位相空間は距離が定義できないときにも極限を考えることができるようにしたもので、距離の拡張概念になっています。色々と専門用語があって忘れるのでここにメモしておきます。
\newcommand{\R}{\mathbb{R}}
記号
- 集合$X$から$Y$への写像全体の集合
C(X,Y) = \{f:X \rightarrow Y\}
- $A \subset Y$と$f \in C(X,Y)$に対して
f^{-1}(A) = \{x \in X \mid f(x) \in A \} \subset X
- $f \in C(X,Y)$に対して
f(X) = \{ f(x) \mid x \in X \} \subset Y
\newcommand{\1}{\mbox{1}\hspace{-0.25em}\mbox{l}}
\newcommand{\st}{\quad \mathrm{s.t.} \quad}
\newcommand{\R}{\mathbb{R}}
\newcommand{\Rd}{{\mathbb{R}^d}}
\newcommand{\hom}[1]{\overset{#1}{\sim}}
位相空間
集合$X$に対して、以下の3つの条件を満たす集合族(=集合を要素に持つ集合)を開集合族$\mathcal{O}_X$と言います。
- $X \in \mathcal{O}_X$
- 可算有限個の$O_1,\cdots, O_n \in \mathcal{O}_X$に対して、$\bigcap_{i=1}^nO_i \in \mathcal{O}_X$
- 任意(可算でも有限でなくてもOK)の集合$\Lambda$を添え字として、$\bigcup_{\lambda \in \Lambda} O_\lambda \in \mathcal{O}_X$
そして、開集合系が定まった空間$(X,\mathcal{O}_X)$を位相空間と言います。
閉集合
$F \subset X$が閉集合であるとは$F^c \in \mathcal{O}_X$となることです。
閉包
$A \subset X$に対して$A$を含む閉集合の集合を
\mathscr{F}(A) = \{ F \supset A \mid F^c \in \mathcal{O}_X \}
とするとき、$A$の閉包を
\bar{A} = \bigcap_{F \in \mathscr{F}(A)} F
と定義します。閉包$\bar{A}$は閉集合になります。
連続写像
2つの位相空間$(X,\mathcal{O}_X)$、$(Y,\mathcal{O}_Y)$の間の写像$f:X \rightarrow Y$が連続であることを
\forall O' \in \mathcal{O}_Y: f^{-1}(O') \in \mathcal{O}_X
で定義します。また、$X$から$Y$への連続写像全体の集合を$C^0(X,Y)$と表します。
同相写像
$f:X \rightarrow Y$が全単射なとき、
f \in C^0(X,Y) \\
f^{-1} \in C^0(Y,X) \\
のとき、$f$を同相写像と言います。
このとき、$X$から$Y$への同相写像全体の集合を
\mathrm{Hom}(X,Y) = \{ f \in C^0(X,Y) \mid f^{-1} \in C^0(Y,X) \}
と表します。
また、2つの位相空間の間に同相写像が存在するとき、
X \simeq Y
と書きます。あるいは、同相写像$f$を明示的に書いて
X \overset{f}{\simeq} Y
と表します。
点付き写像
2つの位相空間$X,Y$におけるそれぞれ特定の1点$x_0, \in X, y_0 \in Y$に対して、連続写像$f \in C^0(X,Y)$で
f(x_0) = y_0
を満たすものを点付き写像と言います。
、
点付き空間
議論される点付き写像がすべて同一の点$x_0 \in X$に関する点付き写像であるとき、$(X,\mathcal{O}_X,x_0)$を点付き空間と言います。
部分空間を1点につぶした空間
部分位相空間$A \subset X$をとり、$X$上に同値関係
x \sim_A y \Leftrightarrow (x = y) \ or \ ( x \in A \ \& \ y \in A )
を定めて構成される商空間
X/A = X/\sim_A = \{[x] \mid x \notin A \} \cup \{ A \}
を$A$を1点につぶした空間と言います。($A$自身も同値類の1つになっています。)
自明な例
部分空間が1点$pt \in X$から成るとき、
x \sim_{\{pt\}} y \Leftrightarrow (x = y) \ or \ ( x = y = pt )
\Leftrightarrow x = y
なので、$x \rightarrow [x] = \{ x \}$は全単射であり、
X/pt = X/\{pt\} \simeq X
です。
道
$a,b \in X$に対して
\exists f \in C^0([0,1],X): f(0)=a,f(1)=b
であるとき、$f$は$a$を始点、$b$を終点とする道であると言います。$X$上の点$a$から$b$への道全体の集合を
\mathrm{Path}(a,b;X) = \{ f \in C^0([0,1],X) \mid f(0)=a,f(1)=b \}
と表すことにします。
閉道
$a$から$a$への道$f \in \mathrm{Path}(a,a;X)$を閉道と言い、$a$を閉道の基点と言います。
弧
道$f \in \mathrm{Path}(a,b;X)$が
[0,1] \overset{f}{\simeq} \mathrm{Im}f
を満たすとき、$a$から$b$への弧と言います。
また、$a$から$b$への弧全体の集合を
\mathrm{Arc}(a,b;X) = \left\{ f \in \mathrm{Path}(a,b;X) \mid [0,1] \overset{f}{\simeq} \mathrm{Im}f \right\}
とします。
部分空間
位相空間$(X,\mathcal{O}_X)$と$A \subset X$に対して、
\mathcal{O}_A = \{ A \cap O \mid O \in \mathcal{O}_X \}
とすれば、$(A,\mathcal{O}_A)$も位相空間になります。$\mathcal{O}_A$は相対位相と呼びます。
連結性
位相空間$X=(X,\mathcal{O}_X)$を考えます。
非連結
\exists O_1,O_2 \in \mathcal{O}_X: O_1,O_2 \neq \varnothing, \\
O_1 \cap O_2 = \varnothing, X = O_1 \cup O_2
であるとき、$X$は非連結であると言います。逆に非連結でない位相空間を連結であると定義します。
弧状連結
\forall a,b: \exists f \in \mathrm{Path}(a,b;X)
であるとき、$X$は弧状連結であると言います。
弧連結
\forall a,b: \exists f \in \mathrm{Arc}(a,b;X)
であるとき、$X$は弧連結であると言います。
被覆とコンパクト性
位相空間$(X,\mathcal{O}_X)$を考えます。
開被覆
$A \subset X$において
\{O_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda} \subset \mathcal{O}_X \st \bigcup_{\lambda \in \Lambda} O_\lambda = A
を$A$の開被覆と言います。
被覆の細分
$A \subset X$の2つの開被覆
U = \{U_a\} \\
V = \{V_b\}
が
\forall V_b \in V: \exists U_a \in U: V_b \subset U_a
を満たすとき、$V$を開被覆$U$の細分と言います。
局所有限
$A \in X$の開被覆$U$が局所有限であるとは、任意の$x \in A$のある近傍$V(x)$で、集合族
\{U_a \in U \mid U_a \cap V(x) \neq \varnothing \}
が有限集合であるようなものが存在することです。
コンパクトな集合
$A \subset X$の任意の開被覆$(O_\lambda)_{\lambda \in \Lambda}$に対して有限な部分開被覆が存在するとき、$A$をコンパクトな集合と言います:
\bigcup_{\lambda \in \Lambda} O_\lambda = A \Rightarrow \exists \{O_i\}_{i=1}^n \subset \{O_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda} \st \bigcup_{i=1}^n O_i = A
特に$X$がコンパクトなとき、$(X,\mathcal{O}_X)$をコンパクトな位相空間と言います。
また、$X$上のコンパクト集合全体の集合族を$\mathcal{K}_X$とします。
局所コンパクト空間
\forall x \in X: \exists V_x \subset X \in \mathcal{K}_X
であるとき、$X$を局所コンパクト空間といいます。ただし$V_x$は$x$の近傍(後述)です。
半コンパクト空間
コンパクトでない空間$X$が可算個のコンパクト集合の和集合であるとき、
\exists \{K_i\} \in \mathcal{K}_X: K_1 \subset K_2 \subset \cdots \subset X, X = \bigcup_{i=1}^\infty K_i
$X$を半コンパクト空間と言います。
パラコンパクト
$A \subset X$の任意の開被覆に対して局所有限な細分が存在するとき、$A$をパラコンパクトな集合と言います。
ハウスドルフ空間
位相空間$(X,\mathcal{O}_X)$が次の条件を満たすときハウスドルフ空間であると言います。
\forall p,q \in X(p \neq q): \exists U,V \in \mathcal{O}_X: p \in U, q \in V, U \cap V = \varnothing
有限次元の積位相
$n$個の位相空間$(X_1,\mathcal{O}_1),\cdots,(X_n,\mathcal{O}_n)$の直積空間$X = \prod_{i=1}^n X_i$において
\prod_{i=1}^n \mathcal{O}_i = \left\{ \prod_{i=1}^n O_i \mid O_i \in \mathcal{O}_i \right\}
は$X$の位相となります。
近傍
$x \in X$に対して$x \in V_x \subset X$が
\exists U \in \mathcal{O}_X: x \in U \subset V_x
であるとき、$V_x$を$x$の近傍と言います。
基本近傍系
$x \in X$の近傍の集合族$\mathcal{U}_x$が基本近傍系であるとは$x$の任意の近傍$V_x$に対して
\exists U_x \in \mathcal{U}_x: x \in U_x \subset V_x
となることです。例えば
\mathcal{O}_x = \{O \in \mathcal{O}_X \mid x \in O \}
は$x$の基本近傍系です。
稠密な集合
$A \subset X$が稠密であるとは
\forall x \in X: \forall V_x:\exists a \in A: a \in V_x
つまり、$x$の任意の近傍が$A$の元を含むことです。
可分空間
$X$に稠密な可算部分集合$A$が存在するとき、$X$を可分空間と言います。
収束
$(X,\mathcal{O}_X)$上で
\{x_\lambda\}_{\lambda \in \Lambda} \subset X
が$x \in X$に収束するとは$x$の基本近傍系$\mathcal{U}_x$を用いて
x_\lambda \xrightarrow{\lambda \rightarrow \infty} x \Leftrightarrow \forall U_x \in \mathcal{U}_x: \exists \lambda_0 \in \Lambda: \lambda > \lambda_0 \Rightarrow x_\lambda \in U_x
で定義されます。
ハウスドルフ性と収束の一意性
$(X,\mathcal{O}_X)$がハウスドルフ空間である場合、$x_\lambda$が収束するならばそれはただ一つに定まります。
逆にハウスドルフでないときは同じ$x_\lambda$に対して収束の条件を満たす点が複数ある可能性があります。
正規空間
位相空間$(X,\mathcal{O}_X)$が次の2つを満たすとき、正規空間と言います。
(1)
\forall x,y \in X \ (x \neq y): \exists U \in \mathcal{O}_X: x \in U, y \notin U
(2)
\forall F^c_1, F_2^c \in \mathcal{O}_X: F_1 \cap F_2 = \varnothing \Rightarrow \exists U,V \in \mathcal{O}_X: F_1 \subset U, F_2 \subset V, U \cap V = \varnothing
ハウスドルフ性を閉集合に拡張した感じです。
定理
パラコンパクトなハウスドルフ空間と正規空間は同値です。
1の分解
$X$が正規空間であることは$X$上に1の分解と呼ばれる関数の集合が存在することと同値です。
関数の台
$f \in C^0(X,\R)$に対して次の閉包
supp(f) = \overline{\{x \in X \mid f(x) \neq 0\}}
を(連続)関数の台と言います。
1の分解
開被覆$U=(U_a)$に対して
\1 \subset C^0(X,[0,1])
が1の分解であるとは以下の4条件を満たすことです。
- $\forall f_a \in \1: \exists U_a \in U: supp(f_a) \in U_a$
- 任意の$supp(f_a)$がコンパクト
- 任意の$supp(f_a)$が局所有限
- $\forall x \in X: \sum_a f_a(x) = 1$
有界性
有界集合
$X$の有界集合系$\mathscr{B}_X$を以下の3条件を満たすものと定義します。また、$B \in \mathscr{B}_X$を有界集合と言います。
- $X = \bigcup_{B \in \mathscr{B}_X} B$
- $B' \subset B \in \mathscr{B}_X \Rightarrow B' \in \mathscr{B}_X $
- 有限個の有界集合$B_1,\cdots,B_n \in \mathscr{B}_X$について、$\bigcup_{i=1}^n B_i \in \mathscr{B}_X $
ハウスドルフ空間(厳密にはもう少し条件が緩いT1空間)においてはコンパクトな閉包をもつ集合の族が有界集合になります。
有界写像
$(X,\mathscr{B}_X)$、$(Y,\mathscr{B}_Y)$において、$f:X \rightarrow Y$が
\forall B \in \mathscr{B}_Y: f^{-1}(B) \in \mathscr{B}_X
であるとき、$f$を有界関数と言います。有界写像全体の集合を$C_b(X,Y)$と表します。
距離空間
距離
集合$X$において$d:X\times X \rightarrow [0,\infty]$が距離であるとは任意の$a,b,c \in X$で
- $d(a,b) = 0 \Leftrightarrow a=b$
- $d(a,b) = d(b,a)$
- $d(a,b) + d(b,c) \geq d(a,c)$
を満たすことです。
連続性
距離$d$は$X\times X$上の任意の位相に対して連続写像になります。
開球
$x \in X$、$r>0$に対して
U(x,r) = \{ p \in X \mid d(p,x)<r \}
を中心$x$、半径$r$の開球と言います。
距離空間と位相空間
距離が定まった集合$(X,d)$を距離空間と言い、
\mathcal{O}_d = \{ O \subset X \mid \forall x \in O: \exists r>0: U(x,r) \subset O \}
に対して$(X,\mathcal{O}_d)$は位相空間になります。よって距離空間ならば位相空間です。
(逆に位相空間でも距離が定義できない場合が存在します。)
一様連続写像
距離空間の間の写像
f: (X,d_X) \rightarrow (Y,d_Y)
に対して
\forall \epsilon>0: \exists \delta >0: \forall p,q \in X: d_X(p,q)<\delta \Rightarrow d_Y(f(p),f(q))<\epsilon
が成り立つとき、$f$は一様連続であると言います。要するにイプシロン-デルタ論法が使える関数ということです。
コーシー列
$(X,d)$において点列
\{x_i\}_{i \in \mathbb{N}} \st \lim_{n,m \rightarrow \infty} d(x_m,x_n) = 0 \\
\Leftrightarrow \forall \epsilon>0: \exists N_0 \in \mathbb{N}: m,n>N_0 \Rightarrow d(x_m,x_n)<\epsilon
をコーシー列と言います。
完備距離空間
任意のコーシー列が収束する空間を完備距離空間と言います。
完備化
(完備でない)距離空間$(X,d_X)$と完備な距離空間$(Y,d_Y)$に対する一様連続写像$f:X \rightarrow Y$が存在するとき、
-
$X$の任意のコーシー列$(x_i)$に対して$f(x_i)$は$Y$のコーシー列になります。$Y$は完備だったので$y = \lim_{i \rightarrow \infty }f(x_i)$が存在します。
-
$X$の任意の2つのコーシー列$(p_i),(q_j)$に対して$d_X(p_i,q_j)$もコーシー列なので、$d_Y(f(p_i),f(q_j))$もコーシー列です。よって$Y$で極限
\lim_{i,j \rightarrow \infty} d_Y(f(p_i),f(q_j)) = d_Y(y_p,y_q) \\
f(p_i) \xrightarrow{i \rightarrow \infty} y_p \\
f(q_i) \xrightarrow{i \rightarrow \infty} y_q
が存在します。 よって、$X \subset Y$で、$f(X)=X$となるものをとってくれば、$Y$は$X$に適当な点を付け加えて完備にしたものになります。(コーシー列の極限には$Y\backslash X$に含まれるものがあることがポイントです。)
このように距離空間$X$が完備でなくても、以下のように点を付け足せば空間を完備なものに拡張できます。
ポーランド空間
可分で完備な距離空間をポーランド空間と言います。
写像空間
位相空間$(X,\mathcal{O}_X)$から距離空間$(Y,d)$への写像全体の集合$C^0(X,Y)$上で
\bar{d}_A(f,g) = \sup_{x \in A} d(f(x),g(x)) \quad(A \subset X)
とすると、$(C^0(X,Y),\bar{d}_X)$はポーランド空間となります。
(狭義)一様収束
\lim_{n \rightarrow \infty} \bar{d}_X(f_n,f) = 0
であるならば、$f_n$は$f$に一様収束すると言います。距離$\bar{d}_X$が定める位相$\mathcal{O}_{\bar{d}_X}$に関する収束は一様収束になるので、これを(狭義)一様収束位相と言います。
広義一様収束
位相空間$(X,\mathcal{O}_X)$と距離空間$(Y,d)$上の写像の列
\{f_i\}_{i=1}1^\infty \subset C^0(X,Y)
が$f \in C^0(X,Y)$に広義一様収束するとは、任意のコンパクト集合$K \in \mathcal{K}_X$に対して、
\forall K \in \mathcal{K}_X: \lim_{n \rightarrow \infty} \bar{d}_K(f_n,f) = 0
となることです。
広義一様収束位相
U(f,K,r) = \{ g \in C^0(X,Y) \mid \bar{d}_K(f,g)<r\}
として、
\mathcal{O}_K = \{ O \subset C^0(X,Y) \mid \forall f \in O: \forall K \in \mathcal{K}_X: \exists r>0: U(f,K,r) \subset O \}
は$C^0(X,Y)$の位相になります。この位相に関する収束は広義一様収束になるので、これを広義一様収束位相と言います。
半コンパクト空間の距離
写像空間$C^0(X,Y)$が半コンパクトであるとき、距離を
d_u(f,g) = \sum_{n=1}^\infty \frac{1}{2^n} \min(\bar{d}_{K_n}(f,g),1)
で定めると$(C^0(X,Y),d_u)$はポーランド空間になります。