代数で習う準同型定理というのは最初よく分からなかったので、個人的に分かりやすいと思う例をご紹介したいと思います。
(群)準同型
2つの群$(G,\cdot)$、$(H,*)$が存在するとき関数
f:G\rightarrow H
が群準同型であるとは、$f$が
\forall g_1,g_2 \in G, \quad f(g_1\cdot g_2) = f(g_1)*f(g_2)
を満たすことである。
準同型定理
準同型写像$f:G \rightarrow H$に対して剰余群
G' = G/\mathrm{Ker}(f) = \{ [g] = (g\cdot g_0 | g_0 \in \mathrm{Ker}(f) ) | g \in G \}
を定義します。ここでカーネルは
\mathrm{Ker}(f) = \{ g \in G | f(g) = 0 \}
であり、$G'$の要素は上記の書き方だと重複がありますが、その分は取り除きます。また、
[g_1], [g_2] \in G'
に対して、
[g_1]\circ [g_2] = [g_1 \cdot g_2]
で演算を定義すると、これはwell-definedであって、$(G',\circ)$は群になります。
このとき、次の関数
\tilde{f} = G' \rightarrow H: \\
\tilde{f}([g]) = f(g)
は同型(=逆関数が存在してそれも準同型)である。
例:1次関数の微分積分
$G$を1次関数全体
G = \{ ax+b | a,b \in \mathbb{R} \}
$H=\mathbb{R}$とします。
そして $F:G \rightarrow H$を微分
F[f(x)] = \frac{df}{dx}
で定義します。すると$F$は$(G,+)$,$(H,+)$に対して準同型写像となっています:
例えば、$x+2,2x+3 \in G$に対して、
F[ (x+2) + (2x+3) ] = \frac{d}{dx}(x+2) + \frac{d}{dx}(2x+3) \\
= \frac{d}{dx}(3x+5) = F(3x+5) = 3
です。ここまでは自明ですね。
一方、例えば$F[f(x)]=3$となる$f(x) \in G$は無数にあって、1つに特定できないので、$F$の逆関数は定義できません。
こういうとき不定積分$3x+const.$を考えると思いますが、これを数学的にちゃんと定義したのが剰余類です。
定数を微分すると$0$になるので、今
\mathrm{Ker}(F) =\mathbb{R}
となります。よって、剰余群は
\begin{align}
G' &= G/\mathrm{Ker}(F) = G/\mathbb{R} \\
[f(x)] &= \{ f(x) + c | c \in \mathbb{R} \} = \{ f(x) + const. \}\in G'
\end{align}
です。つまり、$f(x)$に適当な定数を足したものの集合が$[f(x)]$です。
すると、$\tilde{F}:G' \rightarrow H$は同型写像になります。$\tilde{F}$は
例えば
\begin{align}
\tilde{F}^{-1}(3) &= [3x] = 3x + const. \\
\tilde{F}([3x]) &= \frac{d}{dx} (3x+const.) = 3
\end{align}
なので、1-1対応が満たされています。
もうお気づきかと思いますが、$\tilde{F}^{-1}$というのは不定積分になります。確かに不定積分なら微分した後のものと1-1で対応していますね。
まとめ
ざっくり言うと、剰余類は不定積分を一般化したものであり、
「定積分はそれを微分したものと1-1対応していないけれど、不定積分なら1-1対応している」
ということを言っているのが準同型定理です。
微分積分に限らず、このように不定性をもつものはいたるところに現れるので(たとえばホモロジー、整数の割り算の余り、etc.)、
そういうとき、その不定性を取り除いて話をスッキリさせることができるのが準同型定理のメリットだと思います。