2016年から2017年にかけ、ベクトルタイルスキーマについて一つの事案があり、それによって「雨降って地固まる」ことがあったと思っていますので、その事案を紹介します。
権利的にクリアなベクトルタイルスキーマの再開発
gh:osm2vectortiles/osm2vectortiles/issues/387 に "Move to OSM2VT-developed cartography"という題名の興味深いイシューがあります。2016年7月27にオープンして、2017年1月18日にクローズしたイシューです。
ここでは、現在でいう OpenMapTiles のコミュニティと、Mapbox の方との間での建設的なやりとりが記録されています。
詳細は実際の issue を読んでいただければと思いますが、Mapbox の michaelsteffen さんが、OpenMapTiles の技術的仕事に賛辞を送り、Mapbox のオープンソースプロダクトの活用に感謝と歓迎を示しつつも、Mapbox Streets のベクトルタイルスキーマについては知的財産権で保護しているので、これを侵害しないようにしてほしいと申し入れて来ています。OpenMapTiles コミュニティ側は、一部に感情的な反応や権利に関する原理的な確認の試みを含みながらも、最終的には Mapbox Streets との相互運用性を放棄した新しいベクトルタイルスキーマ(現在の gh:openmaptiles/openmaptiles)を新しく開発し、本件は終了しています。
私は本件について、次の通り感じました。
- ベクトルタイルの形式やベクトルタイルにまつわるソフトウェアではなく、ベクトルタイルのスキーマ、とりわけソースデータからのデータの取捨選択等の構成について争われたが、関係者の努力により、問題は解決されたようである。
- OpenMapTiles のベクトルタイルスキーマは、このような経緯により、権利的にクリアであることを意識して作られたものとなっており、今後の洗練まで見越せば、それなりによく考えられたものになってくるのではないか。
- この OpenMapTiles のベクトルタイルスキーマをきっかけとして、ベクトルタイルスキーマの相互運用性という観点は重要になってくる。ベクトルタイルスキーマが相互運用しなければ、ソフトウェアの利用者にとってベクトルタイルが不安定なものとなってくるので、ベクトルタイルの相互運用性は、できるかぎり確保する努力をする価値がある。
- 今回着目した issue では、同じ OSM データからベクトルタイルを作るという状況にあったから、OpenMapTiles ベクトルタイルスキーマのクリーンさについて、再度争われる余地は残存しているといえなくもない。OSM データではないソースデータを用いて、OpenMapTiles ベクトルタイルスキーマと互換するバイナリベクトルタイルを作成するということは、ベクトルタイルスキーマの安定を通じた、ベクトルタイル技術の普及のために意義深いことである。