はじめに
これから紹介するデザインスプリントプランは、効果測定のため 2 日間に圧縮したものです。
社内で行った デザインスプリント を、汎用性あるように再設計しました。
効果測定をしたい方 や 社内にデザインスプリントを広めたい方 、または要件定義などに時間がかかって スクラム開発に行き詰まっている方 の参考になれば幸いです。
なお、実施にあたっては UX デザイナや PO が再設計する想定でいます。
なぜスクラムの前に、デザインスプリントなのか
デザインスプリントが生む、スクラム開発へのメリット
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ストーリーを書きやすくなる
- 要件定義がしやすくなる
- 優先順位や依存関係が見えやすくなる
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ストーリー単位ではなく、全体像を俯瞰できる
- ポイントの見積もり精度が上がる、または見積もりしやすくなる
- ストーリーを理解するコストが減る
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プロトタイプができるので対外コミュニケーションしやすい
- ステークホルダーを巻き込める
- 意思決定者を巻き込める
強いチームで要件定義がなくても作れたり、インセプションデッキを高解像度で行えれば、やる必要はないかもしれません。
しかし多くのリソースを投入する前に、ユーザが本当に解決したい目的( ≒ JTBD )を知っておいたほうが結果として より早く、より的確なプロダクトが作れます。
スクラムとデザインスプリントの決定的な違い
デザインスプリントの優れた点は、短時間で仮説検証できること です。
一方で正常系以外も含めた緻密なプロダクトを作ることは得意ではありません。
事業構想の視覚化や改善方法がわからないプロダクト、凝り固まった縦割り組織で行うと力を発揮します。
デザインと付くのでデザイナだけのものと思われがちですが、エンジニアや PO 、それだけでなくセールスやマーケ、そして意思決定者など複数の職種と役割の人たちで行うことが重要です。
*「そもそも Design Sprint ってなんだ?」という方へ*
デザインスプリントとは
デザインスプリントは Google Ventures が提唱しカイゼンし続けている、高速でプロダクト開発を回すためのプロセスです。
実際のプロダクトを開発する前にプロトタイプで仮説検証をする、といったほうがわかりやすいでしょうか。
主な事例をあげます。
- Slack (マーケティングを見直して、より多くの顧客にリーチ)
- Blue Bottle Coffee (オンラインでも販売できるようにビジネスを拡大)
- Medium
ビジネス戦略やスクラム開発、デザイン思考の手法を融合させ、ビジョン設定からアイディエーション、プロトタイピング、そしてユーザテストまでを 5 日で行います。
デザインスプリントの特徴
5 日間でサービスの価値を検証できる
MVP を実装するには最低でも数週間必要でしょう。
一方でデザインスプリントは最短 5 日でその効果を測定できます。
カオスと論理思考を強制的に行き来する
時間で区切られたアイデアは幸せな誤解を生み出します。そのうえで皆でロジカルにブラッシュアップを重ねます。
自分だけでは思いもよらなかったアイデアを発見できるメソッドが詰まっています。
細かいところまで定められていてカスタムしやすい
具体的かつ体系的にプロセスがデザインされています。
そのためそれぞれの組織や参加メンバーに合わせて、プランをリデザインできる点も魅力的です。
コラボレーションしやすい
営業の方やマーケター、カスタマーサポートなどそれぞれ別の視点を持ちながらサービスを検討できます。
会社によっては顧客までいれ、サービスデザインの文脈で言う、共創アプローチを取っているそうです。
バイアスがかかりにくい
個人ワークのあとの投票や時間の設計など、偏りをなるべく防ぐプロセスになっており、好みや個人の趣向で決定しないような工夫があります。ただし常に目的やゴールを意識してください。
デザインスプリントの得意不得意
得意
- 新規事業を起こす
- 不明瞭なニーズを仮説検証したい
- 要件が定まっていない
- 野心的な目標を持てる人たち
不得意
- 課題や解決方法が明確なプロジェクト
- 1 人でやっている、あるいは受託精神が豊富
- 論理思考のみで物事を片付けたい人たち
よくある質問
デザイン思考との違いは?
顧客視点でPDCAをまわすという点は同じですが、デザインスプリントはプロセスが明確に定義されています。
対してデザイン思考は一見難解なので、スタンスやマインドセットとして別の視点を与えるにとどまることが多いです。
確実にイノベーションを起こせるのか?
一部の天才を除いて、イノベーションは起こそうとして起こせるものではないです。
少なくとも不確実な時代で確実さを求めているうちは、競合に先を越されるのではないでしょうか。
早く失敗して、ピボットできる方法としてデザインスプリントは優秀です。
フルリモートでできるのか?
全員オンラインで参加する形でかつ、リモートワークになれたチームであればできると思います。
ただ実践者やデザインスプリントの提唱者はあまりおすすめしていません。
デジタルデバイスの使用を禁止しなくて良いのか?
設計次第ですが、時間的余裕がないので内職やデスクトップリサーチは出来ないはずです。
メールなどは適時休憩を取ってその時間で処理してもらうようにしましょう。
2 日版デザインスプリントプラン
圧縮したこともあり、かなり時間が短めです。時間が来たら即座に終わらせましょう。
ファシリテーターはそれぞれのタスクで目的や例え、質問などの時間も考慮してタイムキーピングしましょう。
時間はメンバー(ファシリテーター以外)は 5 名くらいを想定しています。
なおすでにデザインスプリントの有用性を理解している方は、本記事ではなく以下の参照を強く推奨します。
https://designsprintkit.withgoogle.com/methodology/overview
実施にあたっては UX デザイナや PO がメンバーや事業との兼ね合いをみて間引いたり変更しながらプランニングしてください。
UNDERSTAND
ビジネスの状態とリスク (計 20 min.)
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組織のゴールを再確認する
- グループ : 10 min.
- 意思決定者に説明をもらうのがおすすめ
- 出来れば社会情勢や技術面などもあると望ましい
長期目標の定義 (計 40 min.)
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ビジョンを洗い出し
- 個人 : 10 min.
- 我々は、< 特定のユーザ >に対して、< どのようなユーザの本質的目的を解決する >ためにここにいるのか?
- A4 に書いておく
-
壁に張り出す
- 個人 : 1 min.
- マスキングテープが望ましいが、ない場合は机に並べる
-
サイレントヒートマップ
- 個人 : 10 min.
- 黙って赤い丸シールを貼ることで、ざっくり定量化する
-
模擬投票
- 個人 : 1 min.
- 良いと思ったものに青い丸シールをはる
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トレードオフを探す
- グループ : 5 min.
- なければ時間の都合でとばした投票理由を述べてもらう
-
方針検討
- 意思決定者 : 3 min.
- トレードオフがあった場合はどちらもやるか、片方を取るか決める
- 1 グループでどちらもやる場合、別スプリントがおすすめ
- 迷ったら野心的な方を取ってもらうように伝えておく
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意思決定の理由を述べる
- 意思決定者 : 3 min.
- 決定したものはいつでも見えるところに書いておく
簡易 UX マップ (計 40 min.)
-
特定のユーザがどのようにプロダクトに接し始めるか決める
- グループ : 1 min.
- 複数のユーザがいる場合はそれぞれ別で書く
- メールからアクセスするのか Web サイトでログインなのか程度でよい
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特定のユーザが目的を完了している状態を書く
- グループ : 1 min.
- 複数のユーザがいる場合はそれぞれ別で書く
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提供するサービスを一言で書いていく
- グループ : 15 min.
- ポストイットがおすすめ
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一言同士をつなげてステップを作る
- グループ : 5 min.
- 可動式のホワイトボードがおすすめ
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ステークホルダーやバックステージを洗い出す
- グループ : 3 min.
- ポストイットがおすすめ
-
ステークホルダーやバックステージのサービスを洗い出す
- グループ : 3 min.
- ポストイットがおすすめ
DEFINE
成功と呼べる、KGI/KPI (計 40 min.)
-
特定のユーザの問題を解決しているゴール状態を洗い出す
- グループ : 10 min.
- プロダクトを使用した後の言動はどうなっているか想像する
- どのようなペインポイントがあるか意識する
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定量化の基準と計測の仕方を決める
- グループ : 20 min.
- HEART フレームワークを使って配置、ヌケモレをなくす
デザイン原則 (計 30 min.)
-
どのようなプロダクトの世界観にしたいか洗い出す
- 個人 : 10 min.
- プロダクトを見た、使った人がどの様に感じてほしいか
- 『シンプル』も以下のように分解できる
- ミニマルで極限まで要素を無くすのか、ある程度の説明はするのか
- 親しみをもたせるのか、上質さをもたせるか
- 革新的であるのか、伝統を守るのか
- 『シンプル』も以下のように分解できる
- ポストイットがおすすめ
-
グルーピングしながら 3 つに絞る
- グループ : 15 min.
- 説明しようとして自然に出る言葉のほうがいい
本スプリントで検証する体験 (計 50 min.)
-
リーンキャンバス、またはエレベーターピッチを書く
- グループ : 30 min.
- メンバーが慣れている方がおすすめ
- 理想的な体験の流れを定義する
- グループ : 10 min.
- UX マップから最も大切で本スプリントで検証する、体験価値の流れを選ぶ
SKETCH
ウォームアップ (計 30 min.)
-
定義した体験価値を届けている、優れた事例を洗い出す
- 個人 : 10 min.
- 業界内外問わない
- だいたいのことは別の手段で行われている
- 思いつかない場合はデスクトップリサーチをする
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既存のソリューションを共有する
- グループ : 人 * 3 min.
- 聞いている側は良いと思うところをメモをする
クレイジー 8 (計 40 min.)
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すべてを振り返る
- 個人 : 5 min.
- 長期目標、UX マップ、KGI/KPIなどを見る
- 思いついたアイデアをメモをする
-
8 つのアイデアスケッチ
- 個人 : 10 min.
- 説明を聞きながら紙を折ってもらう( 3 回半分におると 8 個のマスができる)
- 1 セル 50 秒で休みなくアイデアスケッチする
- 絵が良いが、どうしても描けそうにない場合は文字で書く
- 文字よりは汚い絵の方がマシ
- あとでブラッシュアップできるので安心して描く
- 思いつかない場合は 1 つ前のアイデアをブラッシュアップする
- ファシリテーターは時間で区切って容赦なく進める
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アイデアを共有する
- グループ : 人 * 3 min.
- 壁に貼り、説明する
- 聞いている側は良いと思うところをメモをする
ソリューションスケッチ (計 60 min.)
-
特定のユーザに届けたい、ベストを選ぶ
- 個人 : 1 min.
- メモやアイデアをみて最も良いと思うものを独断と偏見で選ぶ
- 他人のアイデアを選んでもいいし、合体しても良いし、引き算しても良い
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きれいにスケッチを描く
- 個人 : 50 min.
- 説明をしなくても見ればわかるように描く
- 文字などで機能や動きを補佐する
- アイデア名を特定の場所(紙の右上など)に書く
DECIDE
作るものを決める (計 40 min.)
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ソリューションスケッチの全体共有
- グループ : 人 * 3 min.
- 聞いている側は特定のユーザのニーズが満たせていそうなところを見つける
-
サイレントヒートマップ
- 個人 : 5 min.
- 黙って赤い丸シールを貼ることで、ざっくり定量化する
- ニーズが満たせていそうなところに 1 枚貼り、すごいと思ったら 3 枚はる
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模擬投票
- 個人 : 1 min.
- 良いと思ったものに青い丸シールをはる
- KGI/KPI を見ながら投票する
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投票の理由を述べる
- グループ : 意見 * 3 min.
- 違う意見ごと述べる
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方針検討
- 意思決定者 : 3 min.
- 今回プロトタイプするものを選ぶ
- 実行可能性も考慮する
-
意思決定の理由を述べる
- 意思決定者 : 3 min.
- 決定したものはいつでも見えるところに書いておく
PROTOTYPE
ストーリーの整理 (計 40 min.)
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決まったものを読み込む
- グループ : 5 min.
- ソリューションスケッチだけでなく、KGI/KPI 、デザイン原則、検証する体験などを読む
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ストーリーの再構成
- グループ : 30 min.
- ユーザーのフィードバックを得られるところのみにフォーカスする
- 非正常系などは基本考えない(それが UVP に直結するなら考える)
- 新しいアイデアは入れていると終わらないので諦める
タスクのアサイン (計 10 min.)
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タスクを洗い出す
- グループ : 5 min.
- 例えば以下
- メイカー(2人):プロトタイプを作成する
- ステッチャー(1人):メイカーの製作物を集め、構成する
- Assets コレクター(1人):ネットから画像やアイコンを集めたり、既存のパーツを持ってくる
- ライター兼インタビューア(1人):プロダクトの言い回しやテストシナリオを書く
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役割をアサインする
- グループ : 1 min.
ラピッドプロトタイピング ( 310 min.)
-
ツールの選定
- グループ : 1 min.
- 全員が使い慣れているものを選ぶ(共同編集できるツールは速度が上がる)
- 例えば以下
- Google Slide
- Figma
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作る!!
- グループ : 300 min.
- がんばりましょう!!
VALIDATE
### ユーザテスト (120 min.)
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ユーザが置かれる状況を説明
- グループ : 人 * 5 min.
- UI を操作してもらう前にアイスブレイクとサポートに徹することを伝える
- 本当のユーザがタスクを行おうと思った状態をもれなく教えてあげる
- なるべく疑問に思ったことや嬉しいこと、考えていることを発話してもらう
- ペアプロのような状態が望ましい
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ユーザビリティテストの実査
- グループ : 人 * 45 min.
- インタビューアは可能な限り誘導をしないこと
- どうしても詰まって進まない場合のみ操作を教える
- 作ってないんで知らないんですけど、とか言って紛らわす
- ユーザの能力テストと思われないようにする
- 初めて触る人の操作感を知りたいので使ってみてください、など
- 終わったら感想を聞く
- 事前に設定したインタビュー項目も聞く
- 出来れば外側からの録画と画面の動画キャプチャをする
- メンバーは行動観察をする
- 気づきはスプレッドシートで共有しながらまとめておくと良い
### テスト結果 (20 min.)
-
行動観察中の気づきをまとめる
- グループ : 15 min.
- スプレッドシートを見ながらプロトタイプをレビューし、気づきを共有する
- 次のアクションを決めておく
必ず用意するもの
- A4 紙
- ポストイット
- 太字のペン
- 丸シール
- 甘めのお菓子
- ホワイトボード
- 場所
- メンバー (※)
- ファシリテーター
- インタビュー対象者(なるべく顧客に近い人が望ましい)
- (オープンな心、やり抜く意思)
※ ファシリテーターを抜いて、最低 3 名いると良いです。メンバーが 5 名を超える場合はファシリテーターを増やし、グループを分けてください。そのうえで全体共有ワークを入れるなど少し長く時間をとる必要があります。
グロービスでの実践例
想像しづらかった方のために、Wantedly の内容に加えて、実際に使用したアジェンダをおいておきます。
ただ前述の通り、社内状況に応じてリデザインしたので上のものとは若干違います。
参加メンバー
- ファシリテーター
- 事業リーダー
- PO
- エンジニア : 5 名
- UX デザイナ : 2 名
2 グループにして、デザインスプリントの経験がある人をサブファシリテーターとし、全体の俯瞰やタイムキーパーをメインのファシリテーターが行いました。
参考リンク
Design Sprint
HMW
HEART フレームワーク
- https://www.dtelepathy.com/ux-metrics/#intro
- https://www.appcues.com/blog/google-improves-user-experience-with-heart-framework
JTBD
- https://qiita.com/yuichielectric/items/ae6b160165c4b4c16d19
- https://u-site.jp/alertbox/personas-jobs-be-done
サービスデザイン、バックステージ
- https://seedata.co.jp/blog/fa29b624-d347-4b78-877d-f18afa50ff8a
- https://www.slideshare.net/kazumichisakata/2-43421944