の記号を用います。
\newcommand{\hom}{\mathrm{Hom}}
\newcommand{\simeqb}{\simeq_\mathrm{bundle}}
\newcommand{\pr}[1]{\mathrm{pr}_{#1}}
\newcommand{\open}{\mathcal{O}}
\newcommand{\R}{\mathbb{R}}
\newcommand{\C}{\mathbb{C}}
記号
数学的なオブジェクトの組
a = (a_1,a_2,\cdots,a_n)
に対して、$i$番目の要素を取り出す射影写像を
\pr{i}(a) = \pr{i}(a_1,a_2,\cdots,a_n) = a_i
と書き表します。ちなみに自明ではありますが、
a = (\pr{1}(a), \pr{2}(a), \cdots, \pr{n}(a))
です。
束(バンドル)
位相空間$E,B$に対して全単射な連続写像$\pi:E\rightarrow B$が存在するとき、
$(E,\pi,B)$を束と呼びます。
用語
束の構成要素はそれぞれ
- $E$: 全空間
- $B$: 底空間
- $\pi$: 射影
- $\pi^{-1}(b) \subset E$: $b \in B$上のファイバー
と呼びます。
部分束
2つの束$(E,\pi,B),(E',\pi',B')$において
E' \subset E \\
B' \subset B \\
p' = p|_{E'}
であるとき、$(E',\pi',B')$は$(E,\pi,B)$の部分束であると言います。
切断
束$(E,\pi,B)$に対して連続写像$\sigma: B \rightarrow E$が
\pi \circ \sigma = \mathbf{1}
を満たすとき、$\sigma$を束$(E,\pi,B)$の切断と言います。$E \xrightarrow{\pi} B$上の切断全体の集合を$\Gamma(B,E;\pi)$や省略して$\Gamma(B,E),\Gamma(E)$と表します。
注意
任意の束に対して切断は必ずしも存在するとは限りません。
切断が存在するかどうかも束を議論するうえで重要なポイントになります。
しかし、次の紹介する局所切断であれば常に存在します。
局所切断
開集合
U \in \open_B
に制限した切断を局所切断と言います:
\sigma_U: U \rightarrow E \\
\pi \circ \sigma_U = \mathbf{1}|_U
$U$上の局所切断全体の集合は$C(U,E)$と表されます。
ファイバー束
束$(E,\pi,B)$に対し、ある位相空間$F$が存在して
\forall b \in B: \exists V_b \in \mathcal{O}_B: \exists \psi \in \hom(\pi^{-1}(V_b),V_b \times F): \pi = \pr{1} \circ \psi
であるとき、$(E,\pi,B,F)$をファイバー束と言います。
また、このとき現れる同相写像
を局所自明化写像と言います。$F$は典型ファイバーとか抽象ファイバーと呼ばれています。
ファイバー束の性質
- $B,F$がハウスドルフ空間ならば$E$もハウスドルフ空間です。
(ファイバー束としての)束写像
2つのファイバー束$(E_1,\pi_1,B_1,F_1),(E_2,\pi_2,B_2,F_2)$において、
\exists \xi_E \in \hom(E_1,E_2), \xi_B \in C^0(B_1,B_2): \pi_2 \circ \xi_E = \xi_B \circ \pi_1
であるとき、$\Xi = (\xi_E,\xi_B)$を束写像と言います。
(束として)同型
上の束写像の定義で
\xi_B \in \hom(B_1,B_2)
であるとき、$(E_2,\pi_2,B_2,F_2)$から$(E_1,\pi_1,B_1,F_1)$への逆写像$\Xi^{-1} = (\xi_E^{-1},\xi_B^{-1})$が存在します。このことを2つの束は同型であると言い、
(E_1,\pi_1,B_1,F_1) \simeqb (E_2,\pi_2,B_2,F_2)
と書きます。
このとき、
\forall U_1 \in \open_{B_1}: \exists! U_2 \in \open_{B_2}: U_1 = \xi_B^{-1}(U_2)
で、同相写像
\phi_1: \pi_1^{-1}(U_1) \rightarrow U_1 \times F_1 \\
\phi_2: \pi_2^{-1}(U_2) \rightarrow U_2 \times F_2
がそれぞれ存在します。このとき、
\pi_1^{-1}(U_1) = \pi_1^{-1} \circ \xi_B^{-1}(U_2) = \xi_E^{-1} \circ \pi_2^{-1} (U_2)
で、開集合$\pi_1^{-1} (U_1), \pi_1^{-1} (U_2)$にも1-1の対応関係があります。そこで、
\psi = \phi_2 \circ \xi_E \circ \phi_1^{-1} \\
\psi^{-1} = \phi_1 \circ \xi_E^{-1} \circ \phi_2^{-1}
とすれば、$\psi \in \hom(U_1 \times F_1, U_2 \times F_2)$を構成できます。
同値性
束写像$\Xi = (\xi_E,\xi_B)$において$\xi_B=\mathbb{1}$(恒等写像)であるとき、$(E_1,\pi_!,B_1,F_1)$と$(E_2,\pi_2,B_2,F_2)$は同値であると言い、
(E_1,\pi_!,B_1,F_1) \equiv (E_2,\pi_2,B_2,F_2)
と表します。
自明束
ファイバー束$\mathscr{F}=(E,\pi,B,F)$が自明束であるとは
$\mathscr{F}$に対して位相空間$B',F'$が存在して、ファイバー束$(B' \times F', \pi, B', F')$と同型:
(E,\pi,B,F) \simeqb (B' \times F', \pi, B', F')
であることです。
引き戻し束
ファイバー束$\mathscr{F} = (E,\pi,B,F)$と連続写像$f:B' \rightarrow B$が与えられたとき、
E' = \{ (b',e) \in B' \times E \mid \pi(e)=f(b') \} \\
\pi': (b',e) \rightarrow b'
として束$E' \xrightarrow{\pi'} B'$を定義すれば、$(E',\pi',B',F)$もファイバー束になります。
これを引き戻し束と言い、
f^* \mathscr{F} = (f^*E,f^*\pi,f^*B,F) = (E',\pi', B',F)
と書きます。
チェック
まず、
\xi_E: E' \rightarrow E \\
\xi_E(b',e) \rightarrow e
と定義すると、$E'$の定義から
\forall (b',e) \in E':
\pi \circ \xi_E(b',e) = \pi(e) = f(b') \\
f \circ \pi'(b',e) = f(b') \\
\Leftrightarrow \pi \circ \xi_E = f \circ \pi'
です。次に$(E,\pi,B,F)$はファイバー束だから
\forall b' \in B', \exists V_{f(b')} \in \mathcal{O}_B: \exists \phi \in \hom( \pi^{-1}(V_{f(b')}), V_{f(b')} \times F)
が成り立ちます。そして、$f$は連続写像なので$f^{-1}(V_{f(b')}) \in \mathcal{O}_{B'}$であり、
\psi: {\pi'}^{-1}(f^{-1}(V_{f(b')})) \rightarrow f^{-1}(V_{b'}) \times F \\
\psi(y,e) = (y, \pr{2} \circ \phi(e))
と$\psi$を定義します。ただし、
(y,e) \in {\pi'}^{-1}(f^{-1}(V_{f(b')})) \subset E' \\
\Rightarrow \pi(e) = f(y)
が満たされています。
ここで
{\pi'}^{-1}(f^{-1}(V_{f(b')})) = {\pi'}^{-1} \circ f^{-1}(V_{f(b')})) \\
= (f \circ\pi')^{-1}(V_{f(b')}) \\
= (\pi \circ\xi_E)^{-1}(V_{f(b')}) \\
= \xi_E^{-1} \circ \pi^{-1}(V_{f(b')})
で
\pi(\phi^{-1}(f(y),z)) = (\pi \circ \phi^{-1})(f(y),z))f(b') \\
= \pr{1}(f(y),z) = f(y)
だから、$(y,\phi^{-1}(f(y),z)) \in E'$であり、
\tilde{\psi}: f^{-1}(V_{b'}) \times F \rightarrow {\pi'}^{-1}(f^{-1}(V_{f(b')})) \\
\Leftrightarrow \tilde{\psi}: f^{-1}(V_{b'}) \times F \rightarrow \xi_E^{-1} \circ \pi^{-1}(V_{f(b')}) \\
\tilde{\psi}(y,z) = (y,\phi^{-1}(f(y),z))
が定義できます。さらに任意の元に対して
\tilde{\psi} \circ \psi(y,e) = \tilde{\psi}(y,\pr{2}\phi(e)) \\
= (y,\phi^{-1}(f(y),\pr{2} \circ \phi(e)) \\
= (y,\phi^{-1}(\pi(e),\pr{2} \circ \phi(e)) \\
= (y,\phi^{-1}(\pr{1} \circ \phi(e),\pr{2} \circ \phi(e)) \\
= (y,\phi^{-1} \circ \phi(e) ) \\
= (y,e)
と
\psi \circ \tilde{\psi} (y,z) = \psi(y,\phi^{-1}(f(y),z)) \\
= (y,\pr{2}\phi(\phi^{-1}(f(y),z))) \\
= (y,z)
が成り立つので、$\psi^{-1} = \tilde{\psi}$です。 つまり、$\psi$は同相写像です。そして
\pr{1} \circ \psi(y,e) = \pr{1}(y,\pr{2}\phi(e)) = y = \pi'(y,e)
も成り立つので、$F$は$(E',\pi',B')$の典型ファイバーになっています。
ベクトル束
ファイバー束$\mathscr{F} = (E,\pi,B,F)$の典型ファイバー$F$が線形空間あり、$\forall b \in B$に対して$\pi^{-1}(b)$が線形空間であるとします。
このとき局所自明化写像$\phi \in \hom(\pi^{-1}(U),U \times F)$($U \in \mathcal{O}_M$)を用いて、線形空間としての同型写像
\forall b \in U: \exists \tilde{\phi}_b \in \hom(F,\pi^{-1}(b)): \tilde{\phi}_b(v) = \phi^{-1}(b,v)
が存在するならば、$\mathscr{F}$をベクトル束と言います。また線形空間$F$の次元$\dim F$をベクトル束の次元とします。
実(複素)ベクトル束
ベクトル束としてよくあるのは典型ファイバーとし$F=\R^n,\C^n$を使う場合であり、前者を実ベクトル束、後者を複素ベクトル束と言います。特に1次元の実(複素)ベクトル束を直線束といい、$L = L \xrightarrow{\pi} B$と表します。
実ベクトル束の複素化
ベクトル束$E = (E,\pi,B,\R^n)$に対して、写像
\forall b \in B: J_b:\pi^{-1}(b) \rightarrow \pi^{-1}(b) \\
\tilde{\phi}_b^{-1} (J_b \circ J_b(e)) = - \tilde{\phi}_b^{-1}(e)
を定義します。$z \in \C$に対して
z \tilde{\phi}_b^{-1}(e) = (\mathrm{Re}z) \tilde{\phi}_b^{-1}(e) + (\mathrm{Im}z) \tilde{\phi}_b^{-1}(J_b(e))
とすることで、複素ベクトル束$E^\C = (E,\pi,B,\C^n)$を構成できます。
ファイバー計量
今、典型ファイバー$F$は線形空間なので計量$g_F:F \times F \rightarrow \R_{\geq 0}$が定義できます。このとき、$p \in U \in \mathrm{O}_M$と切断$\sigma,\sigma' \in \Gamma(U)$に対して、切断$\Gamma(U)$上のファイバー計量を
\langle \sigma, \sigma' \rangle_p = g_F\left( \tilde{\phi_p}^{-1}(\sigma(p)),\tilde{\phi_p}^{-1}(\sigma'(p)) \right)
と定めることができます。
ベクトル束の切断
$F$の原点$o \in F$に対してベクトル束にはゼロ切断$\sigma_o \in \Gamma(E)$:
\sigma_o: b \rightarrow \tilde{\phi}_b(o)
が必ず存在します。(アトラスの取り方には依存しますが)
また、$\forall b \in B$に対して
(\sigma_1 + \sigma_2)(b) = \tilde{\phi}_b\left[ \tilde{\phi}_b^{-1}(\sigma_1(b)) + \tilde{\phi}_b^{-1}(\sigma_2(b)) \right] \\
\forall f \in C^\infty(B): (f\sigma)(b) = \tilde{\phi}_b\left[ f(b)\tilde{\phi}_b^{-1}(\sigma(b)) \right]
とすれば、$\Gamma(E)$上に加群の構造が定義できて、$C^\infty(B)$を値に持つ線形空間になります。
リー群と束
リー群の連続な作用
$X$: 位相空間
$G$: リー群
に対して連続写像$\mu \in C^0(G \times X, X)$が
\forall x \in X, \forall g,g' \in G: \mu(g'g,x) = \mu(g',\mu(g,x))
を満たすとき、
gx = \mu(g,x)
を$G$の$X$への左からの作用と言い、$X$を左$G$空間と言います。
リー群の自由な作用
\forall g_1,g_2 \in G \Leftrightarrow \forall x \in X: g_1x = g_2x
であるとき、$G$は$X$に自由に作用すると言います。
軌道空間
$X$を左$G$空間とするとき、$x \in X$に対して
Gx = \{ gx \mid g \in G \}
を$x$の軌道と言います。
また、同値関係
x \sim y \Leftrightarrow \exists g \in G: gx = y
を導入すれば、軌道空間を
X/G = X/\sim \\
= \{ Gx \mid x \in X \}
で定義できます。
リー群の推移的な作用
X \neq \varnothing \Rightarrow \forall x \in X: Gx = X
であるとき、$G$は$X$に推移的に作用すると言います。
軌道空間のなすファイバー束
リー群$G$とその左$G$空間$E$に対して
商射影
\rho_G: E \rightarrow E/G \\
\rho_G(e) = [e]
を考えると$\rho_G^{-1}([e]) \simeq G$なので、$(E,\rho_G,E/G,G)$はファイバー束になります。
主G束
ファイバー束$(E,\pi,B,F)$と$E$に左から作用するリー群$G$を考えます。
(E,\pi,B,F) \simeqb (E,\rho_G,E/G,G)
であるとき、$\mathscr{P} = (E,\pi,B,F,G)$を主G束と言います。
主G束の射影について
主G束の同型性を定める束写像を$\Xi=(\xi_E,\xi_B) \in \hom(E,E) \times \hom(B,E/G)$とすると、
\rho_G(ge) = [ge] = [e] = \rho_G(e)
なので、
\xi_E \circ \pi(gp) = \xi_B \circ \rho_G(gp) = \xi_B \circ \rho_G(p) \\
= \xi_E \circ \pi(gp)
となり、両辺に$\xi_E^{-1}$を作用させて
\pi(ge) = \pi(e)
となります。
(主束としての)束写像
2つの主束$(E_1,\pi_1,B_1,F_1,G_1),(E_2,\pi_2,B_2,F_2,G_2)$に対して、ファイバー束としての束写像$\Xi = (\xi_E,\xi_B)$とリー群としての準同型写像$\xi_G:G \rightarrow G'$が存在して、
\forall g \in G_1, \forall x \in E: \xi_E(gx) = \xi_G(g) \xi_E(x)
を満たすとき、$\Xi = (\xi_E,\xi_B,\xi_G)$を主束写像と言います。$\xi_G$が同型写像で逆写像も存在すれば2つの主束は同型であると言い、
(E_1,\pi_1,B_1,F_1,G_1) \simeq_\text{prime bundle}(E_2,\pi_2,B_2,F_2,G_2)
と書きます。
主G束の制限と拡大
主G束$\mathscr{P}_G = (E,\pi,B,F,G)$と$G$の閉部分群$H$を用いた主H束$\mathscr{P}_H = (E',\pi',B,F',H)$への主束写像があるとき、$\mathscr{P}_G$を$\mathscr{P}_H$の$G$拡大、$\mathscr{P}_H$を$\mathscr{P}_G$の$H$制限と呼びます。
主束と切断
主G束において、自明束であることは切断が存在することの必要十分条件です。
同伴束
主G束$(E,\pi,B,F,G)$にさらに$G$の右からの作用$\nu \in C^0(F \times G,G)$を定めます(こちらは典型ファイバーの方に作用します)。こちらも同様に$fg = \nu(f,g)$と表します。
ここに$E \times G$上の同値関係
(e,f) \sim_G (e',f') \Leftrightarrow \exists g \in G: e' = ge, f' = fg^{-1}
を定めて商空間
E_F = (E \times F)/\sim_G
をとります。また、$\pi_F:E_F \rightarrow B$を
\pi_F([e,f]) = \pi(e)
と定めます。ここで、
\pi_F([ge,fg^{-1}]) = \pi(ge) = \pi(e) = \pi_F([e,f])
なので$\pi_F$はwell-definedに定義されています。これは$F$を典型ファイバーとするファイバー束$\mathscr{P}_F = (E_F,\pi_F,B,F)$になります。
また$E_F$に対する$G$の左作用を
g(e,f) = (ge,fg^{-1})
で定義します。
G同変写像
\mathrm{C_G}(B,F) = \{ f \in C(B,F) \mid \forall g \in G: f(gp) = f(p)g \}
として$f \in C(B,F)$を$G$同変写像と呼びます。
同伴束の局所切断
$\mathscr{P}_F$において開集合$U \in \mathcal{O}_M$上の局所切断$C(U,P_F)$と$C_G(U,F)$の間には全単射写像が存在します。
参考資料
- http://math.stanford.edu/~ralph/fiber.pdf
- 中原 幹夫 著・訳 久木田 真吾, 佐久間 一浩, 綿村 尚毅 訳 理論物理学のための幾何学とトポロジー2 [原著第2版]
- https://www.youtube.com/playlist?list=PLPH7f_7ZlzxTi6kS4vCmv4ZKm9u8g5yic
- https://sites.google.com/site/mathdogs1121/homotopy_theory/fiber_bundle?pli=1
- https://cel.hal.science/cel-00392133/document