15
8

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?

More than 1 year has passed since last update.

RubyAdvent Calendar 2022

Day 4

RedAmber - Rubyのデータフレームライブラリ

Last updated at Posted at 2022-12-04

Rubyアドベントカレンダー2022の4日目の記事です。

鈴木弘一(@heronshoes)と申します。
Rubyの新しいデータフレームライブラリであるRedAmberをご紹介します。

RedAmberとは、Rubyでデータフレームを扱うためのライブラリです。
とってもざっくりいうと、Pythonにおけるpandas、Rにおけるdata.frame, dplyr/tidyrがやるようなことをRubyでできるようにするライブラリです。

2022年度Rubyアソシエーション開発助成に採択されたプロジェクトとして開発を進めています。

RedAmberのデータフレームとは

RedAmberでは次のようなものをデータフレームと決めています。

  • 同じ型のデータを1次元に並べたものを、Vectorと呼ぶ。
  • 同じ長さのVectorを集めてひとまとまりの2次元データとし、DataFrameと呼ぶ
  • 各Vectorはユニークなラベルを付けて区別する。ラベルはキーと呼び、Symbolとする。
  • 各Vectorとキーをまとめて変数と呼ぶ。変数はふつうは縦に配置されると想像しているのでとも呼ぶ。
  • のデータはレコードと呼び、ふつうは互いに関係した一件の観測データなどを置く。
  • どんな型のデータでも欠損値として、nilを含むことができる。

Rubyでいうとユニークなラベルがあるという点でArrayを値に持つHashに似ていますが、値の長さと型の制約の点で異なっています。
また、2次元データという点では2次元のNumo::NArrayやArrayのような配列と似ていますが、ラベルと列方向の型の制約の点で異なっています。

列単位でのデータの取り回しと、行方向のデータの関連性を使った検索・集約・抽出に適したデータ構造と言えると思います。SQLのテーブルと類似したところがあります。

RedAmberのデータフレームの構造は次の絵のようになっています。

dataframe model of RedAmber

pandasのデータフレームと違うところは、行や列のインデックスがないという点です。インデックスは特別扱いせず、必要ならば通常の列の一つとして持ちます。これはPolarsの考え方と同じです。暗黙のインデックス(0...size)は常にArrayのように使えます。

RedAmberのクラスは今のところDataFrameとVector、グループ化されたデータフレームを扱うGroupしかありません。(Rubyらしく大クラス主義です)。
代わりにキーの配列はArray、キーとVectorの組はHashで返すなどなるべくRuby標準のコレクションクラスを使うようにしています。そうすることによってよく知ってるRuby標準のやり方で柔軟に処理が書けるはずだからです。

RedAmberはインメモリのカラムナーフォーマットを特徴とするApache ArrowのRuby実装であるRed Arrowを使っています。従ってDataFrame#tableメソッドは内部で使っているArrowのTableを返します。同様にVectorの中身は、ArrowのArrayです。
RedAmberはRed Arrowの一部を使いやすくラップするデータフレームラッパーであるとも言えます。

Apache Arrowを利用したデータ処理については、Rubykaigi-2022の須藤さんのスライドを貼っておきます。RedAmberのことも紹介して頂いています!

入出力

Apache Arrowは特に入出力が速い上に使えるフォーマットの種類も充実しています。csvファイルの読み込みで、Arrowを使うRedAmberと、Ruby標準のCSVを使うRoverを比較してみます。

csv_load_penguins.yml
prelude: |
  require 'rover'
  require 'red_amber'

  penguins_csv = 'tmp/penguins.csv'

  unless File.exist?(penguins_csv)
    require 'datasets-arrow'
    ds = Datasets::Penguins.new
    RedAmber::DataFrame.new(ds).save(penguins_csv)
  end

benchmark:
  'penguins by Rover': Rover.read_csv(penguins_csv)
  'penguins by RedAmber': RedAmber::DataFrame.load(penguins_csv)

上のようなyamlファイルでbenchmark-driverを使って比較します。

コマンド
benchmark-driver csv_load_penguins.yml
ベンチマーク結果
Warming up --------------------------------------
   penguins by Rover     49.494 i/s -      54.000 times in 1.091036s (20.20ms/i)
penguins by RedAmber    616.594 i/s -     620.000 times in 1.005524s (1.62ms/i)
Calculating -------------------------------------
   penguins by Rover     38.195 i/s -     148.000 times in 3.874902s (26.18ms/i)
penguins by RedAmber    574.486 i/s -      1.849k times in 3.218528s (1.74ms/i)

Comparison:
penguins by RedAmber:       574.5 i/s 
   penguins by Rover:        38.2 i/s - 15.04x  slower

念のため言っておくと、Roverでも一旦読み込みさえすればデータフレームの操作はNumo::NArrayを利用しているので十分に速いです。ただ、データが巨大になる程Apache Arrowの優位性が生きてくると考えています。

RedAmberによるデータ分析の例

Rのデータセットから、英国のCOVID-19のデータを元にした Simpson's Paradox: Covidを使ってRedAmberで簡単なデータ分析をやってみます。

Red Data ToolsのRed Datasetsではデータ分析や機械学習で使うための様々なデータが集められていて、Rubyから利用することができます。

データセットの読み込み
require 'red_amber'
require 'datasets-arrow'

ds = Datasets::Rdatasets.new('openintro', 'simpsons_paradox_covid')
df = RedAmber::DataFrame.new(ds)
読み込まれたデータフレーム
#<RedAmber::DataFrame : 268166 x 3 Vectors, 0x000000000000f0dc>
       age_group vaccine_status outcome
       <string>  <string>       <string>
     0 under 50  vaccinated     death
     1 under 50  vaccinated     death
     2 under 50  vaccinated     death
     3 under 50  vaccinated     death
     4 under 50  vaccinated     death
     : :         :              :
268163 50 +      unvaccinated   survived
268164 50 +      unvaccinated   survived
268165 50 +      unvaccinated   survived

データフレームは途中を省略して表示します(irbでは9行まで、Jupyter notebook(iruby)では最大8行まで表示)。次のようにすると一部を取り出して表示できます。

データフレームの一部を取り出す例
df.head(8)     # 先頭の8行を表示
df.tail        # 末尾の5行を表示
df[...4, -4..] # 先頭の4行、末尾の4行を表示(RangeのArrayが使える)
# (出力結果省略)

また、@kojix2さん作のred-amber-viewを使うと別ウィンドウで全体の表示ができます。

require 'red_amber/view'
df.view

red-amber-view.png

データフレームの詳細情報(列の型とかキーとかユニークなデータ数の一覧)は、次のようにすると表示できます。

DataFrame#tdr
df.tdr
出力結果
RedAmber::DataFrame : 268166 x 3 Vectors
Vectors : 3 strings
# key             type   level data_preview
0 :age_group      string     2 {"under 50"=>237419, "50 +"=>30747}
1 :vaccine_status string     2 {"vaccinated"=>117114, "unvaccinated"=>151052}
2 :outcome        string     2 {"death"=>734, "survived"=>267432}

また、数値データの場合は統計的要約はつぎのようにします。

DataFrame#summary
df.summary

今回は文字列データしかないので結果は空です。

出力結果
#<RedAmber::DataFrame : 0 x 9 Vectors, 0x000000000000f0f0>
  variables count mean std min 25% median 75% max
  (Empty Vectors)

データフレームの準備ができたところで、ワクチン接種の有無と生存/死亡で2x2のグループ化をしてそれぞれのデータ数で集約してみましょう。

グループ化
count = df.group(:vaccine_status, :outcome).count
出力結果
#<RedAmber::DataFrame : 4 x 3 Vectors, 0x000000000000f104>
  vaccine_status outcome    count
  <string>       <string> <int64>
0 vaccinated     death        481
1 unvaccinated   death        253
2 vaccinated     survived  116633
3 unvaccinated   survived  150799

列に接種状態、行に生存状態を配置した集計表に変形します。

ワイド化
all_count = count.to_wide(name: :vaccine_status, value: :count)
出力結果
#<RedAmber::DataFrame : 2 x 3 Vectors, 0x000000000000f118>
  outcome  vaccinated unvaccinated
  <string>   <uint32>     <uint32>
0 death           481          253
1 survived     116633       150799

ちなみにRedAmberには列ラベルは存在しません。この表を転置する際に、列名を列に変換した際にラベルとして与えることができます。

表の転置
all_count.transpose(name: :vaccine_status)
# 単に transposeとするとデフォルトの列名(:NAME)が使われる
出力結果
#<RedAmber::DataFrame : 2 x 3 Vectors, 0x000000000000f12c>
  vaccine_status    death survived
  <string>       <uint16> <uint32>
0 vaccinated          481   116633
1 unvaccinated        253   150799

次にそれぞれの値を比率に変換します。

比率を算出して新しい列を作る
all_count.assign do
  {
    "vaccinated_%": 100.0 * vaccinated / vaccinated.sum,
    "unvaccinated_%": 100.0 * unvaccinated / unvaccinated.sum
  }
end
# ブロックの中にある{}は、ハッシュ生成の{}です。
出力結果
#<RedAmber::DataFrame : 2 x 5 Vectors, 0x000000000000f140>
  outcome  vaccinated unvaccinated vaccinated_% unvaccinated_%
  <string>   <uint32>     <uint32>     <double>       <double>
0 death           481          253         0.41           0.17
1 survived     116633       150799        99.59          99.83

このように全体のデータで集計すると、ワクチン接種あり(vaccinated)の方が死亡率(death)が高いことになってしまっていますね。

次に、同じことを年齢のグループ(50歳より上か下か)で分けて集計してみましょう。

今までやったことを並べてメソッドにしておいて、繰り返し使えるようにします。

一連の処理をメソッド化する
def make_covid_table(df)
  df.group(:vaccine_status, :outcome)
    .count
    .to_wide(name: :vaccine_status, value: :count)
    # assignの中身はこんな風にも書けます。
    .assign('vaccinated_%', 'unvaccinated_%') do
      [
        (100.0 * vaccinated / vaccinated.sum).round(n_digits: 3),
        (100.0 * unvaccinated / unvaccinated.sum).round(n_digits: 3)
      ]
    end
end

df[:age_group] == "under 50"のようにすると、条件を満たす行の値がtrueであるようなフィルターがVectorとして得られるので、次のようにすると年齢条件で抽出されたデータフレームが得られます。

条件でレコードを選ぶ
df[df[:age_group] == "under 50"]
出力結果
#<RedAmber::DataFrame : 237419 x 3 Vectors, 0x000000000000f168>
       age_group vaccine_status outcome
       <string>  <string>       <string>
     0 under 50  vaccinated     death
     1 under 50  vaccinated     death
     2 under 50  vaccinated     death
     3 under 50  vaccinated     death
     4 under 50  vaccinated     death
     : :         :              :
237416 under 50  unvaccinated   survived
237417 under 50  unvaccinated   survived
237418 under 50  unvaccinated   survived

50歳未満では、

under 50
make_covid_table(df[df[:age_group] == "under 50"])
出力結果
#<RedAmber::DataFrame : 2 x 5 Vectors, 0x000000000000f154>
  outcome  vaccinated unvaccinated vaccinated_% unvaccinated_%
  <string>   <uint32>     <uint32>     <double>       <double>
0 death            21           48         0.02           0.03
1 survived      89786       147564        99.98          99.97

50歳以上では、

50 +
make_covid_table(df[df[:age_group] == "50 +"])
出力結果
#<RedAmber::DataFrame : 2 x 5 Vectors, 0x000000000000f17c>
  outcome  vaccinated unvaccinated vaccinated_% unvaccinated_%
  <string>   <uint16>     <uint16>     <double>       <double>
0 death           460          205         1.69           5.96
1 survived      26847         3235        98.32          94.04

年齢別に分けた集計結果では、直観の通り接種ありの死亡率の方が低くなっていることが確認できます。これはシンプソンのパラドックスと呼ばれる現象で、原因と関連して結果に影響を及ぼすような因子(交絡因子=今回の場合は年齢)があるために因果関係を間違って認識することから生じています。
今回の場合は高齢者の方が死亡リスクが高く、また接種率も高いことが関係しています。

このことを確認するために、年齢別の接種の有無、および死亡数を求めてみると下記のようになります。これは改めて比率に直す必要もないですね。

年齢別のワクチン接種の有無
df.group(:vaccine_status, :age_group).count.to_wide(name: :age_group, value: :count)
出力結果
#<RedAmber::DataFrame : 2 x 3 Vectors, 0x000000000000f190>
  vaccine_status under 50     50 +
  <string>       <uint32> <uint16>
0 vaccinated        89807    27307
1 unvaccinated     147612     3440
年齢別の死亡/生存数
df.group(:outcome, :age_group).count.to_wide(name: :age_group, value: :count)
出力結果
#<RedAmber::DataFrame : 2 x 3 Vectors, 0x000000000000f1a4>
  outcome  under 50     50 +
  <string> <uint32> <uint16>
0 death          69      665
1 survived   237350    30082

いかがでしたでしょうか。Rの例に比べてRubyらしい書き方でデータの分析ができているのではないかと思います。

RedAmberはまだまだ開発中のライブラリですが、基本操作と重要な機能(Group、Reshape、Join)は使えるようになっていますので、興味がある方は試してみていただけると嬉しいです。インストール方法などはGitHubのRedAmberページで最新情報を参照してください。

今、コード全体の大掃除を行っていて、大掃除なので22年内に終わらせる予定ですが、これによってコードの見通しが良くなることとパフォーマンスが上がることを目指しています。Ruby3.2に合わせてバージョン0.3.0をリリースする予定です。

今はほぼ私一人で作っているのですが、コードはもちろん、使ってみた感想やこんな機能があったらいいなといった提案は大歓迎です。

私のスキル不足の部分で、

  • YARDドキュメントを手伝ってくださる方 (現状進捗率30%くらい)
  • rbs(型定義情報)を手伝ってくださる方 (今は何もしていない)
  • RedAmberのロゴを一緒に考えてくださる方

は特に募集しています。

GitHubで何でも書ける場としてDiscussionsを使えるようにしていますので使ってみてください(日本語オンリーでもOKです)。

RedAmberはRed Data Toolsの成果に助けられています。RedAmberを使っていくことでApache Arrowの開発にも取り組みたいと思ってくださる方が増えるといいなと思っています。興味がある方は Red Data ToolsのGitterにお越しください。

私はつい最近までOSSの開発の初心者で完全な使う側の人間でしたのでまだgitすら使ったことがないというレベルの人に対しても参加のきっかけとなるような活動をしていきたいと思っています。

noteにも別の紹介記事を書いているのでよかったらご覧ください。

今年のRubyアドベントカレンダーでは12/18の枠も予約しています。そちらではRedAmberでやろうとしていることを色々お話ししたいと思います。お楽しみに。

15
8
0

Register as a new user and use Qiita more conveniently

  1. You get articles that match your needs
  2. You can efficiently read back useful information
  3. You can use dark theme
What you can do with signing up
15
8

Delete article

Deleted articles cannot be recovered.

Draft of this article would be also deleted.

Are you sure you want to delete this article?