はじめに
ルワンダでソフト開発会社をつくるお話の第5回になります。
ちゃんと続いています。続いているんですよ・・・
前回まではルワンダでオフショアやるようになったきっかけから会社設立まで、そしてどういったワークフローで業務を進めているかを書いてきました。これまでの記事はこちらからご覧ください。
今回は人材育成や採用にまつわる部分について書いていきたいと思います。
前回は時差や言語の壁がある中でどのようにうまく回していけるようになったかという話でしたが、今回の人材に関しても同じようなノウハウが・・ともし期待された方がいたとしたら、すみません。先に謝っておきます。
特別なことは、何もないです・・・
エンジニアを育てるには、結論、実戦経験をどれだけ積めるか、だと思っています。資格などもカバー範囲を広げたり深めたりするのに有効ですが、とった資格はやはり実践を通して本当の実になります。
なので、育てるというところについては、育て方の方法論というよりは、ルワンダ側の仕事を絶やさないように仕事を作り続けることと、炎上させないようプロジェクトマネジメントをしっかりすることだけでした。
あとは育てるといっても0からと、ある程度バックグラウンドがあるところかでスタートラインは大きく違うので、どれだけスタートラインをいいところに持ってこれるか、という話になります。
この点については、様々な要因が出てくると思います。
今回の話は、そういった育てるベースとしてよい人材をどのように現地で確保していったか、になります。
なのですが、先に言うと、運よくよい流れに乗れたこともあり、あまり再現性のある話ではないのです、実は。それでも、何か参考になることがあれば幸いです。
最初の一人
現地の会社が立ち上がる前後までは、現地のフリーランス(フリーランスと言っても複数会社を掛け持ちするような動き方をする人もちらほらいてそのような人も含む)を中心に、現地の社長であるAlainが人を見つけて引っ張ってきてくれていました。
一方、会社化しましたので、きちんと社員として採用し組織を育てていこうということで、採用にも力を入れていくことになりました。これは当然の話ですが。
少し話は飛びますが、ルワンダには、カーネギーメロン大学ルワンダ校(現:カーネギーメロン大学アフリカ校)が存在しています。カーネギーメロン大学はコンピュータサイエンスの領域ではトップクラスのアメリカの大学で、アフリカ大陸の唯一のキャンパスがルワンダにあります。そのルワンダ校は総合大学ではなく、IT技術と起業家育成といったミッションをもった大学院大学に相当する大学ですが、当時はルワンダと周辺国を中心に、今現在もアフリカ中からコンピュータサイエンス分野の優秀な学生が集っていて、人材を獲得する先としては非常に有望な場所となっています。
参考:
カーネギーメロン大学アフリカ校
私がこの取り組みを始めた当初は日本大使館近くの大きめビルの中にありましたが、今は立派なキャンパスを構えています。
このカーネギーメロン大学のルワンダ校には、実証事業としてルワンダに訪れた際に訪問した先の一つであり、我々の事業について説明するとともに、ぜひインターンの機会の提供などで協力していきましょうと言うお話をさせていただくことができたこと、なにより現地の代表のAlainがアメリカのカーネギーメロン大学出身であったことから、WiredIn社とカーネギーメロン大学ルワンダ校は立ち上げ直後から良い関係性を築くことができました。
その結果として、大学からは複数名毎年インターンを受け入れることができ、実際にそこから毎年の複数名採用する流れが今日まで続いています。
最初の社員となった人も、このカーネギーメロン大学からインターンとして入り、そのまま社員として採用する形で入社しました。
これから海外、特に途上国に出て行き、同じようにソフトウェア開発の会社を立ち上げようという奇特な人がどれくらいいるかわかないので、このような情報が参考になるのか全くわからないですが、とはいえ、海外には若く素質のある人がたくさんいますので、地元の大学から積極的にインターン等を受け入れ、そのから採用につなげていくというのはやはり王道なのかなと思います。繰り返しになりますが、技術力の向上にはやはりどれだけ実践経験を積んだかだと思います。大学側もやはりそのことは重々承知の話なので、インターンや就職先という点で企業との連携を模索していおり、海外に出ていく際はそのようなところとの連携を重要視し、活動していくのが良いのではないかと思います。
ABEイニシアチブとKICとの関わり
もう一つ、人材育成と採用面に置ける追い風が吹きました。
東京アフリカ開発会議、通称TICAD(Tokyo International Conference on African Development)と呼ばれる、国際会議があります。5年に1度、現在は3年に一度、日本とアフリカ交互に開催地を変え、日本とアフリカの首脳陣が集まってアフリカの開発課題に関して議論が交わされております。
毎回、日本からn兆円規模のアフリカへの支援を〜、のようにニュースで取り上げられ、その度に、そんな金があるなら〜、と批判も受けるアレです。直近では、2022年8月にチュニジアでリモート前提で行われた第8回で、今後3年間で4兆円規模の支援を行うと発表され、同じような批判の声も聞かれましたが、少なくとも税金で集めた4兆円をポンとあげる話ではないですし、有望な市場かつ国が多くあるアフリカの中で日本のプレゼンスを高めてつつ、そして投資の機会を創出していくという意味で、将来に向けて悪い話ではないと思っています。
そのようなTICAD、2013年に開催された第5回において、当時、安倍総理から発表されたアフリカ支援の中の1つの施策として、ABEイニシアチブが発表されました。
アフリカの優秀な人材に日本の大学院に留学する機会を提供し、在学中の1年目の夏と、2年目の修士卒業後に日本企業でのインターンシップを行うことを必須とし、その後帰国し活躍してもらうという、ABEイニシアチブと呼ばれる留学プログラムです。
安倍元総理の名前から来ていると誰もが思いますが、一応、Africa Business Education Initiative の略称ということになっています。く、、苦しい、、
ちなみに、ABEイニシアチブは今でもありますが、SUGAイニシアチブになったりKISHIDAイニシアチブとなったりしていません。ABE(Africa Business Education)のままです。
さてこのABEイニですが、応募要件の1つとして、大卒以上で就業経験があること。言い換えればバックグラウンドがしっかりしており、将来活躍が期待される人材と言っていいでしょう。その彼ら彼女らに日本で学んでもらい、またインターンシップを通して日本企業とのつながりを作ってもらった上で、母国で活躍してもらう。そして日本企業がアフリカ市場を目指すときの水先案内人になってもらう。日本で学んだ人たちのコミュニティもあると聞きます。
私はこれは非常に戦略的でうまい仕組みだと思います。先ほどのn兆円の経済支援の枠に入っていますが、これ、よく見ると必要なコストの大半は日本国内でまわしつつも、そのようにして育った人材がアフリカ各国で活躍するようになるわけなので、非常にコストパフォーマンスの良い投資だと私は思っています。
この仕組みが発表されたとき、我々はすぐに「これだ!!」となりました。
我々が現地で抱えている人材や将来WiredIn社に入ってもらいたいという人材を推薦して、日本に留学させたいと思い、すぐに国内で開かれるという説明会参加しました。
ところが、このABEイニシアチブ、取り組みし始めたばかりで、まだいろいろと体制も整っていないという理由で、ルワンダが対象国に入っていませんでした。
本件を扱うJICAのルワンダ事務所の方では、ルワンダが対象外であるという事しか知らされてなかったようですが、私が説明会に参加した時、「対象国外でも、要望があれば検討する」と話がされていたのを聞いていたので、現地の関係者に、説明会ではそのように言っていた、ということで掛け合ったところ、ルワンダ側からも調整してくれたようで、曲げてルワンダも1年目から対象となりました。1年目ということで、まだ応募も多くない中、その勢いでどんどん推薦したところ、1年目から10人近くのルワンダ人が日本に留学する形となりました。
54ヶ国あるアフリカで、人口バランスなども考えると、ルワンダからの留学人数は突出してしまい、あとあと大変だったと関係者から聞きました。。
前置きが長くなりましたが、そのような形で、我々からも何人かを推薦し、将来我々に加わってくれることを期待する人材が日本にやってくることになりました。
そのうちの一人が、第3回の記事で紹介した、引き出しに「ありがとう」のメモを残してくれた彼です。
我々から推薦した学生たちの大半が、神戸にある、神戸情報大学院大学(KIC)に就学しました。
これも第3回の記事にあった、TICADをきっかけにルワンダでの取り組みでいろいろと連携させていただいている大学院です。
ルワンダからの留学生も積極的に受け入れており、一時期、日本で一番ルワンダ人が住んでいる街は神戸とされるまでになり、それらも縁となり、2017年に神戸市長がルワンダ・キガリ市まで訪問するほどの関係性に発展しました。
この大学院で彼らが学び、その後弊社で長期インターンを行いました。そのインターンでは、インターン用のプログラムではなく、まさに実践をやってもらいました。実際の受託開発の一部を担ってもらうことで実際の業務がどのように進むか、業務で使うツールの使い方を学んだり、実践としてのソフトウェア開発を経験したりと、業務を通して実戦スキルを磨く期間を期間の前半分。後の半分を、自国の社会課題を解決するためのサービスの企画とプロトタイプの開発にあてました。その中では将来性を見据え、IoTの分野に取り組んだりと言ったこともありました。
ちなみに、ここで企画しプロトタイピングしたサービスの一つが、3〜4年後の現在、自社サービスとして完成し、ルワンダ国内で導入され、広く使われるようになるまで成長しました。
↓MURAKOZE です。訳すると「ありがとう」です。
いずれにしても、将来のメンバー候補を直接日本でインターンすることができ、全員ではないせよ帰国後、WiredIn社に改めて就職してくれる形となり、カーネギーメロンと合わせ、我々のリードエンジニア層を育成する重要な機会となりました。
ABEイニシアチブは、規模は開始当初からは小さくなりましたが、今でも実施されており日本で学ぶアフリカ人学生のインターン先は常に求められています。もし興味がある方がいらっしゃったら、インターン受け入れてみててはいかがでしょうか?
なかなか再現性のない話ではあるのですが、ポイントがあるとすると、特に途上国へ向かって何かをしようとするときは、ビジネス界隈だけでなく、国がどういった取り組みをしているか、そういった情報収集を怠らないことと、関係機関やその中の人との関係性を、イベントなどを通して構築していくことも大事です。思わぬ情報や機会に恵まれることもあります。
採用と育成の方針
我々はどのように会社を成長させていくかとなった時に、コンセプトを大体的に宣伝し、大きな資金をあつめ、たくさんの若者を雇用・育成し、一気にビジネスを広げていくような、そのような方針を取りませんでした。とりませんというか、取れませんでした。ルワンダで受託開発ベースのオフショアやりますと言って、関心を示すVCはそもそもいないでしょう。(私自身、起業前後でいろいろ経験し、その界隈に辟易してたのもあり、積極的にその方向性に向おうと思わなかったのも実際あります・・)
またソフトウェアの受託開発は、始めるだけなら大きな資本は不要ですし、人件費以外の固定費はオフィスやネットインフラぐらいということで、自己資金をもとに、獲得できる案件の規模に応じて少しづつ成長させていくということが可能な領域です。
そこで我々としては会社を絶対に潰さず、少しづつでもよいから地道に着実に成長させていく、という動き方となりました。急成長は望めないですが、その方針を巡り意見が異なると言うことはありせんでした。
そのような方向性が前提となった時、どのように人材を増やしていくかと考えた時、まず少数でいいので将来のリーダー層となる人材の育成を考えました。確かに、ITを学んだ若者を安く多く抱えることも出来なくはなかったですが、我々は少数でも優秀な人を採用し、実践を通して育成し、その彼らが十分にリーダーとしてやれるタイミングで、その下に若手をつけて人員を拡大していくという方向性としました。
ここまでカーネギーメロン大学のインターンからの採用や、ABEイニシアチブを通した人材育成・採用などはまさにこの層を作るための取り組みでありました。
その後、コロナもあり、少し足踏みしたものの、いまでは中心となるリーダーエンジニア層が十分に育ってきたと考えています。実際仕事を一緒にしていても非常に頼もしいです。
やっとここまできましたので、今後は数を増やすための採用育成に舵を切れるようになってきました。
↑WiredIn社のエントランス
次回
ここまでオフショア開発を切り口にソフト開発会社を立ち上げ育てて来ましたが、その中で最初はあまり意識できていなかった大きなビジネスチャンスに気づき、その方向性に軸足を移していくあたりの話を書いていきたいと思います。
オフショア開発を起点にある国で足がかりができたら、そのリソースを日本だけに向けておくのは勿体無いというお話でもあります。また1~2週間後ぐらいに書き上げることを目標にしています。引き続きよろしくお願いします!
第6回(最終回)はこちら