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マレーシアで成功している IT スタートアップ 3 選

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ペナン島からこんにちは。

マレーシアの地図 (Wikipedia)

東南アジアの技術メディアプラットフォーム e27 が発表した Southeast Asia Startup Ecosystem Report 2018 によると、2018 年マレーシアでは 1,592 企業のスタートアップが現役で、内 30 企業が総額 2.32 億米ドル(約 260 億円)の資金調達を達成したとのことです。

ナジブ首相(当時)が 2014 年に設立した財務省直属機関 Malaysian Global Innovation and Creativity Center(MaGIC) の思想はマハティール首相に引き継がれ今後もマレーシアでは IT 産業が発展していくことが期待されています。

私が滞在しているペナン島は製造業で有名ですが、将来的にはマレーシア第二の IT セクターになる可能性があります。実際、2018 年、ペナン州政府は次世代産業に向けて 100 万米ドル(約 1.1 億円)の基金を設置しました。

ペナン島 (Wikipedia)

ペナン島は、マレー半島の西方のマラッカ海峡に位置する島です。人口は約70万人程度(シンガポールの人口の 1/10 くらい)です。太平洋戦争開戦直後の 1941年、マレー作戦の一環として 1945 年まで日本軍に占領され、南方作戦の重要拠点でした(ペナン島の南東の町には悲しい歴史を伝える博物館もあります)。

本記事では、ペナン島を中心としてマレーシアで成功を収めている東南アジア発スタートアップを(一般的な市場関係者からの評価ではなく)一滞在者として便利だなと感じたアプリを中心に紹介します。

マレーシアとはどんな国か

マレーシアは ASEAN (東南アジア諸国連合) の一員で東南アジアのマレー半島南部とボルネオ島北部を領有しています。
マレーシアの首都のクアラルンプールは、マレー半島南部に位置し、マレー半島南端に位置するシンガポールに次ぐ東南アジアの IT 産業中心地です。

まずは東南アジア経済圏の説明からしていきましょう。
International Monetary Fund が公表したデータを元に集計された Wikipedia List of ASEAN countries by GDP の記事によると、ASEAN の加盟国は 10 カ国、人口は約 6.50 億人、名目 GDP は約 2.89 兆米ドルです。

国名 人口 (億人) 名目 GDP(兆米ドル) 一人あたり名目 GDP(米ドル)
インドネシア 2.65 1.01 3,788
タイ 0.69 0.49 7,084
マレーシア 0.32 0.35 10,703
シンガポール 0.06 0.35 61,230
フィリピン 1.07 0.33 3,099
ベトナム 0.94 0.24 2,552
ミャンマー 0.53 0.07 1,354
カンボジア 0.16 0.02 1,485
ラオス 0.07 0.02 2,690
ブルネイ 0.00 0.01 33,824
ASEAN 10 カ国 合計 6.50 2.89 4,444
(参考)日本 1.26 5.07 40,106

「一人あたり名目 GDP(米ドル)」に着目すれば、どの国が豊かなのかは一目瞭然でしょう。
例外的に小国のブルネイを除けば、ASEAN で豊かな国はシンガポールとマレーシアなのです。
マレーシアの一人あたり名目 GDP が高いことは、マレーシア国内の貧富の格差が(他の ASEAN 諸国と比較して)小さいということも意味しています。

シンガポールはマレー半島南端のシンガポール島を領有する独立国家ですが、元はマラヤ連邦・マレーシア連邦の一員であり、歴史的には政治的対立はあったものの、現在においてはマレーシアと同じ経済圏であると考えて過言ではないでしょう。実際、シンガポールとマレーシアの南端都市ジョホール・バルとの間には相互往来があります。
シンガポールの民族構成は、マレーシアと比較すると中華系の人口の割合が多いという特徴はある(この事実はシンガポールがマレーシア連邦から追放される原因となった)ものの、基本的にはマレー系・中華系・インド系による多民族国家という点ではマレーシアの民族構成と一致しています。

マレー語が通じるという意味では、インドネシアやブルネイもマレー経済圏の一員です。インドネシアは面積が広大であり ASEAN 最大の人口を誇りますが、経済成長・将来性という観点ではマレーシアに遅れを取っている面があります。

Grab

まず紹介したいのが 2012 年にマレーシアで誕生した配車サービス Grab です。2014 年に本社をシンガポールに移転させましたが、依然マレーシアでは存在感のある企業です。東南アジア版 Uber と考えて良いでしょう。

cruncbase によると Grab は計 24 回の資金調達で総額 8.8 十億米ドル(約 9,700 億円)の資金調達を実施しています。
昨年 2018 年 6 月 13 日には、シリーズ H の一環として Toyota Motor Corporation から 1.0 十億米ドル(約 1,100 億円)の資金調達を実施し、先日 2019 年 3 月 6 日には、シリーズ H の一環として SoftBank Vision Fund から 1.46 十億米ドル(約 1,600 億円)の資金調達を実施しました。日本国内のスタートアップだと、数十億円の資金調達の実施だけでも大ニュースですから、一千億円の資金調達というのはインパクトがあります。

Grab の時価総額は日本円にして既に一兆円を超えていると考えられています。尚、日本のスタートアップは 1,000 億円を超える(i.e. ユニコーン企業になる)のがやっとです。

Grab の操作画面は Uber と同じです。自分が今いるところを地図でピンして行き先を決めると最適経路を表示してくれます。

推定到着時刻を表示してくれるのもバスやタクシーと比較した場合の利点だと思います。

支払い方法は現金か GrabPay になります。GrabPay は Grab が運営する電子決済サービスでクレジットカードか PayPal を登録することにより利用できます。マレーシアの電子決済サービスは、クレジットカードと比較して PayPal がよく利用されています。尚、日本のクレジットカードが登録できない場合があり、その場合は PayPal で支払う必要があります。

Grab のタクシーに対するアドバンテージは Uber の場合と同じです。ペナン島の場合、Grab の料金はタクシーの料金の 1/3 ~ 1/2 程度です。つまりタクシーより大分安いです。また、自分でタクシーを呼ぶ必要もないため手軽です。更に、経路・料金を事前・事後に確認できるので安全です。

Grab のライバルはインドネシアのジャカルタに本社を置く GO-JEK です。cruncbase によると GO-JEK は計 9 回の資金調達で総額 3.1 十億米ドル(約 3,400 億円)の資金調達を実施しています。Google や Tencent などが出資しています。

GO-JEK は電子決済サービス GO-PAY を始め総合サービス業を展開しています。東南アジア圏全体で見ると Grab が先行していますが、インドネシア国内では GO-JEK も奮闘しています。今後の行方が気になります。

LinkBike

次に紹介したいのが 2016 年に誕生したペナン島のローカルシェアサイクル LinkBike です。乔治市 (George Town) が運営する公的サービスであるため、狭い意味ではスタートアップとは言わないのかもしれませんが、小さく立ち上げられたこのサービスがマレーシア全体で拡がりを見せる可能性もあると考え、この記事で紹介させていただきたいと思います。LinkBike には 1.85 百万リンギット(約 5,600 万円)の予算が割り当てられており、9 割を乔治市 Penang Island City Council が、残りの 1 割をペナンのシェアサイクル企業 Fast Rent Bike が負担しています。

このようなシェアサイクルサービスに関しては、中国国内では Ofo(小黄車)Mobike(摩拜単車)Hello TransTech(哈囉出行)<旧社名 Hellobike(哈羅単車)> といったスタートアップが覇権を争っています。東南アジア圏におけるシェアサイクルサービスの覇権に関してはプレーヤーもまだ出揃っていない状態ですが、サービスに対する需要はあると考えています。

LinkBike の料金は非常に安く 1 時間約 1 リンギット(約 30 円)です。ペナン島に駅(自転車置場)が 25 駅設置されており、利用者は好きな駅で自転車を借りて好きな駅で自転車を返すことができます。1 駅に 10~12 台の自転車を駐めることができます。

LinkBike を利用するためにはスマートフォンに LinkBike 専用アプリをインストールする必要があります。利用したい自転車を指定し、置場に表示されている QR コードを専用アプリを用いて読み取ります。

正しく同期できれば下記のような画面になるので、この画面で OK を押せばロックが外れて自転車を利用できるようになります。自転車の返却時は、置場にガチャッというまで自転車を奥に押し込めば自動的にロックがかかります。

ペナン島東岸の海岸(George Town ⇔ Bayan Lepas)は比較的自転車道路が整備されており LinkBike を利用して移動するのも悪くないと思います。海岸線沿いにはオシャレな喫茶店も立ち並びサイクリングの合間に小休憩をして海岸の景色を楽しむこともできます。

一方で、内陸部や国道線沿は自転車道路が整備されておらず、ママチャリで車道を走ることになるので LinkBike の利用はオススメしません。私は内陸の国道を 10~20 km 程度 LinkBike で移動していますが、はっきり言って危険であると言えるでしょう。LinkBike は所詮はママチャリです。ギアもなければサスペンションもありません。車輪のサイズは小さく小回りは効きますが、長距離を移動するにはエネルギー効率が悪いです。ペナン島内を 1 日 10km 以上ガッツリ走るつもりであれば、ちゃんとしたマウンテンバイクを貸し切り、ヘルメット着用の上で車道を走ってください。それが最も安全で確実です。

LinkBike がペナン島のローカル公共交通機関で終わってしまうのか、それともマレーシア全体に拡がり東南アジア圏を代表するシェアサイクルサービスに成長していくのか、見守っていきたいと思います。

OpenRice

最後に、ペナン島で使えるグルメアプリを紹介したいと思います。東南アジア版 Yelp ですね。本当はシンガポールで 2011 年に誕生した Burpple を紹介したかったのですが、ペナン島ではあまり利用されていないみたいです。ペナンでは GrabFood という Grab のフードデリバリーサービスも人気なのですが、Grab は先程紹介してしまったので、代わりに 1999 年に香港で誕生した OpenRice(開飯喇) を紹介したいと思います。

OpenRice の資金調達状況は不明ですが依然未上場のスタートアップです。2018 年には Alibaba Group の金融関連会社 Ant Financial(Alipay・余額宝・芝麻信用などの運営で有名)が OpenRice の株式の 20% を取得したというニュースがありました(ejinsight)。

OpenRice の操作画面は Yelp とよく似ています。基本的には現在地周辺にある良い店舗を探します。

こちらは Bayan Lepas の Queensbay Mall 内にある 北海道ベイクチーズタルト (Hokkaido Baked Cheese Tart) の販売店舗に関する OpenRice の画面です。この北海道ベイクチーズタルトはマレーシアの現地企業で、東南アジアに 55 店舗を出店しています。東南アジアでは北海道の本家 ベイクチーズタルト(BAKE) よりも有名です。

高温多湿な気候なのか、マレーシアでは北海道は憧れの地のようです。ペナンのモール内には北海道ラーメンやロイズ生チョコなどの北海道ブランドで溢れかえっています。尚、北海道ベイクチーズタルト、タルト生地がクッキー生地というよりもパイ生地のような感じでパサパサボロボロしています。タルト生地の中にはとろーっとしたチーズクリームが詰められています。私がイチオシしたいのはドリアン味のチーズタルトです。これは日本では味わえないのでぜひお試しください。私は好きです。

ペナン島のグルメアプリ・フードデリバリーサービスには Burpple, GrabFood, OpenRice の他にも DeliverEat, foodpanda などもありますので、ぜひ使ってみてください。

マレーシアについてもう少しだけ

マレーシアは民族構成が極めて複雑な国の一つで、マレー系が6〜7割、中華系が2〜3割、インド系(主にタミル系)が1割程度となっています。ペナン島ではシンガポールと同様に若干中華系の割合が多くなっています。公用語はマレーシア語(マレー語)ですが、英語と中国語も拡く利用されています。インド系住民同士はタミル語を用いて会話をすることがあります。マレーシアはイスラム教を国教とする国家です。イスラム教はマレー系を中心に広く信仰されていますが、一部のインド系住民からも信仰されていることに注意してください。つまり、インド系住民にはヒンドゥー教徒とイスラム教徒とがいるということです。更にインド系住民の中にはシーク教徒もいます。

マレーシアでは特定の農作物や鉱物の生産が盛んでしたが、1981 年に首相に就任したマハティールが東方政策(ルック・イースト政策)を推し進め、マレーシアの工業化を成功させました。マレーシアでは 1971 年からブミプトラ政策(マレー人優遇政策)が実施されていましたが、ブミプトラ以外の国民(中華系・タミル系)及びブミプトラ政策の恩恵を受けられなかったマレー人の中ではブミプトラ政策に対する不満が高まりました。1990 年の総選挙を乗り切ったマハティール首相は、翌 1991 年、ブミプトラ政策に代わる 30 年計画 Wawasan 2020 を発表し、2020 年までにマレーシアが先進国入りすることを目標に掲げました。

マレーシアでは、近年、アジアにおける IT 先進国となるべく様々な経済政策が推し進められています。製造業(ハードウェア)に関してはマーレシアは既にアジアにおける生産拠点としての位置を確保しています。特にペナン島は一時期 Intel 社の半導体製造拠点の誘致に成功し「東洋のシリコンバレー」と呼ばれていた時期もありました。一方で、マレーシアはサービス(ソフトウェア)の開発にも力を入れています。首都クアラルンプール周辺にはハイテク工業団地 Cyberjaya を含む Multimedia Super Corridor が整備されようとしています。

私はサンフランシスコに滞在する経験が何回かあったため、このペナンをサンフランシスコと比較してしまいがちなのですが、ペナンもサンフランシスコも共に東京と比較して開放的で過ごしやすいと感じました。そういう意味ではペナンは東京よりもサンフランシスコに近いと言えるのですが、このマレーシアという国は日本とよく似ている点も何箇所かあります。例えば、マレーシアの人々は中華系の人々を含め日本人と同じように列を形成してサービスを受ける順番を守ります。他にも、現金のやり取りをする時に釣り銭が発生しないように小銭を用いるというのも日本とよく似ているなと思いました(例えば、日本人は 624 円の商品を千円札で購入する際、千円札に加え小銭で 24 円または 4 円も一緒に渡しますよね)。食べ物に対する美的センスも(欧米の人々と比べて)日本人とよく似ていると感じました。私が滞在していたホテルは決して一流の高級ホテルという訳ではありませんでしたが、レストランのショーケースに入っていたケーキは非常に精度が高く日本でも太刀打ちできるクオリティでした。私は、フランス・イタリア・オーストリアなどを渡航して現地のケーキを食べたことがあります。ケーキの味はもちろん良いのですが、裁断面がガタガタだし、盛り付け方もがさつだなと感じたことがあります。一方で、マレーシアのケーキは非常に繊細で、ココアパウダーの振り方1つでも非常に丁寧だと感じました。このマレーシア人のマメな性格は日本人とよく似ていると思います。

マレーシアは日本人にとって住みやすい国だと思います。気候は年中高温多湿で体感温度 30 度後半に達しますが、建物の中は涼しく過ごしやすいと思います。毎年安定的に 5% 程度の経済成長をし、人口も着実に増加し続けています。2020 年までに先進国入りできるかどうかは分からないですが、この国は将来的に豊かになると思います。国を挙げて IT 産業を育成しようとしていいるマレーシア国内で、日本人が活躍する機会は今後増えていくと思います。

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