注文して食べていたのだ)でも一同は誰も喋ろうとはしなかった。
いつもはカウンターに座ってマスター特製の大盛カレーを食べる大岩は何も食べずにテーブル席に座り、明日香はその横で立ったまま。
大岩は左肘をテーブルにつけて左手で頬を押さえて考え込んでいた。
それくらい重い事態だったのだ。
その大岩の反対側の席には007こと加藤陽子の弟の太郎が座って本を広げていた。
新命は別のテーブルの席に座り、愛用の白いギターを抱えたまま。
ペギーは何故かぬいぐるみを抱えてカウンター席に座っていた。
海城はペギーとは離れていたがカウンター席に座り、
007はウエイトレスなのでカウンターにいた。
カウンターの奥には九官鳥(と呼ばれているがロボットかもしれない)のゴンのいる鳥籠が。
重苦しい空気だ。
明日香はそれに耐えきれなくなったのか海城とペギーの間に座り、コーヒーを飲み始めたが誰も口を開こうとはしなかった。
海城の心の声「逆転する方法はないのか。いや、きっとあるはずだ。」
とこの時、この重い空気を読めない人物がいた。太郎である。太郎が大岩にこう言った。
太郎「ねえねえ、大岩さん。」
大岩「え?」
太郎「世界で一番トンマの戦争を知っている?」
番組恒例とはいえ、この場の雰囲気とは明らかに合わないなぞなぞに思わず大岩はこう返してしまった。
大岩「太郎くん、悪いけど今日は勘弁してくんしゃい。」
いつもなら「なんじゃらほい?」と聞き返すのだがマスターの特製カレーが食べられなくなることがよほど堪えているのだろう。だが太郎はこう言った。
太郎「簡単だよ。」
大岩「ん?」
太郎「トンマはトロイだろう。だからトロイ戦争さ。ほら。」
大岩「ん?」
太郎が大岩に見せた本にはトロイの木馬が描かれていた。
ペギーは思わず笑顔になってこう言った。
ペギー「ギリシャ人がトロイを攻めた時のお話ね。30人ほどの兵士を木馬に入れ、
城内に忍び込ませ、夜中に飛び出して城門を開けた。」
明日香「うん。それでギリシャ軍は一気に場内に雪崩れ込み、大勝利か。」
ペギー「そう。」
明日香はペギーとよく組んで出動するのでペギーの言いたいことがわかったらしい。
ゴン「トロイ、トロイ。」
この他愛のないやり取りを聞いて海城は閃いた。
海城「おい。トロイ戦争だよ。」
海城の顔は喜びに満ち溢れていた。
新命は海城の考えていることに気がつき顔を上げた。
ペギーも気がついた。
007も明日香も大岩も海城のところに集まった。
大平透「ゴレンジャーのリーダー海城剛は太郎くんのなぞなぞから大逆転のヒントを得た。
果たしてその作戦とは如何なるものであろうか。」
さて場面変わって黒十字軍のナバローン要塞。キレンジャーがその名を聞いて「はてどこかで聞いたような。」と言った、あの要塞である。
火の山仮面「総統閣下。お喜び下さい。ゴレンジャーが全面降伏を申し出てきました。」
黒十字総統「バリドリーンとバリタンクをしき渡すというのか。」
黒十字総統は江戸っ子なのか「引き渡す」を「しき渡す」と言ってしまうのである。
それにしてもこの頃の黒十字総統の顔は怖かったし言葉にも威厳があった。
中の人が替わってガラの悪いだけの間抜けな性格になった最終回とは大違いである。
閑話休題。
火の山仮面「は。作戦通りです。」
本放送当時、火の山仮面の中の人とアカレンジャーの中の人が同じことまでは私は知らなかったが、火の山仮面は海城剛同様、喜んでいた。
閑話休題。
黒十字総統「ついに来たか。黒十字軍が世界を制覇する時が。」
脚本を書いた上原正三は敵組織側の描写も怠りない。
「怪奇大作戦」をプロデュースした橋本洋二プロデューサーのメガネにかなったのも当然であろう。
ただ「怪奇大作戦」当時、いや、前年の「イナズマンF」の頃まで大岩大太のようなボケを入れることはしなかった。
「イナズマン」に登場した愛すべき三枚目の丸目豪作は「イナズマンF」には全く登場しなかった。
「快獣ブースカ」はコメディーだがそちらでは重い話を上原正三はあまり書かなかった。
上原正三の緩急自在の作風は「秘密戦隊ゴレンジャー」からである。
閑話休題。
そしてナバローン要塞のすぐそばにバリドリーンが着地。
火の山仮面と鳥牙仮面に連れられてきた江戸川総司令は思わずこう言った。
江戸川総司令「来るな。降伏は許さんぞ。」
鳥牙仮面は杖で総司令を威嚇し、こう言った。
鳥牙仮面「バリタンクをバリドリーンから降ろせ。」
直ちにバリタンクがバリドリーンから発進。
自動操縦可能なのか、バリタンクの走行路はバリタンク発進後、直ちに収納された。
定番の場面なので黒十字軍の面々は深く考えずにバリタンクが近づくのを見ていた。
鳥牙仮面「よーし、全員、地上に降りろ。」
バリタンクから、海城、新命、明日香、ペギー、大岩が降りた。
ペギーと大岩は強化ヘルメットを被っていた。
明日香は強化ヘルメットを被らず、手で抱えていた。
海城は何も被らず、新命は愛用の帽子を被っていた。
よほどその帽子が好きなのだろう。
そしてバリタンクの前に左から順に明日香、ペギー、海城、新命、大岩の順に並んだ。
海城「江戸川総司令と交換するという約束だ。」
江戸川総司令の真後ろに黒十字総統が立った。相当ご満悦の様子でこう言った。
黒十字総統「よし。その男を返してやれ。」
総司令を「その男」呼ばわりである。
その命令に配下は従った。
火の山仮面「行け。」
鳥牙仮面「は。」
江戸川総司令をゾルダー(要するに戦闘員)に連行させて地上に降りた鳥牙仮面。
バリドリーンとバリタンクと引き換えという屈辱に江戸川総司令は複雑な表情を浮かべていた。
鳥牙仮面「バリタンクをこっちへ持って来い。」
ゾルダー2名「ホイ!」
ゾルダー2名がバリタンクに乗り込み、扉(?)を閉めた。
即座に動き出すバリタンク。
黒十字軍の面々はバリタンクの操縦法をいつの間に覚えたのであろうか?
そんな瑣末な疑問を物ともせず、バリタンクは鳥牙仮面の真後ろに着いた。
鳥牙仮面「放せ。」
ゾルダー「ホイ!」
江戸川総司令が解放された。
大岩「総司令」
ペギー「総司令」
やはり大岩が最初に口を開いた。マスターの特製カレーが食べられるからであろう。
だが総司令の心は晴れない。
江戸川総司令「なぜワシの命令にそむいた? なぜ降伏した?」
海城「死ぬも生きるも一緒ですよ。」
新命はニヤリと笑って頷いた。
何か魂胆があるようだが総司令や黒十字軍は気づいていない。
大岩も笑って頷いた。フルーツパーラーゴンでマスターの特製カレー大盛を食べられるからだろう。
明日香「総司令」
ペギーの顔は無言だった。
江戸川総司令「バカもんが。」
待ちぼうけを食った形の鳥牙仮面はこう言った。
鳥牙仮面「ふふ。なーにゴチャゴチャ言ってる。バリドリーンは俺がもらったぞ。」
スタコラさっさと走る鳥牙仮面。
バリドリーンに倒錯した愛を傾けていた(ように見える)新命は鳥牙仮面を追いかけようとしたのだが、ゾルダー2名にマシンガンを突きつけられて諦めた。
黒十字総統「鳥牙仮面。バリドリーンを動かしてみよ。」
鳥牙仮面「は。」
バリドリーンは発進した。
新命が初めて操縦した時はなかなか慣れずに操縦に手こずったというのに、なぜこんなに難なく鳥牙仮面は操縦できたのであろうか?
新命「バリドリーン…」
愛機を奪われた新命は思わずこう言ってしまった。
なおバリタンクを主に操縦していた海城は微動だにしない。
この場面一つとっても脚本を書いた上原正三の人物描写は巧みである。
火の山仮面「これで黒十字軍の天下です。」
黒十字総統「ゴレンジャー全員を射殺しろ。」
黒十字総統はハナからそのつもりだったのだ。
だから江戸川総司令をあっさり解放したのだ。
どうなる、ゴレンジャー。
そして地球はどうなる。
火の山仮面「は。やれ。」
ゾルダー全員、ゴレンジャーと江戸川総司令にマシンガンを向けた、その時、バリタンクが突如動き出した。
ニヤリと笑う海城剛。
黒十字軍の誰もが海城が何故笑ったのか、その理由を察知できていなかった。
バリタンクは機銃掃射。
ゾルダー「ホイ!」
ゴレンジャーと江戸川総司令に銃を向けたゾルダーは全員射殺された。
驚く江戸川総司令。そして
火の山仮面「お!」
予想だにしない展開に火の山仮面は動揺した。
被り物のはずなのに驚きが伝わってくるのだから新堀和男さんの演技も巧みだ。
そしてバリタンクの扉(?)が開くと
ゾルダー「ホイ!」
ゾルダーが1名(2名入ったんじゃなかったの?)叩き出され、中から007が登場した。007は右手の人差し指と親指で輪を作った。
大岩「グーじゃの。」
海城「行くぞ。ゴー!」
ゴレンジャーは全員変転し、反撃開始。
ゾルダーと闘い始めた。
ゾルダーの人数が合ってないような気がするのだが、そんなのは瑣末な疑問に過ぎない。
アカとモモは事態を飲み込みきれない江戸川総司令をつれてバリタンクのところへ駆け寄った。
バリタンクから降りる007が3人を出迎えた。
007「総司令、ご無事で。」
江戸川総司令「なんだ。ワシまで騙しおって。」
アカ「冷静に判断しましたよ。」
江戸川総司令「よくやった。」
アカ「(007に)総司令を頼んだぞ。」
007「はい。」
アカとモモが追いかけてきたゾルダーを倒し、007は江戸川総司令を警護した。
さて空飛ぶバリドリーンはというと
鳥牙仮面「ゴレンジャーめ。ジタバタしたって後の祭りよ。バリドリーンはもらったぞ。」
だが鳥牙仮面は気が付いていなかった。
以前、鉄人仮面テムジン将軍がバリブルーンを奪った時に何が起きたのかを。
そう。
アオ「トイヤー! トイヤー! トイヤー!」
ゾルダーを薙ぎ倒した後、
アオ「そうはさせん! オートコントローラー!」
鳥牙仮面の言葉がなぜ聞こえたのかはわからないがアオレンジャーはオートコントローラーを操作。鳥牙仮面は椅子ごと操縦席から射出され、パラシュートで降下する羽目に陥った。
鳥牙仮面「ああ、どうなったんだ、これは。」
バリタンクもナバローン要塞を砲撃開始。
火の山仮面「総統閣下。形成不利です。さあ、ご避難なさってください。」
黒十字総統「おのれ。ゴレンジャー。」
火の山仮面と黒十字総統はナバローン要塞ごと立ち去り、鳥牙仮面も倒された。
かくしてゴレンジャーは江戸川総司令の奪還に成功したのであった。
教訓
外部から持ち込まれたデバイスの受け入れ確認は厳重に。
油断大敵、火がボーボー。
なんじゃらほい?