テキストに載っている模範解答には下記の3点の問題があるように思います.
- 微分可能でない点がある関数 $\mathcal{L}(s)=\sum_{i=1}^{N} \left|s-x_i\right|$ を微分している.
- 微分可能でない点が最小値を取りうるか検証していない.
- 微分係数が0になるような点が存在するか検証していない.
そのため, これを解消する自分なりの解答を作ってみます. なお, 以下では $\lceil x \rceil$ は $x$ 以上の最大の整数, $\lfloor x \rfloor$ は $x$ 以下の最大の整数を表すものとします.
$\varepsilon_i=x_i-s$ がラプラス分布に従うことから, $x_i$ の分布関数について
f(x_i-s)=(\alpha/2)\exp\left(-\alpha\left|x_i-s\right|\right)
が成り立つ. よって尤度関数は
L(s)=\prod_{i=1}^N (\alpha/2)\exp\left(-\alpha\left|x_i-s\right|\right)\\
\propto \exp \left(-\sum_{i=1}^N\left|s-x_i\right|\right)
よって尤度関数を最大化するためには連続関数 $\mathcal{L}(s)=\sum_{i=1}^{N} \left|s-x_i\right|$ を最小化すればよい.
$x_i$ が小さい順に並んでいるとしても一般性を失わない. また, $x_0=-\infty, x_{N+1}=\infty$ としておく. このとき, $x_k<s<x_{k+1}$ であれば,
\mathcal{L}(s)=\sum_{i=1}^k (s-x_i)-\sum_{i=k+1}^{N}(s-x_i)\\
=(2k-N)s-\sum_{i=1}^{k}x_i+\sum_{i=k+1}^{N}x_i
ここで,
2k-N<0 \Leftrightarrow k<\frac{N}{2} \Leftrightarrow
k+1\leq\left\lceil\frac{N}{2}\right\rceil \Leftrightarrow
s < x_{\left\lceil N/2 \right\rceil}, \\
2k-N>0 \Leftrightarrow k>\frac{N}{2} \Leftrightarrow
k \geq \left\lfloor\frac{N}{2}\right\rfloor+1
\Leftrightarrow s>x_{\lfloor N/2 \rfloor+1}
よって $\mathcal{L}(s)$ は, $s < x_{\lceil N/2 \rceil}$ のとき減少関数, $s > x_{\lfloor N/2 \rfloor+1}$ のとき増加関数になり逆も成り立つ. ゆえに, $\mathcal{L}(s)$ を最小化する $s$ は
x_{\lceil N/2\rceil} \leq s \leq x_{\lfloor N/2 \rfloor+1}
を満たす $s$ であり, これが $s$ の最尤推定量である.
特に $x_i$ の中央値は最尤推定量のなす区間に含まれるほか, $N$ が奇数のときは最尤推定量は中央値ただひとつしかありません.