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リー群とリー代数

Last updated at Posted at 2022-11-17

で多様体について基礎事項を述べたので、それをベースに多様体の例としてリー群についてみていきたいと思います。

\newcommand{\diff}[2]{\frac{d #1}{d #2}}
\newcommand{\pdiff}[2]{\frac{\partial #1}{\partial #2}}
\newcommand{\R}{\mathbb{R}}

リー群

$d$次元$C^\infty$級微分可能多様体$G$に演算子$\cdot$による群構造を定めたとき、

\begin{align}
(g_1,g_2) &\rightarrow g_1\cdot g_2 \\
g &\rightarrow g^{-1}
\end{align}

の2つが$c^\infty$級微分可能写像であるとき、$G = (G,\cdot)$をリー群と言います。

行列群の距離

特に行列を元とするリー群を行列群といい、行列群は$A,B \in G$に対して

\begin{align}
|A| &= \sqrt{\sum_{i,j}|A_{ij}|^2} \\
d(A,B) &= |A-B|
\end{align}

で距離を定義できます。

左移動

リー群$G$の元$a \in G$による左移動写像

L_a: G \rightarrow G

La(g) = ag \quad \forall g \in G

で定義します。左移動は$G$から$G$への微分同相写像になっています。

左不変ベクトル場

ベクトル場

X \in \mathfrak{X}(G)

が任意の$a \in G$による左移動の微分写像に対して

L_{a*} X(g) = X(ag) \quad \forall g \in G

を満たすとき、$X$を左不変ベクトル場と呼びます。

例えば、単位元$e \in G$のもと、

V \in T_e G \\
X_V(g) = L_{g*} V 

とすると、

L_{a*} X_V(g) = L_{a*} L_{g*} V = (L_a L_g)_* V = L_{ag*} V = X_V(ag)

なので、$X_V$は左不変ベクトル場です。一方で任意の左不変ベクトル場は

X(g) = L_{g*} X(e)

と変形できて$X(e) \in T_e G$です。よって,
すべての左不変ベクトル場は$X_V$の形で書けることが分かります。

リー代数

$G$の左不変ベクトル場全体の集合を$\mathfrak{g}$とすると、これは$T_e G$と線形同型です。これに次に述べるリー括弧を定めたものをリー代数$\mathfrak{g}$と呼びます。

リー括弧

$X,Y \in \mathfrak{g}$を各開集合でのチャート$(\phi,U)$を用いて($x = \phi(g)$)

\begin{align}
X(g) &= X^i(g) \pdiff{}{x^i(g)} = X^i(\phi^{-1}(x)) \pdiff{}{x^i} \\
Y(g) &= Y^i(g) \pdiff{}{x^i(g)} = Y^i(\phi^{-1}(x)) \pdiff{}{x^i}
\end{align}

と表します。これに対して左不変ベクトル場同士のリー括弧を

[X,Y] = X^i(\phi^{-1}(x)) \pdiff{Y^j(\phi^{-1}(x))}{x^i} \pdiff{}{x^j} - Y^i(\phi^{-1}(x)) \pdiff{X^j(\phi^{-1}(x))}{x^i} \pdiff{}{x^j}

と定義します。

1パラメーター部分群

リー群$G$に対して

\begin{align}
\phi: \R &\rightarrow G \\
\phi(s) \cdot \phi(t) &= \phi(s+t)
\end{align}

となる微分同相写像を1パラメーター部分群と言います。開集合$\R$の接ベクトルは$\partial /\partial t$ただ1つなので、

\phi_* \diff{}{t}|_{t} = \phi_* L_{t*} \diff{}{t}|_0
= (\phi L_t)_* \diff{}{t}|_0 = (L_{\phi(t)} \phi )_* \diff{}{t}|_0 = L_{\phi(t)*} \phi_* \diff{}{t}|_0

$g = \phi(t)$は任意の$G$の元をとり、$V = \phi_* \diff{}{t}|_0 \in T_e G$なので、これは左不変ベクトル場です。

逆に任意の左不変ベクトル場$X$に対して微分方程式

\begin{align}
c_* \diff{}{t}(t) &= X(c(t)) \\
c(0) &= e
\end{align}

で、対応する1パラメーター部分群$c$(積分曲線とも言います)がただ1つ定まります。よって、左不変ベクトル場と1パラメーター部分群は1-1対応します。

指数写像

リー代数の指数写像

\exp: \mathfrak{g} \rightarrow G

を左不変ベクトル場に対応する1パラメーター部分群$c_X(t)$を用いて

\begin{align}
\exp (X) &= c_X(1) \\
\exp (tX) &= c_X(t)
\end{align}

と定めます。$\mathfrak{g}$は$T_e G$と同型なので

\exp: T_e G \rightarrow G

とも言えます。リー代数or$T_e G$はリー群の微小変化を表していると言えます。

例:GL(n,R)

あるチャート$x$を用いて表すと、元は

x(g) = \begin{pmatrix} 
x^{11}(g) & \cdots & x^{1n}(g) \\
\vdots & \ddots & \vdots \\
x^{n1}(g) & \cdots & x^{nn}(g)
\end{pmatrix} \in GL(n,\R)

となり、

\begin{align}
L_a g &= ag \\
x^{ij}(ag) &= x^{ik}(a) x^{kj}(g)
\end{align}

とすれば、左不変ベクトル場は

V = V^{ij} \pdiff{}{x^{ij}(e)} \in T_e GL(n,\R)

を$x(e) \rightarrow x(g)$と座標変換したものなので、

\begin{align}
X_V(g) &= V^{ij} \pdiff{x^{kl}(g)}{x^{ij}(e)} \pdiff{}{x^{kl}(g)} = V^{ij} \pdiff{(x^{km}(g) x^{ml}(e))}{x^{ij}(e)} \pdiff{}{x^{kl}(g)} \\
&= V^{ij} x^{km}(g) \pdiff{ x^{ml}(e)}{x^{ij}(e)} \pdiff{}{x^{kl}(g)} 
= x^{ki}(g) V^{ij} \pdiff{}{x^{kj}(g)} \\
&= x^{ik}(g) V^{kj} \pdiff{}{x^{ij}(g)} \quad (\text{ラベルの付け替え})
\end{align}

です。また、接ベクトルの定義から積分曲線の微分方程式において

c_* \diff{}{t}(t) = \diff{x^{ij}(c(t))}{t} \pdiff{}{x^{ij}(c(t))}

なので、この微分方程式をチャート$x$を用いて表すと各$\pdiff{}{x^{ij}}$が線形独立なので、その係数を比較して

\begin{align}
\diff{x^{ij}(c(t))}{t} &= x^{ik}(c(t)) V^{kj} \\
x^{ij}(c(0)) &= \delta^{ij} 
\end{align}

つまり、普通の行列の微分方程式になります。よって解$c$のチャート$x$による表示は行列の指数写像

x(c(t)) = e^{tV}

です。

例:SO(3)群

リー群$SO(3)$を行列群

SO(3) = \left\{ M \in GL(3,\R) \mid MM^T=I, \det M = 1\right\}

で定義します。これは3次元回転行列の集合のことなのですが、それを計算で明らかにしていきます。

まず、$T_e SO(3)$を求めます。$SO3$は$GL(3)$の部分群なので、$T_e SO(3)$の基底は行列の$(i,j)$成分を$x_{ij}$として、

\pdiff{}{x_{ij}}

の線形結合の形で書けます。また、リー代数$\mathfrak{so}(3)$の元は反対称行列でなければなりません:

任意の1パラメーター部分群$c(t)$とすれば、

\begin{align}
c(\Delta x) &= 1 + A\Delta x + O(\Delta x^2) \\
c(\Delta x)c(\Delta x)^T &= 1 + A\Delta x + A^T \Delta x + O(\Delta x^2) = 1 \\
&\xrightarrow{\Delta x \rightarrow 0} A = -A^T
\end{align}

したがって、$\mathfrak{so}(3)$の次元は3なので、3つの線形独立な接ベクトルを求めればよいことが分かります。

$e$を通る曲線として

\begin{align}
c^1(\theta) &= \begin{pmatrix} 
1 & 0 & 0 \\
0 &\cos \theta & -\sin \theta \\
0 & \sin \theta &  \cos \theta
\end{pmatrix} \\
c^2(\theta) &= \begin{pmatrix} 
\cos \theta & 0 & \sin \theta \\
0 & 1 & 0 \\
-\sin \theta & 0 & \cos \theta
\end{pmatrix} \\
c^3(\theta) &= \begin{pmatrix} 
\cos \theta & -\sin \theta & 0 \\
\sin \theta &  \cos \theta & 0 \\
0 & 0 & 1
\end{pmatrix}
\end{align}

をとると、これら3つを代表元とする同値類が与える接ベクトル$V_1,V_2,V_3$はそれぞれ、

\mathscr{L}_n = \left( \pdiff{c^n_{ij}}{\theta} \right)_{\theta = 0} \pdiff{}{x_{ij}} = (L_n)_{ij}  \pdiff{}{x_{ij}}

となり、線形独立です。
ただし、

\begin{align}
L_1 &= \begin{pmatrix} 
0 & 0 & 0 \\
0 & 0 & -1 \\
0 & 1 & 0
\end{pmatrix} \\
L_2 &= \begin{pmatrix} 
0 & 0 & 1 \\
0 & 0 & 0 \\
-1 & 0 & 0 
\end{pmatrix} \\
L_3 &= \begin{pmatrix} 
0 & -1 & 0 \\
1 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 0
\end{pmatrix}
\end{align}

です。これらを基底として任意の$V \in T_e SO(3)$は

\begin{align}
V &= \theta K(\vec{n}) \\
K(\vec{n}) &= n_1 \mathscr{L}_1 + n_2 \mathscr{L}_2 + n_3 \mathscr{L}_3 \\
\theta &\in \R \\
\vec{n} &\in \R^3 \ s.t. \ |n| = 1 
\end{align}

と書けて、$GL(n,\R)$と同様にして任意の$e$を通る積分曲線$R(\theta)$は

\begin{align}
R(\theta) &= e^{\theta K(\vec{n})} = I + \sin \theta K(\vec{n}) + (1-\cos \theta) K^2(\vec{n}) \\
&=  \begin{pmatrix} 
\cos \theta + n_1^2 (1-\cos \theta) & n_1 n_2 (1 - \cos \theta ) -n_3 \sin \theta\ &  n_3 n_1 (1 - \cos \theta ) + n_2 \sin \theta\ \\
 n_1 n_2 (1 - \cos \theta ) + n_3 \sin \theta\ & \cos \theta + n_2^2 (1-\cos \theta) &  n_2 n_3 (1 - \cos \theta ) -n_1 \sin \theta\ \\
 n_3 n_1 (1 - \cos \theta ) -n_2 \sin \theta\ &  n_2 n_3 (1 - \cos \theta ) + n_1 \sin \theta\ & \cos \theta + n_3^2 (1-\cos \theta)
\end{pmatrix}
\end{align}

となります。これはロドリゲスの回転公式と言われる$\vec{n}$周りに$\theta$だけ回転させる回転行列に一致しています。
積分曲線は$V$の取り方を変えれば$e$と任意の$g \in G$を通るようにとれるので、$GL(n,\R)$のときに用いたチャート$x$の$SO(3)$への制限を用いると、$SO(3)$の元はすべてこの行列の形で表されることが分かります。 

補足

もちろん、違うチャートを使えば違う表示の仕方になります。例えば物理学でよくあるのは、

xy,yz,zx,2z^2-x^2-y^2,x^2-y^2

を基底とした3次元回転に対する$5\times 5$行列の変換$\tilde{R}(\theta)$で表す表示の仕方です。(いわゆるd軌道です。) このチャートを$\phi_d$とします。

\begin{align}
T_1 &= \begin{pmatrix}
0 & 1 & 0 \\
1 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 0
\end{pmatrix} \\

T_2 &= \begin{pmatrix}
0 & 0 & 1 \\
0 & 0 & 0 \\
1 & 0 & 0
\end{pmatrix} \\

T_3 &= \begin{pmatrix}
0 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 1 \\
0 & 1 & 0
\end{pmatrix} \\

T_4 &= \begin{pmatrix}
0 & 1 & 0 \\
1 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 0
\end{pmatrix} \\

T_5 &= \begin{pmatrix}
2 & 0 & 0 \\
0 &-1 & 0 \\
0 & 0 &-1
\end{pmatrix}
\end{align}

とすれば$r = (x,y,z)$に対して基底は

r^T T_i r \quad i=1,\cdots,5 

で表されて、その線形結合は$TrM = 0$となる$3\times 3$対称行列を使って$r^T M r$とを表すことができます。したがってこの空間は$TrM=0$となる対称行列がなす線形空間で表すことができます。よって$\phi_d(g)$は$r=(x,y,z)$の表示$\phi_p$に対して

\phi_p(g)^T T_i \phi_p(g) = \sum_j (\phi_d(g))_{ij} T_j 

となります。

参考

  • 中原 幹夫 著・訳 佐久間 一浩 訳 理論物理学のための幾何学とトポロジー1 [原著第2版]
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